182話 ナ国へ
時田さんと話をした3日後、異世界に向けて出発する。
本来、その日に出発するはずだったが、櫻ばーちゃんが”一緒に来る”ってんで
、その用意があったからだ。
櫻ばーちゃんは、『そんなのいらん』とは言っていたが、そうは行かない。
ばーちゃん用のProxy Automatonつまり身代わり人形を用意す
るのと、ブレイブ基地にばーちゃん用の部屋を用意せねばならない。
部屋の方は幸い、女子用の建物がシュイとローゼが加わったことで、1人分足り
なくなっていたので、女子用の建物の裏の元ケンタウロス士官用の建物を改造し、
新たに6部屋分(1階3部屋、2階3部屋)を作っていたので、1階左端のロー
ゼの隣の部屋をばーちゃん用に宛がうことが出来たのだが、ばーちゃんの希望に
沿うように和室に改造するので3日掛かってしまったと言う訳。
部屋は兎も角、留守中の自分の身代わりのProxy Automatonに
ついてはかなり嫌がっていたが、ゲキにクレアさん、エドナさんの身代わりがこの
世界に居るのに、その3人の保護者である櫻ばーちゃんの身代わりがいないのは、
おかしいし、ましては高齢であるばーちゃんが急にいなくなれば、近所を初め周
りの人が大騒ぎするだろうと、俺とゲキで説得し、最終ばーちゃんも分かってく
れたみたいだ。
「Paralleltransfer【異世界転移】!!」
何時ものトンネルのような所を移動し、そのうち進行方向にから眩い光が刺して来たかと思うと……。
大きな広場に作られた魔法円の上に俺達はいた。
「着いたのんか?」
そう、ばーちゃんが俺に尋ねて来るので、俺は黙って頷くと、
「えらい、殺風景なところじゃな」
と言いながら辺りをキョロキョロ見回す、ばーちゃん。
「ばーちゃんこっちだ」
とキョロキョロ辺りを見るばーちゃんにゲキが手招きし、皆で部屋の奥にあるエ
レベーターまで移動し、地下6階の中央コントロール室へと向かった。
◇◇◇◇◇
”ピ~ン”
地下6階に到着し、エレベーターを降りると、そこには数体の作業用
Proxy Automatonが控えていたので、彼らに各自自分の荷物を預け
る。
「あん?」
櫻ばーちゃんは少し躊躇してるようなので、俺とゲキで『召使ロボットのような
物』で、地下5階の各自の部屋に運び入れてくれると説明し、納得してくれたみたい。
ばーちゃんも俺達同様、自分の荷物を
Proxy Automaton達に預けてくれた。
荷物を預け、エレベーター前から廊下を進み突き当りの部屋の扉の前に俺達が
立つと、扉は”スー”と左右に別れ、20畳くらいの部屋が現れる。
正面には大型モニターがあり、その手前には、Vの字の形をした大きなテーブル。
そして、左の壁側には、いくつもの操作パネルといくつかのモニターパネルが並
んでいて、そこにニールさんとりゅうじいちゃんが居た。
「おー、おひさしぶりです下峠さん」
「あら、まぁ、おひさしぶり~w大鷲さん」
とお互いの顔を見て挨拶する2人。
(えーっ確か俺が小学校の時の運動会で、2人は会ってたっけかな?)
