185話 山田太郎の執念
建物に入ってのすぐ、教室を縦に伸ばしたような部屋。
「神社の結婚式場みたいな部屋だねぇ」
とミオンがぽつりと言う。
(なるほど……)
ミオンに言われ、言われてみればそうだなと頷いた。
全体に板敷で、正面には一畳だけ畳が敷いてあり、そこに籐の丸椅子が置かれて
いた。
この国で天子と言われるシュイの妹のレイが、そこに”ちょこちょこっと”進ん
で行き座る。
その両脇には、先程あった左大臣のクジラさんと、今初めて会う右大臣のタンゴ
さんが、胡床と呼ばれる神社などにある折り畳み式の椅子に座る。
因みにタンゴさんの族称はキビ……。
つまり、キビのタンゴさん。
天子様のレイに向かって右側に置かれた胡床に俺達は座る。
俺、シュイ、ソフィー、ニールさん、シノブ、ゲキ、櫻ばーちゃん、ミオン、ク
レアさん、エドナさん、アイーシャさんに、ローゼ。
(並びに何か意味あるのかな?)
そしてその反対側にナ国の十部族のうち、左大臣のクジラさん、右大臣のタンゴ
さんを除く8人が、ウサ、ワ、タイ、トモ、オキナ、コセ、キ、タチの順に並んだ。
(これも何か意味あるのかな?)
そして、ナ国側から自己紹介や、自分の族の自慢話やらを一通り聞いて……。
顔合わせは終わったようだ。
(こう言うのホントめんどくせー)
◇◇◇◇◇
顔合わせを済ました俺達は、会見の部屋の奥にある、天子の居住スペースへと
進む。
そして、おおよそ16畳程度の、今度は全面畳が敷き詰められた部屋へ案内され
た。
俺達にとって決して広いとは言えないが、ここが俺達の部屋らしい。
荷物を降ろしてしばし寛ぐことにした。
荷物を置いてしばらく寛いでいると……。
「ねぇねぇシュイ」
「何ですかミオン様?」
「あのさ、天子ってなあに?」
とミオンがシュイに聞く。
「あっ、はい天子とは……」
シュイがナ国で言う天子について説明してくれた。
シュイの話だと、約300年前、山田太郎こと前勇者が魔王を倒した後、ここナ
国に立ち寄ったとのことだった。
その時のナ国は、10部族がそれぞれこの国の覇権を争い戦乱状態だったらしい。
それを鎮め、この地を10部族が共同統治する仕組みを考えたのが、前勇者の山
田太郎だった。
元々この国ナ国は、他の地域と比べ、魔物がほとんど出ない。
たまに、特定の新月の日にサハギン(半魚人)が現れ暴れまわることがあるそう
だが、この世界には珍しく概ね平和な地域。
そのためか、このナ国の人々は魔力量が極端に低く、生活程度には魔法を使える
が、とても戦争に使えるレベルの魔法を扱える人は殆どいなかった。
普通なら、みんな仲良く暮らせるはず……だが、人間と言う生き物はそうは行か
ない生き物らしく、自分の領地(取り分)を増やそうと考えるようで、長らく戦乱
の世が続いていたらしい。
まぁ、お互い魔法が使えず、戦力的にはどの部族も似たり寄ったりで、何処か1
つが抜きに出ることもできなかったってのが、本当の所だろうけど……。
そんなナ国の人達に、前勇者はたまたま大量に現れたサハギン(半魚人)をたっ
た1人で倒して見せたり、自分の知識を使ってこの国の農業を変え、以前より圧倒
的にこの国を豊かにして見せた。
その力を見せつけられたこの国の人々は彼(山田太郎)を天上人……。
つまり、天人として崇め奉ったと言うことだった。
シュイの説明を聞き、ミオンが新たな疑問をぶつける。
「あっ!でもさ、天人と天子は違うじゃない……それにカカ帝国は何の関係があ
るの?」
「それはですね……話すと長くなりますけどよろしいでしか?」
と少し勿体をつけた言い方をするシュイだった。
◇◇◇◇◇
シュイの話だと、約300年前の勇者『山田太郎』は、5人の嫁達との間に生
まれた子供たちがほぼ成人(15歳)を迎えたころ、第1夫人がイーシャイナ王
国の跡取り娘だったので、どうしても王女もしくはその間に出来た子供が王家を
継ぐ必要が出て来た。
そこで、一家上げてイーシャイナ王国に移住することにしたのだが、ここでカ
カ帝国から”待った”が掛かる。
魔王を倒すほどの勇者パーティー全員が、イーシャイナ王国に住むだけで、こ
の世界のパワーバランスが一気に変わる。
