153話 全滅!ワイバーン隊
------カカ帝国の首都トンキン カカ広場上空---第三者視点
カカ広場の四隅にある、物見の塔の南東側の塔で、『ナイトビジョン』の魔法で
夜間の視力を強化した見張りの兵が何かを見つけた。
「何だ!あの巨大な鳥は!」
驚き言う見張りの兵士の声を聞き、彼の後ろで同じく見張りをしていたもう一人の
兵士が声を上げる兵士の方に振り返り言った。
「どうした!?」
そう言われた兵士が指をさし言う。
「でっかい鳥が……」
「うん?……」
そう指差す兵士の肩越しから、もう一人が目を凝らしてみると……。
「あれは……ロック鳥じゃないか!?……しかも背中に鎧を着た人が立っているぞ
!」
と、後からのぞき込んだ兵士の言葉に先に見つけた兵士が聞く。
「魔王軍かな?」
その言葉に
「……いや、幾ら魔王軍が強力とはいえ単独で我カカ帝国に攻め入りはしないだろ
うよ」
そう答える兵士が、もう一人の兵士に続けて言った。
「兎に角、ワン・パイ隊長に知らせよう!」
と言いながら兵士の肩を叩き、肩を叩かれた方の兵士共々2人は塔を駆け降りるの
であった。
◇◇◇◇◇
------カカ広場上空ロック鳥の背中の上---第三者視点☆
「ふん!やっとお出迎えのようだ」
全長20m、翼長(翼を広げた状態)40mの大きな怪鳥……この世界ではロック
鳥と呼ばれるそれの背に乗った1人の男、魔王軍のインヴィクタ大将軍が呟いた。
全長20m、翼長40mの巨大な鳥の周りには6体のワイバーンが囲むように飛
んでいる。
この6体のワイバーンの背には、ワイバーンの首に繋いだ手綱を持った6人の兵
士が乗っていた。
ワイバーン隊、ここカカ帝国唯一の航空戦力……っと言うよりこの世界で唯一の
航空戦力の6体のワイバーンは、ここカカ帝国の魔獣使いの中でもワイバーンを専
門にしている魔獣使い達が、卵からワイバーンを温め育て、調教したものである。
そのリーダーは、ワン・パイ隊長。
年齢30歳で甘いマスクに180cmの長身で、細身だが引き締まった身体……。
所謂、細マッチョと呼ばれる体系。
その風貌から、カカ帝国の女性に人気の人物である。
そのワン・パイ隊長が、ロック鳥の背に乗る魔王軍のインヴィクタ大将軍に近寄
り言う。
「ここは、我カカ帝国の領空である!貴公の所属と目的を述べられよ!」
だが、この呼びかけに無言を貫くインヴィクタ大将軍。
「もう一度聞く、貴公の所属と目的を述べられよ!」
「……」
再度、ワン・パイ隊長の問いかけに無言のインヴィクタ大将軍を見て、ワン・パイ
隊長は宣言した。
「貴公の行為を領空侵犯と見なし、これより攻撃をする!」
そう言いながら右手を上げると、ワン・パイ隊長のワイバーン以外のワイバーン
達はすぐに旋回し、攻撃体勢に入った。
それを見て、ワン・パイ隊長騎乗のワイバーンも旋回し、同じく攻撃体勢を取
る。
「ブレス!」
ワン・パイ隊長の号令の元、隊長含め6体のワイバーン達が、インヴィクタ大将軍
が乗るロック鳥目掛けブレスを吐いて攻撃を仕掛けた。
「ふん!笑わせるな」
そうインヴィクタ大将軍が言うと、兜の角からシールドを発生させ、乗っているロ
ック鳥ごとシールドで包み込みワイバーンのブレスの攻撃を全て弾いた。
「何だと!」
「「「「「!!!」」」」」
驚くワン・パイ隊長とワイバーン隊の兵士達。
そんなワイバーン隊を嘲るようにインヴィクタ大将軍が言う。
「お前たちの相手はこいつらだ!」
そう言いながら右手に持った槍を空高くつき上げると、見る見るワイバーン隊を囲
むようにいくつもの光の塊が現れた。
「「「「「「こ・これは!」」」」」」
◇◇◇◇◇
ラフレシアを倒し、一息ついて、後片付けを会場のメイドさん達がしている中、
会場の外に居た1人の兵士が駆け込んで来て、カカ帝国陸・空軍将軍リ・ジアン
ジュン将軍に何やら耳打ちをする。
身長184cm、体重154kgで、体系はあんこ型の俺達の世界で言うモンゴ
ル系の顔立ちのリ・ジアンジュン将軍。
兵士の耳打ちを聞いて一瞬、目を見開いたリ将軍は、慌てて皇帝の前まで駆け寄
り跪き言った。
「申し上げます!」
その言葉に少しめんどくさそうに皇帝が
「何じゃ!」
と答えると跪いたリ将軍が言った。
「はっ、我、帝国上空に侵入者が……」
「すぐに、ワイバーン隊をだせ」
と皇帝がすぐに言い返すが、その皇帝の言葉に首を横に振り
「……すでに全滅しました」
と申し訳なさそうに呟いた。
「何じゃと!」
◇◇◇◇◇
リ将軍の話だと、カカ帝国領空に突如として現れた全長20m、翼長(翼を広げ
