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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第6話 れいがんどうの蛇
18/91

06-4

 

 石をくりぬいただけの細い一本道は、地獄の門よろしく下へ下へと続いていた。

 覗いたときに見えた明りは太陽光ではなかった。壁面に付着している苔が淡く発光しているのだ。

 しばらく進むと唐突に開けた空間に出た。そこは地下迷宮の入り口だった。

「なんだここは? こんな場所があったなんて聞いたこともないぞ。大発見じゃないか」


 反応は対照的だった。未知の古代遺跡の発見に興奮するメドウスに対し、何かを察したノゾミ。先程いた上階とは明らかに文明のレベルが違う。

 床も壁面もしっかりとした平面で構成され、門の奥には数本の通路が伸びている。おそらくいくつもの部屋もあるだろう。荒れ果てた様子はあるが、うがった目で見ると、それもわざとらしく思えてくる。


 柱にはうねる蛇の彫刻。刻印されている文字は、『Snake Pit』

「古代文字だ。――すねいる…ぱー……、ええと、意味はなんだったっけ」

「スネーク・ピット。蛇穴のことよ」

「驚いたな。これが読めるの?」

「古代文字? むしろあなたが読めることが驚きよ。 それより、ここからはたぶんモンスターだらけよ、油断しないでね」

「わかるのかい?」

 わかってるわけじゃない。クリスマスにはサンタがやってくるのは当たり前だし、靴下の中身だって予想はできる。それだけの話だ。


 戦闘準備。各部のアーマーが普段通り軽い熱を持ち、筋肉にわずかな負荷をかけてくる。急な動きに対応できるよう、体の力は抜き気味に。

 ヘッドギアはかすかなうめき声を既に拾っていた。一番右の通路から、何かを引きずるような足音とともに。それはだんだん大きくなる。


「右からくるわ」

 言うと同時に、複数の人影が暗がりで動いた。わかってる。そう聞こえた気がした。

 赤い竜巻が隣を通り過ぎ、声はかき消された。

 狭い通路内だ、逃げ場はない。挨拶する間もなく、やつらはまとめて巻き込まれる。土煙が派手に舞い上がり、振動が壁を揺らす。

 ああそうか、本気で命がかかっているならそうなるわよねえ。理解はしているが納得はしたくない。


「やけに鈍いと思ったら、ゾンビ化してる」

 倒れた遺体に近寄ったメドウスが声を上げる。奴らは炎を食らう前に、既に死んでいた。

 その体は腐臭と膿に犯されていた。皮膚はところどころ破れ、赤い肉と骨が露出している。かろうじてはりついている衣服や装備品を見るに、山に巣食っていた盗賊の成れの果てだろうと二人は推測した。


「こいつらも、この地方じゃよく見るやつらなのかしら?」

「モンスターを地域の特産品みたいに言わないでくれるかな。ゾンビは知ってる? 浮いたマナが集まったものがゴースト、それが死体とかにとりついたのがゾンビさ」

 軽口を言いつつ歩く。曲がり角や崩れた壁に警戒し、実際に何度かゾンビの群れに出くわした。

 やつらは複数でまとめて現れ、こちらの行き先をふさぐ。やはり人型モンスターには、剣が相性良いようだ。相手の攻撃をかわしつつ切り込む快感を存分に味わいつつ、ノゾミは先を急ぐ。


 デパートをそのまま埋葬したようなダンジョンだった。中央に大きな吹き抜けはあるが、暗くて底は見えず、何階層あるかもわからない。

 先が見えない状況で退路を断たれるのも不味いので、面倒でもある程度は探索し、索敵を済ませておかねばならない。

 階段をいくつか下りた後は、徐々に蛇のモンスターが増え始めた。やはりゾンビ化しているものもいる。

 動きは鈍いが発見しづらく、苦労する。背が低いせいもあるが、熱源感知に引っかかりにくいのだ。

 メドウスはマナで生物が感知できるらしく、「その先に2匹」だの「角に隠れてる」だの、サポートに回ってもらう。彼曰く、ここのモンスターはマナの含有量が多いからわかりやすい、らしい。

 本当なら炎でまとめて吹き飛ばしたいところではあるが、あまり地下で派手にやると崩落が心配だった。


 不安要素はもう一つあった。下に行くにつれだんだんと光る苔の量が減り、薄暗くなる。一度引き返そうかと喉の先まで出かかったところで、吹き抜け部から底が見えた。

 最下層だ。




 ――また、騒がしくなったな。

 迷宮の最奥に鎮座していたそれは、ゆっくりと目を開けて頭を持ち上げた。ひんやりとした冷気の中に混じる異物を探し、長い舌を泳がせる。


 ゼノボア。赤茶色の肌の大蛇である。

 ぎとぎとした粘膜に覆われた鱗は熱や衝撃に強い耐性があり、テストプレイ段階では中型のドラゴンすら絞め殺した記録も残っている。上級ダンジョンにのみ配置されている、厄介なボスだ。

 彼が目を覚ましてすぐに、何人かの人間が迷宮へと侵入した。

 幾人かは迷宮の餌食となり、死後もこき使われる羽目になった。幾人かは腹の中でゆっくりと溶かされた。

 どっちがマシだったかはわからない。生きながら死んだか、死にながら生かされたかだ。さしたる違いも無かろう。


 単純な作りのダンジョンだ。かれがいる大広間は、最奥と言うものの一番目立つところにある。

 侵入者が彼と出会うまで、さして時間はかからなかった。


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