24話 ソフィーのヤキモチ
朝を迎えた。時刻は……AM7:00。
この世界では遅めと言うべきか、すでに俺を含む全員が朝食を食べるため客間に集まってきた。
本来、イーシャイナ王国では朝食をとる習慣はなかったが、現王国が国王になった時、国の習慣として導入した。まだ、庶民にはあまり広まっていないらしいが、ここは流石に大使館だからか、それともアルブ王国にあるので、アルブ王国の習慣を取り入れたのか……って思っていたら、何のことはない俺達の習慣に合わしてくれたってことだ。本来は朝食も食べないし、昼食も軽めなのだそうだが……
ルタバガと呼ばれる”カブ”のようなものに何かの葉物のサラダ。それに昨日のお昼に食べたマーリンシュー(ジャガイモ)を薄くスライスし、チーズやベーコンを乗せて焼いたもの……昨日のお昼と同じ。 で、昨日シノブとゲキがお昼ご飯が足らなくて、部屋でカップ麺を食べてたことを知った大使館のメイドと執事さん達が、シノブとゲキ用に別にレンナのステーキを焼いてくれていたみたいだ。
レンナとは……どうやらトナカイのことらしい。俺達と同じメニューを食べた後、2人はそのステーキをペロリと食べた。シノブによると、少し甘めのソースで脂身がなく本来の肉って感じの味だそうだ……
(ゲキは兎も角、シノブお前ってよく食うよな……)
◇◇◇◇◇
朝食を終え、各自身支度を部屋ですませ、館の入り口に集合した。
俺はシノブの予備の服の濃いグレーのフロッグコート姿、シノブは、その色違いの少し明るめのグレーのフロッグコート姿。ゲキは紋付袴の姿……
(まるで七五三……だぜ、ゲキ)
そう思い、うちのメンバーの問題児に目を向けると……
まるで、80’sのアイドル……丁度、うちの、とうさんが高校生だった時のスーパーアイドル”セイコちゃん”バリのアイドル衣装。薄いピンクのワンピース?……短いスカートにフリルが……いっぱい。
(やっぱ……こうなるよな……こいつの場合)
元気いっぱい、お尻をフリフリしてるミオンをそんな思いで見つめていた。
そこへ、
「おまたせしました。」
とソフィーが現れた。薄めのブルーの、お姫様って感じの衣装に目を奪われる俺。
(やっぱ……お姫様だよなソフィーは)
ってしばらくソフィーに見とれていたら、後ろから”バシ”っと、叩かれた……ミオンに。
「行くよ……セイア!」
「あ……ああ、」
俺はそう言って、慌てて、王城からの迎えの箱馬車に乗ろうとした時、ソフィーがそっと俺の手を握ってきた。俺は一瞬驚いたが、すぐさま顔を赤らめるソフィーの手を握り返し、一緒に馬車に乗った。
馬車には、俺、ソフィー、ミオンにニールさんが先頭の馬車に乗り、2番目の馬車にシノブ、ゲキ、時田さんに大使のジョセフさんが乗った。そして俺達の2台の馬車の先頭には、ソフィーの護衛のクレアさん、エドナさんが馬に乗り先導する。先頭のクレアさんの合図で、馬車の御者が一斉に馬に鞭を入れ馬車が動き出す。そして、馬車の隊列の後方”シンガリ”をアイーシャさんが勤める。
ゆるゆると馬車は、アルブ王国王都のラグナの町を進む。
各国の大使館が並ぶお屋敷街を抜けると、そこには30m位はあろうか……大きな木が並び、その木の太い枝には小屋と言うか、家がぶら下がっている。ニールさんの話だとこれはツリーハウス。俺達の世界で言う、マンションとかアパートのような集合住宅ってことだが……
◇◇◇◇◇
馬車で移動中、俺とソフィーはニコニコと笑いながらお互いの顔を見つめ、手を俺の膝の上で握っていたら……ミオンが”ふう~”と息を吐きながら、馬車の窓から街並を眺めては俺とソフィーを見つめ、時折あからさまにため息をついてくる。
(何をイラついている……ミオン。)
「あのさ、セイア!もうGUY BRAVEのエネルギー(魔力)満タンなんだから、ソフィーに触れてなくてもいいんじゃないの……」
と唐突に俺たちの方に向き、言うミオン。
「えっ、ああ……エネルギー……そいうえば、≪Energy35,000/
35,000≫……だな。えっ、でもなんでミオンが満タンだとわかるんだ?」
と俺は、わざと惚けてみたら、
「さっきから、セイアの頭から青白い光が出てるんですけど……それって、余剰魔力を放出してるってことじゃなかったのかしら?」
とツンケン言ってくるので、
「いや~そ~だっけか……やっぱGUY BRAVEの生みの親は
すごいねぇ~」
って茶目っ気たっぷりにミオンをからかう俺。
「ふん、当たり前よ!」
と言って、そっぽを向くミオンをそのままにして、俺はニールさんに、
「ニールさん、エネルギーで思い出したんですか……」
と話をすり替えるため言った。
「はい、何でしょう?」
と俺の方に視線を向けるニールさん。
「GUY BRAVE自体もそうですが、GUY BRAVEのエネルギーもソフィーの魔力ですよね。」
「はい、そうですが……それがどうかしましたか?」
と俺に聞き返すニールさん。
「ってことは、俺の体の中にソフィーの魔力があるってことだと思うんですよ。」