イーシャイナ王国にその気がなくても、他国から見れば脅威には違いない。
そこで、勇者と第1夫人とその間に生まれた子供はイーシャイナ王国で住むこ
と並びに、イーシャイナ王国の王位を継ぐことは認めるが、他の第2夫人~第5
夫人とその子供達はそれぞれの出身地へ戻る事と、魔王を倒した時に使用した超
兵器である”万能船”は、イーシャイナ王国から遥か遠くにあるこのナ国に預け
ること。
これは、”万能船”が勇者でないと動かせないことを踏まえ、勇者と”万能船
”を引き離し、これを勝手に使わせないためだそうだ。
そして、その”万能船”の管理はカカ帝国がすると決まったのだが……。
「でもさ、何で女の子なの?」
「それはですね……」
ミオンの疑問にシュイが再び答える。
「第2夫人のカカ帝国第1姫には、男の子と女の子がそれぞれいまして……」
と話し出した。
シュイの話を要約すると、第2夫人には男の子と女の子がいて、男の子はその
ままカカ帝国の王位を継ぎ、女の子がナ国の管理と”万能船”を管理する目的で
このナ国に赴いた。
迎入れたナ国の人達が天人の子供だから……天子。
と呼んだんだと。
でも、実際は勇者と第2夫人の間に生まれた女の子は、第2夫人の父親つまり
、彼女にとっての祖父とのそりが合わず、カカ帝国から逃げ出したかったっての
が本音だったらしいけど。
以来、ナ国の天子はカカ帝国から派遣されることになったんだって。
それに女の子に限るのは、何代目かの天子が偶々男の子だったらしいが、その
時天変地異がナ国を襲い国が乱れたので、ナ国側からの要請でそうなったんだっ
てさ。
(なるほどねぇ~)
◇◇◇◇◇
夕食の時間。
さきほど、部族の長たちと話をした部屋へ向かうと……。
大きな長い机があり、その正面にはすでにナ国の天子であるレイが座ってい
た。
「あっ、お姉様方、それに勇者様、こっちこっち」
手招きするレイに急かされ俺達もテーブルの席に着いた。
テーブルには沢山の料理が並んでいた……。
「「「「ん!?」」」」
テーブルに並ぶ沢山の料理を見て驚き声を上げる俺、ミオン、ゲキにシノ
ブ。
その様子を見て、接待役のトモのダチさんが慌てて俺達に聞いてきた。
「えっ、お口に合いませんか!」
焦るダチさんに、俺、ミオン、ゲキ、シノブが首を横に振り、俺が言った。
「いえ、とんでもないですよ……ただ」
「ただ?……」
俺の顔色を伺いながら聞くダチさん。
「この世界で食べれるとは思ってなかったもので、少々驚いただけです」
「ああ、左様で御座いましたか……これらは天人様が考案したお料理なんで
す」
俺の返答に”ホ”っとした感じのダチさんだった。
で、
出された料理って言うのは……。
・エビや野菜の天ぷら
・何かわかんないけど白身の魚の刺身……もちろんワサビや醤油付き。
・汁物は……どう見ても”きつねうどん”
に……圧巻なのは黄色い小判型の……コロッケ!
ナ国では、
・天ぷら=テンペラ。
・刺身=サシ……因みにわさび=ワビ、醤油=ムラサッキ。
・きつねうどん=アゲウートン
・コロッケ=コロスーケ
って呼ばれているそうだ。
それに、お茶碗にてんこ盛りされた白米のご飯に……黄色い大根……って
ご飯の横に置いてある小皿の中を見て、
(ああ、タクアンね)
先程、ダチさんが言っていたように、これらの料理に使われる食材や、醤油など
の調味料……果ては白米に至るまで、前勇者(山田太郎)が数年の時を掛けて編み
出したんだそうで、特に白米はかなり苦労したようだ。
米は元々ナ国でも主食として食べられていたが、俺達の食べる米と違い、所謂赤
米だったそうで、白米に改良するにはかなり苦労したようだ。
(恐るべし執念……)
だと思うよ俺は。
「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」
俺達がみんな揃って手を合わせ言うのを見てレイも真似して
「イタダキヤス」
と可愛く言って手をちょこんと合した。
真っ先にレイは、コロスーケ(コロッケ)に手を伸ばす。
(レイはコロッケが好物みたいだね)
コロッケをコロスーケと呼ぶ……。
ってのは、もちろんあのアニメからです……はい。




