12話 下峠 激
------激視点---
俺の名前は、下峠 激高校2年生。マン研部の大鷲青空や白鳥美音とは幼馴染だ。
俺の家は、室町時代後期から代々続く古武術”撃心流”宗家の家。と言っても、もう爺さんの代から弟子はおらず、我々下峠の一族のみが細々と継承しているだけの忘れ去られた武術流派だ。
しかし、幼い時に両親が亡くなり、”ばあちゃん”(祖母)に育てられたと言うのもあり、少々他の同じ年の子供と感覚が違っていたようだ。それに加えて、”撃心流”を”ばあさん”から、一から叩きこまれていたのもあり、喧嘩では負けたことがないが……負けないどころか、時には相手に大怪我をさせてしまうことが、しばしばあったせいで、俺は孤立して行った。
ずっと孤独だった。
そんな俺に、大鷲青空は声を掛けてくれ、俺と友達になってくれた。奴は、俺の少々世間とは違う考えも理解してくれ、俺に他人との関わり方を解いたり、時には、口下手な俺に代わり、他の者に俺の考え方を、俺に代わり説明してくれた。
俺と同じで恐らく白鳥美音もまた孤独だったと思う。プライドが高く、わがまま……そして何より、アニメ、特撮オタク……ミオンは両親が共働きで、しかも海外に長期で出かけることもあり、母方の祖父母に育てられたと言ってもいい。
まぁ、オタクの部分は、セイアと言うよりセイアの親父さんと気が合うってことだがな。
もっとも、俺はミオンは苦手だが……俺もミオンもセイアには感謝している。俺が高校で剣道部に入ったのもセイアのお陰だった。”撃心流”を使う俺にしてみれば、剣道など、ルールに守られたチャンバラごっこだと馬鹿にしていた。
そんな俺にセイアは言う。
「同じルールの中で闘う方が、本当の意味での強さではないか?」
と。
確かにセイアの言うことも一理あった。俺はセイアの言葉に剣道部に入ることを決めた。後で知ったのだが、俺の通う高校の剣道部は、弱小過ぎて廃部寸善だったらしい。剣道部の顧問の先生にセイアが頼まれ、俺を説得したと言うことだったが、俺は、騙されたとは思わなかった。
剣道部に入ったことにより、”剣道”と言う共通の話題が出来、他の部員とも交流がもて、やがて、後輩にも慕われるようになった。
◇◇◇◇◇
うちの剣道部は稽古(練習)には体育館を使うが、他のバスケ部や、バレー部と交代で使用することになっているので、体育館が使えない時は、うちの道場を剣道部に提供している。もう何十年も弟子が居らず、殆ど開店休業状態だったので、ばあさんが許可してくれた。
朝の稽古(練習)を終え、今一息ついているところだ。その時、俺のスマホが鳴った。スマホの表示を見ると、ミオンからだった。
(ミオン……あまり直接しゃべりたくはないが……)
そう思い、少し躊躇しながら俺は電話にでた。
「もしもし、なんだミオン……」
と、スマホにぶっきらぼうに出た俺にミオンが言った。
「もしもし、私 セイアがピンチなの助けて!」
「わかった、すぐ行く!場所を教えろ。」
ミオンから内容は聞かず、唯一、向かう場所だけを聞いてスマホを切った。他の剣道部員に午後の稽古(練習)は中止するとだけ伝えて、俺は道場を飛び出した。
◇◇◇◇◇
全力で走ること40分、ミオンが言う場所に着いた。周りを高い塀で囲まれた木造の洋館作りの建物。その門の前に立っていた、50歳位の紳士に案内され建物の中に入った。建物に入ってから、案内された部屋は16畳くらいの客間のようだった。俺は一礼してその部屋に入る。部屋に入るとミオンと外人ぽい奴が俺に駆け寄ってきた。
(ミオンの横に居る奴誰だ……?)
