139話 ローゼ・ゾメル登場
「それは、帰ってからのお楽しみです」
(いったい誰だろう……)
そう俺が考えていると、ゲキがニールさんに言う。
「ニールさんは、例のアンテナの件でここへ?」
「はい、それもありますが、以前セイア殿に渡した例のクレアの装備の設計図を、
少し手直ししようと思い来たのもあります」
とニールさんの言葉を聞き、俺はマジックボックス小に入れてある、クレアさんの
新しい武具の設計図を取り出し、ニールさんに渡した。
「これですね」
「あ・はい、ありがとうございます……それと、姫が持っている魔力充填機も改良
したいのですが……」
そう言ってニールさんは、俺から設計図を受け取りながらソフィーにも声を掛ける。
それを聞いて、ソフィーもマジックボックス小から、魔力充填機を取り出しニー
ルさんに手渡した。
「これも改良するのですか?」
ソフィーの問いにニールさんが、
「はい、姫の負担がまた増えるやもしれませんが、クレアに使う武具の魔力充填も
できるよう改造しようと思いまして」
その言葉にソフィーは首を横に振り、
「いえ、負担なんて……むしろ嬉しいのです」
「嬉しい?」
ソフィーの言葉にニールさんが、聞き返すとニッコリ笑いながら頷き
「皆のお役に立てるのですから」
と言いながら、魔力充填機をニールさんに手渡した。
◇◇◇◇◇
時田さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、俺達は、しばし部屋で寛ぐ。
ここの部屋は、丸く大きさは……何畳とは言いにくいが、直径7.5m位だか
ら……30畳弱の部屋と言うことだろうか?
真ん中に俺達が座るソファセット(3人掛け2つに2人掛け2つに真ん中にテー
ブルがある)。
両開きの窓が四方に1つずつあり、入口から見て、部屋の右奥に台所、その奥に
シャワー室の扉が見える。
そのシャワー室は、3人一度に浴びれるシャワーがあり、入口からその反対の左
側奥にはトイレの扉がある。
また、ベットは二段ベットで、左側手前の壁側に6つ並んでいた。
今回、俺達がここに来た理由は、クレアさんの装備のパワーアップの為に来たん
だ。
エドナさんやアイーシャさんは、ダンジョンアイテムを手にして、多少パワーア
ップしていたのに比べ、クレアさんは初期装備のままだと言うのもあるし、クレア
さんは普通人族なので、エドナさんのエルフ族やアイーシャさんのような獣人族と
比べて、魔力量が少ないって言うのもあり、それを解決するための処理として、こ
ちらで新たにクレアさん用の武具を新調することになったんだ。
ニールさんが今書き直しているのは、クレアさんの武具に魔力不足を補うための
装置を組み込むための設計図ってこと。
今回、武具の新調に当たり依頼するのは、現イーシャイナ王国 国王エドモンド
王と昔、冒険者(明けの明星)を組んでいた元メンバーのドワーフ族のエルヴィン
・ゾメルさん。
ゾンメルさんは、今もエドモンド王の太陽剣のメンテナンスを任されている人で
、現在は、ウクラハンバ王国 鍛冶ギルド長をしているらしい。
最も、今回はその息子で現在親元から独立して、工房を開いているユリウス・ゾ
メルさんなんだけどね。
息子のユリウスさんも、鍛冶の腕は一級品だと言うことらしい。
コーヒーを飲みながら、そんなことを考えていたら、徐にシノブが設計図の図面を
書き直している、ニールさんに聞いた。
「Mr.ラーキン!ところでここへはどうやって入ったのだい?」
「えっ、ああ、それはですねぇ~」
シノブに聞かれ、図面から目を上げ、ローブの内ポケットから俺も持っている冒険
者証出して言う。
「これですよ」
それを見た俺が驚き口を挿んだ。
「えっ、それって僕の持っている物と同じですが……」
その言葉にシノブが口を挿む。
「Magic!を使って複製した!?」
そのシノブの言葉に笑いながら
「いえいえ、本物です……これは第2チーム用のですよ」
「「第2チーム用?」」
ニールさんの言葉に俺とシノブが思わずハモッた。
「あっ、はいご覧になりますか?」
そうニールさんが言うと、部屋に持ち込んでいたマジックボックス大(馬車10台
分の荷物が入る)から、小型の黒板のようなものを出してそれを俺とシノブの前に
出すと、持っていた冒険証を置いた。
”ピ”ッ
冒険者証が置かれた黒板の上に文字が出る。
≪Team Ultimate Second Member≫
・Leader シノブ・メイトリックス
・ ニール・ボマー
・ マモル・トキタ
