148話 女性陣の目的
シノブから経費を受け取り、困惑するニールさんに俺は黙って頷いた。
それを見たニールさんはそのまま経費を受け取りシノブの後に付いて行っ
た。
シノブ達第2TEAMを見送った俺達第1TEAMだったが、
「はい」
ミオンが、すかさず俺に手をだし言った。
(ああ、経費ね)
俺はそう思い、シノブと同じように紫勾玉1個(1万ジェイド)をミオンに渡すと。
「え~もうちょっと色付けなさいよ~第2TEAMより資金は沢山あるでしょ~」
と俺に更に手を突き付け言った。
「資金はあっても、これは明日アイーシャさんのお父さんにお願いするフィギュア
製作の資金だからだめだよミオン」
と俺が拒否するも、更にミオンは俺に言う。
「って言いても、フィギュア製作費以外にさっき30万ジェイド下ろしてなかった
っけぇ~」
と俺の顔を下から見上げる様に言うミオンが、更に続ける。
「10万は時田さんに渡したけど、残り20万持ってんじゃんセイア」
(こいつ……よく見てたもんだ)
「じゃぁ、もう1万ジェイドでいいだろう」
と俺が仕方なく、ミオンの手にもう1つ紫勾玉を載せた。
「あんがと」
そう笑顔でお礼を言うミオン。
(アイーシャさんには失礼だが、ここは他の国の都市と比べるとかなり田舎な感じ
の所、他の都市でお買い物するならいざ知らず、ここでは服にしてもアクセサリー
にしても女の子が喜びそうなものはあまりないような気がするんだが……)
そうは思うが、ミオンだけに2万ジェイド渡すのは不公平なので、他のメンバー
にも2つづつ紫勾玉を配った。
俺が渡した2万ジェイドを遠慮してなかなか受けとろうとしない、クレアさんに
エドナさん。
そして、俺が渡した2つ紫勾玉を困惑気味で見つめるゲキとソフィー。
そんな中、ミオンはクレアさん、エドナさん、ソフィーに自分の元へ呼び、なにやら女性陣だけでヒソヒソ話をし出した。
「なるほど、それはいいですねぇ~これ奇麗ですし」
ミオンの話を聞いてエドナさんが、大きな声で言った。
(なっ、何なんだろう?)
その声を聞いて、俺とゲキが首を傾げるのであった。
◇◇◇◇◇
女性陣は、ミオンを先頭に嬉しそうに小走りである店に入る。
ここ、ゴーラトの街は港町のガーヴァニと違い、デンスアーラ共和国の全種族…
…と言ってもまだ日がある為、夜行性の梟族は見当たらないが
……。
中には普通人族の人やエルフ族やドワーフ族も居た。
街行く人に見とれていて、少しミオン達から遅れたが、俺とゲキもミオン達が入
った店に入る。
俺達が入った店は、何の変哲もない所謂、雑貨屋さんだった。
(いったい、何を買うんだろう)
俺がそう思い女性陣を見ていると、女性陣はその雑貨屋さんに置いてあった、
色とりどりの紐を見つけ、それぞれどれが似合うか話し合っているようだった。
「この紐はミオンさんにお似合いかと」
「あらそうぉ?」
ソフィーが手に取ったピンクの紐を見てミオンがそう言いながら手に取った。
「じゃ、ソフィーはやっぱこの色じゃない?」
とミオンが水色の紐をソフィーに手渡す。
「似合いますかねぇ」
その紐を手に取りミオンを初めクレアさんやエドナさんに聞いた。
「姫様お似合いです」
「いい感じじゃないですかぁ~姫様」
クレアさんとエドナさんの言葉に笑顔で
「じゃぁ~わたくしはこれにします」
ソフィーは決まったようだ。
それから、ミオン、クレアさん、エドナさんはしばらくこれでもないあれでもな
いと色々迷った挙句、ミオンは初めにソフィーが選んだピンクの紐にし、クレアさ
んは赤い紐、そしてエドナさんはライトグリーンの紐にしたようだ。
(いったい何をするつもりなんだ?)
