1話 GUY BRAVE
気がつくと、俺は草原の中にある湖の畔に立っていた。周りをキョロキョロと確認してみる。
(ここはどこだ……)
(俺は、美術室で絵を描いていて、地震があって……男が落ちてきて、女の子が落ちてきて、化け物が現れて……)
俺は、傍らに倒れている女の子を見ながら頭の中で状況整理してみる。
(殺されそうになり、女の子と一緒に飛ばされて……気を失って目の前には、草原と湖と……)
目線を遠くに合わせてみると、俺の居る場所から100mほど離れたところに、数台の馬車が停まっているのが見え、そこには鎧を着た騎士風の人や御者。メイドのような女性が数人倒れていた。
俺は、徐に倒れているそれらの人達に視線を向けると……突然!俺の視界に≪Death≫(死亡)の文字が現れる。
「えっ!これ何!?」
俺は慌てふためき、自分の両手を見てさらに驚く。
「うっう……腕が!」
俺の腕は金属製の……ロボットのような腕になっていた。
「なっな……何が起こったんだ。」
俺はパニクリながらも、恐る恐る近くにあった湖の湖面に自分を映してみる。そして、さらに驚愕することとなった。
「うっわっ!……これって……」
湖面に映る俺の姿は……そう!俺がマンガのためにデザインしたヒーローの姿だった。
「GUY BRAVE」
俺が呟く……と同時くらいに俺の頭の中に警告音が鳴り響いた。
≪Enemy Approaching≫
の文字と↑(上向き)の矢印が点滅する。俺は、顔を上げ上空を見上げると、美術室の天井にあった例のウネウネと同じものが上空にあり、そのウネウネから3つの物体が、俺の前に落ちてきた。2つは、ファンタジーゲームによく出てくるオークのような奴。
(このうちの一つが、俺と女の子を投げやがった奴だ。)
1つは、こいつらのリーダー格らしき黒っぽい紫の奴。その黒っぽい紫の奴は、地上に降りて来るなりこう言った。
「貴様何者だ!」
その威圧的な言い方に俺が返事をしないでいると、俺の側で気を失って、倒れているであろう女の子をチラッと見て、
「その女をこっちに寄こせ!」
さらに高圧的な言い草。
「嫌だ!……と、いったら……!?」
俺が睨み返すと。
「ならば死ね!」
っと言い放ち、緑色の大男(オークらしき奴)に目で合図を送った。合図を受けたオークらしき2匹のモンスターは俺の方に向かってきて、そのうちの一人が俺の顔目掛け、その丸太のような腕で殴りかかる。
≪Combat Power 2,000≫の文字が俺の視界内で点滅する。
そのオークらしき奴のパンチを、俺は顔の前で手をクロスして受け止めた。ズシン!とその重いパンチを受け、足元の土を削りながら、少し俺は後退したものの倒れることもなく奴のパンチを止めた。
そしてすぐさま、奴の腕を振り払い、空手の正拳突きを繰り出し奴の顔面を打ちつける。バギっという音と共に奴の顔に俺の拳が突き刺さる。グッオ~ンっとそのまま奴が後ろにのけ反り倒れる。
≪COMBAT Power 0/2,000≫
≪Death≫×1
「なっ!なにっ~!!」
と黒ぽい紫の奴が叫ぶ。たじろぐ、もう一人のオークらしき奴に、その黒っぽい紫の奴が、自分の背中に背負っている、刀身が2m近くあるロングソードを抜き、そのオークらしき奴に剣を渡した。
「これで切り刻め!」
オークらしき奴が頷きそれを受取る。
≪Combat Power 22,000≫
(やっべー!どうしよう……こいつに武器はあるのか……思い出せ俺!)
少々焦り気味で考えていると、視界の端に≪Weapon≫の文字が見えたので、(Weapon)と念じてみる。すると視界にズラズラと武器のコマンドが出てきた。
(えっええい、これでもいいか!)
その武器のコマンドを叫ぶ。
「ブレードアーム!!」
そして右腕を天高く上げる。すると、天高く上げた右腕が光で包みこまれて、みるみる変形していき、俺の右腕の前腕部の外側に、分厚目のガンレットって感じのパーツが付いたような形。だが……そこで俺は思った。
(でっ……武器は……)
すると視界の端に武器名がでたので、俺は思いっきりそれを叫んだ。
「プログレッシブ ブレード!」
叫ぶと同時に俺の手首付近にあった、ガントレットのスリット部分から両刃の剣が突き出た。が、しかしどう考えても、相手の剣より細いし、短い……。
(こうなるんだったら、幼馴染のゲキに剣術でも習っておくんだったわ……)
そんな俺にオークらしき奴はその大剣を出鱈目に振り回してくる。俺は必死にそれを回避し続けるも……とうとう、力任せに振り回すオークらしき奴の剣が俺の頭を捕える。
咄嗟に俺は自分のその細い短い剣でそれを防ごうと俺の頭に迫る。奴の大剣に剣の刃を合わせる。
(無理だろうな……たぶん俺の剣は折れてそのまま……)
っと思った瞬間。”バッキーン”っと大きな金属音と共に、俺の剣が奴の大剣を真っ二つに切った。
「えっ……」
驚く俺。そして驚き切られた剣を見つめるオークらしき奴。目を見開き、こちらを見る黒っぽい紫のやつ。自分の剣を改めてじっと見つめると、僅かながらの振動を感じることが出来た。
(あっ!これなら)
俺はそう思い。
「おっおーーーーーー!」
と叫びながらオークらしきものに突進し、剣を振るって奴の右手を飛ばし、左手を飛ばし、最後に首を飛ばした。
