05-3
「え、魔術師は魔術師でしょ。ほら、攻撃を炎で行う人のこと」
「炎はわかるわ、でもそれで攻撃ってどういうことよ」
「いやほら、手から炎をぶわーっと噴き出して」
メドウスの説明にも、ノゾミは何のことかわからないといった様子だ。
知らないはずがない。ゴブリン退治の際に、この女性はものすごい精度の炎を使ったと聞いている。 いや、でも。
そういえば、最近この街にやってきたばかりなのだということを思い出す。もしかしたら言い方、言葉が違うだけなのかもしれない。
思わぬところで思考をそがれたが、それはそれとして、メドウスの一番の関心は別のところにある。すなわち、コイツは信用できるのか、だ。
炎やマナについて無知な冒険者自体が信じられないが、そんなところで知らないふりをする意味はない。少なくとも、こんな不自然な人物が、秘密組織の関係者だなんてことはないだろう。
となると、やはり彼女とは関係を気付いておくべきだ。変に突っ込んで機嫌を損ねるのはよろしくない。
「とりあえず適当な依頼を受けてみないかい? 強さなんて実戦で見せるものだし、もし合わないにしても、早めにわかったほうがいい」
「そうね。いいわ、それならちょうど気になってた依頼があるの。良かったらこれを受けてもらえないかしら」
ノゾミは一枚の依頼書を指さす。
「なにこれ、レッドドラゴンの調査だって!? そんな、いきなりこれはちょっとレベルが高すぎないか?」
「あらそう? 私の育ったところではドラゴンなんていなかったから、見てみたいのよ。それに、討伐じゃなくて調査でしょ。危険も少ないわ」
依頼内容は確かに、ドラゴンの調査。南の火山島に生息するレッドドラゴン、その動きが最近活発になっているらしい。
しかし。
「知ってるの? ここに棲むドラゴンは、特に大型で狂暴。レザータグの冒険者なんかが手を出す相手じゃない。
おまけにあそこは、溶岩で地続きになっているとはいえ、元はへんぴな火山島だ。何かあったときの逃げ場所もないし、助けも来ないんだよ」
「だから面白いんじゃない」
ノゾミは事も無げにそういう。よほど自信があるのか、ドラゴンを知らないから言えるのか。
メドウスは両方だと判断した。
少しでも主導権を取り戻す方法を模索する。
「わかった、でも二つほど条件がある。まず簡単な依頼を最低一つはこなすこと。いくらなんでも、初めて組む相手とやるには、危な過ぎるよ」
「二つ目は?」
「一つ目の依頼が無事終わったら教えるさ」
嘘だ。条件はこれから考えるつもりだった。
「いいわ、その条件で。じゃあできれば戦闘がある依頼を選びましょうか」
メドウスは思い知らされた。新米とはいえ彼女もやはり冒険者だ。つまり、壊れているという意味で。
謎の組織に挑むという目標ができてから、メドウスは自分が世の中で一番の難題を抱えているつもりになっていた。それは確かに困難な道なのだろう。
けれど自分の命を勘定に入れるかということでは、師のバルサラはもちろんのこと、目の前の新米冒険者にもメドウスは劣っていた。
メドウスが女性に慣れていないことが幸いした。
端正な顔立ちと、とても冒険者に見えない体つきのメドウスを、ノゾミは最初、ナンパだと判断した。ところが話すうちに、その態度が自分の知っている男たちと少しずれていることに気付いた。
根っこにある誠実さは、話すうちに少しずつ伝わる。半分気まぐれもあったが、選択の余地もあまりなかった。
「討伐依頼なら、これがいいね。街の西にある霊廟の捜索。マナも稼げそうだし」
「私はどこでも構わないけど、霊廟? 盗賊でも住み着いたの?」
「それを調べに行くんじゃないか。単純にゴーストが増えただけかもしれないし、もしかしたら盗賊もいるかもね」
「そうね、行ってみましょうか。……幽霊はいないとは思うけど」