30話 帰還
------異世界某所地下室---
金属の壁に囲まれ、様々な機械装置や円柱型の水槽などが並ぶ一室。広さは……
おおよそ学校の体育館ほどあろうか……その一角に、身長は163cmぐらいの小
太りで、顔の下半分が白い髭に覆われ、額には深い横じわが3本、頭頂部がハゲた
1人の老人が、何やら作業に追われている様子。
そこに、”コツコツ”と足音を響かせ1人の男が老人に近づいてくる。ローマ帝
国の軍人のような鎧兜に身を包み。髪はブルーでオールバック。短い前髪を一房垂
らして、 額には縦ジワが走っていている。目元はマツ毛が長く眼光鋭い。
しかし、老人は部屋に木霊する足音に気付かないのか、黙々と作業を続けていた。
男は、作業に没頭してる老人の横に来ると老人に声を掛けた。
「ソンブル翁。」
老人は声を掛けた男の方を見ることもなく、そのまま作業を続けながら、
「なんじゃ、インヴィクタ。帥がここに来るとは珍しぃ~の……」
と男に言うとその男は老人の顔をじっと見つめるだけで、何も言わない。老人はそ
のまま作業を続け、2人の間にはしばらく沈黙が続いたが、やがて、老人は作業の
手を止めて、インヴィクタと呼ばれる男の方に振り向き、
「苦戦しておるのじゃな……。」
と問いかけた。
「……」
インヴィクタと呼ばれる男は黙って俯く。
「そうじゃの~、この世界の魔法と呼ばれるものはかなり厄介じゃの。」
とソンブル翁と呼ばれる老人が言う。
「総帥さえ、お目ざめになれば……。」
とインヴィクタと呼ばれる男がポツリと呟く。
「そうじゃの……どこぞのあほうが、2度も失敗しよって…… 挙句に、この
ざまじゃからな……。」
ソンブル翁と呼ばれる老人が近くにある円柱形の水槽のような物に視線
を向けると、インヴィクタと呼ばれる男も老人と同じ所に視線を落とす。水槽の中
には頭だけになったデロべ将軍が、顔中にいろんな管を付けられていた。2人に視
線を合わされ、バツが悪いのか一生懸命目を合わせまいと必死に足掻くが、頭だけ
で、無数の管で固定されているので、どうしようもなく困った顔で固まっている。
その様子を見ていた、ソンブル翁と呼ばれる老人は”はぁ”とため息をも
らし、
「まぁ、テロベをここまで追い込んだ”勇者”と言うのは侮れんと言うことじゃが
な。」
と言いながら、再び作業を続けるソンブル翁と呼ばれる老人であった。
この2人の人物は、オリヴィオンと名乗る組織で1人は、デロベ将軍や、サディ
コ将軍を統括するインヴィクタ大将軍であり、もう一人の老人はオリヴィオンの中
で、モンスターの開発やオリヴィオンメンバーの体のメンテナンスなどを一手に引
き受けるオリヴィオン一の知恵者、ソンブル博士。
メンバーには尊敬の意味もこめて、ソンブル翁と呼ばれている人物で
ある。
◇◇◇◇◇
異世界から戻って来た俺達は一先ず、ンドワン国大使館にとどまる。
シノブは元より、ミオンやゲキは、俺を助ける準備をここで行っていたため、見
慣れているようだが、俺を含めソフィーやソフィーの護衛のクレアさん、アイーシ
ャさん、エドナさんはここに来るのは初めてなため、ンドワン国大使館の主である
ムチャリーさんに大使館内を色々案内してもらった。
俺の感想としては、木造の洋風の建物の中は、子供のころ家族旅行で行った神戸
の異人館って感じだった。圧巻は、シノブのお父さんの趣味の部屋?ってか武器の
コレクション部屋……隠し部屋になっているその部屋は、まるでテレビや映画で見
たスパイのアジトのようだった。
見学が一通り終わった俺達は自分達の分身である
Proxy Automatonを回収するため、呼び出した。
俺以外のミオン、ゲキ、シノブのプロキシ オートマトンは自分たちの携帯を持た
せてたみたいで、すぐに連絡が取れたのだが、俺の場合、自分の携帯を俺が持って
いたため直接連絡出来ないので、ミオンのプロキシ オートマトンに連れてきても
らうことにした。
しばらく、客間で待っていると、プロキシ オートマトン達がやって来たのだが……
彼らを見て俺は、
(本当、俺達そっくりだは……特にミオンのは”生意気なところも”そのまま再
現してる。)
と思った。
各自(俺、ミオン、ゲキ、シノブ)が自分のプロキシ オートマトンの前に立ち
命令する。
「「「「Reinttate!!!!」」」」
すると、見る見る俺達のそっくりさんは唯の木人形に姿を変え、なにやら口の所
からトランプの大きさのカードが”べぇ~”って感じで出て来る。
(何だろう?)
