233話 聖霊リンクフルコンタクト
"クェ~”
"クェ~”
首にかけられた、ロープをアントマン達に引っ張られ、嫌がるワイバーン。
暴れるワイバーンを、何とか”ギラン”(オブリヴィオンの船)の真下へ
連れて行こうと必死にロープを引っ張るアントマン達。
”ゴー”
「あっ、ブレス吐いた!」
ワイバーンが吐いたブレスで、ロープを引っ張るアントマンの首が飛んだ。
「 チェイッ……」
俺は、咄嗟に変身しようとしたが、それより早く、ソフィーが杖を突き出し、
「フリーザー」
そう言いながら、杖の白いボタンを押す。
突き出した杖の先端から、青白い光線が出て……。
”パキパキパキ”
あっという間にワイバーンを凍らせた。
「えっ!」
驚く俺に、ニールさんが近寄り説明してくれた。
「姫の新しい魔法の杖ですよw」
「新しい魔法の杖!?」
「はいw」
俺の問いかけに、自身が持つ杖を得意げに見せるソフィー。
ニールさんによると、俺やソフィーが正月を過ごしている間に、新たに
ソフィー様に制作した魔法の杖らしい。
以前の魔法少女風のスティックより大型と言うか、ニールさんが持っている
杖と同等の大きさ。
大きくなった分、以前と比べてパワーアップしているらしい。
以前のスティックは、携帯に便利なように小型だったし、元々ソフィーの
身分を誤魔化すための見せかけ様のスティックだったため、炎、冷気、落とし
穴、電撃、水の魔法が、一度しか使えなかったが、今回は、多少戦闘用に使え
るように大型化させ、各5種類の魔法しか使えないのは同じだが、回数が各3
回使えるようになったんだって。
(なるほどねぇ……)
と俺が感心していると、凍り付いたワイバーンのそばで、ワナワナ震えるカカ
皇帝にソアラねぇーちゃんが言った。
「悪いけど、この子は連れてけないよ」
◇◇◇◇◇
なぜ、ワイバーンがブレイブ基地に居たか……。
そして、なぜ、アントマン達が、ワイバーンを無理やり、”ギラン”(オブリヴ
ィオンの船)の真下に引っ張っていったか……。
それは、こう言うことだった。
条件付きで、参加を許されたエドモンド王とカカ皇帝は、大喜びで、さっそく
自分達が乗って来た、”ペガサス”と”ワイバーン”を轟雷号に積み込もうとす
るが……。
エドモンド王が乗って来た”ペガサス”は問題なく轟雷号上部格納庫に納まった。
ペガサスは気性が荒いと聞いていたので、少し驚いたが、かなり上手く調教して
いるのか、おとなしいものだった。
で、
問題は、カカ皇帝が乗って来た”ワイバーン”だ。
これは、全滅したカカ帝国の”ワイバーン隊”のものと違い、主に王族が移動用
に使うタイプで、大人しい……はずだった。
翼が邪魔で、残念ながら、轟雷号の上部、下部、どちらの格納庫にも収まらない
……。
って、ことで、”ギラン”(オブリヴィオンの船)に積み込むことになった。
(”ギラン”は、巨神器を積み込めるだけあって大きいからね)
で、
”ギラン”の真下に運び、けん引ビームで、引き上げ乗せようとして……。
ああなったんだけどね。
ソフィーが凍らせたから連れてけないのではなく、暴れるから連れてけないっ
てことなんだけど。
その様子に、ミオンが、シュイとソフィーに耳打ちをした。
「ソフィーもシュイも、あれの操縦は習ったわよね」
「あれぇ?ですか」
「あれとは……」
と質問するシュイとソフィーに、ミオンが轟雷号の上部格納庫を指差し言う。
「ほら、あそこに元々入ってた、空飛ぶあれよ~w」
「「ああw」」
二人は声をそろえ嬉しそうに言う。
「じゃ、取ってきて」
「「はいw」」
しばらくして……。