た状態)40mの怪鳥……ロック鳥を迎撃するため、ここカカ帝国が誇るこの世界
でも唯一の航空隊であるワイバーン部隊を差し向けたが、突如として現れたチンと
言う鷲ぐらいの大きさの鳥の魔物達に囲まれてしまい、その体から出る毒にやられ
て全滅したらしい。
因みにこのチンと言う鳥の魔物は、俺達の世界で言う中国の伝説上の鳥に似てい
るらしく、大きさは全長100センチメートル、翼長250センチメートルと少し
鷲より大きくて、緑色の羽毛、そして銅に似た色のクチバシを持ち、毒蛇を常食と
しているためその体内に猛毒を持っており、耕地の上を飛べば作物は全て枯死して
しまうとされるらしい。
「陛下、ここは危のうございますご避難くださいませ」
と言うリ将軍の言葉に怒った皇帝が怒鳴った。
「ばかもん!敵を前に皇帝が逃げ出したとあっては末代までの恥じゃ!」
皇帝の怒鳴り声に体を硬直させるリ将軍。
「それより、トンキンの市民を広場地下に避難させ~い!」
「はっ」
皇帝に怒鳴りつけられて、リ将軍は一目散に会場を後に出て行った。
それを見送った皇帝は、自分の家族と俺達に避難するよう言うが……。
その言葉に俺は首を横に振り言った。
「陛下、僕は毒に耐性がありますので、僕が出ます」
と俺が皇帝に言うと、皇帝は少し考えて言った。
「いやいや、ワイバーン隊が全滅したとは言え我カカ帝国には100万の兵がおる
!」
と言い放ち
「ワハハハ!」
と乾いた笑い声で笑うが……。
「100羽もの鴆の毒をどうやって防ぐつもりです皇帝閣下?」
とミオンが皇帝に何気なく言うと、
「あっ……いや…」
と言葉を濁す皇帝に、ミオンが止めを刺した。
「幾ら100万の兵が居ても毒を防げないんじゃ全滅……しちゃうじゃない!」
その言葉に絶句する皇帝。
そんな皇帝に
「俺が出ますよ」
と優しく言うと、皇帝は少し困ったような顔をして小声で言った。
「すまんが、頼む」
皇帝の言葉に俺がニッコリ笑って頷き、俺達はカカ広場へと駆け出すのであった。
◇◇◇◇◇
カカ広場の角に留めてあるH-16アルバトロスの前で、シノブがアルバトロス
を発進しようとするのを
「シノブ待て!」
と言って俺が止めた。
「Why!?」
と両手を広げ聞くシノブに俺は言った。
「アルバトロスには、7.62mm×51口径機銃しか積んでないだろう」
俺の言葉にシノブは言い返す。
「デカ物(ロック鳥)は兎も角、あの小さいほう(鴆)なら大丈夫だよMrオオワ
シ!」
そんなシノブに俺は、
「確かに……しかし、戦闘機でないアルバトロスの旋回能力で、小さいとは言えあ
の数だ(100羽)とてもすべてを相手できないだろ……ましてや、ワイバーンを
倒したあの猛毒をどうやって防ぐ?」
と問いただすと
「防毒マスクを付ければ、No problem!」
と胸を張るシノブにミオンが呆れて口を挿む。
「あんた、問題ないって……戦闘でシノブが大丈夫でも鴆の毒を浴びた飛行艇はど
うなるの?毒が付いたままではもう私達これで移動できなくなるのよ」
「落とせばいいじゃないか~」
と言うシノブにニールさんが言う。
「落とせないことはないですが、落とすのに1か月はかかりますよ」
その言葉を聞いて、絶句するシノブ。
「セイアが向かうとしてもあの数ではかなりきついと思う……ほかに空を飛べて毒
に耐性があると言うと……」
と考えこむミオンに、俺はソフィーを見つめ言う。
「1人いるよ♪」
「え!?誰だれ……ってもしかしてあの役立たずのこと?セイア」
と驚き俺に言うミオンにニッコリ笑って俺は頷いた。
「ソフィーコンパクトを出して」
俺がそうソフィーに言うと恐る恐るソフィーはポケットから俺の目の前にコンパク
トを差し出した。
俺は、ソフィーが差し出したコンパクトに向かって念話を試みる。
因みに、ソフィーの魔力を共有する俺と、ソフィーと、電龍は念話で話ことが出
来る。
≪電龍、聞こえるかい?俺だセイアだ!≫
≪……≫
≪今、俺やソフィーがピンチなんだ≫
≪……≫
≪お前の力が必要なんだ≫
≪……≫
≪俺と一緒に闘ってくれ≫
≪……≫
≪相手はロック鳥に沢山の鴆が相手なんだよ≫
と俺が言うと急にソフィーの掌でコンパクトが小刻みに振動する。
それを見た俺がソフィーに頷くと
「いでよ!電龍!」
とソフィーが叫ぶと同時にコンパクトから光が飛び出し、体長25mの電龍が現れ
た。
「セイアっち本当かい?僕……鴆大好物だよ~♪」
と満面の笑みで振り返り俺に言う電龍であった。
久しぶりの電龍の登場です。




