138話 H-16アルバトロス
------第三者視点---
「ふん、切り抜けよったか……まぁ、よい」
そう言って、セイア達から離れた物陰から見ていたソンブル翁は杖を上に上げ、光
に包まれると、虹色の泡となって消えて行った。
◇◇◇◇◇
ソフィーのスティックから炎が出て、凍り付いた俺を温め、動けるようになった。
「ふぅ~、やっと変身を解けるよ」
「ごめんなさいセイア様」
頭を下げ、謝るソフィーの頭を”ポンポンと叩いて、
「問題ないよソフィー」
そう慰める俺であった。
◇◇◇◇◇
今、お昼をまわった所……。
遅めのお昼を宿屋の近くの食堂で食べ、やっと一息ついた。
なんでか?、 例のドラキュラの屋敷の爆発で起こった火柱は、ハーフェン港
の街からも確認でき、それを見た騎士団が、現場に駆け付け、そこに居た俺達に
事情を聞かせてくれと、あの後、騎士団の詰め所で尋問を受けていたからだ。
尋問が何故ここまで時間が掛かったか?と言うと。
第一に、以前クレアさんが言っていて通り、ドラキュラは【冥界のオベリスク】
ダンジョンにしか存在しないと言うこと。
第二に、騎士団に『子供が突然消える事件』の届け出はこの街の住民から1件も
出されていないこと。
第三に、この街に貿易商のジーモンと言う人物は存在しない。
故に、妻クラウディアその娘のクララも存在しないこと。
だから、騎士団にしたら俺達の話は信じがたいと言うのだ。
故に俺達は、空き屋とは言え、家に放火した犯人として取り調べられていた。
この世界では、放火は重罪だからだ。
結局、焼け跡から、俺が言っていた、ドラキュラボスの頭が見つかったことと、それより何より、ソフィーがかぶっていたフードを取り、つけていた仮面を外した上に、イーシャイナ王国王女の証の指輪を見せ、正体を明かして、やっと俺達は騎士詰め所を放免された。
放免された最大の理由は、ドラキュラの頭ではなく、ソフィーが王女だから……。
なんだけどね。
(身分によって、言っていることが、通るとか、通らないとか、ってのは、ちーと
納得いかない面もあるけど……)
◇◇◇◇◇
今俺は、激しい筋肉痛のようなものに悩まされていた。
アイーシャさんが”キュア”の魔法をかけてくれたが、今の俺には全然効果がな
い。
故に宿屋のベットで体を休めている。
ゲキに財布(金貨の入った袋)を渡し、皆には夕食を食べに行ってもらって、俺
は、ソフィーと二人きり部屋でマジックボックスから出した、イタリアンスパゲッ
ティを出し、ソフィーに”あーん”(食べさせて)もらっている。
そしてこの日は、就寝した。
◇◇◇◇◇
そして次の日、朝、目覚めてびっくり!何と俺のベットにソフィーが一緒に寝ていた。
そして、起き上がろうとベット布団をめくってまたびっくり!
ソ・ソフィーが裸で俺に添い寝していたみたい。
「えっ!?ソフィー……」
驚き声をあげる俺に、ソフィーは目をこすりながら起きて来て、
「おはようございますセイア様」
(いやいや、おはようございますじゃなくて)
しかし、起きてみて気が付いたのは、体の痛みがすべて消えてることと……。
ソフィーがお目覚めのキスをしてくれたが、既に俺の頭から青白い光が出てること
から、いつの間にかエネルギーが満タン!?になっていることに気づく。
(へっ?ひょっとして……俺、した?)
と少し狼狽えたが、幾ら考えてもそのような記憶はない。
後で、ソフィーに聞いたら……ただ、ソフィーが俺に抱き付いていただけだたみた
い。
内心、ホっとするやら残念やら……。
◇◇◇◇◇
各自、部屋で、マジックボックスから出した朝ごはんを部屋で食べ、宿屋を出て
、馬車やユニコーンを出し、ハーフェン港の街を出た。
バイクには、俺とシノブが跨り、俺の後ろがミオンで、シノブの後ろがアイーシ
ャさん馬車の御者はゲキが行い、中にはソフィー、クレアさん、エドナさんが乗る。
まず、ハーフェン港の街からスワワ山を目指す。
ウクラハンバ王国は、主に3つの大きな山(バル山、スワワ山、ファゴ山)が連な
った山脈のような所。
それぞれの山には、大きな都市が地下にあり、それを一本のトンネルが効きぬけ
ている。
その入り口がスワワ山にあるからだ。
ハーフェン港の街を出て、3時間余りでそのスワワ山に到着した。
大きな山にぽっかり空いた大きな洞窟。
そして、その洞窟を塞ぐような大きな金属の扉がそびえ立っていた。
扉左脇にある小さな黒板に俺が身分証をかざすと、”ギーギー”っと重い金属音
がしたかと思ったら、扉が開いた。
って言っても、大きな金属の扉ではなく、その右側にある扉半分の所が、馬車1
台分の大きさ位にぽっかり空いただけだが……。
そこを通り中に入ると、高速道路のトンネルって感じの幅の広い、しかも、コン
クリートではない、何かで舗装された道が洞窟奥まで続いていた。
そこを、歩くような速度で進むこと5分。
現れたのは、昔のヨーロッパの駅のターミナルのような建物。
恐らく魔光であろう光で照らされていて、ここが地下だとは感じられないほど明
るかった。
建物内にある受付カウンターのような所に行き、チケットを購入する。
チケットは人1人2,500デイゴなので8人分で2万デイゴ。
