231話 ブレイブ基地の異変
1月3日、朝9時、俺、ミオン、ソフィー、シュイの4人は、異世界のブレイブ
基地に転移してきた。
地下3階、転移魔法円に着いた俺達は、何となく様子が違うことに気づく。
「あれ?、いつもなら、りゅーじーちゃんが、『お帰り~』ってアナウンスして
くるのに……」
そう俺が呟くと……。
俺達が居る地下3階に3体のアントマン達がやってきた。
なぜ、このブレイブ基地にアントマンが居るか……。
それは、この基地の警護をしてくれていた、ワールドディフェンス社の人
達は、元々は、シノブの護衛兼身の回りの世話をするためのスタッフ。
なので、ンドワン国に戦闘機の訓練中のシノブの元に向かってしまった。
そこで、手薄になったブレイブ基地の警護のため、オブリヴィオンから借りて
きたものなのだ。
「※▲◎§ΔΘ!」
「※▲◎§ΔΘ!」
「※▲◎§ΔΘ!」
何やら、アントマン達が口々に言ってるようだが……
アントマン達は、俺達の言葉は理解している……しているが、
俺達がアントマン達の言葉が理解できない。
試しに、ニールさんが翻訳魔法を使ってみるもダメだったし、
ソアラねぇーちゃんの聖霊リンクでもダメ……みたいだ。
「ごめん、何言ってるかわかんない……」
俺がそうアントマン達に言うと、3体のアントナンのうちの1体がおもむろにフリ
ップを出し、マジックで何やら書き出した。
(何書いてるんだろ?)
アントマンは、書き終わると、すぐさま俺達にフリップを見せた。
そこには『大鷲竜次さんが……』と書かれていた。
(あらら、アントマンって漢字書けるのね……)
と俺がアントマンに感心してると、
「えっ!、じーちゃんがどうしたの?」
と俺の肩に乗るソアラねーちゃんがアントマンに聞いた。
すると、それに対して、アントマン達のパントマイムが始まったが……。
「セイア、この子達に聞くより、行った方が早いよ!」
とミオンが俺に言う。
「それもそうだな」
俺はミオンんに頷きながらそう答え。
「じーちゃんの所に案内してくれ」
とアントマン達に頼むと、
「「「*§☆@」」」
と言いながら頷いた。
俺達は、3体のアントマンの後に続き、りゅーじーちゃんの元へと向かうのだ
った。
◇◇◇◇◇
”チーン”
エレベーターが地下6階に着き、アントマン達を先頭に、コントロールルームに
向かう。
そして、コントロールルームの入り口付近で、『どうぞ』って感じで先をアント
マン達に譲られたので、意を決して俺が扉の前に立つと……。
”スー”
と扉が開くと同時に……。
「「「「「うわっ!!!!!」」」」」
「っくさっ」
「酒臭い~」
思わず部屋に充満するお酒の匂いに、その場にいた全員手で口と鼻を塞ぎ、
余りの匂いに、俺とミオンそう叫んだ……次の瞬間。
「あっ!?お父様」
「えっ!?お父様」
とソフィーとシュイが叫んだ。
見ると、テーブルに持たれ酔いつぶれている りゅーじーちゃんの両脇に同じ
く酔いつぶれて倒れている2人の男の人が目に入った。
「「じーちゃん」」
まず、俺とソアラねぇーちゃんが、りゅーじーちゃんの元へ駆け寄り、酔いつぶ
れたじーちゃんを揺り起こそうとする。
ソフィーとシュイも、それぞれ、りゅーじーちゃんの脇に居る男性へと駆け寄り、
「お父様、お父様!」
「お父様……しっかりしてくださいませ」
と俺達同様に揺り起こそうとするが、びくともしない。
すると、おもむろに りゅーじーちゃんが、むくっと起き上がり、
「まだまだ、この程度で酔いつぶれる大鷲竜次ではないわい!」
”ヒック”
そう叫び、しゃっくりをしながら、脇で酔いつぶれるエドモンド王とカカ皇帝に言
う……が、そのまま倒れ込んでしまった。
「ああっ」
俺は、倒れるじーちゃんの脇をつかみ引き上げようとするが、上がらない。
(ダメだ……こりゃ)
◇◇◇◇◇
アントマン達に、りゅーじーちゃんを初め、エドモンド王とカカ皇帝を地下5階
の俺達の住居スペースに連れて行ってもらう。
ここには、新たに病院……と言うより治療施設的な建物を作っている。
3人をその施設のベットに寝かせた。
本来、ニールさんが居れば、”解毒魔法”の応用で、体内のアルコールを抜いても
らえるんだけどな……。
今、ここに居るのは、魔法が使えない、俺とミオン……ソフィーにシュイ……
って、ダメじゃん誰も魔法をまともに使えないじゃんか!