って俺だけでなく、ミオン、ゲキ、シノブも頭に”?”を浮かべていると……。
「みなさん、ご自分のプロキシ オートマトンからでて来たカードを
食べて下さい。」
とニールさんが言った。
「「「「えぇっ~・・・食べる!?」」」」
俺達が驚き声を上げると、ニールさんは驚く俺達に微笑みながら頷く。
俺達は半信半疑で、自分のプロキシ オートマトンの口から出たカードを手にし
て、恐る恐る自分の口へと……入れる(食べる?)。口の中に入れたカードは一
瞬にして消えてなくなり、それと同時に俺達の頭の中にプロキシ オートマトンの
記憶が流れ込んできた。
「「「「あぁ~!!」」」」
俺達4人は思わず声を上げた。
◇◇◇◇◇
ンドワン国大使館の客間でお茶をしながら、今後の打ち合わせをすることになっ
た。
話には、俺、ミオン、ゲキ、シノブ、ソフィーに時田さんやニールさん、ソフィ
ーの護衛のクレアさん、アイーシャさん、エドナさんも加わり、さらにこの大使館
の主のンドワン国大使のムチャリーさんや大使の奥様のレボハンさんも加わる。
大使館メイドのレラトさんが、手際よくお茶を配るのを待って話をした。
時田さんやニールさんは、今後、ケンタスルスの遺産と思われるダンジョンの攻
略準備と攻略後の俺達の基地化の準備を進めながら、異世界のオリヴィオンの情勢
の分析をし、その間ソフィーを初めソフィーの護衛のクレアさん、アイーシャさん、
エドナさんをンドワン国からの留学生として迎えるための準備をムチャリーさんに
してもらうこととなった。
ムチャリーさんがソフィー達の手続きが終わるまでは、この大使館で暮らしても
らうってことらしい。
で、俺達……ミオン、ゲキ、シノブ、俺は……それまでいつも通りの学園生活を
送ってほしいってことになった。
◇◇◇◇◇
大使館から家まで歩くには少し距離があったので、時田さんが車で送ってくれる
と言ってくれたんだけど、俺は”帰って来たって実感を味わいたいなぁ~”なんて
思って歩いて家に向かうことにした。
俺が時田さんに”歩いて帰りたい”って言ったら、ミオンとゲキも”セイアが歩
くなら私達も歩いて帰る”って言ってくれて、3人で自分たちの町まで歩いて帰る
ことになった。
(幼馴染みってのはこう言う時、ありがたい。)
3人共、別に話しをするわけでなくただ歩く。しばらく歩いていると俺にミオン
が話しかけて来た。
「異世界か……本当にあったんだよね……。」
と言うミオンに俺は、
「ああ、本当だよな……。」
と答えると、
「こんな話、人に話しても信じてもらえないよね……。」
とミオンが言う。
「そうだな……。」
と俺がミオンに答えると、
その後、お互い言葉が続かず、しばらく沈黙しながら3人で歩いている……
と、ゲキがポツリと言った。
「まぁ……なんだ、お前が無事で良かった……。」
そう言うゲキに俺は、
「ああ、一時は……ってか本当は死んでたんだろうな……。」
と俺がゲキに言うと、
「……本当お前は悪運が強い奴だ。」
と俺に言うゲキ。
「まったくだ、本当に俺は悪運が強いらしい。」
2人で話しながら、お互い笑いあった。それを見ていたミオンが少し膨れ面をし
て、
「なに2人で笑ってるの!、冗談じゃない死ぬなんて!そんなこと言わない!」
ほっぺたを膨らませ言うミオン。
「悪い、わるい。」
と俺が謝る。
「しかし、これからは……分からんぞ!」
というゲキにミオンが、
「また~!ゲキそんなこと言う……本当叩くよ!」
と言ってゲキの頭を叩こうとしたが、ゲキはそれを軽く避けたので、ミオンの手が
空振りした。
「うん!もー!、こう言う時は、セイアみたいに私に叩かれなさい!」
と怒るミオンに、ゲキは、
「ふんっ!わざわざ叩かれると言うのは、俺の性に合わん。」
とミオンに向かって言う。
「まぁ、まぁ、2人とも!」
と俺が間に入って言うと、ゲキとミオンはケラケラと笑いながら、
「いつものお前だな!」
「そうね、いつものセイアだね。」
と2人が言いいながら2人はケラケラと笑いだした。その場で俺は意味が分からず
1人、ポカ~とするのであった。
◇◇◇◇◇
その後、ゲキとミオンと別れ、夕日に照らされる我が家に辿り着く。夕日に照
らされた我が家を見て、なんだかもう何年も帰ってなかったような気持がする。
(なんだか、妙になつかしい……。)
俺がそんなことを考えて家の前にしばらく立っていたら、俺の後ろから声がした。
「あらセイア、そこでなにぼーとしてんのよ、さっさと家に入りなさい。」
その声に俺が振り向くと、そこには買い物帰りのかあさんが立っていた。
「あっ……うん」
かあさんに即され、俺は玄関を開け家に入る。
(本当に帰って来たんだ……。)
「ただいま!」
と、玄関に入り言うと後ろから入って来たかあさんが、俺に、にこやかに言う。
「はい、おかえりセイア。」
かあさんのその言葉に、俺は目頭が熱くなるのをぐっとこらえて、
「かあさん、ただいま」
と言うと、かあさんは様子がおかしい俺を不思議そうな顔をして見つめ、
「きょうの夕飯は、セイアの好きなカレーだからね~。」
と優しく言ってくれた。俺は満面の笑みでかあさんに
「うん♪」
と言いながら2階の自分の部屋に上がって行くのであった。
今日からまた再開です。




