144話 「なんて、非常識な奴!」
「そんなことは、見ればわかるわよ!」
少し怒った感じでローゼは言いながら、1人で階段を降りようとしたので、慌てて俺とシノブが止めて、2人で先に先行した。
薄暗い階段を俺とシノブが降りていたら、下から眩い光が見えた。
そこは、洞窟……って言うか、ちょっとした鍾乳洞の中のようだった。
洞窟中央には、見たこともない巨大な魔水晶が輝いていた。
「 Wow!、きれいだな~」
「でっ・でかいなこの魔水晶」
俺とシノブが驚きの声を思わず上げてしまうくらい、大きく輝く魔水晶。
恐らく、推定だが、太さ60cmで高さ10m位。
(古代神殿の柱って感じかな……)
光り輝く魔水晶の柱を前に、シノブは暗視ゴーグルを外し、俺も当然視界を暗
視モードから、通常モードに切り替えた。
「すごいですにゃ~」
「き・奇麗ですねぇ~」
「なにこれ、ありえない」
俺とシノブの後に続いて、降りて来たアーシャさん、ソフィー、ローゼの3人も大きな魔水晶の柱を見て声をあげた。
その時だった。
俺の頭に、
”ピッ”
≪Enemy≫
≪名称 バール ≫
≪戦闘力 50,000≫
≪防御力 40,000≫
≪スピード 2,000≫
≪MP 30,000≫
≪特技 突進、超振動ホーン≫
×1
が浮かんだ。
見ると、水晶の傍らに俺達を睨み、鼻息を荒く、前足で地面を蹴っている……大
きなバッファロー?
ってか、体長15mの牡牛?……が居た。
それを見るなり、ローゼが動いた。
ローゼは、腰の左右に刺したトマホークを抜くと、それを両手に持ち、体をのけぞ
るようにして、全身を使って投げた。
「ダブルトマホーク~ブーメラン!」
ローゼが力いっぱい投げたトマホークは、クルクル回転しながら、 バール(牡牛
)目掛けて飛ぶが……。
その時、牡牛の角が小刻みに振動し、”ミヨ~ン”って感じで音がしたかと思うと
、ローゼの投げたトマホークは何かに弾かれた感じでローゼの手元に戻って来た。
”カキーン”
「今のは……な・なんなの!」
驚くローゼにシノブが言った。
「Ultra-vibration wave……超振動波ではないだろうか」
「ウルト……何だって?」
シノブの言葉にローゼが聞き返す。
「ウルトラバイブレーションウエイブ……だよMissゾメル」
とさらっと言い返すシノブにローゼが少しイラだったように言う。
「だから!それは何?」
「たぶん、強力な振動波を発生させて対象を粉々に粉砕したり、空気を振動させて
、一種の障壁のようなものを生み出したりするやつだったかな?」
とシノブの代わりに俺が答えた。
「なっんなのその非常識なものは……あんたたちの世界にはある物なの?」
って聞いてくるので、
「ある!……って言っても、俺達の世界でも空想科学の域は越えないけどね」
と俺がローゼに向かって言うと、
「何なの?その空想何とかって……たまにあんた達訳わからないこと言うね!本当に!」
とローゼが俺に食って掛かった時だった。
「そんなことよりセイア様!」
と揉めてる俺とローゼに言うと同時に、持っていた魔法スティックを バール(牡牛
)にかざして言った。
見ると、バール(牡牛)は鼻から煙ってか、あれは鼻息か……出し、右前脚で地
面を蹴りながら、今にも俺達を襲おうと臨戦態勢を取っていた。
(あ、ヤバイ!)
ソフィーがすかさず、かざしたスティックから電撃を放つ。
”ビリビリビリ”
しかし、電撃を受け一瞬動きが止まったように見えたバール(牡牛)だったが、
2~3度首を振ったものの、再び臨戦態勢を取る。
そんなバール(牡牛)を見て、ローゼがすかさず俺達の前に立ち、迫り来ようと
するバール(牡牛)の方に向かい両手を床につけ、短い詠唱の後叫んだ。
「グランドスパイク!」
掛け声と共に、ローゼが触れていた床の部分が一瞬光ったかと思うと、その光は見
る見るバール(牡牛)の方に走り、光に覆われた床部分から細長い棘のようなもの
がムクムクと無数に生えだし、バール(牡牛)を床側から刺し、体を貫……かなか
った?
