130話 船上でバニーフラッシュ!?
現在は朝の9時。
本来の出港は朝6時の予定だったが、俺達の参加に時間が掛かり、今の時間に
なった。
テネアの街の入り口の湾にはすでに4隻の帆船が今や遅しと出港を待っていた。
ここでは、”ナウ”と呼ばれる俺達の世界で言う所謂、キャラック船と呼ばれる
帆船で、全長は60mとかなり大きく、4本マストで丸みを帯びた船体と特徴的な
複層式の船首楼、船尾楼を有している。
ただ、 シノブ曰く、俺達の世界のキャラック船との違いは、大砲などの武器が
なく、大砲を発射するであろう船体の側面の真ん中あたりには窓のようなものがあ
り、そこからオールを出して、推進もできるようだ。
船首楼と船尾楼と呼ばれる上甲板の一段高い出っ張りがあり、船首部にあるのが船首楼、船尾にあるのが船尾楼と言うことらしい。
その内船尾楼は人載せる空間って言うか船室としての役割があるみたい。
俺達は4隻ある船の中の一つ、カタリナ号に乗船した。
船長のカルロさんと、航海長のジューリオさんに向かい入れられ、第二船尾楼に案内された。
広さは……う~ん12畳って感じだろうか横長の部屋。
真ん中に大きな横長のテーブルがあったみたいだが、今はそれを外してあるみたい。
何でって、テーブルの足を固定したであろう跡があったからだ。
部屋には後部側に窓が4つ、横の壁には2つずつあるが、俺達の為に調度品など
は、片付けられているようで、がらんとして何もない部屋だった。
「狭いと思うが、ここを使ってくっれ」
と船長のカルロさんに言われ、
「お世話になります」
と俺が代表して、船長のカルロさんにお礼を言って頭を下げて言った。
船長のカルロさんと、航海長のジューリオさんが俺達の部屋を出て行った後、
「暑いから、取りあえず窓開けようよ」
とミオンが言い出したので、俺と、ゲキとシノブで部屋中の窓を開け、風を通した。
出港前で、まだ都市テネアの湾内なのであまり風は吹かない。
「ちょっと、まだムシムシするわねぇ~」
とミオンが手で仰ぎながら、不満そうに言うので、ゲキとシノブが、マジックボッ
クス小から、水の入ったポリタンクと共に大きな木製のタライも出して、ポリタン
クの水を注いだ。
それに座る椅子もないので、ついでにBBQ用の小さな折り畳み椅子を人数分出
し、ミオンを初め女性陣が座る中、俺が、
「 チェインジ……」
と変身しようとしたら、ソフィーが俺の手を掴んでこう言った。
「セイア様それは、わたくしにさせてください」
と俺の変身を止めるので、俺はソフィーの顔を見て
「あ、分かった」
と変身を止めた。
ソフィーは徐に、ニールさんからもらった魔法スティックをタライに入った水に
向けると、スティックにある白いボタンを押した。
青白い光線が、タライの中の水に当たると”ピキッン”と一瞬でタライの水が凍
り、それをゲキがタライから出して、タライに対して垂直に立てた。
「これで、少しは暑さを過ごせるなミオン」
ゲキはミオンにそう言うと、
「そうね」
と言いながら、小さなパイプ椅子に座り直すミオンに、シノブがマジックボックス
小から、よく冷えたサイダーを手渡した。
「サンキュ!シノブ」
と言いながら一口ごくりとミオンがサイダーを飲むと、急にふわりとした感覚で船が少し揺れた。
「ん?」
とサイダーのペットボトルの口に口を付けたまま言うミオンに、俺を初め他のメン
バーにサイダーを手渡していたゲキが言った。
「ああ、出港したんだろう」
ゲキの言葉通り、しばらくすると船が進みだし、窓から潮の香りを漂わさながら少
し風が入って来た。
「う~ん良い風ねぇ~」
目を細めながら言うミオンだった。
◇◇◇◇◇
出港して3時間近く経った。
が、
何事もなく船は進む。
俺達は、さしてすることがない……。
シノブは携帯型ゲーム機でゲームを楽しみ、ゲキとクレアさん、エドナさんは、
武器防具の手入れをし、ソフィーは、俺達世界の漫画を熱心に読んでいて、アイー
シャさんは甲板に出て”ぼー”と海を見つめていた。
俺は、最初好奇心から、船内のあちらこちらを見て回っていたんだけど、3時間
も立つと見て回る所もなくなり、どうしようかと思いながら甲板に出てみると、そ
こには、”ぼー”と海を見つめるアイーシャさんと……甲板中央には、デッキチェ
アーに寝そべる……ピンクのビキニ!?
それに、サングラスを掛け、頭にはウサギ耳って……。
ミ・ミオンではないか!
