178話 もえいろクローバーA(文化祭)
俺達が、男どもの相手をしている時、体育館での催し物の午後の部が始まって
いた。
午前の部は、1年2組の「現代版 新説 桃太郎」と英語劇「水戸光圀」どちら
も演劇。
「現代版 新説 桃太郎」の方は、現代の会社に入った桃太郎が、会社のいくつ
もの問題を解決し、出世して行く?どこかで聞いたようなお芝居らしい。
また、3年2組の英語劇「水戸光圀」はテレビ時代劇で有名なストーリーを英語
で演じると言う物で、これは担任の先生が英語教師ってのもあるが、このストーリ
ーだと英語が解らない人でも楽しめるだろうと言うことらしい。
(でも、うちの異世界組にはわからないと思うよ)
そして、今まさに行われているのが、1年生~3年生の有志(やりたい人)達
が、それぞれ、単独だったりコンビだったり、チームだったりで演じている漫才
やコントにモノマネ。
漫才、コントに至っては、殆どテレビの芸人さんのネタのパクリ、去年一度見た
けど、はっきり言って笑えない。
殆ど自分達だけで楽しんでいる感じ。
モノマネに関して、これまたテレビネタのパクリが半分だが、1人だけオリジナ
ルネタの人がいて、うちの学校では結構有名な人で、名前を松田優斗
って言うんだけど、現在3年生これが最後の舞台になる。
彼のネタは殆どうちの学校の教員ネタ。
ここの生徒でない人から見れば、何がおかしいのか、たぶんわからないとは思う
が、うちの生徒からは絶大な人気がある。
”ガハハハハ”
今、体育館の中から大勢の笑い声が聞こえたのでたぶん今彼が演じているのだろう。
(そろそろ、ミオン達に準備を促した方がいいかな)
と、言うのも午後の演目は、恐らくこの後、1年5組が演じる集団ダンス。
80年代ディスコ音楽に載せてクラス全員で踊るらしい。
その後が、3年生の有志……確かバンド名が『ファイアーブラスター』だったと
思うが、そのバンドのロック演奏で、その後がうちのマン研の出し物(ソフィー、
ミオン、シュイ)演じる”もえいろクローバーA”なので、すぐと言う訳ではな
いが、そろそろ準備した方が良いように思う。
目で、男達を整理しているゲキとシノブに合図を送る。
俺の合図に2人は黙って頷くと、写真撮影をテンポアップでやりだした。
◇◇◇◇◇
\\\わぁーw///
\\\キャーw///
(おっ、そろそろだな)
今丁度、大音量の音と女子生徒び悲鳴と共に『ファイアーブラスター』の演奏が始まった。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってまいります」
「行ってまいりますセイア様」
そう言いながら俺に手を振りながら、体育館のステージ裏に向かうミオン、ソフィー、シュイ。
俺は3人に手を振りながら、
「がんばってな」
と声を掛けると、
「うん」
「はい」
「かしこまりました」
と、一瞬立ち止まり、俺の方に振り向き笑顔で言うミオン、ソフィー、シュイ。
そんな3人の後ろ姿を見ながら、俺に笑顔で、シノブとアイーシャさんが言う。
「Mr.オオワシ、僕達も見に行かないかい?」
「行きましょうにゃ」
「しかし……」
俺は躊躇し、テントの方を見て言いかけると、
「行って来いよ、ここは俺達が見てるから」
ゲキが、珍しく笑顔で言ってきた。
(?)
ゲキの側には笑顔のクレアさんがいるのを見て俺は思う。
(あっ、お邪魔って事ねw)
「そんじゃぁ、お言葉に甘えて~」
俺はゲキとクレアさんにそう答え、シノブとアイーシャさんと共に体育館に向か
うのだった。
◇◇◇◇◇
体育館の入り口に俺達が着くと、そこには大勢の男達が、入り口をふさぐように
屯っていた。
(これじゃ~入れないじゃないか)
俺がそう思って、口に出そうとした時だった。
「Excuse me. May I get through?」
(すみません、 前を通ってもよろしいでしょうか)
突然、英語で話しかけられた男達は、驚いてシノブに道を開ける。
すかさず、空いた所からシノブとアイーシャさんが入り口に入って行くので、俺
も慌てて2人の後を追い、体育館へと入って行った。
体育館の中は、大音量の『ファイアーブラスター』の演奏と”キャーキャー”わ
めく女生徒の悲鳴の声が鳴り響いていた……の割には、満杯と言う訳でもなく、前
半分は女生徒で席が埋まっているものの、半分から後ろの席はどちらかと言うとま
ばらって感じではあった。
なので、俺達は中央の席のやや後ろめの席に座ることが出来たんだ。
席に着き、ふと、先程体育館入口付近に屯していた男達が、グッツを買ってくれ
た奴らだと気づく。
(あれれ……なんであいつら入ってこないんだろう?)