・ アイーシャ
・ ローゼ・ゾメル
・ カ・シュイ
それを見たシノブが叫ぶ。
「Oh!Really?僕がLeader!」
驚くシノブにニールさんがニッコリ笑って、
「はい、メイトリックスさんしかいないかと……」
その言葉にますます有頂天になり、喜び部屋中を駆け回るシノブに、時田さんが笑
顔で声を掛ける。
「ようございましたな……お坊ちゃま」
そんな中、俺とミオンが疑問に思ったことを口にした。
「えっ、この見慣れない2人の名前は?」
「そうね、でもゾメルって……ひょっとしてゾメルさんの身内の人?」
その言葉を聞いて、ニールさんが俺とミオンに言う。
「はい、ローゼ・ゾメルはゾメル氏の娘さんです」
「「えっ」」
ニールさんの言葉に驚く俺とミオンにニールさんが、こう言った。
「それが、今回、クレアの武具を作成する条件でもあるんです」
(条件……って)
そう思いミオンと顔を見合わせる俺であった。
◇◇◇◇◇
ニールさんの話だと、長男のユリウスさんと違って、子供のころからお父さんの
冒険者時代の話が好きで、自分も大きくなったらこの国から出て、いろんな世界を
見て回りたいと思っていたらしく、武芸を磨いていたらしい。
父親のゾメルさんにしてみれば、冒険者になること自体は反対ではないんだけど
、得てして、冒険者と言うのはならず者も多く、基本男社会の冒険者に娘がなって
苦労すると言うか、何より諫め者にされないか心配だそうだ。
そこで、昔からの知り合いって言うか旧友のエドモンド王に相談して、俺達を紹
介されたって訳らしい。
(良いのか?確かに冒険者チームとしては女性率高いけど……俺達は冒険者って言
っても、仮の姿で本当は魔王と戦う勇者チームなんだけどな)
しかし、その辺もエドモンド王からゾメルさんは聞いていて、決め手は、エドモ
ンド王の娘でもあるソフィーが同行していることらしいが……。
(どんなじゃじゃ馬がくるのやら……)
それと、もう1人参加する"カ・シュイ"って言うのも俺達と同い年女の子らしい
が、それは今は話せないって言うか、それこそ、後のお楽しみだってさ。
(ニールさん後のお楽しみ多すぎますよ)
◇◇◇◇◇
夕方、俺達は冒険者ギルド支部の自分達の部屋を出て、鍛冶ギルド本部の建物近
くのレストランへ行く。
もちろん、ゾメルさん一家とお食事会の為だが……。
この国の定番である丸い円筒形の3階建物で、壁は拳大の石を積み上げたって感
じの石作りの壁に、木製の窓に扉……って、言ってもここは地下なので、窓にはガ
ラスがはめ込まれておらず、枠だけだけどね。
今回は、俺達がクレアさんの武具を依頼するってことで、俺達が招待する形だと
思っていたが、さにあらず、今回は娘をチームに入れてもらうのだから……ってこ
とで、ゾメルさんからのご招待らしい。
店に入ると、すでにゾメルさん一家が揃ってテーブルに座っており、お店の店員
さんだけでなく、ゾメルさん自ら俺達を出迎え席に案内してくれた。
(恐縮っす)
ゾメルさんは、見た目50歳の身長153cmで太っちょ系で髪はオレンジ、顎
髭を生やしておりそれもオレンジ色だった。
ドワーフは人族と比べ長生きって言ってもエルフほどではないが、だいたい人族
の2倍の寿命らしくこれでも100歳らしい。
ゾメルさんの右隣は、奥さんのエミールさん、見た目40歳の身長143cmで
太い……もとい、ポッチャリ系で、髪はピンクで……えっ顎鬚がピンクって?女性
なのに髭?
後で聞いたら、ドワーフは男女とも髭が生えるんだと……。
ゾメルさんの左隣は、息子のユリウスさん、見た目18歳の身長155cmで、
ゾメルさんに比べればやせ型って言ってもやや太っちょかな?髭と髪はゾメルさん
と同じでオレンジ。
そして、ユリウスさんの隣が例の問題の娘ローゼちゃんって言っても俺達と同い年
(ドワーフ年齢に換算して)。
髪と髭はピンクで身長150cmのポッチャリ系?
その時俺の頭で”ピッ”っと鳴った。
≪名前≫ ローゼ・ゾメル
≪年齢≫ 32/200(16歳)
≪体重≫ 女の子なんで秘密
≪サイズ≫
B86
W80
H86
Fカップ
≪戦闘力 30,000≫
≪防御力 5,000≫
≪スピード 250≫
≪MP≫ 10,000/10,000
≪武器≫ 手持ち斧
≪魔法≫ 土属系、火属系
≪状態 ☆【青】良好≫
俺がローゼを見た瞬間、頭に浮かんだ数値に戸惑っていると、俺の右隣りのミオ
ンが”クスクス”笑い出した。
(おにょれ~ミオンのいたずらか~……にしてもいつ設定変えたんだ?)
