169話 修学旅行(奈良編)
今は、京都に向かう新幹線の中。
俺達は、修学旅行で関西を訪れることになっている。
前回、ローゼを電車通学させる練習で、ローゼが駅のホームに入ってくる電車
に向かい、トマホークを抜こうとした事件の事を思い出し、少し心配になって、
ローゼのクラスの車両へ来てみたが……。
時折来る車内販売のおねえさんや、車掌さんに、この新幹線の事をしつこく根掘
り葉掘り、聞くぐらいで落ち着いているようだ。
(ふぅ~よかった)
ローゼの質問に、困り気味の車内販売のおねえさんを他所に俺とシノブが、”ヤ
レヤレ”って感じのアイコンタクトを取り、自分の車両へと戻った。
自分のクラスの車両へと戻り席に着く……。
3人掛けの真ん中の自分の席に着くと、右隣りの通路側席のシュイが俺に、ミカ
ンを向いて手渡した。
「はい~セイア様♪」
「あ、ありがとう……シュイ」
そう言って、俺が剥いたみかんを一口食べると……何故かシュイが俺の方を向い
て口を開け、
「あ~ん」
(?……ん?あっシュイも食べたいのか)
そう思い、持っていたミカンの一房を取りシュイの口の中に放り込む。
”むにゃむにゃ”
「お~いしい――♪」
と、ここで左隣のソフィーが
「セイア様~♪」
(ん?)
ソフィーの方に振り返ると、ソフィーがパッキー(細い棒状のクッキーにチョコ
が掛かってる奴)を口に加えこちらに向ける。
(ああ、)
ソフィーが加えたパッキーの先を俺が加え、お互い端から食べて行こうとすると
……。
「させるか――!」
”バキ”
とシュイが叫ぶと同時に、パッキーの真ん中に噛り付き、パッキーを3等分にして
しまった。
「んっも――!」
と拗ねるソフィー……に、勝ち誇ったようなシュイ……。
しかし、お互いを見て
「「「プーッ!アハハハハ」」」
って3人でお互いの顔を見合わせ笑ったら、……何か視線のようなものを感じ、あ
たりを3人で見回すと、俺のクラスの他の生徒全員から、氷のように冷たい視線が
突き刺さった。
(わるいわるい自重します……はい)
◇◇◇◇◇
京都駅で、新幹線を降りてクラスごとにバスに乗る……京都ではなく奈良へ行く
ためだ。
(京都観光は明日する予定)
奈良に到着しバスを降り、昼食を取る。
そして、クラス単位で奈良見学が始まった。
まず初めは、興福寺へと向かう。
≪興福寺≫
高さ約50mもある五重を見て、木造でこの高さに驚くソフィーとシュイに、俺
は、
「すごいでしょう~」
って適当に言った。
また、国宝館と言う所には、三面六臂の阿修羅像があったんだけど、それを見た
ソフィーとシュイが2人同時にこういうんだよ~。
「「魔物ですか!」」
って……。
「いやいや、仏です」
って言ったんだけどどうやら”仏”が分からないようだ。
次に徒歩で20分歩き奈良公園へ向かった。
≪奈良公園≫
芝生が広がる公園で鹿とたわむれられる所で、早速俺は鹿せんべいを購入して、
ソフィーとシュイに手渡し、2人が鹿に餌をやってるところの眺めていた。
(ああ、俺っ……俺はいいわ……だって、小さい時から、大阪の りゅじいちゃん
にここ良く連れて来てもらってたから)
鹿とたわむれる美女2人を長らく眺め、そこからまた20分歩いて今度は春日大社へと向かう。
(ってこの公園も本当は春日大社の境内なんだけどねぇ)
≪春日大社≫
1300年前に創建された、朱色の本殿や参道にある約3,000基の燈籠は平
安時代から今までに掛けて寄進されたものだって……。
(ここも何回も来たことあるけどそれは知らなかったな~)
ソフィーとシュイは、大社や神社は自分達の世界で言う神殿って言うことで、理
解しているみたいだが、お寺がいまいちわからないみたい。
って感じで、わからないまま、次に移動すること15分。
≪若草山≫
奈良を一望できる緑の丘、標高342m。
1月のいつだったか忘れたけど、山焼きが有名かな?
俺が小さい時、ここにも来て、”山焼き”を見た記憶がある。
あと鹿の角切ってのもあるんだよなぁ~.