「ああ」
思わず声を出し、我が姉を見る。
俺に見つめられたソアラねぇーちゃんが、目をパチクリさせて自分を指差し、
「わちき」
と俺に聞く。
俺は黙って頷くと、
「しゃーねーか」
そう言って、飛んでいき、順番に頭の上で、アルコールを抜く魔法を発動させた。
◇◇◇◇◇
「ふっぁ~、よく寝た~」
とソアラねーちゃんの魔法で、体内のアルコールを抜かれた、りゅーじーち
ゃんが、真っ先に目覚めた。
そして、りゅーじーちゃんのベットの傍らにいる俺とソアラねぇーちゃんを
見て言う。
「どうした、セイアにソアラ……ん?早めにこっち来たんか?」
と、惚けたことを言うりゅーじーちゃんに、
「今日は1月3日だよ」
と俺が呆れたように言うと、
「えっ、もうそんなに経つか」
と少し驚いた様子。
「あちらのお客さんはど・う・し・た・の!」
とねーちゃんが語気を強め言うと、
「んっ!?はて?……どちらさんだったかな……」
と惚けたことをおっしゃるので、
「あちらの方々は、ソフィーのおやじさんのエドモンド王と、シュイのおや
じさんのカカ皇帝だと、俺は思うんだけど……なんで、2人がここにいる
の?」
俺の問いに、左右のベットに視線を向け、それぞれのベットのそばにソフ
ィーとシュイを確認しつつ、未だベットで横たわる2人の男の人を再確認
するも……。
「はて?なんでじゃろうね」
と問い返すりゅーじーちゃんにソアラねーちゃんが言う。
「やめてよ、もう耄碌しちゃったの?じーちゃん」
「何を言うか、わしゃ、まだ耄碌なんぞ、しとらんわい!」
とソアラねぇーちゃんに食って掛かるが……。
「じゃぁ~、なんでか説明して!」
と言い返され、
「んっ……なんでしゃろ?」
と考え込むりゅーじーちゃんに
「やっぱボケたんじゃない!」
とソアラねぇーちゃんにあっさり言われるのだった。
◇◇◇◇◇
「うっ~うーっ」
大きく伸びをし、次に目を覚ましたのは、カカ皇帝。
「あっ、お父様!」
目を覚まし、自分のベットの横に居るシュイの声に反応し、
「おっ、こっちに帰ってきたかw」
と、シュイを見て目を細めて喜ぶカカ皇帝。
「一体なにがあったのです皇帝」
とミオンの言葉に、こちらを見て、
「おお、ミオン殿に……勇者殿か」
と言う皇帝に、
「ここに何しに来たのさ」
と少々無礼ぎみに尋ねるソアラねぇーちゃんを見て、
「はて?この妖精は……なんじゃな」
と尋ねるカカ皇帝に、ミオンが答える。
「こちらは、妖精のチャームさんで、妖精に見えますが実は聖霊で……前世でセ
イアのお姉さんのソアラさんです」
と、くそ丁寧に説明するミオン。
「んっ!?妖精で、聖霊……で勇者殿の姉上???」
ミオンの説明に混乱するカカ皇帝。
「ソアラでいいわよwカカ」
(おいおい、皇帝を呼び捨てかよ)
胸を張り言う姉に呆れる俺だった。
◇◇◇◇◇
ミオンのソアラねぇーちゃんの紹介にカカ皇帝が混乱していると、
「ふっぁ~」
と口に手を当てながら、エドモンド王が目を覚ました。
「お父様、お目覚めですかw」
「おお、ソフィー帰って居ったか」
ソフィーに声を掛けられ、嬉しそうに答えるエドモンド王。
(なんか、さっきもこのやり取り聞いたな……)
って俺が心でそう思っていると、
「おお、勇者殿、ミオン殿……それにシュイ殿もお帰り……んっ?、そこの
妖精はどなたかな?」
(これも、さっきと同じじゃないかな)
って思ったので、すかさず、ミオンより先に俺が答える。
「我が姉、聖霊のソアラです」
ミオンは俺が先に答えたので、口をパクパクさせ残念がる。
「なんと、聖霊様が勇者殿の姉上と!」
驚き、目をむくエドモンド王の反応に、胸を張りご満悦の表情のソアラねぇーちゃん。
「ところで、こちらには何をしに来られたのですか?」
と聞く俺。
「いや……そのー、魔王と決戦をすると聞き……ソフィが心配で……」