との俺の問いに、
「はい、その通りです。」
と答えるニールさん。
「ってことは、俺もこの世界の人のように魔法使えたりしますぅ~?」
と疑問を投げかけると……ニールさんはこう言った。
「えぇ、可能性はあります……が」
と言い、少し考えてからニールさんは俺にこう言った。
「はい、この世界に住む人は、多かれ少なかれ魔力は持っています。 持っていますが……魔力があるからと言って魔法が使えるわけでは ありません。 イメージできないと魔法は発動できないのです。」
「イメージ……ですか?」
と言い返す俺に、少し考えて……
「そうですね、例えば、暖かい国の人たちは冷気系と言いますか、雪・氷の魔法が使える人が殆どいません……それは見たことがないからです。」
と言うニールさんに、不意にミオンが真顔で問いかける。
「魔力があってイメージさえできれば、魔法が使えるのなら、どうして、呪文や魔法文字を使うのですか?」
「それは、呪文と言うのはイメージしやすいための補助的なものなので、呪文の意味を知らないとイメージできませんし……」
と言いかけて、また少し考えるニールさん。
「例えば、フアイヤーストームの場合だと吹き出す炎の温度、火炎の長さなどを具体的にイメージしなければなりません。イメージだけだと、おそらく1時間以上は精神を集中しなければ火炎を生み出せないでしょう。」
それを聞いてミオンが驚き目を見開いて、
「いっ……1時間~……ってそれじゃ!」
ミオンの言葉を聞き、頷くニールさん。
「それを短縮するのが呪文です。しかし、それでも強力な魔法を発動したい場合、詠唱が長くなってしまします。それをもっと素早く、そして一定期間それを保つことができないかと考えられたのが、魔動機なんです……しかし……
と説明を一旦区切り、
「ただ、セイア殿の場合、魔物に襲われ死線の最中、姫を守りたいと強く思われましたよね。」
と俺に確認するように言ってくる。
俺は、コクりと頷いた。
「ですから、姫を守るため、魔物を倒すためイメージされたので、魔力がそれに固定されてる可能性があります。」
と言うニールさんに俺は、
「固定?ですか。」
と言う俺にニールさんは、頷き言う。
「この世界で魔法を使う者の中には、一つの系統の魔法しか使えない者がいます。これは、私が考えるに、幼い時から同じ系統の魔法ばかり使っているので、イメージが一つの系統のに固定されてるのだと私は考えます。」
「「なるほど」」
と俺とミオンがハモって言う。
「じゃ、ソフィーが魔法を使えないのは?」
とミオンがニールさんに聞いて来た。
「それは……」
「「それは?」」
再びミオンと俺がハモる。
「それは、姫の場合……魔力が……多すぎるのです。人の何十倍何百倍と魔力があり、とても人の能力ではコントロール出来ない量なのです。ですから、魔力さえあれば魔動機で、魔法は使えますが、姫の場合魔力が多すぎて魔動機が壊れてしまいます。」
と言い一旦言葉を区切って、
「しかし、それも解決しました。時田様からセイア殿の世界の機器類のお話を聞き、それをヒントに、余剰魔力を外に逃がす魔法円を組みこんだおかげで、うまく行きました。ですから、これからは姫の場合、魔動機で補助さえすれば魔法を使えるようになります。」
「「それはすごい~」」
と、またまた、ハモル俺とミオン。
あまりにハモるので、なんだかおかしくなって俺とミオンはお互い顔を見合わせ笑う。
「「アハハハハ」」
その時、俺の手をギュッと握り締め不安そうな顔で、
「お二人とも仲がいいんですね……」
と言うソフィー。
「いや~ミオンとは十年以上の腐れ縁……」
と俺がソフィーに言いかけたら、
「えっ~!そんなに前からお付き合いなさっていたのですか?」
と俺の手をギュッと、更に強く握り目を向いて言うソフィー。
「いや!ソフィー、付き合ってるって言っても……あれだ……」
と、慌てて言いかけた俺にソフィーが、
「では!……ど・の・ような……」
と、だんだん小声になって俺に聞いてくるソフィー。
「恋人とかじゃ……」
そこまで俺が言いかけた時、ソフィーが更に、
「恋人~!」
と、俺が口にした恋人の単語に反応するソフィー。
「いや……どう説明……なぁ、ミオンからもソフィーに説明しろよ!」
と俺が説明に困ってミオンの方に向いて言うと、
「さぁ~どうだったかしら……」
とニタニタしながら惚けるミオン。俺は、そんなミオンに、
「あっそうだ、ミオンはGUY BRAVEの生みの親なんだろう?なら、俺の代わりに説明してくれてもいいだろう。」
と言うとミオンは、
「はぁっ!……何言ってんのセイア!私がGUY BRAVEの生みの親とは言ったけど、大鷲青空の生みの親とは言ってないしー」
と俺に言い返す。
「お前な~!」
と俺がミオンに言い返した時、、
「あ~~~!お城が見えてきたぁ~綺麗ぇ~ね。」
と俺の言葉を遮って、わざとらしく言うミオン。
(てめぇ~、わざとはぐらかしやがって……)
と心で叫ぶ俺であった。