「えっ!」
ローゼの棘は、バール(牡牛)の腹を貫けず、折れてしまった。
が、バール(牡牛)の周りは棘で囲まれていたので、奴は身動きできなくなっていた。
「今よ!」
ローゼの叫びに頷いたシノブが、背中に背負ったマジックボックスを降ろして、中からバレットM82A1を取り出し、プローン(伏射)で、バール(牡牛)の額目掛けて発砲した。
”ズキューン”
しかし、その時バール(牡牛)は頭を地面の方に下げ、角から超振動波を出し、
シノブの放った12.7x99mm NATO弾を砕くとともに、自分の動きを
阻む地面から生える棘を木っ端みじんに砕いてしまった。
「Son of a bitch!」
「な……何なのこいつ!」
驚き声をあげるシノブとローゼ。
(ここは俺の出番だね)
俺は心でそう思い、両腕をフレイムアームに変え、手首を合わせて手を開いて、
体の前方に構える。
両掌の中で炎を出し球形にして、温度を上げてから、腰付近に両手を持っていき
ながら両手を完全に後ろにもっていて、バール(牡牛)に向けて放った。
「プラズマボール!」
俺の掌から放たれたプラズマの玉は、奴の超振動波をものともせず、奴に向かって
進み、奴の額にぶち当たり……体を貫いた。
「グッ……モー!」
雄叫びとも悲鳴ともとれる声を上げ、その場に崩れ去った。
”ドスン”
その様子を見て、驚きのあまり口をアングリ開けて言うローゼ。
「あ……あんた何者!」
そんなローゼに俺は振り返り、言った。
「ただの、夢のお告げの勇者さ」
◇◇◇◇◇
俺に倒されたバール(牡牛)が虹色の泡となって消える。
その時、俺が似合わないセリフを吐いたからなのか、
”ピッキン”
と音がして、古代神殿の柱のような魔水晶の先端が欠け落ちて来た。
それを俺は右の掌でそっと受けると、俺の掌の中で魔水晶先端の欠片が手鏡に変
わる。
「なんだこれ?」
と俺が言うと同時に、俺の頭の中に浮かぶ。
≪バール専用召喚手鏡≫
(あら、電龍と同じパターンね)
しかし、電龍と違いこの手鏡から魔力を吸い取られることはなかった。
≪バール専用召喚鏡≫
この手鏡を持っている者がバール(牡牛)召喚、召還できる。
但し、召喚時間は10分、時間が経つと自動で手鏡に召還され、再召喚には約5
時間かかる。
(なるほどねぇ、時間制限付きって訳だ)
時間制限があるものの、魔力は持ち主から供給されるのではなく、5時間たてば
自動で魔力が充電されるようだ。
「ローゼ、これあげる」
俺は手に持って居た≪バール専用召喚手鏡≫をローゼに渡した。
「えっ、何で私にくれるの?……ひょっとして、代わりにこの体をよこせとか言う
んじゃないでしょうね」
と両手を胸に当て体をくねくねしながら俺に言うローゼ。
そんな、ローゼに、ソフィーが怒ったようにきっぱり言う。
「セイア様はそんな下劣な方ではありません!」
「本当?……セイア……しゃん」
と俺に言ってくるので、俺はローゼに言う。
「見返りが欲しくて、あげるんじゃないよ……それともいらないなら……」
と俺が言いかけると、ローゼは俺から受け取った手鏡を慌てて両手で庇い、胸に当てて首を思い切り横に振りながら、
「ブルブルブル~とんでもないい、いただくわよ」
と俺に言った。
◇◇◇◇◇
アイーシャさんが背負うマジックボックス小から魔物除けのテント1張りと、簡易転移装置の片方を出すと、魔除けのテントを道の端に張り、その中に転移装置をセットした。
そして、俺以外のメンバーが、順次魔除けのテント内の転送装置で、このダンジョンの下で待つユニコーンの元へ順次転送する。
1回につき2人ずつ転移して行くのだが、先にアイーシャさんとソフィーが転送され、残ったローゼとシノブがテントに入ろうとした時、不安げにローゼが俺に聞く。
「セイアしゃんは、どうするの?」
まだ、俺のことをセイアさんと呼んだらいいのか、セイアと呼んだら、いいのか迷うローゼ。
「あっ?俺は大丈夫、別の方法で行くから……先に言って待っててくれ」
「えっ、別の方法って?」
と尋ねるローゼに、
「それは、後のお楽しみだよMissゾメル」
とシノブが笑顔で答え、ローゼの肩を抱き寄せ転移装置のあるテントへと入って行った。
テントの中が一瞬明るい光に包まれ、その光が消えたのを確認した俺は、あらかじめアイーシャさんの背負うマジックボックス小から取り出していた、大きな登山用のリックにテントをたたみ、転移装置と共にしまうと背中に背負ってから、
徐に……。
「プラズマボール!」
このダンジョン最下層の壁に向かい放った。
”ドッカ~ン!!”
爆音と共に壁が吹っ飛び、大きな穴が開くと、すぐさま飛び出した。
ちょうどダンジョンがある柱のような崖の上から、3分の1くらいの部分だった。
俺が開けたダンジョン最下層の壁の穴は、ダンジョン自体の魔力のお陰か、次第に元に戻って行き、穴がふさがって行く。
それを見ながら、落下していた俺は、体制を変えて落下する地面に向かい、両掌の穴から勢いよく炎を出した。
”ゴー”
地面に向けて両掌の穴から出る炎の勢いで、落下速度はどんどん落ちて行き、俺は空中に制止する。
空中に制止した俺は、両掌から出る炎の勢いを調整し、ゆっくりと地面に所謂、ソフトランニングって感じで着地した。
「Mr.オオワシ!」
「セイア様!」
「セイアにゃん!」
「……」
既に簡易転移装置で、ダンジョン下で俺を待っていたシノブにソフィーそしてアイーシャさんが、着地した俺に駆け寄る……。
ただ、約1名は俺の脱出方法を見て、口あんぐりで固まっていた。
そんなローゼに俺は明るく言った。
「お待たせ~ローゼ」
その言葉に目をパチクリさせながら、声を振り絞ってローゼが一言。
「なんて、非常識な奴!」
その言葉に、俺を含むローゼ以外の皆が笑った。
ローゼが召喚獣を手に入れました。
時間制限付きですが……これをどう使うか
今、な~んも考えていません(笑)




