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74話 電風の丘ダンジョン10(かまいたちの肉)

今回も少し長くなりました。

 時間は少し戻ります。


--ゲキ視点『電風の丘ダンジョン』地下5階層---


 眩い光に包まれたと思ったら、次の瞬間俺は薄暗い洞窟のようなところに居た。

俺の目測では、高さは10m……幅は20mあろうか。所々には水晶と思わしき

結晶が円を描くように固まって生えている。

中心には長さ50cm位のオベリスクのような水晶の柱がある。

それが洞窟内の天井や床、壁に点在していた。

その水晶の塊は淡く光っていた。


 その洞窟のあちらこちらに点在する、淡く光る水晶のおかげで薄暗いが、この洞

窟であるにもかかわらず、ある程度の視界が保てるようだった。


 俺の周りには、クレアさん、エドナさんそして、少し離れた所にソフィーの兄の

イーシャイナ王国第2皇子フェリクス=ラグナヴェールさんが居た。


「皆無事か!」


そう俺やクレアさん、エドナさんに声を掛けてくるフェリクス王子。


「「はい王子」」


王子の呼びかけに即座に答えるクレアさんとエドナさん。


その返事を聞いて王子は頷くと、俺に近寄り俺にも聞く。


「大丈夫かゲキ殿?」


その言葉に俺は黙って頷き、そして王子に聞く。


「ほかのメンバーは?」


そう聞く俺に王子は首を横に振り、


「わからない」


と呟いた。


「ここは、何処でしょう王子……何が起こったのでしょう」


とクレアさんが王子に尋ねると、


「ここが何処かは分からないが、どうやら私たちはどこかに転移させられたようだ」


「「「転移!」」」


王子の言葉に俺やクレアさん、エドナさんが驚き聞き直す。その言葉に……王子は、


「恐らくあの光は転移魔法で移動したときと同じ光だと思う」


その言葉に、俺が王子に聞き返す。


「じゃ、他のメンバーもか!」


と言う俺の言葉に王子は再び首を横に振り、


「わからない」


と首をうな垂れ言う。


 その時だった、王子の左腕のブレスレットが光りだした。

それを見て王子が言った。


「おお、ソフィーからの通信だ!」


そう言うと王子は左腕の光るブレスレットに右手を当てて誰かと会話を始めたよう

だ。


その様子を不思議そうに俺が見ていると、エドナさんが俺にこう言った。


「あれは、王族同士で念話できる魔動機ですよぉ~ゲキさん」


「念話?」


とエドナさんの言葉に聞き返す俺に、


「そうですね~ゲキさんの世界で言うところの通信機……スマホみたいなものです

かね」


とクレアさんが教えてくれた。


 王子によると、やはり、俺達は転移させられたらしい……しかも電風の丘ダンジ

ョンの中に……。

シノブとソフィーさんとマクシムス将軍は3階層に、そしてセイアとミオンは4階

層に俺達と同じように飛ばされたようだ。


(俺達が居る所は何階層だ?)


俺がそう思っていると、ソフィーさんを通じてセイアからの指示があったらしい。


 見えるものをセイアに伝え、セイアの頭の中にあるこのダンジョンのデーターと

照合するので、見えるものを教えてほしいとのことだった。


 俺達は目を凝らして辺りを見回すと……。


「あれぇ~、大きな蝶々~」


とエドナさんが指差す方を皆で見た。


この洞窟にあちらこちらに点在する光る水晶の塊の一つに、群がる体長60Cmの

大きな蝶の群れが見える。


「あれは、レインボーパピオンだ」


と王子がエドナさんが指差すところに居る蝶の群れを見て言った。


「きれいですねぇ~」


とエドナさんが蝶を見て呟いた。

蝶の羽は目まぐるしく次々と色を変えている。


(まるで現代の夜の街のネオンのようだが……)



 王子の話だと魔水晶がある所に生息し、魔水晶から魔力を吸って生きているら

しい。人を襲うことはないそうだが……この世界の人間にも魔力が宿ってるのに

?と疑問を王子に投げかけると、レインボーパピオンにすれば人が宿す魔力は微

力過ぎて、襲ってこないそうだ。それに万が一襲われても、魔力を吸われ気絶す

るのが関の山とのことだった。


 王子は早速、それをソフィーさんに報告すると、しばらくしてソフィーさんから

、セイアの伝言を受け取った。それによると俺達は、セイア達のすぐ下の層の5階

層に居ることが分かった。


 そこで、セイア達がシノブ達と4階層で合流し、ここに向かうまでの間、俺達は

ここで待機することとなった。




◇◇◇◇◇





しばらく、何をすることもなく俺達はその場にあった岩に腰を下ろして、”ぼー

っ”と魔水晶に群がり、羽の色を次々と変えるレインボーパピオンを眺めていた時

のことだった。


”シュッ””シュッ””シュッ””シュッ”