≪Combat Power 0/22,000≫
≪Death≫×1
すると頭の中に”テレレレッテッテレー♪”とファンファーレが鳴り響き、Lv3の文字が頭に浮かぶ。
≪One’s Name GUY BRAVE≫
≪Lv3≫
≪Combat Power 30,000≫
≪Energy10,000/10,000≫
(Energy?ってなんなんだ……?レベル3……なんじゃこれ経験値出てないのにレベルって……シノブの奴……適当に設定したなぁ。)
なんて考えていたら、目の前の黒っぽい紫の奴が、
「なっ!おっ俺の無敵剣が!……お前の剣は化け物か!」
と目をむき俺を睨みつける黒っぽい紫の奴。
「へへっ……唯の高周波ソードだよ。」
と睨む黒っぽい紫の奴に言い放つ俺。
「コシウ……!?」
困惑する黒っぽい紫の奴。
「ばーか!高周波だよ。」
と俺が小馬鹿にして言うと、
「ええっ~い!このデロベ将軍を馬鹿にしおって~!」
イラつくデロベ将軍に、
「へーおじさん……将軍なんだ~」
「どう見ても頭巾をかぶった掃除のおじさんにしか見えないけどぉ~」
と、かなり挑発してやる。
「絶対殺す!お前をギッタギタにして殺す。」
地団太を踏み、かなり憤慨してるデロベ将軍。将軍は、頭巾状の頭部にある蛇の口から火炎を吐きながら両手の掌に火炎弾を形成し、同時に次々と放ってきた。
≪Combat Power 30,000≫
≪Energy1,800/2,000≫
迫りくる炎と火炎弾に対処すべく俺は素早く左腕を天高く上げ、
(シールドアーム)
と念じる。天高く上げた左腕が光に包まれ変形する。変形後すぐさま、デロベ将軍の方に左手の掌を向けると掌の中央にある丸い装置から、透明のエネルギーのようなものが展開される。
それは、直径50cmぐらいの透明の円形シールドであった。デロベ将軍が放つ火炎弾を次々に弾き、頭巾状の頭頂部の蛇の口から放たれる。
火炎をもはじき返した。
「おっ!おによれ~!!!」
子供のように地団太を踏むデロベ将軍。デロベ将軍は狂ったように頭頂部の蛇の口からの火炎を吐き、両掌から次々と火炎弾を繰り出し俺に放ってくる。そのすべての炎の攻撃が俺のシールドに弾かれる。
(さて、奴は火攻めで来たってことは……やっぱこれだよな~)
俺は左手のシールドを展開したまま右腕をチェンジさせる。そして変形させた右腕の掌の丸い装置をデロベ将軍に向け言い放つ。
「フリーザーストーム!」
掌の丸い装置の所から白い霧状のものが噴射する。デロベ将軍の頭巾状の頭頂部の蛇口から放たれる火炎がみるみる消えていき、白い霧状のものが触れた部分がみるみる凍りついて行く。
「がっ!はっ!」
凍りついた自分の頭部を手でかばいながら、苦しむデロベ将軍。
「うっ……てっ!撤退じゃ!」
と叫ぶと、デロベ将軍の体が透けてきて、やがて光の粒となり天に昇って行った。
◇◇◇◇◇
デロベ将軍達を撃退させた俺は、頭に浮かんだ、
≪One’s Name GUY BRAVE≫
≪Lv3≫
≪Combat Power 30,000≫
≪Energy8,OOO/10,000≫
を改めて考えてみた。
今の俺のレベル?ってか数値のようだ。夢中で闘っていたので見のがしていたが、レベルアップする前……って言うか初期値が確か……
≪One’s Name GUY BRAVE≫
≪Lv1≫
≪Combat Power 10,000≫
≪Energy5,000/5,000≫
だったと思う。
このヒーローは絵は確かに俺が描いたが、ヒーローの設定は……忍・メイトリックス……あのハーフオタク野郎が考えたはずだ……
(ほんと適当なんだからシノブは……)
俺はそう思いながら、少しため息を漏らした。
そして気を取り直し、
「さてと」
気を失っている女の子の方に向き。そっと近付き、優しく体をゆすりながら、
「大丈夫か?」
と声をかける。
「うっ……うううん」
と唸る女の子。
「私のせいで……ごめんなさい……ごめんなさい。」
と魘されているようだ。
俺は自分の顔を彼女顔に近づけ、彼女の耳元で呟く。
「もう……大丈夫だよ。」
すると彼女が俺の声に反応して薄眼を開けた。
「えっ」
俺の方に視線を向け徐々に目を開け、視界がハッキリしてくると、突然ガバッと起き上がり、俺に抱きつきこう言った。
「やはり助けに来てくれたのですね勇者様。」
その言葉に俺は、
「へっ……勇者?」
と女の子に聞くと、涙を浮かべながら嬉しそうに、
「そうです、わたくしが幼少の時から時折夢に現れて……」
「魔王からわたくし達を守ってくれる偉大な勇者様です。」
と言う彼女。
「夢の中で……守る……勇者?いや、このデザインはマンガのために、ついさっき俺が描き上げた……」
俺は訳が分からず、唖然としていると、俺から抱きついていた手を離し、
「でも……わたくしのために彼が……」
そして、また泣き出した。
「彼?」
俺はまだ、彼女の言うこっとがチンプンカンプンで固まっていると、
「わたくしが別世界らしき場所に転移した時、わたくしを庇って……」
その女の子の言葉に俺は、「あ~!それ俺だわ」と言う俺の言葉に女の子が、
「へっ?」
キョトンとするのであった。




