62話 フェリクス=ラグナヴェールとマルクス・マクシムス
―――異世界『電風の丘ダンジョン』付近デスロ同盟国・イーシャイナ王国連合軍砦――――
土属魔法で、高さ10mの壁で囲み、その中に無数のテントを設営しただけの急
場しのぎの砦。そのテント群の中にひと際大きく豪華なテントの中。
身長182cmの中肉のこの世界の鎧にしてはかなり細身の鎧を纏う青年が、
「これが、魔王軍が魔物を操るのを阻害できる魔動機なのか?」
自分の前のテーブルの上に置かれた、一辺が30cmの正方形の分厚い板の上に
丸いドームのようなものが付いた装置を眺めながら、傍らで、片膝を地面につい
て、頭を垂れている鳥人系鷹族の男に言った。
その問いかけに鳥人系鷹族の男は、
「はい、姫が予言した勇者様のお仲間のトキータ様がそう申しておりました。これ
が、仕様書でございます。」
そう言って鳥人系鷹族の男が懐から羊皮の巻物をその青年に手渡した。
青年は受け取った羊皮の巻物を広げテーブルの上に置かれた装置と見比べながら
、自分の脇に立つ身長192cmのかなりマッチョ系で古代ローマ風の鎧に身を包
んだ男に尋ねた。
「これをどう思われますマクシムス将軍。」
マクシムス将軍はそう青年に聞かれ、テーブルの上の装置と青年が持つ羊皮の巻物を少し見比べながらその青年に目線を向けると、
「神子と呼ばれた妹君の予言した勇者殿のお仲間の言うことなんだろう……。信じて良いのではないのか?フェリクス王子。」
その言葉を聞いてニッコリ笑うフェリクス王子。
「では、奴らに一泡吹かせてやりますか」
その王子の言葉に笑顔で頷くマクシムス将軍。
2人の会話を聞いて部下たちが出撃準備を慌ただしくしだした。
ここは、イーシャイナ王国とデロス同盟国の連合軍砦。
フェリクス王子と呼ばれる青年は、イーシャイナ王国第2皇子フェリクス=ラグナ
ヴェール22歳。そしてマクシムス将軍と呼ばれる男は、デスロ同盟国の軍事都市
(ポリス) パルタスの将軍マルクス・マクシムス35歳。
ちなみに、デスロ同盟国はテネア、パルタス、ケナイ、トンリコの4つの都市国
家の同盟国である。特徴は……。
テネア 海運業が盛んな城塞都市人口100万人山間部でオ
リーブの栽培が盛んなポリス都市。
パルタス 軍事ポリスで、連合最大の軍事力を誇る都市で主に陸上の戦いを得意
とする。 また、各国に傭兵として騎士達を送り込み外貨を稼いでい
る都市でもある。
ケナイ パルタスと同様の軍事ポリスで主に船を使った海戦を得意とする。
他国の商船の護衛などで軍艦を派遣して外貨を稼いだり、山間部
では、ブドウの栽培してワイン作りでも有名なポリス。
トンリコ 連合最大の商業都市で、連合最大の小麦の生産地でもある。
◇◇◇◇◇
―――異世界『電風の丘ダンジョン』入口付近――――
三俣の槍を持ち、長く伸びた白髪を逆立て、白いフードがないローブのような物
を着ている男……そう魔王軍の将軍の一人サディコ将軍が『電
風の丘ダンジョン』入口付近に立ち部下のアントマン達に何やら支持を出していた。
「それでよい」
そう言うと、アントマン達を下がらせた。
ここ、電風の丘ダンジョン入口付近には常に2つの竜巻と雷雲に囲まれた丘陵地
帯。2つの竜巻と雷雲がここへの侵入を拒み続けている。
サディコ将軍はその2つの竜巻と雷雲が守る丘陵地帯の少し手前に立ち、先ほど
アントマン達に掘らせ、地面の中から露わになった魔法の光で輝く魔法円に向かっ
て三俣の槍の先を向けて言う。
「Transfer!(転送)」
すると、サディコ将軍が向けた三俣の槍の先の魔法円に銀色に輝くジェル状の生物
が次々と転送され、その魔法円をあっという間に覆いつくした。
すると、その銀色に輝くジェル状の生物が魔法円から魔力をグングンと吸い出し
たのか光だし、やがて、銀色に輝くジェル状の生物達は見る見る赤くなり熱を放出
しだした。
しばらくすると、魔法円からは魔力がなくなったのか輝きは消え、そこには熱で
ドロドロに溶けて固まった鉄のようなものができていた。
「なるほど、こういう使い方をするとは、さすがソンブル翁と言うべきだ
ろうな……」
そう呟くサディコ将軍。
魔法円から光が消えたと同時にこのダンジョンを守っていた2つの竜巻と雷雲が
消えてなくなり青空が見えている。
竜巻と雷雲が消えたこの丘陵地帯を見渡したサディコ将軍は、その一番奥にある
大きな丘を見つけると、
「あれだな……」
そして、にやりと笑うとアントマン達に
「人間どもの相手はお前たちに任せた」
と言って大きな丘に向かい歩いて行った。
◇◇◇◇◇
王と俺達は王城の王族専用エリアにある客間で話し合っていた。
今回は、特別に情報が漏れないようにと言うことで、クレアさん達も同席を許され
ている。
「イーシャイナを取り巻く壁は単にその高さと長さで魔物侵入を阻んでるだけでな
く、その中に仕込まれた特殊な魔法円が魔物を寄せ付けない仕組みになっているは
ずなのですが……」
と顎の下に手を当てて、ニールさんが言った。