と何やら風を切る音と共にレインボーパピオン達の羽が次々と切られ、レインボー

パピオンが次々に地面へと落ちていった。


「何っ!」


俺はそう言いながら、思わず腰を下ろした岩場から立ち、背中の斬馬刀に手を掛け

、臨戦態勢をとる。


 王子もすぐさま立ち上がり、腰の剣に手を掛ける。

その王子の右脇から、クレアさんが盾を持って、すーと王子の前に立ち、王子の左

脇からは、エドナさんも弓を構えた。


 俺は目を凝らし、地面に落ちたレインボーパピオン達を見ると……。


 なにやら、地面で羽をもがれたレインボーパピオンの胴体をムシャムシャ食べる

イタチのような動物……いや、魔物が居た。


 おおよそ、体長70~80Cmの魔物……その魔物と俺が目が合ったその瞬間。

その魔物は、一瞬動きを止めたが……次の瞬間消えた。


 そして消えたと思った後すぐに、俺に向かってくる物体の気を感じ、俺は右に回

避する。


”シュッ”


俺が避けた物体は俺の左頬をかすめて、後ろのクレアさんの盾に当たった。


”カーン”鈍い金属音と共に、クレアさんの盾が一瞬揺らいだ。


「なっ、何!」


驚く俺の左頬からスーと剃刀で切られたような傷ができ、そこから血が滲んだ。


「ゲキさん!血が」


それを見て驚くクレアさんに俺が大声で言う。


「大丈夫!かすっただけだ」


”シュッ””シュッ””シュッ””シュッ”


俺達の周りで、目に見えない何かが飛び回る。

人間の目ではとても追えないスピード。


 俺は目を瞑り、気を練る……そして放った。


「秘儀!金縛りの術!」


そう叫び、練った気を体全体から放出すると、バタバタと地面に落ちる物体が4体。


「お見事!ゲキ殿!」


「凄い!一撃で」


「すご~い、ゲキさん」


一撃で倒した俺に、王子やクレアさん、エドナさんがそう声を掛けてくれた。


 よく見ると先ほど俺と目が合った魔物……一見イタチのようだが、腕と足の間に

被膜があり、大きなムササビのような姿……。何より両手が鎌になっている。


「なんだこれ?」


俺がそう口にするとエドナさんが、


「あ~っひょっとしてこれ、”かまいたち”かも~」


そう言うエドナさんの言葉を王子も


「うん、確かに”かまいたち”だ」


と頷きながら肯定する。


そのエドナさんと王子の言葉に俺は絶句しそうになりながらも、こう言った。


「”かまいたち”って”妖怪”や”あやかし”ではないのか?なんでこの世界に居

る!」


俺がそう声を絞り出し言うと、王子が首を傾げながら俺に言った。


「ソフィーからゲキ殿達の世界では魔物は居らぬと聞いていたが……その”妖怪”

や”あやかし”と言うのは魔物の一種ではないのか?」


そう王子に聞かれ俺は困りながら……。


「いや、伝説上の……」


と言いかけて、ふと、ばあちゃんの言葉を思い出す。


『祖先に妖怪やあやかしと戦った者がいた』と言う言葉を……。


「あっ、いや、大昔にだ、今はいない」


その言葉を聞いて、王子は変に関心したような顔をし、


「なるほど、今はいないが、大昔に魔物と戦ったことがあるから、ゲキ殿といい、

勇者殿、シノブ殿が魔物に強いのか……」


変に納得する王子に俺は否定の言葉を上げようとしたが……。


(俺は人に説明するのが苦手だ。ここで変に俺が説明するより、後で誰かに説明し

てもらおう)


そう思い俺は肯定も否定もしなかった。


「あ、ゲキさん傷を治しましょう」


とクレアさんが俺に駆け寄り言ってきたが、


「いや、こんなのかすり傷だ、唾でもぬっとけばすぐ直る」


と言いながら唾を左頬の傷に塗り、血を拭うと……。

頬の傷から血の跡が消えたのを見て、驚き言うクレアさんが言う。


「えぇ~ゲキさんって傷も治せるんですか!私の出番が……」


そう言って、少ししょ気るクレアさん。今もぶつぶつと「私なんて」、「私なんて

」と呟いている。


(いや、別に傷を治せるとは言ってないのだが……言葉のあやだよ……と言いたい

が、俺が説明すると余計……後でミオンにでも説明してもらおう)