俺がローゼを見て、狼狽えているのを見た当のローゼは、何を勘違いしたのか俺
に向かって
「私、あなたは好みではないのでその辺よろしくね」
ときっぱり俺に宣言した。
それを見たミオンが吹き出し大笑いする。
「フハハハハ」
突然笑い出したミオンを怪訝そうに見るローゼ。
「いや、ごめんなさい。ちょっとセンサー……いや、後で説明するわ」
ミオンの言葉にさらに納得がいかないって、感じの不機嫌なローゼ。
「まぁ、まぁローゼ、機嫌を直しなさい、これからお仲間になるんだから」
「あっ、はい」
ゾメルさんに言われ素直になるローゼ。
(あれ、意外とお父さんには従順じゃないか?)
◇◇◇◇◇
お互いの自己紹介も終わり、食事と飲み物が運ばれてくる……。
(ゲッ!もしかしてあの木製のジョッキに入っているのはビール!)
この世界ではエールと呼ばれる、所謂俺達の世界で言うビールを見て、俺が固ま
っていると、時田さんが俺に近寄り耳元で言った。
「大丈夫ですよ、大鷲様のは別の物にしてありますから」
(えっ、別物!)
そう思い、俺の前に置かれたジョッキの中を覗くと……確かに色が微妙に皆と違
うような。
「今回は、わざわざ遠方より来ていただき、ありがとうございます、料理も直ぐに
参りますのでまずはカンパイ!」
「「「「「「「「「カンパイ!」」」」」」」」」」
皆でジョッキを重ね乾杯して一口恐る恐る俺は飲んでみると……。
(!!!あっこれ、子供ビール)
子供が飲むノンアルコールで、しかも甘いビール擬きだった。
驚く俺に時田さんがウインクしてくれた。
(時田さんありがとう)
ゾメルさんのカンパイの後、次々に運ばれてくる料理の数々。
ホワイトアスパラガスに野菜類を載せたサラダ。
因みに、ホワイトアスパラガスは、ここウクラハンバ王国の名産の一つらしい。
次いで運ばれたのは、スープに入れられた”マウルタッシェン”一応パスタらし
いが……。
小麦粉の皮に、玉ねぎやホウレンソウ、挽き肉やハムなどの具を詰めた料理で、
俺の感覚では餃子?って思ったが、ミオン曰くイタリア料理のラビオリを大きくし
たイメージだそうだ。
次に運ばれたのは、”シュヴァイネハクセ””シュヴァイン”ってのはこの辺の
段々畑を荒らす豚ってよりイノシシを一回り大きくした魔物の肉の事で、”ハクセ”
はスホネ肉の意味で、骨付きのままの魔物のスネ肉を表面はカリッと、中はジュー
シーに焼き上げたということだ。
魔物の肉だけど……結構うまい!
その次が”フリカデレ”ってこれハンバーグじゃない!
そう言えば、以前ニールさんとソフィーがハンバーグを食べてこれに似ていると
言っていたが……。
まんま、ハンバーグ!
美味いとか美味くないとかの問題ではなく、まさしくハンバーグ……って、結局
、美味いんだけどね。
そんなことを考えていると俺の隣の問題児がまた……酔っぱらっていた。
(ホントこいつ懲りねーよな)
◇◇◇◇◇
たらふくご馳走になり、ゾメルさん一家と別れ、俺達は部屋に戻ることにした。
クレアさんの武具については、明日改めて、ユリウスさんの工房にお邪魔するこ
とになっている。
そして、ゾメルさん一家と別れと言っても約1名は俺達に同行する。
別れ際、ゾメルさん、奥さんのエミールさんにユリウスさんが俺に言葉を掛ける。
「娘を頼みましたぞ」
「よろしくお願いします」
「少々じゃじゃ馬ですが、妹をよろしく」
って1人ひとりに握手され言われた。
心なしか、ゾメルさんは涙ぐんでいる様にも見えたが……。
当の本人ローゼはと言うと、家族との別れもあっさりって感じで、
「ほんじゃ、行ってきます」
の一言だった。
そして、今、俺達がギルド支部のの部屋に向かう道中、俺が重そうにミオンを担
いでいるのを見て、彼女が
「私が代わりに運んだげる」
と言って、俺の背中からミオンをひっぺはがすと、ミオンを軽々……お姫様抱っこ
し、歩き出した。
身長163cmのミオンを、身長150cmのローゼが、お姫様抱っこする姿は
、まるで子供が大人を抱っこしているようで、何とも言えない……。
(幼児虐待!?)
んな訳ないけど、変な感じだった。
新しいキャラの登場です。




