21話 ジョセフ・クルゼル
しばらく、森の中を歩いていると、前方に木製の門が見え、門の両脇には、細い小さな塔のような小さな小屋からエルフの門番らしい二人が俺達を確認したのか、槍を手門の前に出てきて、立ちはだかる。
「「ケンタスロス!!」」
と門番達が驚く。
俺は歩みを止め、後ろを振り返り、トラックの助手席のニールさんを見た。ニールさんは俺と視線が合うや、トラックを下りてきて、門番の前に近寄り、
「ニール・ラーキンだ。イーシャイナ王国のソフィー姫をお連れした。」
ニールさんの声を聞いて、ソフィーがトラックの荷台から降り、ニールさんの横に立ち門番に頭を下げる。
「イーシャイナ王国大4皇女ソフィー・ラグナヴェールです。」
頭を上げて言うソフィーに俺達から見て右側に居た門番が、
「失礼しましたラーキン様、姫様……伺っております。お通り下さい……」
と何か言いたげな様子にニールさんが、
「どうしました?」
と声を掛けると、
その右側の門番が左側の門番と顔を見合わせ。
「いえ……ただ、その……ケンタウルスの方と引いている奇妙な馬車……それにこの方達は……」
俺は、門番の人達の目線を見ると俺とトラックから降りた、時田さんミオン、ゲキ、シノブを見ているようだった。
不思議そうに見る門番達にニールさんが、
「あっ、ええ、この方達は例の姫の予言に出て来た”勇者”様とそのお仲間です。途中、魔王軍に襲われた私と姫を助けていただいたのですよ。」
「「えっ~、あ・あ・あの勇者様!!」」
と言うと、俺に向かって門番達が土下座してきた。
(なんなんだ、この人達……)
その様子をにこやかに見ていたニールさんが、
「さっ、顔を上げなさい、勇者様が困って居られますよ。」
とにこやかに門番達に言い、手を貸して2人を立たせた。
そして、仲間達が再びトラックに乗り込むのを確認し、門番達が門の左右に横向きに、緊張したまま直立で固まる側を、お俺は、静々とトラックを引きながら入って行っった。
◇◇◇◇◇
ここは、エルフ、ハーフエルフ、ダークエルフの国、アルブ王国。総人口1万1千人、首都はここ、ラグナ。首都の人口は約7千人ほどで、森の中心にあり、都市中心には、レマナ湖と言う湖がある。湖の中心部には王城が浮かび、湖の周ではパルプの製造が盛んに行われ、木版による印刷業、それにオートマトン(自動人形)の開発が盛んで、首都、以外は200人規模の村が20ほど点在する。
ちなみに、エルフ、ハーフエルフ、ダークエルフだが、俺達がゲームなどで親しんでる設定とは違い、単に肌の色が白いのはエルフ、黒いのがダークエルフで、黄色がハーフエルフってことらしい。……ニールさんによると。
門を入ってしばらくは道なりに進んでいたが、後ろのトラックの助手席からニールさんに支持され、進行方向左手、(門より西側)を進む。しばらく進むと大きなお屋敷街にでた。
ニールさんの話だと、ここは、各国の大使館が集まったところだそうだ。
お屋敷街に入ったら、またもやニールさんの指示で、その中にある青っぽい木造の洋館を目指すことになった。
青っぽい洋館に近付くと屋敷の門の左右にはずらりとメイド風の女の人達や執事風の男の人達が整列している。
(どうやら、出迎えのようだな)
門の左右に並ぶ人達が俺を見て、一瞬目を見開いたように見えた……が直ぐに、頭を下げる。
(この反応、俺がケンタウルスだからか?)
って思っていたら、
門の真ん中に居た恰幅の良い男性1人と3人の女性……って1人は、ニールさんと同じ緑髪にグリーンアイ、たぶんエルフの人なのだろう、もう一人は赤髪にレッドアイの西洋系の顔立ちで……もう一人が黒髪に?猫耳、尻尾……?
(えっ猫耳……の人がいる)
俺はその人を見て、驚いて目を見開いてしまった。
(この人……猫人?)