ここだったかどうかは知らないけど。
ソフィーとシュイ2人と並んで若草山の頂上から奈良の街を見ながらそんなこと
を思い出していた。
そして次の場所に移動する。
(歩くこと20分。)
≪東大寺≫
ここは、高さ15mの大仏像が鎮座する大仏殿がある。
小さい時、これを見て”只々”怖かったのを覚えている。
ソフィーとシュイも只々驚いていたが……不意にソフィーが俺に聞いてきた。
「あの~セイア様……」
「ん?ソフィー何だい?」
「セイア様の世界では神社(神を祭る所)と寺院(仏を祭る所)があるようです
が……”仏”とは何でしょうか?」
と聞いてきた。
(ん―――そうだな難しい質問だね)
「わたくしも疑問に思ってましたセイア様」
とシュイまで俺に聞いてきた。
(……困ったな)
「ん――正解かどうかわからないけど、俺の見解で言うと、仏とは神に准じるも
の……かな?」
って苦し紛れに言うと、少し考えたソフィーが、
「と言いますと……セイア様の世界は沢山の神々に祝福された素晴らしい世界なん
ですねぇ♪」
と笑顔で言う。
(いや……確かに沢山の神やそれに准じるものがあるけど……祝福されてるのか
どうかは……どうなんだろうね)
苦笑するしかない俺であった。
後で、ミオンやゲキに聞いたんだけど、ソフィーやシュイと同じような質問を
異世界組から受けたらしい。
その後、奈良国立博物館などを見学し、バスに乗って今夜のお宿の京都へと向か
った。
◇◇◇◇◇
------第三者視点---
某郊外、コンテナを2段重ねにしたものがいくつも並ぶ。
ここは、コンテナを改造した、月極めで借りる貸倉庫である。
そこに1人のアラブ系の男が入って行った。
男は、その一角にあるコンテナに向かい、周りを注意深く警戒しながら、コンテ
ナの入り口のシャッターを開けた。
”ガラガラガラ~”
そこは、おおよそ8畳くらいのコンテナ倉庫の中の中央にテーブルがあり、2人
の別のアラブ系の男達が座っていた。
1人はノート型パソコンを操作し、もう1人は拳銃を手に持ち、手入れをしてい
る所だった。
入口のシャッターが開く音に、テーブルに座っていた2人男が顔を上げると、拳
銃を手入れしてる男の方が、入って来た男に声を掛けた。
「どうだった同志!」
その声にパソコンを打っていた男も手を止め、入って来た男の返事を待った。
「ああ、何とか奴らの日程表を手に入れた!」
そう言いながら、入って来た男は、拳銃を手入れしていた男に紙切れを渡す。
「これなんだが……」
「どれ……」
紙切れを受け取った男は、その紙切れを広げ、入って来た男とパソコンを打ってい
た男共々3人でそれを見つめた。
紙には、”修学旅行しおり”と書かれており、旅行の日程が日本語で書かれた文
字の横に、走り書きでアラビア語の文字が書かれていた。
どうやら、日本語の文字の訳をボールペンのようなもので書いているようだ。
「なるほど……明日はKYOTOか」
「ここで、少人数のグループ行動をするらしいな~」
とパソコンを打っていた男が横から言う。
「好都合だろう~!そこで……」
と入って来た男が言いかけたのを、拳銃を手入れしていた男が遮る。
「いや待て、あそこは我々の風貌では目立ちすぎる」
「しかし!」
入って来た男が食い下がるが、その時パソコンを打っていた男が口を挿む。
「あそこは目立つ!奴には護衛が何人かついているはずだ。それを何とかしない
と……」
しばらく、3人は沈黙する……が、徐に拳銃を手入れしていた男が、”修学旅
行しおり”の日程のある部分に目を止め言った。
「これはいけるんじゃないか!」
その男がそう言いながら指差した所を他の2人が見て、目を瞠り言う。
「「うん、ここなら!」」
3人の男達はお互いの顔を見合わせ頷いた。
「早速先回りをして、手配する」
そう2人の男に言い残し、後からここに入って来た男が倉庫を飛び出して行った。
出て行った男を見送った2人の男達は、お互いほくそ笑みながら、そのうちの拳
銃を磨いていた男がぽつりと呟いた。
「俺達に逆らったらどうなるか、奴に見せつけてやる」
どうやら、セイア達の身に危険が迫っているようである。
豆ごはんが幼き頃、よく母親に、奈良に連れて行ってもらってました。
鹿に”鹿煎餅”をあげるのが、楽しみだったのですが、ある日あまりに鹿が
鹿煎餅を美味しそうに食べるので、自分も一枚食べてたら……母親に
「鹿煎餅食べたら鹿になるよ!」と脅され固まった覚えがあります。
別に食べても”鹿”にはなりませんでしたが(笑)、味がなく美味しいもので
はありませんでした。