落ち込むカカ皇帝にミオンが声を掛ける。
「あの~皇帝……提案があるんですけど」
ミオンの言葉に俯いている顔を上げ、
「なんじゃ!」
と少し不貞腐れて言うカカ皇帝。
そんな皇帝ににっこり笑って、空を指差し言う。
「ワイバーンの代わりに、あれ……使ってみませんか?」
「わしはそちらの魔動機は……扱えんぞ!」
とミオンが指差す方を見て言う。
「ん!?なんじゃありゃ!!」
◇◇◇◇◇
「お父様~w」
空には、あのバルキキュン(4人乗り偵察用気球)が飛んでおり、そこで皇帝
に向かって手を振るシュイに、バルキキュンを操るソフィーが見えた。
「あれは、バルキキュンですよw皇帝」
「バル……なんだって!」
「だからバルキキュンですw」
「小型の飛行船なのか?」
ミオンが言い直す言葉にそう聞き返す皇帝。
「ん……私たちの世界で言う熱気球に近いかな……」
の言葉に皇帝はまたもや聞き返す。
「熱き……?」
戸惑う皇帝に、笑顔で説明するミオンの元にニールさんが近づき言う。
「いえ、私どもの世界には熱気球と言うものは存在しませんので、皇帝閣下
が熱気球なるものを理解するのは困難かと……」
「あら、そうなのそれは失礼しました」
ちょっと、茶目っ気を振りまきながら言うミオン。
そこで、ニールさんが改めて皇帝に説明する。
「閣下が、おっしゃった通り、この世界の飛行船と原理は同じです」
「おお、そうか」
頷くカカ皇帝にニールさんは、バルキキュンの上部のバルーン部分を
指差し言う。
「あの部分に飛空石が埋め込まれてまして、中心にそびえる細い円筒
形部分から魔力を送り、浮き上がります」
「船の上下は、魔力量を調整するレバーを上下させてコントロール
いたします」
「そして、左右と申しますか進行方向のコントロールは、その横のハ
ンドルと言う丸い操作装置を左右に回すことで方向をコントロールで
きます」
「わしにもできるかの……」
とニールさんの言葉に小声で聞くカカ皇帝。
「はい、できますとも、現にシュイ様は、ほんの一時間程度練習した
だけであのように……」
「おお」
ニールさんの言葉に目を輝かせて、バルキキュンを見つめる皇帝を見
て俺は思った。
(いや……操作してるのはソフィなんだけどな)
◇◇◇◇◇
ソアラねーちゃんの指示のもと、全員が地下4階の闘技場に集まった。
ドーム球場ぐらいの広さかな……に、客席はなく壁は金属の板で覆われて
いる。
床は、大理石のような石で、しかも一枚岩のように見える。
しかし、所々色の違う個所もあった。
これは、ゲキ達が模擬戦を行った際にできた穴を、土属魔法で修理した後ら
しい。
そこの奥に朝礼台のような台が置いてあり、その左側にα(アルファー)チーム
以下、時田さんにハッカーのパーマーさんを含むワールドディフェンス社からの
兵士17名が整列し、右側にエドモンド王とカカ皇帝を含む俺達ブレイブチーム
13名が整列した。
シノブの父ジェームズさんが、その中央の朝礼台へと上がる。
「えー、これからこの世界の魔人やドラゴンと対決する……」
「これらは、この世界の魔物と言われる怪物たちより、さらに強力な化け物だ
と聞いている……」
言葉を選びながらしゃべるジェームズさん。
「しかもだ!この戦いに私が参加するのは、国のためでも、この世界の人々を救う
……と言う大義ではない」
そう言って、エドモンド王とカカ皇帝の方を見て、軽く頭を下げた。
エドモンド王とカカ皇帝は黙って、ジェームズさんを見つめていた。
「はっきり言って、我が最愛の息子シノブを守るため、そして、俺の命を救った少
年……ここにいる、セイア・オオワシに恩を返すためである」