俺とゲキは、女性陣がキャッキャしながら紐を選んでいるのをしばらく呆然とし
て見ていると、女性陣3人はそれぞれ、1本100ジェイド紐に1万ジェイドを支
払う。
(おいおい、お釣りの方が多いだろうよ)
案の定、お店の人も困り気味だったが……ようやく買い物が終わり店を出た。
店を出るなりミオンが俺とゲキに言う。
「さて、これから本番……今からお茶に行くよセイア、ゲキ!」
「あ!?」
「……」
俺とゲキがあっけにとられるものの、ミオンの言葉に喫茶店を探した。
「……ここ喫茶店じゃないか」
ゲキの言葉にミオンが振り返り
「えっドレドレ」
ゲキが指差す店を見て、
「あっ、そうね、ここそれっぽい」
ミオンはそう言うと、ソフィーやクレアさん、エドナさんを手招きして、店に入っ
て行った。
店の前で俺とゲキがどうしたものかと考えていると、ミオンが店から出て来て俺
達に言う。
「なにしてるの?2人早くお店に入ってよ、2人には、私達のお茶代おごってもら
うんだから」
(?おごってもらうんだからって……お金渡したよねミオン)
どうも合点がいかなかったが、ミオンに五月蠅く催促されて、仕方なく俺とゲキも
店に入った。
◇◇◇◇◇
8月の半ばで本当は暑いはずだが、ここは標高2000mのテーブルマウンテ
ン。
暑いと言うより、涼しいって言うか、丁度いい感じなので飲み物は皆ホットミル
クティー。
それに、夕食前だと言うのに甘いものは別腹ってことで、女性陣はスイーツを頼
んだんだけど、何故かそれにゲキも加わった。
(オイオイ、俺だけかよ頼んでないのは……。)
皆がお茶請け?に頼んだのは、クリーチと言う背の高い円筒形をしたケーキ。
中にはドライフルーツやナッツが入っているようだ。
「美味し~い」
「美味しいですね」
「アイーシャが言っていただけのことはありますねぇ」
「生地はケーキと言うよりパンっぽいですですねぇ~」
「……」
ミオン、ソフィー、クレアさん、エドナさんが口々に感想を言う中、1人黙々とク
リーチを食べるゲキ。
(ゲキ……お前、何か感想はないのかよ)
なんて俺が心に思っていると、女性陣が徐に先ほど買った紐を取り出すと同時に、
紐を買った時のお釣りと共に残りの1万ジェイド(紫勾玉)を出してきてそれを
各々紐に通して……。ブレスレットにした。
(!!なるほど)
「奇麗でしょ~」
と腕にはめた勾玉で作ったブレスレットを俺に見せるミオン。
「ああ、き・奇麗……と思います」
「奇麗だな、クレアさん、エドナさん」
俺がしどろもどろにミオンにそう答える中、ゲキはしっかりクレアさんとエドナさ
んが腕につけた勾玉ブレスレットを見て即答する。
(こういう時、即答するんだゲキ……)
この後、俺がお茶代を支払ったお釣りとゲキが持っているお金もちゃっかり回収
して、自分の勾玉ブレスレットだけに勾玉を加えるミオンであった。
◇◇◇◇◇
夕食時、シノブの第2TEAMと時田さんとも合流して、時田さんが予約してく
れたお店に向かった。
冒険者ギルド支部にほど近い『パルナス』って言うお店。
見た目はほかの建物と同じロッジ風の建物で、店に入ってもやはり、ありふれた
ロッジには変わりなかった。
第1TEAMと第2TEAMで別れて席に着く。
各テーブルには、コース料理のように順番に持ってくるのではなく、いっぺんに
料理が運び込まれた。
薄い円い鉄板には、羊の肉……これてジンギスカン?
と言っても、鉄板は丸く膨らんではいないけどね。
その横には……一見、日本の肉うどんのようなもの。
『ゴリルタイシュル』
小麦粉で作った麺を使った羊肉入りうどん。
うどん状のものに肉や野菜を入れて作る汁物で、味付けは塩のみ。
(あっさりって感じで食べやすい)
『プィリジキ』
小麦粉を練った生地に色々な具材を包み、油で揚げてるらしい……。
これって、ピロシキじゃないのかな?
(俺は結構、ピロシキが好き)
豪華って感じではないが、量は半端なく多く、うちの大食漢約2名も満足なよう
だ。
最後に、お茶葉を羊のミルクで煮立たせ、塩を入れて飲むお茶ってか、俺の感覚
では薄いスープって感じの飲み物に、日本の落雁に似たお菓子が出て来た。
これはチーズ菓子らしい……名前は『トゥット』。
一口食べてみると、日本の落雁と違い甘くない。
軽いねばりのある柔らかな食感で、口の中にバターの効いたほろ甘いチーズの
味が広がり、軽く爽やかな酸味が残る。
(悪くはない……素朴な味って感じ)
◇◇◇◇◇
お腹がいっぱいになったので、少し眠くなってきた。
疲れたって訳でもないが、まぁ、明日は朝早くに出発して、アイーシャさんの
実家へと向かい例のソフィー人形作成の依頼をせねばならない。
(俺って交渉事苦手なんだよな……)
そう思いながらも、ギルド支部の自分達の部屋に戻り、早めに寝ることにした。
もちろん、厚いおやすみの”キス”ってか、俺のエネルギー補給をソフィーから
受けてからの事だけどね。
前回、触れるのを忘れていましたが、劇中アイーシャさんの実家付近の森の
名前が”緑が森”でしたが……。
昔、見たアニメ”ロッキーチャック”に出て来る森の名前です。
知ってる人少ないと思いますが(笑)