後、馬(電動バイク)2頭が、2万デイゴ合わせて4万デイゴをドラキュラの報酬
でもらった金貨で支払いお釣りをもらった。
因みに、そのジーモンさん(オブリヴィオンのソンブ)から受け取った報酬は、
偽物のお金でなく本物のウクラハンバ王国のお金だった。
(ちょっと驚きだったけど)
チケットを購入し、バイクを係に預け、駅の改札のような所を抜け向かうと……。
見えてきました……列車!?が……。
って言っても、俺達が思う電車や昔のSLのようなものではなく、……なんて表
現すればいいかな……。
あっ!そうそう、よく田舎の観光であるトロッコ列車!って感じ。
屋根もなく粗末な箱って感じの客車にそれを引く?これって……。
平たい板の上に小さなシーソーのようなものがあり、それを手で漕ぐ……あっそ
うだ!いわゆる手漕ぎトロッコ!ハンドルを上下に動かすことで、車輪が回転し進
む仕組みの奴だ。
そのハンドルを上下に動かすのは人ではなく、この世界でおなじみのオートマト
ン(人型作業用魔動機)だ。
(なんだかな……エコではあるけど、便利なのか便利でないのかよくわからないね)
そんなことを思いながら俺達はそのトロッコ列車に乗った。
トロッコ列車に揺られること2時間、本当退屈な旅……。
だって、景色がおんなじなんだもん。
トンネルだから、仕方ないけどね。
因みに、ウクラハンバ王国の各山々の表面には、段々畑が広がっているそうで、
麦などの穀物を中心に、他の野菜なども栽培されているらしい。
また、段々畑が作れない所では、羊や馬、牛などが放牧されていて、ほぼ国内で
食料は自給できると言うことだった。
◇◇◇◇◇
最終の駅、王都マトマタに着いた。
列車を降りてバイクを受け取ると、スワワ山の所と同じ大きな昔のヨーロッパの
ターミナル駅風の駅舎を出て、王都マトマタの街にある冒険者ギルド支部を目指し
た。
ここ王都マトマタの街は、天井や側面の壁に数十個の明り取りの窓があり、その
間には、オリハルコンを鏡面処理した板を張り付け、太陽光を反射させているので
、地上と同じ様に太陽の光が街全体を照らしており、ここがとても地下だとは感じ
られない。
街の建物は、円筒形の筒上に円錐形の屋根が付いた……まるで、アニメやフィン
ランドの作家が書いた、一連の小説と絵本に出て来る妖精が住む家のようだった。
街の建物は平均2~3階建てで、街の中心の少し小高いところには王城があるが
、この城は他の建物とは違い古いヨーロッパの城って感じで今の俺達には普通の城
にしか見えなかった。
その脇にある、8階建ての3つの建物の内の1つである、冒険者ギルドのウクラ
ハンバ支部の建物に俺達は着いた。
いつもの如く、ギルド職員にバイクを預け、建物内に入り、受付で身分証を見せ
自分達にあてがわれた部屋を聞こうとしたら……。
「すでにお連れ様がお部屋で待っておられますよ」
って言われたので、俺は頭に?を浮かべ皆と共に自分達の部屋に向かうと……。
そこで、俺達を待っていたのは……。
「えっ!ニールさん!……それに時田さん!」
驚く俺達に時田さんは、ニッコリ笑って
「お待ちしておりましたよ」
と言う。
そして、ニールさんに促され部屋に入って荷物を降ろすと、時田さんは、さっと
席を立ちコーヒーを沸かしに部屋にある台所へと向かった。
俺達は、入れ替わりにニールさんが座るソファーに全員座った所で、
「少し時間が掛かったみたいですが、何かあったんですか?」
と聞くニールさんにミオンが言う。
「そらもう~ドラキュラに襲われたり、騎士団に犯人扱いされたり、散々だったん
だから」
「それは、大変でしたね」
と愚痴交じりに言うミオンに苦笑まじりで、ニールさんが答える。
そんな、ニールさんに俺は聞いた。
「ニールさんと時田さんはどうやってここに来たのですか?……それに時田さん
まで、こっちに来て基地は大丈夫なんですか?」
「はい、こちらには、アルバトロスでしたっけ?時田殿……」
とコーヒーを台所で入れている時田さんに向かって言うニールさん。
そのニールさんの問いかけに、お盆に入れたてのコーヒーを載せて俺達の方にや
って来た時田さんは言う。
「はいH-16……アルバトロスですニール様」
その言葉を聞いて、目を輝かせて言うシノブ。
「I’m pleasantly surprised.(嬉しくてびっくりした
)本当か!?時田」
そんなシノブに時田さんは、
「はい、本当ですよ、お坊ちゃま」
その言葉を聞いて、部屋中を駆け回りながら、ガッツポーズを繰り返し、
「YES!YES!YES!」
と叫びまくるシノブ。
そんなシノブをよそに、コーヒーを各人に配っている時田さんに俺が聞く。
「にしても、時田さんがここに来たんじゃ基地を守る人は……?」
俺の疑問に時田さんが、ニッコリ笑って俺に言った。
「はい、いい人材が見つかりましてねぇ~大鷲様……しかも、大鷲様のお知り合
いと言うおまけつきです」
「えっ、俺の知り合い……って誰ですか時田さん!」
と少々焦り気味で聞く俺に時田さんは、再びニッコリ笑ってこう言った。
「それは、帰ってからのお楽しみです」
やっと、飛行艇が出せました。




