195話 「せ・せま!」
ブレイブロボを魔法円の外で待たせ、俺達は全員で魔法円の上に乗った。
優しい光に包まれ、足元から吹くさわやかな風を受けた感じがした瞬間、細
長い部屋へ俺達は到着した。
「ここは……」
到着した時は真っ暗だったが、俺達を感知したのか一瞬にして明るくなるが……。
「倉庫…格納庫!?」
ミオンが1人ごちる。
高さ8m……位はあるだろうか、細長い倉庫?格納庫のような場所。
「Oh, boy!(あっ)」
そう言って駆け寄るシノブの方向にある物を見て、ミオンが言う。
「バルタンク!?」
その言葉に俺もミオンやシノブ同様近づいてみると、確かに形は、初代戦隊ヒー
ロ達が使っていた万能戦車”バルタンク”に似てはいるが……。
大きさが……。
一回り大きいって言うか、3ナンバーのミニバンぐらいある感じ。
「バルタンクにしては……大きすぎないか!?」
「確かにねぇ……あれは軽自動車位の大きさだったもんねぇ」
と俺とミオンが話をしていると、シノブが”バルタンク”擬きを指差し言う。
「Though!(でも)タイヤは6輪だし、ほら、屋根にはArmが付いている
じゃないか~」
と俺とミオンに必死で訴えている……。
(確かに鳥のクチバシを模したアームだし、恐らくこれを伸ばして突いたり挟んだ
りできると思うけど……)
そこに、ニールさんが俺とミオンに声を掛ける。
「ここの机に置いてあるものは……。」
”バルタンク”擬きの前方に、大昔の学校の木で出来た机がポツンと置いてあり、
その上には革張りの表紙の分厚い本があった。
俺とミオンが、それを聞いてその机に駆け寄るのを見たシノブは、嬉しそうに
ポケットから、嘗て誕生日にニールさんからもらった”翻訳眼鏡を出して掛けな
がら、俺達の後を追った。
本を手に取り、それを開けるミオンの肩越しに顔を出し覗こうとするシノブに、
ミオンの横で同じように本を覗く、俺が言う。
「いや、これ日本語で書かれてるから」
その言葉を聞いて、残念そうに眼鏡をはずすシノブだった。
◇◇◇◇◇
この本は、所謂この”轟雷号”の取り扱い説明書だった。
全長:150メートル
重量:8千トン
空中速度:マッハ1.2
水上速度:60ノット
水中速度:40ノット
限界深度:1,000m
【武装】
艦首ドリル:対消滅弾
主砲1門 :ショックカノン砲(衝撃波砲)
副砲2門 :ショックカノン砲(衝撃波砲)
艦首魚雷 :4門
【その他装備】
・下部格納庫
バルタンク(7人乗りローバー)
・上部格納庫
バルキキュン(4人乗り偵察用気球)
今俺達がいるのは下部格納庫みたいで、上部格納庫には”バルタンク”同様、
あの戦隊ものの”バルキキュン”まで備えてるとは少し驚きだが……。
驚きと言えば、先端のドリルはこれで地底航行する物でなく、単なる巨大爆弾っ
てか……ミサイルのような物みたいだ。
(これで……魔王の島を吹っ飛ばしたんだな)
そのほか、食堂やら、寝室も備えており、所謂潜水艦のセイル部分にはブリッジ
があるようで、しかもそのブリッジは、海中航行ではもちろん、戦闘や空中を音速
で飛ぶときには本体内部に格納するようだ。
(すごいね~)
◇◇◇◇◇
「せ・せま!」
ブリッヂを見るなりそう言うミオン。
説明書に書いてあったので、狭いのは分かっていた。
なので、俺と、ミオン、シノブの3人だけでブリッヂに上がろうとしたんだが
、シュイが駄々を捏ねるのでシュイも入れて4人でブリッヂに来た。
因みに、その間にこの船が起動できるように、ソフィーには機関室へ行ってもら
い、エネルギー(魔力)を充填してもらっている。
1人では危ないと言うより、ソフィーの事だから広い艦内で迷うといけないので
、例の本に載っている艦内見取り図を俺のスマホで撮り、それをゲキに渡して、エ
ドナさん、クレアさん、それにアイーシャさんの4人も一緒に行ってもらっている。
残る、ニールさんとローゼはここに残り、この船の材質や、ここの格納庫に雑
多に置かれたものの中から使える物がないかを調べてもらい……。
(ん!?)