その時、甲板に居た女性に声を掛けられる。
「あの~申し訳ないんですが~」
「えっ」
俺がその言葉に振り返ると、そこにはオートマトン長(所謂俺達の世界で言う機関
長?かな)のアグネスさん。
この世界の女性では珍しい船乗り。
年頃は二十歳そこそこかな?、褐色のイタリア系美人。
「お連れ様ですよね~」
「あっ、はい」
と俺が驚いたように言うと、すごく困ったような顔でこう言った。
「あのような……はだっ……いえ、格好で甲板に居られますと……他の船員の仕事
に差し支えるので、やめていただきたいのですが……」
そう言われて、ふと周りを見渡すと、多くの男性船員が用もないのに甲板を……
ウロウロしているのが目に入る。
「あっ、すいません……すぐ辞めさせます」
俺がそう言うと、アグネスさんは俺に会釈してその場を立ち去った。
◇◇◇◇◇
サンオイルを全身に塗りたくり、体がテカテカのミオンの側まで行ってミオンに
声を掛けた。
「ミオン!」
すると、ミオンは俺の声を聞いて、サングラスを外し、寝そべっていたデッキチェ
アーから起き上がり、
「あら、セイア、どうしたの」
悪びれることもなく、平然と言うミオンに
「あのさ、お前何やってんの?」
「えっ、なにって……見ればわかるでしょ……日光浴よ」
俺の言葉に何食わぬ顔でおっしゃるミオンさん。
「いや、それは見ればわかる!……俺が聞いてるのは、何で、ここで、日光浴して
るんだ!よ!」
と少し怒った感じで俺が言うと、
「何でって……暇だからよ」
と開き直って言うミオン。
「んっ、暇だからってお前……公衆の面前で……」
って呆れて言う俺に、”何言ってんの”って顔でミオンが言う。
「公衆の面前!?……ここは海の上だよセイア……誰も見ていないわよ」
「いや、ここは船だ!ほら、船員さん達が見てるじゃないか」
って俺が言うと、
「えっ、どこどこ」
とキョロキョロしながら言うミオン。
甲板に居た男性船員は、”ヤバ”って感じで、とっさにミオンから視線を外す者が
数人いた。
「ほら、な!苦情が出てるんだ、さっさと着替えなさい」
諭すように言う俺にミオンが”きょとん”として言った。
「うん、分かったけど、その前にソフィー呼んで来て、サンオイル洗い流したいか
ら」
「ああ、分かった!」
俺はそう言って、ミオンの側に置いてあったタオル地のガウンを投げ、
「ソフィー連れて来るまで、それでもかぶってろ!」
そう言って、その場を離れた。
◇◇◇◇◇
「ミオン様いきますよ~」
と甲板で、ソフィーがミオンにスティックを向け言った。
「は~い、お願い~」
そう明るく答えるミオンにソフィーは
「では」
と言ってスティックの青いボタンを”ポチ”と押した。
スティックから大量の水がミオン目掛けて吹き出す。
”ジャー”
「うワフ~!」
ミオンは頭から水を浴び、先にボディーソープを塗り、オイルを落としやすくして
いた体を洗いながら、気持ちよさそうに体に着いたオイルを洗い落した。
そして、水でサンオイルをすっかり洗い流したミオンに俺がバスタオルを投げた。
「サンキュ、セイア」
俺が投げたバスタオルを受け取り、頭を拭きながら言うミオン。
しばらくして、体を拭き終わったミオンがその場で、徐に……
「バニー―――!」
その言葉を聞いて俺は、慌ててミオンに駆け寄りミオンの変身を止める。
「ミ・ミ・ミオン……ここでのバニーフラッシュはやばいだろう」
慌てて、止める俺にミオンが”キョトン”として聞く。
「何で?」
「何で?ってお前……」
因みに、何で俺が慌てたか、……。
それには訳がある。
ミオンの来ている服は、例の店ジャネルで魔法付加の特注の品で、アニメのキュ
ーティーバニー同様に首のチョーカーに触れて、「バニーフラッシュ」と叫ぶとい
ろいろな職業の衣装に変身できる。
アニメとの違いは、アニメでは7つの形態にしか変身できないが、ミオンのは自
分のイメージ通りの服に制限なしに変われるってことと、その代わりに、アニメの
ように変身してもその服装の職業の能力が付加されるわけではない……。
が、共通点が一つある。
それは、変身する時、元の服がビリビリに破けてなくなり……一旦、真っ裸状態
になってから、服が再構築される仕組みは同じなんだ。
もっとも、その時は首のチョーカーから物凄い光が同時に出るので、普通の人が見た場合殆ど見えない……見えても体のシルエットぐらいなんだけどね……。
それでも人前で、真っ裸になることには違わない。
例のジャネルのお店の時は、実はミオンの前に、衝立を置いていたんだよ。
それで、俺が慌てて止めた訳。
「お前さ~この水着になる時もここで変身したのか?」
と呆れぎみにミオンに聞くと
「ん?……いや、部屋でバニーフラッシュしたよ」
と少し考えて言うミオンに
「それなら……って、おい、部屋にはシノブやゲキが居たんじゃないのか!?」
と聞き返すと、
「うん、居たよ~でも、シノブはゲームに夢中だったし、ゲキはクレアさんやエド
ナさんとの話に夢中だったから……大丈夫だよセイア」
と平然と言うミオンに俺は頭を抱えながら
「大丈夫……ってお前……」
俺は、ため息を付きながら、自分達の部屋の扉を開け、ミオンを部屋に入れて、
「ゲキ、シノブ……悪いミオンが着替えるから外に出てくれ」
そう言って、ゲキとシノブを部屋の外に出してから、
「俺が出たらバニーフラッシュして、着替えるんだぞ」
って言いながら、扉を閉めた。
しばらくして、扉の向こう側からミオンの
「バニーフラッシュ!」
と大きな声と共に、眩い光が扉の隙間から漏れるのが見えた。
そして、ため息を付き、
(ミオンは気にしなくとも、俺を含むゲキやシノブもお年頃の男子何だぞ!)
と心でボヤク俺であった。
ミオンちゃんは割と周りを気にせず、自分の好きなことをする
タイプの女性です。
豆ごはんも若かりし頃、このタイプに結構振り回されたことを
思い出します。(汗)




