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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第6話 れいがんどうの蛇
19/91

06-5

 

 最下層は広い墓地になっていた。壁は無く、天井も他のフロアよりも広い。いくつも並んでいる墓石の奥には祭壇も見える。

 奥でうごめく塊が見えた。邪悪な存在であることは、ぎらつくわずかな照り返しだけ見れば十分だった。

 祭壇からは黒く汚れた風が吹いている。

「いるわね、やっぱり。奥にでっかいのが一匹」

 相手が動かないのを確認しながら、二人はゆっくりと進む。ノゾミは軽やかに、メドウスは震える脚で。


 メドウスは深い後悔の最中だった。短い人生の中で、こんなにも時を巻き戻したいと真剣に願ったことはなかった。

 僕たちの目的は調査だろう? こんなモンスターの討伐なんか、別の奴に任せよう。引き返せ。

 喉の奥までこみ上げてくる言葉を必死に飲み込む。


 深紅の瞳はとっくに二人を捕えていた。背中を見せるには遅すぎるし、声を出して下手に刺激をすれば、その瞬間に飛び掛かってくるかもしれない。

 やつのシューシュー声がだんだん大きくなってくるが、和解を求めているようにはとても聞こえなかった。


 大蛇、ゼノボアは慢心していた。

 いつからこの力が身についたかわからない。やり方は本能が教えてくれた。昔は使えなかった気がするが、覚えていない。

 薄暗い穴の中にいるだけで、餌は向こうからやってきた。敵意を向けるだけで、そいつらは倒れていった。

 だから、抵抗する餌もいるのだということを知らなかった。

 口を開け、黒いマナを吐き出す。自身の毒液の混じった汚れた突風が発生する。

 既にノゾミは横に飛び、それを回避していた。墓石が派手な音を立ててなぎ倒される。そろそろ見飽きてきたわ。突っ込もうとするのを、メドウスが制止する。

「ノゾミ、見てくれ。あいつの炎はやばい」

 振り返り、ノゾミは背筋が凍る。白い煙が立ち上り、墓石の角が溶けていた。


 追撃が来る。二人は散らばり、大きめの墓石を盾に身をかわす。

「酸? 毒を炎に混ぜて飛ばしているのかしら」

 モーションは読みやすい。口を開け、溜めもある。黒い炎に毒液を乗せて飛ばしている、とノゾミは推測した。

 問題は攻撃範囲だ。うねる暴風に乗った毒液は、無作為広範囲に飛び散っていく。少量なら食らっても平気だろうか? 馬鹿な。誰が試すものか。


 仕方なしに遠巻きにレーザーで牽制する。ボスゴブリンにも致命傷とはならなかったレーザーだ、当然ろくに効いていない。

 頼みはメドウスだったが、まともにぶち当てた一発でも、軽くよろける程度のダメージしか与えられなかった。結局その分厚い皮と筋肉に、熱も衝撃も散らされてしまうのだ。


「さーて、困ったわねえ。ちょっと剣じゃ相性悪いかしら」

「ほかに武器はないのかい? 魔法でもなんでもいい、あいつに効きそうなやつは」

「待ってよ、今考えてる。 あー、最悪撤退かしら」

 そんなものがあったらとっくに使っている。そもそも準備不足だったのだ。


「あーもう、早く気づきなさいよ!」

 フロアに甲高い声が響く。メドウスは最初、ノゾミが叫んだのだと思った。が、声が違う。ノゾミを見ると、あちらも目を丸くして声の主を探している。

「気付くのが遅いのよ、さっきからちらちら飛び回ってんのに。ほら、あなたよあなた。剣を持った、ゴツいガントレットのお姉さん」

 ノゾミは慌てて目を凝らす。が、直後、あることに思い至る。

「あの、もしかしてだけど。あ、意味が分からないならいいんだけどさ。……私、モニターが壊れてるんですが、そこに映ってます?」


 短い沈黙。

 まじで?と聞き返す、とぼけた声。

 かまわず炎が飛んでくる。回避、轟音。戦闘は継続中だ。

 受け身を取りつつ、転ぶように墓石の間を駆け抜けるノゾミ。その耳に、声が届く。

「あのー、モニタが映らないってことは、今まであたしの姿は見えてなかったんでしょうか?」

 うるさい、今忙しい。

 ノイズと判断して脳みそから追い出し、レーザーで威嚇射撃を続ける。顔を、目でも狙えば多少はマシだろうか。

 まだ何かぶつぶつ聞こえるが、かまってはいられない。大蛇がゆっくりほどけていき、移動を始めようとしている。


 突然、彼女が大声を張り上げた。地下墓地内に空気をまるで読まない声が響き渡る。

「皆さん、聞いてください! あたしは可憐な妖精です。この平和な霊廟にすんでいたところ、あの大蛇が住み着いてしまいました。ゼノボアと呼ばれる、太古のモンスターの生き残りです。どうか奴を退治してください!」

「だから、それを倒せずに、こうして困ってんでしょうが」

 身を隠したまま毒づく。

「あたしは奴の弱点を知っています」

 妖精とやらが、えっへん、と胸を反らしているのが目に浮かぶ。

「奴の心臓にはクリスタルが埋め込まれています。そこを狙えば一発! クリスタルは特定の波長の光に弱いのです。そう、あなたの操るレーザー光線のような!」


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