俺はそう思い、クレアさんに声を掛けずにそのままにした。


 その時、”ぐぅ~”と俺の腹が鳴った。


(もう、とっくにお昼を回った時間……腹減ったなぁ~なにか食べ物はないかな…

…。せめてシノブが居てくれれば何か食べれるんだがな……)




◇◇◇◇◇





 あれから、約1時間たったか……セイアやシノブと合流するまでは……と我慢し

ていたがもう、俺の腹は限界だ!とそんなことを考えながら、ふと立ち上がり、イ

ライラしながらその場をウロウロする俺。


「ゲキ殿、少し落ち着かれよ」


とイライラし、その場をウロウロする俺を見て王子が俺に声を掛けてきた。


「ああ、分かっている、わかっているが……俺は空腹には弱いんですよ」


と王子に少しイラつき言うと、王子はそのまま黙ってしまった。


 その後もイライラしながらその場をウロウロしていると、ふと、目に留まるものが……。

そう、先ほど倒した”かまいたち”。


それを、見たとたん、また俺の腹が”ぐぅ~”と鳴る。


「これ、焼いて食えないかな?」


と俺が”かまいたち”を手にとり言うと、エドナさんとクレアさんが驚き言う。


「「えぇ―――魔物を食べるんですかゲキさん!」」


声をそろえて言う2人。その様子に王子が少し呆れ顔で俺に言った。


「まぁ、毒はないと聞いていますが……」


その言葉を聞いて俺は、


「そうなんですか?なら」


と言いながら”かまいたち”の皮を持っていた小柄で素早く剥ぎ取り内臓も外して、

エドナさんに矢を一本もらいその”かまいたち”の肉を矢じりと羽を落とした矢に突

き刺して、クレアさんに炎を出してもらいたいとお願いすると、クレアさんは満面の笑みで喜んで焼いてくれる。


 香ばしい匂いが辺りを包み込む。俺は唾をごくりと飲んで焼けた”かまいたち”

の肉に一口かぶりついた。


 ただ、焼いただけなので、おいしいとは言えないが、脂がのっているし、肉質も

とても柔らかい。


(できるなら、塩でもあれば、よりいいんだが……)


俺はそう思い。


「塩があればいいのだが……」


と思わず言葉にすると、王子がその言葉を聞いて”はっ”とした感じで懐からある

ものを取り出し、俺の前に差し出した。


「これは?」


そう聞く俺に王子がにっこり笑いこう言った。


「これは塩玉です。わが軍では戦闘で疲労した時、飲み物と一緒に取るようにと兵

士達に支給してあるものです。100%”塩”ではありませんが、そのほとんどが

塩の成分なのでこれをつぶしてかけて見られては?」


その言葉を聞いて俺は


「おお、かたじけない」


そう言って、俺は王子から真珠位の大きさの塩玉を一粒受け取りそれを握りつぶし

て焼いた”かまいたち”の肉にかけ一口食べる。


「うおぉ。これは旨い!」


そう言いながら我武者羅に”かまいたち”の肉にかぶりつく俺、その姿に他の皆も唾を”ゴクリ”と飲んだ。


(なんだ、皆もお腹空いてたんじゃないか~)




◇◇◇◇◇





 残った3つの”かまいたち”も同様にして、皮を剥ぎ取り内臓も外して、エドナ

さんの矢で突き刺して、クレアさんに炎を出してもらい、焼きながら王子の塩玉を

潰し掛けた。


「うん、いけるな」


「美味しいぃ~ですぅ」


「美味しい~」


王子やエドナさん、クレアさんもお腹が減っていたのか”かまいたち”の肉にかぶり

つきながら口々にそう言った。


 その時、王子のブレスレットが光る。


「おっ、ソフィーからの通信だ」


王子はそう言い、口の中にある”かまいたち”の肉を無理やり飲み込み。


≪すまない、今食事中だったんでな……≫


≪えっ!≫


≪いや、なに魔物を倒してな、それを今焼いてみんなで食べているところだ~≫


 王子の話だと、魔物を食べてると言ったら、かなりソフィー達にひかれたらしい。


次回でセイア達と合流できる……はずです。

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