と、頭をかきながら照れ臭そうに言うエドモンド王に、
「お父様!国を預かる国王がそのようなことをおっしゃっては……」
とたしなめるように言うソフィー。
「しかし……」
と言い淀むエドモンド王に、俺が言う。
「しかし、一国の王である前に1人の父親としては心配で……とおっしゃり
たいのでは?」
その言葉に、エドモンド王だけでなく、隣のベットに居るカカ皇帝も黙って頷く。
≪ねぇ、ねぇ、父親ってそうなの?≫
と念話で俺に聞いてくるソアラねぇーちゃん。
≪ああ、そうなんじゃないかな≫
と俺も念話でねぇーちゃん答えると、
≪えっ、そうなの!≫
≪そうだよ!≫
俺が念押しで答えると、
≪じゃ、うちのとうさんも同じかな?≫
≪ああ、同じだよ≫
≪絶対!?≫
≪絶対だ!ただ……≫
≪ただ?≫
≪ただ、かなり、よわっちーから、すぐに倒されるけどねぇ≫
俺の念話の言葉に1人”クスクス”笑うソアラねーちゃん。
その様子に、ミオンは一瞬、嫌悪感ぎみにソアラねーちゃんを見るも、
すかさず、エドモンド王とカカ皇帝の方を向き、改めて聞く。
「それは、わかりました……が、なら、なぜ3人がコントロールルームで酔いつ
ぶれてたんです?」
すると、2人がお互いの顔を見合わせ、
「「それは……」」
と同時に言う。
お互い一瞬、顔を見合わせた後、カカ皇帝が言う。
「わしも、決戦に参加させてもらおうと……来てみたら、同じころ、エドモ
ンドも同じ理由でここにきておってじゃな……参加するのはわしじゃ、俺じ
ゃともめての~、結局どっちが強いか、勝った方が参加するってことになっ
てな……」
ここまで話して、今度はエドモンド王が言う。
「で、ここには闘技場があるのを聞いておったのでな、そこを借りようと、
そこの御仁に……」
エドモンド王の言葉に、カカ皇帝が言う。
「そうじゃ、そこのじーさんが我らに言ったのじゃ!」
その言葉に りゅーじーちゃんが突然、手を”ポン”と叩き、大きな声で、
言い出す。
「あっ、思い出したわ!」
「そうそう、そこの2人がもめとったんで、喧嘩するより、飲み比べでわしに
勝ったら、セイアに参加できるよう言ってやってもええぞっていったんやわ」
その言葉に頷く、エドモンド王に、
「そうじゃ、そうじゃ、このじーさんが言ったんで、こーなったんじゃ、
悪いのはこのじーさんじゃ!」
りゅーじーちゃんに指をさしながら、言うカカ皇帝。
自分の父親が、りゅーじーちゃんを指差し、事態の責任をじーちゃんに
押し付けている様子に、シュイが、青ざめた顔で、申し訳なさそうにし
ているので、それを見たミオンが代わりにカカ皇帝に向かって言った。
「あの~この人誰だかわかってます?カカ皇帝……」
その言葉に一瞬ひるむカカ皇帝。
「誰って……留守番のじーさんじゃないのか?」
と恐るおそるミオンに尋ねると、ミオンは黙って首を横に振り、
「セイア……つまり勇者のおじいさんです」
と冷たく言い放つと同時に、ソアラねぇーちゃんがすかさず言う。
「聖霊である私の祖父でもあるんだな~」
と意地悪く言った。
「「え――――っ!」」
2人声をそろえて驚く、エドモンド王にカカ皇帝。
「それは、失礼仕った」
と素早く、ベットの上で軽く、頭を下げるエドモンド王。
そして、先にエドモンド王に頭を下げられ、しかも、娘のシュイから冷た
い視線を浴びたカカ皇帝は、体を”プルプル”震わせ、しばらく考えた挙句
……。
「すまぬ!許してくれ」
そう叫んだかと思うと、ベットの上で素早くジャンプし……所謂、”ジャン
ピング土下座”をした。
それを見たりゅーじーちゃんは、
「カッカッカッ」
と時代劇TVの『水戸光圀』張りに大声で笑うりゅーじーちゃんに
(あんたね……)
と呆れる俺だった。
今まで、お待たせして申し訳ありません。
次回からは、戦いに向かいます……たぶん。