そう心に思いながら、トラックを門の正面につける。
トラックが門の正面に止まると、運転席から、シノブ、助手席からニールさんが降り、他のメンバーもトラックの荷台から次々と降りて、俺達も整列した。
俺、ニールさん、ソフィー、ミオン、ゲキ、シノブに時田さんの順に並んだ俺達に、恰幅の良い男性が近寄り頭を下げ。
「よくご無事で、ジョセフは心配で心配で、魔王軍に襲われたと聞いた時は、気が気で、ありませんでしたぞ……おひー様。」
涙を浮かべ、ソフィーの手を両手でしっかりと握り、涙を浮かべながら、言う。
ちなみに、このジョセフさんと名乗るこの恰幅の良い男の人は、名前をジョセフ・クルゼルと言い、イーシャイナ王国の元騎士であり、ソフィーが子供のころのお目付け役兼、学問の先生だったそうで、今はアルブ王国にある。イーシャイナ王国大使を務めているとか、彼をソフィーが”クルゼ先生”と呼ぶのは、子供のころ勉強を教わっていたからだそうだ。
涙を浮かべるジョセフさんにソフィーは、
「クルゼル先生、ご心配をおかけし申し訳ありません。でも、危ないところを勇者様とそのお仲間に助けていただいて、こうして無事に先生とお会い出来ました。」
ジョセフさんに両手で握られた右手ではない左手をそっと俺の方に向け言うソフィー。
「おお!この方が!勇者様!本当にありがとうございました。」
と言いながら、ケンタウルスである俺を見て、両手を組んで拝むようにしながら、深々と頭を下げる。
「よくぞ!、よくぞ、おひー様を!お守り下さった、このクルゼ(ヒック)一生の恩にきます……あ……ありがとう……ごさ……ひますぅ。」
涙声で、今にも土下座しそうな勢いで俺に言ってきた。
「クルゼ殿……お気持ちは分かりますが、姫も皆様もお疲れ……ですので……」
涙ぐむジョセフさんにニールさんが苦笑まじりで言う。
「おお!そうであった、ささっ、どうぞお入り下さいませ。」
整列してるメイドや執事に目配せをする。ジョセフさんの目配せをみて、メイドや執事達が頭をさげさっと各自持ち場にちる。男性執事達がトラックから荷物を下ろし、メイド達数人が、俺達の側に来て、傅く 。
その時ニールさんが俺に、
「勇者……いやセイア殿……そろそろ元の姿にか戻られた方が……」
ニールさんにそう言われ俺はハッとして、
「あっ!そうでした……」
と頭をかきながら言うと、
「Release!」
と叫びぶ。俺の体は光に包まれ、やがて俺は元の姿に戻った。
しかし、執事達はそれを気にも留める様子もなく、淡々とトラックの荷物を運んで行く。
側に居たメイド数名は一瞬、目を見開いただけで、後は何事もなかったようにしていた。
(魔法があるから見慣れてるのかな……)
なんて思いながら、みんなと一緒にメイドさん達の案内で屋敷の中に入って行った。
◇◇◇◇◇
俺達は屋敷に入ってから、客間に通された。
広さは16畳位だろうか……客間に入ると大きなテーブルに10個ほど椅子が並んでいる。
俺達の正面にジョセフさんが座り、その右隣にはソフィー。左隣にニールさんが座る。そして、ソフィーの横に俺が座り、その横がミオン。ニールさんの横がゲキとシノブが座った。時田さんはシノブの横に立っていたが、ジョセフさんに即されて、渋々シノブの横に座った。
「ンドワン国大使館より、広いわねぇ~」
とミオンが言う。
俺はその言葉に、頭の中で『???』が浮かぶ。
その様子を察したのか、シノブが俺に、俺とソフィーと合流するまでの話をしてくれた。
「なるほど……だから銃や刀を持ってるのか……」
と感心していると、メイドさんが俺達の前に紅茶を配ってくれた。
「さて、今日は皆様には、ここでゆっくりお休みくださるとして、明日は、お疲れの所申し訳ないが、アルブ王国国王と謁見していただかねば、なりません。」
と頭を下げる。
それを聞いていたニールさんが飲んでいた紅茶のカップをテーブルにそっと置いて
「到着の報告……ですね。」
と言うと、ジョセフさんが、
「それもあります……ありますが……今この世界は、由々しき事態に陥っております。各地で魔王軍と戦争状態……そこで……おひー様……いやソフィー姫の夢のお告げに出て来た勇者様が、こうして現れたわけですが……その勇者様を一目見たいと……」
と言う。
「王は、単に興味本位で見たいわけではないでしょう。」
とニールさんがジョセフさんに切り返す。
「えっ……まぁ」
と言い淀んでいると、
「現れた勇者……つまりセイア殿が、ソフィー姫の夢のお告げ通り、魔王達を倒せるかどうか見たいのでしょう。」
とニールさんが、ジョセフさんの代わりに言うと。
「まぁ、そうなんですが……」
と申し訳なさそうに言う。
「私は、おひー様の夢の予言は本物だと確信していますが……」
と俯くジョセフさん。
「そうですね、我々は確信していますが、王も不安なのでしょう。」
そう言うとニールさんは、俺の方を向き、
「と言う訳ですので、明日、王城までご足労頂けますか?」
と俺に頭を下げ言うニールさん。
「いや、王様に会うのは構いませんが……そろそろ一旦あっちの世界に帰らないと……」
と俺が困ったように言うと、
「大丈夫よセイア」
と何故か満面の笑みを浮かべて言うミオン。
「でも、もう3日も家に帰ってないし……まぁ、こっちに来たのが、丁度金曜だから、土日は、お前の所か、シノブの所でマンガ描いていた事にすればなんとか、親は誤魔化せるけど……流石に明日は学校に行ってないとまずいよ。」
と俺がミオンに言うと、
「大丈夫だ!Mr.オオワシ!」
「大丈夫みたいだ……セイア」
とシノブとゲキまでもが言う。
俺は頭の中に『???』を浮かべ考え込んでいると、ニールさんが徐に口を開く。
「その辺は、みなさんの言う通り大丈夫だと思いますよ。」
とにこやかに笑いながら言う。
(なんなんだろう……みんなの余裕は……)
クレアの髪の色を赤毛に変更並びに目の色をレッドアイに変更しました。




