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Future in an oblong box  作者: 鳴海 酒
第6話 れいがんどうの蛇
16/91

06-2

 

 戦闘自体はあっさりと終わった。三匹目が倒された時点で、シルバーウルフの群れは早々に退散していった。

 ノゾミは手早くあたりに敵が残っていないかを確認すると、即座に振り返りメドウスに詰め寄る。


「今の、もう一回やって! こう、手からばーって吹き飛ばすやつ」

 メドウスは若干引きつつも、近くでくたばっているモンスターに対し、手のひらを向ける。

 ゆっくり頼むわとの注文に生返事をしつつ、手にマナを集中させる。熱風が渦巻き、さっきと同様の赤い揺らぎが生まれた。

 いくよ。その言葉で透明の炎は指向性を与えられ、目の前の哀れな死体を貫いた。


「いいかな、これで?」

 ノゾミはメドウスが言い終わらないうちにその腕を掴み、死体と右手を交互に見やる。ヘッドギアに手をかけ、操作をする。

 カチカチと小さな音は聞こえるが、モニタはノイズとともにゆがんだ砂嵐を映すので精一杯だった。


「さっぱりわかんないわ、どういう仕組みよ、これ」

 独り言のようなそのつぶやきに、メドウスは返す。

「君だって使えるだろ、僕よりもずっと高精度の炎が」

 それは尊敬も混じったセリフだったのだが、かえって彼女のプライドを傷つけていた。

 ノゾミは同様に腕をモンスターの死体に向け、短く一度、レーザーを発射した。発光も揺らぎもない無機質な光線。

 ジュッと肉が焦げる音と、一条の煙。


「ほら、そんなに細く炎をコントロールするなんてこと、僕どころか他の誰にだってできない。速度だって見えないくらい――」

「炎じゃないわ、レーザーよ。PK-FN2。武器。わかる? 私の力じゃなくてこの武器の力。普通の人間は炎どころか突風の一つすら起こせないわ。何なのあれは。この星の連中は皆使えるの? いつから? どういう仕組み?」

 興奮して一気にまくしたてる。


「君の言うことがところどころよくわからない。なんていうか、炎が使えないのは伝わったよ。そしてたぶん君の知り合い、つまり故郷の人たちも、同じように使えないんだろ。

 で、代わりがその、……なんとかいう名前の武器なわけだ」

「ええ、そうね」

「どうやってるのかは説明できるよ。マナを集めて流れを作るんだ。そうすると自然に炎になる。けれど、それが何かって言われたって、炎だとしか答えようがない。

 別に誰が作り出したってわけでもないし、自然にあるものだ。動物だって使う。そんなものだとしか言えないよ」


 ノゾミは少し考え、また聞く。

「さっきからマナマナ言ってるけど、それは?」

「マナはマナさ。ほら、もうあんまり残っていないけど」

 メドウスはモンスターの死体に手を触れる。これも知らないのか? 目で問いかける。

 ノゾミはもう一度ヘッドギアを操作する。モニタが使えなくても各種のセンサーは生きている。何かあればアラームが鳴るはずだ。

 しばらく待ってみたが沈黙のみで、ノイズすら聞こえてこない。


 混乱していたのはメドウスも同じだった。

 確かに、街での生活で日常的に使うものではないのだが、冒険者をしていて炎もマナも知らないなんてことがあるのかと。

 しかし、目の前の彼女の様子を見ると、とても嘘をついているようには思えない。よほど辺境の地から来たのだろうか。


 そうだ、今は先に確認しておかなければならないことがある。

「ノゾミ、今回の依頼は止めにして引き返さないか? 今から行く霊廟だっけ、ゴーストがいるって話だ。ゴーストってのは、マナの塊だ。マナを知らない人間がいくのは危険だ、と思う」

 思う、と付け加えたのは、ノゾミならなんとかしてしまいそうだったからだ。

 知識がないからといって戦う手段がないわけではない。似たような炎も使える彼女なら、十分にゴーストと戦えるだろう。

 それでも万が一ということもある。


 メドウスは純粋にノゾミのことを心配していた。

 組織の人間じゃあないとか、腕の立つだとか、そんなのはちっぽけなことだ。短い付き合いだが、節々の反応から、メドウスはノゾミのことを良い人だと判断していた。

 できればこのまま、長くパーティーとしてやっていきたい。けれど、


「止めない。むしろ行って確かめるべきだわ、今の私にぴったりの依頼じゃない」

 そう、メドウスは、彼女が何と答えるかがなんとなくわかっていた。


「そういうと思ってた。いいよ、じゃあ考えよう、無事に帰って来られるように。目的地の霊廟まではまだ時間がある。歩きながら話し合おう。考えられる敵は、ゴースト、盗賊、それとさっきみたいな獣型のモンスター。

 君は何ができる? どんなことができない?」

「ありがとう、メドウス。あなた、良い人ね」

 何気ない、本心からの言葉だった。


 しつこくこびりついていた警戒心や緊張は、いつのまにか雲散霧消していた。

 その言葉と笑顔に女性を感じ、メドウスは顔を赤らめた。


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