俺がそう思っていると奴が俺に言った。
「誰かと思ったら、うちの剣道部のエースじゃないか~」
となれなれしく俺に言う。俺がそいつを睨むと、ミオンが慌てて俺に言った。
「この子は、うちの部のシノブ……忍・メイトリックスよ。」
そのミオンの言葉を受け、軽く会釈をしたシノブと言う奴が、
「お初にお目にかかる、忍・メイトリックスだ。Mr.シモトウゲ。」
へらへらとしているように見えるが何処となく隙がない。試しにそっと気を放ってみると、奴はそれを感じたのか自然に身構えた。
(なるほど……唯者ではないな。)
そんな俺とメイトリックスの様子に、何やら不穏な空気を察したのかミオンが俺らの前に割って入って、
「兎に角、座りましょう」
そう言って俺とメイトリックスの袖を引っ張った。俺達はミオンに言われてソファーに座る。そこに、先ほどの50歳位の紳士が現れ、
「申し遅れましたが、わたくしはシノブおぼっちゃまの執事を仰せつかっております時田と申します。早速ですが、これをご覧頂いた方が話が早いかと思います。」
そう言うと部屋の明かりが消え、部屋の壁にスクリーンが降りてきて映像を映し出した。俺は食い入るようにその映像を見た。映像を見終えて、俺は思う。
(作りものではないようだが……。)
そして、今までの経緯を掻い摘んで、ミオンから聞いた。
セイアが置かれている状況は、今すぐに切羽詰まった状況ではないと思うが、戦闘力ゼロの女性を抱え、旅をする馬車の車軸が破損し、まして魔物や魔王と闘いながらとは、例えそれが俺で有っても、容易でないことは想像できる。ましてや、あのセイアである。セイアも小学生のころ、空手を習っていたことがあるから、まるで戦闘力がないとは言えない。それに、ヒーローとか言う者に変身が出来るようになっていることからも、さほど難しくはないのかもしれないが、セイアと言う男は何より人にやさしいし、なにより争いを好まない奴だ。肉体よりもセイアの精神がその苛酷な戦場とも言える場所でいつまでもつか……だ。
「その次元転移ってのはいつ完成するんだ。」
と聞く俺に時田と名乗るメイトリックスの執事が言う。
「装置はほぼ完成してると聞いております。唯一、後はそれを軌道する魔力の問題だとラーキン様がおっしゃっています。」
「なら、その魔力とやらの準備が整ったら今すぐにでも向かおう!」
と席を立とうとする俺を制して言う。
「おいおい、丸腰でかい~?Mr.シモトウゲ。」
少し呆れ顔で、俺を制するメイトリックスに俺が言い返す。
「撃心流は、例え武器がなくても2~3人なら殺せるのさ。」
そう言う俺にメイトリックスは、
「ほぉ~」
と感心したように言うと、続けてこう言った。
「それは、人間より力がある魔物や、魔法を使う相手でもかい……。」
それを言われ俺が少し固まった。確かにそれは人間相手なら……ってことだ。熊やライオンのような猛獣相手では、素手で立ち向かうのはかなり困難ではある。
「……」
俺は俯き、黙ってしまった。
「ましてや、魔王の配下や魔王相手にどうやって闘うと言うのだMr.シモトウゲ!」
少し強い口調で俺に言うメイトリックスに、ミオンが一瞬ビクついた。
「しかし、うちの家にある刀剣類を勝手に持ち出すことはできんしな……。」
そう言う俺にメイトリックスはニッコリ笑ってこう言った。
「武器ならここにあるよ。」
そのメイトリックスの言葉に俺は”はっと”して、顔を上げ言い返した。
「日本では銃刀法……とか言う法律があって未青年の俺が……。」
と言いかけた時、メイトリックッスが俺の言葉に重ねこう言った。
「誰がだい!そんなこと言う奴は……。」
そう言うメイトリックスに俺は、弱弱しく言った。
「セイアから教えてもらった……。」
その言葉にメイトリックスは、またも、
「ほぉ~Mr.オオワシがね。」
そう言われ俯くだけの俺にメイトリックスが言い放つ。
「ここは日本じゃない!」
そのメイトリックスの言葉に俺は、
「日本じゃない?」
不思議そうにそう言う俺に、メイトリックスは続けて言う。
「ここは、ンドハ国大使館だ!……大使館と言うのはね治外法権でね。ここは日本にあるが大使館敷地内はンドハ国なんだよ♪だからここの敷地内は日本の法律が通用しないってことさ。」
そう言うメイトリックスの言葉を受けて、俺はミオンの方を見ると彼女が俺を見て黙って頷いた。
「そうなのか……でもここに俺が使える武器ってのがあるのか?いかに撃心流といえど、銃器は使えないぞ!」
そう言う俺にメイトリックスは、人差し指を立て俺に向かって、それを左右に振りながら、こう言った。
「ここの大使館には、うちのDaddyが収集した武器コレクションルームがあるのだよ。その中には、さむぅら~いの使う武器もあるからそれを使うといいよ。」
俺はそう言うメイトリックスの言葉に、こいつは何者だ!って感じで、ミオンの方を見たが、ミオンはただ首を横に振るだけだった。