「したがって、ワールドディフェンサー社の我が社員である君たちには何の関係も
ない戦いである……」
「だから、無理強いはしない!この戦いに参加したくない者がいるのなら……今す
ぐここを退席してくれ」
「私は決してその行為を責めたりはしない」
そう言うジェームズの言葉に誰も何も言わない。
あたりが、シーンとしていた。
その時である、一人の男が発言した。
「何、寝ぼけたことを言っているんだボス!」
その発言に皆が振り向くと、朝礼台左側、ワールドディフェンサー社の整列してる
後方に大男が居た。
身長205Cm、大柄で……顎に大きな傷のある……見た目、本人には悪いが、
”フランケンシュタイン”のような中年の大男。
ワールドディフェンサー社社員 今回、2両ある戦車の1両を任されることになる
車長のフォルテ・ルズドさんだった。
「俺は、この命、ボスに拾われた!だから、ボスのために使うことに何のためらい
があろうか!」
「「そうだ、そうだ」」
そう賛同の声を上げるのは、その横に居るガレリア・イェーガーさんと、オルド・
クローゼさん。
(少々ガラが悪い……)
「第一によ~、ボスの恩人なんだろう?その小僧は……」
と俺に指差しながら、ジェームズさんに聞くガレリアさん。
「ああ、そうだ」
と頷くジェームズさんにさらにガレリアさんは続ける。
「俺達の恩人の恩人ってことは、俺達の恩人だ!なぁ、そう思わねーかお前
ら~!」
の言葉に、ワールドディフェンサー社社員たちが一斉に、
「「「「「「「おー!」」」」」」」
と大声で言う。
「いいのか……お前たち」
声にならない声で、目頭を押さえながら、つぶやくジェームズさん。
「ボス……」
と朝礼台の下に居た時田さんがそっと、ジェームズ声を掛けると、わかった、
わかったって感じで、ジェスチャーをした後、気を取り直して、全員に向け
一言言った。
「よーしわかった!お前ら今から化け物どもをぶっ殺しに行くぞ~!」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
俺達も含め全員で拳を突き上げ叫ぶのだった。
◇◇◇◇◇
「えーー、ここで一つお知らせがございます」
と時田さんが、ジェームズさんに入れ替わり、朝礼台に上がり言う。
「相手は、魔力の塊……我々の知らぬ未知のエネルギーの塊ですので、我々
が使うレーダーやセンサーが全く役に立たないかもしてません……それに、
今から、行く場所は、魔力溜まりと言って、未知のエネルギーが満ちている
場所です……無線もつかえないかもしれません」
と、時田さんの説明に、ワールドディフェンサー社のメンバー側はざわつく。
「そこで、この方のお力を少し借ります」
「ソアラ様よろしくお願いいたします」
と朝礼台でソアラねぇーちゃんを紹介する時田さん。
ねぇーちゃんは、時田さんの後ろから現れて胸を張る。
あまりにも小さなねぇーちゃんの姿に再び、ワールドディフェンサー社のメン
バー側はざわついた。
「こほん、じゃ~行っくよ~w」
ざわつく、ワールドディフェンサー社のメンバーにお構いなしの我が姉。
右手を高く上げ叫んだ。
「聖霊リンクフルコンタクト!」
っと、全員の頭にあるものが浮かぶ。
「「「「「「「なんだこれ!」」」」」」」
「スッゲー!」
「おお、流石聖霊様だ~」
全員の頭に浮かんだのは、念話と聖霊レーダーのコンソール画面だった。
「聖霊リンクフルコンタクト」は、スーパーロボット大戦と言うゲームでSRXチームのメンバーのアヤ・コバヤシのセリフ「T-リンクフルコンタクト」をもじりました。