「へぇ~そんなんだ」
それを聞いたミオンが感心しながら言う。
「なら、その特殊な魔法円とやらがどこかで機能していない所があるか、奴らが破
壊したのではないのかいMr.ラーキン」
シノブが率直にニールさんに聞いた。
「いえ、破壊されたにしろ機能停止したにしろ、その箇所が瞬時にわかるような仕
組みになっておりますので……」
ニールさんの言葉に時田さんが、
「それは、無いということですな」
と言う言葉にニールさんが頷く。
王を初め、皆うなりながら考え込んでいると、突然ミオンが
「あ――――――っ!!」
大きな声を出した。
皆、ミオンの顔を見ると、ミオンは微笑みながら言った。
「私、わかっちゃったかも♪」
嬉しそうに言うミオンに、王が聞いた。
「解ったとは?」
「えへへ、たぶん……だけど」
そう言うミオンに、ふんふんと頭を振りながら聞く、王。
「あいつら……アリじゃない?」
「確かにアリのように見えますが」
とミオンの言葉に時田さんが言う。
「でしょでしょ」
と時田さんを指差しながら頷くミオン。そんなミオンの態度にゲキが痺れを切らし
たのか、少々イラつきながら聞く。
「アリだからなんだ!」
そんなゲキを見て少しおどけたようにミオンが言う。
「アリさんって穴掘るの得意じゃない?」
その言葉を聞いて、時田さんが”ポン”と手を打って、
「なるほど……トンネル……地下からの侵入と言うことですな」
そう言う時田さんに、ニコニコ笑いながらミオンが頷いた。
「ち・地下からか!」
「地下からですか……」
王とニールさんが、そこは盲点だったって表情で言う。
「それなれば、納得ですな」
と時田さんが、王とニールさんに言う。
「では、早速私は対策を打ちにまいります」
と言いながら部屋を出ようとするニールさんを、王が
「待て、ニール!それより奴らの”擬態”の方が問題だ」
とニールさんを呼び止めた。
ニールさんは、王に呼び止められ、振り返り
「しかし、セイア殿のおかげで、当面少なくともこの王都には奴らは潜入していな
いかと……」
と、王に言い返すが、
「いや、ここの心配をしているのではない」
ニールさんが言っているのは、あのアントマンとの戦いの後、この王都キアの街に配属されている騎士を一か所に集め、俺がGUY BRAVEのセンサーを使い全員をチェックしていたんだが、幸いあの2体以外は潜入されてはいなかった。
「では、どのような?」
そう聞き返すニールさんに、王は言いにくそうに
「フェリクスじゃ、フェリクスのことが……」
そう言いかけた時、時田さんが言いにくそうにしている王に変わり、
「今、魔王軍と戦っている王子と言うよりは、息子としてご心配なのですな……もし、王子様の側に居る騎士が奴らの”擬態”している者がいたら王子様のお命が危ない……」
その時田さんの言葉に黙って頷く、王。
「しかし、国内に潜入される手立てを一刻も早く、手を打たねば王を初め王族の方々も危険ですし、何より国民の命も危険にさらされます!」
と強い口調で言うニールさんに、王は目を背けて黙ってしまった。
「それに、このキアの街は取り合えず魔王軍の侵入者は今のところありませんが、他の地域は分かりませんし……」
と口をはさんだ。
しばらく、重苦しい空気の沈黙の後。
「では、こうしましょう!」
と俺が重苦しい空気の中俺が言った。
「時田さん?GUY BRAVEのセンサーと同じものを作れとは言いませんが俺
達の世界の技術であの”擬態”を見破る装置……例えばX線透視装置のようなもの
は作れませんか?」
と時田さんに言うと、
「はい、ラーキン様のご協力があれば作れないことはありませんが……」
そう時田さんが、俺の問いかけに答えた。
「では、ニールさんと時田さんはここに残ってもらって、お2人協力して地下からの侵入の手立てと
”擬態”を見破る装置を作ってください。王子様の救援には俺が向かいます。」
そう、俺が言うと俺の肩をそっと抑えたゲキが、
「いや、俺達だ!」
その言葉にシノブ、ミオンが頷くとソフィーが、
「わたくしも参ります、直接の戦闘ではお役に立ちませんが、エネルギーの補給は必要でしょ……セイア様」
と俺ににっこり笑いながら言う。
「ソフィーお前までも参るというのか……」
と王が不安そうに言う。
「わたくし達も一緒に!」
とクレアさんが言うとエドナさん、アイーシャさんもその言葉に頷いた。
「しかし、ソフィーを戦場に……」
と心配そうに言う、王に自分の胸を叩いて
「王様、神のお告げで現れた勇者とこのミオンちゃんが、付いているんだから大丈夫!魔王軍なんてケチョンケチョンにしてあげるから心配しないで!」
そう言うミオンの言葉に、王が、何か言いたげに口淀んで
いると、王の側に居た、王妃がそっと王の手を取り、
「あ・な・た」
と、王の顔を見ながら、微笑むと、涙ぐみながらお互いの顔
を見て頷きそして、王は俺に近づき俺の手を取って、
「娘と息子を頼みますセイア……いや勇者様」
そう言うと俺に深々と頭を下げた。
今回パロディーはありませんでした。