◇◇◇◇◇
『ファイヤーブラスター』の演奏が終わり、会場には拍手が沸き起こった。
「ファイヤーブラスターの演奏でした」
の司会(生徒会役員)の言葉に、再び拍手が沸き起こり、拍手の中『ファイヤーブ
ラスター』のメンバーは舞台袖へとはけると、会場に居た女生徒達が出て行く。
と同時に、先程まで体育館(会場)入り口に屯していた男達が、我先へと入って来
た。
あっという間に、前から席が埋まっていき、俺達が座る中央の席のやや後ろめの
席までうまって行った。
(ん……居心地がわるい)
「それでは、午後の部の最後を飾るのは~」
「この方たちです!」
「マン研の、白鳥さん、ラグナヴェールさん、カカさんが歌います”もえいろクロ
ーバーA”です」
もえいろクローバーAの曲の前奏がかかり、ミオン達”もえいろクローバーA”
(擬き)が現れる。
と同時に会場に居た男達が一斉に立ち上がる。
\\\ウォーw///
(これじゃ、見えないよ)
しかたなく、俺達も立ち上がる。
曲に合わせて歌い踊るミオン、ソフィー、シュイ達。
それに合わせてペンライトや団扇を左右に振る男達。
前列の男達に至っては、席を立ち、舞台下まで行って全員でヲタ芸を始めるし
まつ。
(ある意味すごいな)
◇◇◇◇◇
2曲の演奏が終わり、3曲目の前奏が始まると、真ん中に居たソフィーが左隣の
ミオンと位置を交代した。
(何をするつもりなのだろう?)
そう俺が思っていると、ミオンが首のチョーカーに手を当て、また、ソフィーと
シュイが左の二の腕に手を当て3人が叫んだ。
「バニー~フラッシュ!!」
「ソルシエール!」
「ピエンフア!」
ミオンを中心に3人は眩い光を放ち、”もえいろクローバーA”から、ミオンはキ
ューティーバニーの姿に、ソフィーはグレーのローブ姿に、そしてシュイはカカド
レス(チャイナドレス)姿へと変わると同時に、ソフィーが右手に持ったステック
をかざし、ステックの青いボタンを押した。
ソフィーの持つステックから、大量の水が噴き出すと同時に、呪文を唱え終えた
シュイが叫んだ。
「出でよ青龍!」
その言葉と同時に、ステックから出た水は、大きな水の龍となって、会場である
体育館の天井付近に浮ぶ。
\\\ウォーw///
会場のボルテージはいっそう盛り上がる。
天井に浮かぶ水の龍は、ミオン達3人の歌に合わせて、くねくねと空中で動いて
いた。
(器用だね)
そして、歌のサビのところで、一層水の龍が激しく動き、曲が終わると同時にシ
ュイが再び叫ぶ。
「シア!」
すると会場の天井に居た大きな龍は、一瞬にしてミスト状に飛散し、会場の客席に
降り注いだ。
「うっわぁ~」
俺が思わずそう叫ぶが、服が濡れることはなく、少しひんやりする程度だった。
(脅かすなよ)
\\\ウォーw///
この演出に、会場の男どもは大興奮し、ミオン達に、割れんばかりの拍手と、
”アンコール”を要望するかけ声が鳴り響くのだった。
◇◇◇◇◇
コンサートが終わり、俺達は部室である美術室にいた。
売り上げの入った箱を膝の上に載せ、満面の笑みでお金を数えるミオン。
売り上げは約30万円くらいになったみたいだ、経費を差し引いても、かなりの
利益である。
上機嫌のミオン。
”ガラガラガラ~”
そこへ、うちの顧問の先生が入って来た。
「高田先生!」
俺がそう顧問の先生に声を掛けると、全員で先生を見た。
「みんなお疲れだったな」
先生も笑顔で俺達に言う。
「特に、白鳥、ラグナヴェール、カカは、ご苦労だったな」
「「はい」」
2人揃って返事をするソフィーとシュイ。
「先生、30万くらいになったよ~」
自慢げに、先生に売り上げの箱を見せ言うミオン。
その言葉に、一瞬目を見開き笑顔で、
「そ~か、恐らく今回はうちがトップだなw」
と言いながらミオンの持つ売り上げが入った箱を受取ろうとする高田先生。
「へっ?」
その行為に箱を取られまいと引っ込めるミオン。
「白鳥!うちの学校の規則を忘れたか!?」
と言いながらミオンが引っ込めた箱に手を掛け言う先生。
「?規則ですか……」
「そうだ、規則だ」
と言いながらも箱をめぐり先生とミオンが引っ張り合いをする。
「んっ……だから、文化祭の売り上げはっ!」
「売り上げはっ!」
「障害者施設にだなっ!」
「……っ」
「寄付する決まりだろう白鳥っ!」
「嫌です、そんなの聞いてませんっ!」
「っ……お前がっ、嫌でも、規則だろ!」
「そんなっ、の。私は認めませんっ」
「いい加減にっ……にっ……しろ!くっ」
と力ずくでミオンが持つ箱を奪い取った先生。
「ふぅ~」
一息つくと、先生はそのまま教室を出て行った。
”ガラガラガラ~”
美術室を立ち去る先生の背中に向かってミオンが叫んだ。
「先生の~いけずぅ~!!!!」
松田優斗君のモデルは、豆ごはんと同じ保育園の男の子。
中学3年生の文化祭で当時はやった『魅せられて』って曲を女装して歌っていたのですが、
現場に居なかったので理由は豆ごはんにもわからないんですが、調子に乗って……。
素っ裸になり……。
後で彼は先生達にこっぴどく叱られたのは言うまでもありません。
でもね、彼。
その後、灘校に受かり、東大医学部へ進学したんですよ。
常人の豆ごはんには天才がすることはいまいち理解できないです。