親しそうに会話をする櫻ばーちゃんとりゅうじいちゃんを見て俺はそう思った。
「今お茶をいれるんで、ちーとそこに座って待っててください。」
と りゅうじいちゃんが、櫻ばーちゃんをVの字の形をした大きなテーブルの右側
の端の席に案内する。
「恐れ入ります」
案内する りゅうじいちゃんに一礼し、席に座る……。
(んっ?……椅子に正座したよ~櫻ばーちゃん)
俺達も各自席に着く。
櫻ばーちゃんの隣にゲキ、クレアさん、エドナさんが座り……ミオンは何故かエ
ドナさんの隣の席に座った。
(んっ?何で)
と俺は思いつつ、反対側に俺、ソフィー、シュイ、シノブ、アイーシャさんが座った。
ちょうど俺が、櫻ばーちゃんの真向かい。
(なるほど……ミオン、ばーちゃん苦手だもんな)
しばらくして、時田さんと りゅうじいちゃんが手分けして、俺達に飲み物を
配ってくれた。
俺、ミオン、シノブはコーヒーを、そしてゲキと櫻ばーちゃんには、番茶を配り
、異世界組には紅茶を配てくれた。
飲み物を、時田さんと りゅうじいちゃんが配り終えると、2人に変わってニー
ルさんが俺達の前に立ち、俺達が異世界に居ない間の出来事や、”勇者の船”に
ついて説明してくれた。
◇◇◇◇◇
ニールさんの話だと、俺達が異世界から離れて居る間、俺達が今まで行った国や
街に、オブリヴィオン(魔王軍)達が現れて暴れまわったらしいが……。
いずれも単発で、しかも騎士20人掛かで倒せる程度だとか。
被害がないとは言えないらしいが、いずれも軽微な被害とのことだった。
一般市民は兎も角、各国の王や代表者の人達の多くの意見は、現れたオブリヴィ
オン(魔王軍)を各個撃破しても、肝心の総帥(魔王)を倒さないことには何もな
らないだろうと言う意見だそうで、前回の勇者の船を一刻も早く俺達が手に入れ、
オブリヴィオン(魔王軍)の本拠地に乗り込み倒してほしいとのこと。
(おおよそ検討はつけてるが、ここだと言う確証はない……船が手に入ってもな
んだけどねぇ~)
で、
その前回の勇者が作った船と言うのが、何処にあるのかって事だけど、それは"
ナ国"と言う国にあるらしい。
”ナ国”と言う国は、カカ帝国の東、海を渡った所にある南北に細長い国だそ
うで、一応独立国だが、実質はカカ帝国の属国らしい。
大小合わせて10の部族と10の都市からなっており、そのうち大きな都市は
4つある。
・アスカ ナ国の王都、碁盤の目に整備された都市で、カカ帝国の王族を天
子として向かえ、実際の政治はナ国居る10部族の代表が合議に
より取り決めているのだそうだ。
・ツクシ ナ国第2の都市、商業と海運と漁業の盛んな都市。
・イヨ ナ国第3都市、農業が盛ん都市。
・キビ ナ国第4の都市、鍛冶の都市。
シュイも7歳から15歳(成人)まで、ここの天子を務めていたらしい。
代々カカ帝国の姫君は、この国の天子を務めるのが習わしらしく、現在はシュイ
の妹のレイ(第3姫)が天子を務めているとのことだ。
ニールさんの説明が終わったので、俺達は一旦地下5階に戻り、各自の部屋でナ
国行の準備をすることにした。
◇◇◇◇◇
夜、食堂で櫻ばーちゃんの歓迎会を兼ねて焼肉パーティー!?
(年齢的に脂っこいもの大丈夫かばーちゃん?)
と思ったものの、さすがゲキのおばあちゃんって言うか下峠家の人と言うか、俺よ
か沢山食べていたのには少し驚いた。
次の日、俺達は朝8時に朝食は取らず、”異世界転移魔法円”のある地下3階に
集合する。
因みにゲキは朝5時から闘技場で”気”の流し方の練習を櫻ばーちゃんと行って
から、隣の銭湯で一風呂浴びてからの集合だった。
「で、どうだったのばーちゃん?」
と少し遅れて地下3階へとやって来た、櫻ばーちゃんに聞くと、
「んっ!あっ、ええ湯じゃったよw」
と恍けて答える櫻ばーちゃんに俺は一瞬固まったが、
(ああ、闘技場の横の銭湯の事ね)
って思い聞き直す。
「いや、そうじゃなくて、ゲキの方」
「あぁ~ん、まぁ、あんなもんじゃろ」
そんな会話を櫻ばーちゃんとしている時、全員が揃ったのを確認したミオンが
皆に声を掛ける。
「皆~ここの壁にある鏡の前に集合ぉ~w」
集まった皆に今度はニールさんが言う。
「ここに1列に並んでください」
全員が一列に並ぶ中、櫻ばーちゃんがゲキに聞く。
「なにが始まるんじゃ?」
「えー……」
説明に困るゲキに俺が口を挿む。
「今からアイーシャさんの家に行くんだよ」
「ほう~あの猫娘の家にか……どうやって?」
と聞く櫻ばーちゃんに俺はにっこり笑って言った。
「それは……か……」
それは、『鏡の中を通って』って説明しようとしてやめた。
櫻ばーちゃんは見た目と違って意外と好奇心が旺盛なので、鏡の中を通ると言っ
てもその後、色々聞かれそうだったのね。
「まぁ、それはお楽しみってことで」
そう言う俺の言葉を聞いて、櫻ばーちゃんの顔は少しワクワクした感じに見
えた……俺にはね。
ナ国の元は漢委奴国王って
教科書に出て来る金印から取った名前です。
ただそれだけ……。




