04-2
日が落ちるのを待って街を抜け出したグレンは、馬を東へと走らせた。酒場では仲間たちがバカ騒ぎをしているころだろう。
目指しているのはミラーマウンテン近辺。ギルドで聞いた話から、ターゲットの今夜の野営地はだいたいあたりを付けてある。
ゴブリンをはじめとするモンスターの生息地、出現率を考えると、候補地はそう多くない。
南から山脈沿いに北上を続けると、すぐに立ち上る煙が遠目に見えた。地図を広げ、あたりの地形を確認する。ゴブリンの巣穴は前もって調査済みだ。
単純な作戦だ。いくつかあるゴブリンの巣穴に夜襲をかけ、ゴブリンたちをあぶりだす。野営地のほうへ向かっておびき寄せれば、あとは勝手にゴブリンどもがやってくれる。自分は高台にでも上り、見物していればいい。
「やれやれ、去年見つけたあいつらがまだ残ってればいいんだが」
目的地につくと、腰から数本の煙幕弾を取り出す。火をつけ躊躇なく洞窟奥に投げ込む。馬にまたがると同時にけたたましい爆発音がして、煙が洞窟内に充満していく。
ぎいぎいやかましい叫び声とともに、次々と外に出てくるゴブリン。
ホルスターから銃を取り出し、数が揃うのを待つ。
ヘイトブリーダー。シングルアクション式リボルバーで、銃身は長めに作られている。
はるか昔の映画に出てくるような拳銃を模しており、この星に来てから、グレンが自ら鍛冶屋に作らせたものだった。ただし似せているのは外観だけ。消耗品である銃弾の製造が難しかったためだ。
弾丸として用意するのは弾頭部分のみであり、薬莢にあたる部分は拳銃側に作り付けてある。そこにマナを込め、撃鉄とともに『炎』で着火、爆発させ、発射するのである。
この方式なら弾頭部分のみ鋳造することで簡単に数をそろえられるし、弾を大型化して威力を増すことも容易だった。
さて、ある程度数がそろったところで、数発を手近なゴブリンに発砲。こちらに注目が集まるとゆっくり馬を走らせ始める。ゴブリンたちは堰を切ったようにグレンを追いかけ始めた。
付かず離れずの距離を保ちながら、グレンは逃げ続ける。
「これだけ集めりゃあ上等だろ。じゃあいくか」
少し集め過ぎた気はするが、せっかくだ、景気よく行こうじゃないか。
野営地直前になり、グレンは馬に鞭を入れる。本格的にスピードを出し、ゴブリンの群れを引き離す。脇道にそれると馬を隠し、高台に上って様子をうかがう。
キャラバンは既に逃げる用意を始めていた。あれだけ派手に騒いでいたのだ、そうでなければ困る。
すぐに襲撃は始まった。キャラバン側にも戦闘能力のある護衛はいる。当然だ、そうでなければ、そもそも山を越すなんてことが無理なのだ。
そうはいっても数の暴力の前にはかなわず、後方では荷物をほったらかしにして散り散りに逃げ始めている。賢明な判断だ。
ほどなくして、ついに本隊のゴブリンがなだれ込む。テントを引き裂き、かがり火を蹴倒し、荷物を持ち去っていく。グレンは陣取った岩山の上から、人間に襲い掛かるゴブリンを淡々と処理し、戦況のバランスを取っていった。
一人の男が裸馬に乗り、西方面に一目散に逃げていく。追いすがるゴブリンを岩山の上から数匹狙撃。数秒後には馬は漆黒の闇に溶け込んでいった。
今夜の仕事は終わりだ。グレンは岩山の上で横になり、帽子を顔に伏せた。ほどなくして地上の喧騒が収まり、静かな寝息だけが残った。