残る櫻ばーちゃんは……。
さっき、見つけた本が置いてあったテーブルの側に、どこで見つけて来たんだか
わからないが、椅子を出してきて座り、そこに、これまたどっから出してきたのか
、湯飲みに入った番茶をすすりながらお煎餅をかじっていた。
(まぁ、この人はいいか)
◇◇◇◇◇
確かに狭い、幅が狭く、正面窓側に席が2つ。
恐らく、1つは操縦席で、1つは武器の照準、コントロールをする席だろう。
そのすぐ後ろには、左右のコントロールパネルに向いた位置に2つ席がある。
早速、シノブが席に座り本を片手に、色々操作していた。
「Ok、Ok、なるほど~でも基本Sstemがかなり古いようだねぇ」
って、1人ごちりながら操作している中で、シノブ曰く、
「恐らくだが、1つはレーダー監視席、もう一つは……無線……いやソナーかな」
って事だった。
そして、部屋の一番後ろに席が2つ。
1つは、真ん中にステップ付きの1段高くなっていて、椅子の左右のひじ掛け
にはいろんな操作ボタンやスティックがあり、何より潜望鏡がある。
それを見たシュイが言う。
「この席は王の席でしょうか?……」
「いや、たぶん艦長席よ」
と言うミオンにシュイは首を傾げながら聞く、
「カンチョウですか」
「いやいや、シュイ。艦長……つまりこの船で一番偉い人が座る席」
と俺が補足説明をしたら、
「セイア様もミオン様も初めて見るのによくご存じですね」
と感心しながら言うシュイの言葉に、俺は心でこう思う。
(そりゃ~俺もミオンもある意味ヲタクですから)
でも、それは口には出さず、
「まぁねぇ」
とだけ答えておいた。
その左隣は恐らく副長席?だろう。
シュイには、
「この船で2番目に偉い人が座る席」
と簡単に言っといた。
元々勇者は6人チーム……。
なので、6人での運用を考えて作ったのだろうから、この狭さでもいいだろう
が、俺達が使うには、かなり狭いな。
何より狭く感じるのは、モニターはブラウン管方式で、スイッチ類、メーター
類がゴツゴツして古めかしい。
言うなれば、60年代~70年代にかけての特撮SF映画やテレビに出て来るよ
うな感じ。
(まぁ、電子機器の未発達なこの世界において、これだけのものを作ったのには感
心するが……)
◇◇◇◇◇
その後、食堂やら、寝室などの艦内施設を見て回ったが、やはり6人仕様なの
で、俺達が使うには少し手狭かも。
(やはり、多少手を入れないと使いにくいな)
そう思いながら皆の居る下層の格納庫に戻って来てみると、そこにはここに残
っていたニールさんとローゼが雑多に積まれた色々なものの中からある物を見つ
けていた。
「これって……」
「そうです、”どこでもミラー”です」
俺の疑問に笑顔でそう答えるニールさん。
「じゃ、これがあれば、ここにいつでも来れるねw」
とミオンがニールさんに言うと、
「はいw」
と笑顔で答えるニールさんだった。
その横で、この船の材質を調べていたローゼにシノブが聞いた。
「やはり、この船は特別の素材だったのかい?Missゾメル」
「うん、信じられないけど……説明書に書いてあった通り、アダマイト、ミス
リル、オリハルコンの合金みたいよ~」
「信じられないって、どういうことだいMissゾメル」
「うん、理論的には可能だけど……アダマイト、ミスリル、オリハルコンの合金っ
て私は見たことないわねぇ」
「そーなんだ」
ローゼの説明によると、それぞれの金属は加工する温度、方法が違うらしいし、
それを1つの合金にするのは至難の業だと言う。
(なるほど……この世界の超合金ってわけだ)
となると、外装の改造や武器の追加は難しそうだから、取りあえず、内装やコ
ントロール系を新しくして、俺達で運用しやすくするしかないな。
◇◇◇◇◇
取りあえず一通り見て回ったので、ここを出ることにした。
理由は、やはり元々6人での運用仕様のこの船をこのままは使いずらい。
なので、俺達仕様に改造してから、ってことで、皆と意見があったからだ。
出る前に、ここ(下部格納庫)に、ここで見つけた1対の”どこでもミラー”
のうちの一つを置いて、全員で転移魔法円に乗り、ここを出た。
桟橋から、階段を昇って、祠に戻り、来た時とは逆の手順で前方後円墳の外へ
でた。
もう時刻は夕方4時になろうとしていたので、さっさと荷物を馬車に詰め、ブ
レイブロボに馬車を引っ張らせて、急いでアサカの村へと戻り、そこで1泊し、
次の日の朝早く王都アスカへ船で戻った。
(少し改造は要るけど……全然使えないって訳じゃないから良しとするかな)
バルタンク=バリ〇ンク、バルキキュン=バリ〇キュンいずれも
初代戦隊シリーズの秘密戦隊ゴレ〇ジャーに出て来る万能戦車と気球です。




