125話 直角貝
シノブが下の受付に行ってから、かれこれ30分。
「シノブ……遅いねぇ」
とミオンがボソッと言った。
「ああ、確かに遅いな……」
そう言ってはゲキ専用特大おにぎを頬張った。
(マグロ&モッツァレラチーズ丼だけでは足らなかったようだ)
「俺が見てこようか?」
と、あっという間に特大おにぎりをぺろりと食べたゲキが俺に言った。
「いや、もうちょっと待とうよ」
と部屋を出ようとするゲキに俺が言った。
その時、部屋の扉が”ガチャ”って開いて、シノブと共に見知らぬ男性が部屋に
入って来た。
見た目30歳から40歳のイタリア系の甘いマスクの男前系中年男子。
「はじめまして、わたくし、冒険者ギルドテネア支部の支部長を務めております、ラウル・ジェンマと申します。」
と自己紹介したかと思うと、徐に契約書のような紙切れを俺達の前に出して
「いきなりで申し訳ありませんが、緊急のクエストをお受けいただきたく参りまし
た。」
と言うので、俺達は何のこと?ってポカ~ンとしていたら、ジェンマさんの横に立
って、ニヤニヤしているシノブが言った。
「怪獣退治のクエストだよMr.オオワシ」
「はい~?か・怪獣退治!?」
「か・怪獣ってシノブどういうことよ」
驚き俺とミオンが言うと
「決まってるじゃないか~クラーケンだよ」
「「「クラーケン!!」」」
シノブの言葉にクレアさん、エドナさん、アイーシャさんが驚き言った。
「えっ、でも、クラーケンはここの守備艦隊が……」
とミオンが口にした時、俺が横から口を挿んだ。
「たぶん、艦隊はクラーケンに倒されたんだろう」
と俺が2回目の警報で察していたことを口にすると、
「はい、その通りです」
とジェンマさんが言う。
「しかし、街を守る騎士……守備隊がいるではないのか?」
と言うゲキにシノブが人差し指を立てて、左右に振りながら言う。
「ノンノン、その街の守備隊も……」
と言いかけたシノブの言葉にゲキが言う。
「全滅したのか!」
ゲキの言葉にジェンマさんとシノブが頷いた。
「ここはひとつ、我々でクラーケンとか言う怪獣を倒そうではないか~」
ってニコニコ顔で言うシノブにミオンが待ったをかける。
「ちょ、ちょっと待ちなさいシノブ、艦隊を倒し、大勢の守備隊を倒した魔物をた
った8人で倒せと言うの?」
と憮然とした態度で言うミオンにジェンマさんが深々と頭を下げ言った。
「もう頼れるのは、あなた方しかいないんです。どうかお願いします」
「って言われてもねぇ~」
と腕を組みながら言うミオン。
その様子を見ていたシノブがミオンではなく、俺に言う。
「Mr.オオワシ~街を救えるのは僕達だけってことだよ~、なんか燃えてこない
か?~ヒーロー魂が……」
俺の顔をニコニコしながらのぞき込み言うシノブ。
(おいおいやめてくれ、こういうの俺弱いんだよな~)
って考えていたら、ジェンマさんが俺にこう言った。
「報酬はそちらの言い値で良いですから」
と再び頭を深々と下げる。
(いやいや、報酬とかそんなのいいんだよ、元々助けるつもりだし)
俺がそう心で呟いていると、ミオンが人差し指を立ててジェンマさんに向かって言
った。
「じゃ、1億ドルマ!」
の言葉に即座にジェンマさんが言う。
「はい、それで引き受けていただけるのでしたら、お願いします」
「えっ、いいんですか?」
と少し声が上ずりながら言うミオンにジェンマさんがきっぱりと言う。
「はい、それでお願いたします」
(ミオン……が、吹っかけたつもりだったようだが、相手は本気だったようだ)
ってことで、ジェンマさんと俺は、部屋のソファーの所に座り、契約書に俺がサ
インした。
俺が、契約書にサインしている間に皆はそれぞれの武器を出し、準備をし出した。
「ありがとうございました」
と、またまた深々と頭を下げ、契約書を手にほっとした雰囲気で俺達の部屋を後に
するジェンマさんだった。
ジェンマさんが俺達の部屋を立ち去って、ミオンがぽつりとぼやく。
「失敗したかな~もうちょっと吹っかけるんだった」
◇◇◇◇◇
テネアの街の人の避難がほぼ完了したようだ。
ここテネアの街は、大きな貝殻のシェルターに覆われ守られている部分だけでな
く、その東側には標高1500mのウーヴァ山がそびえており、そこでブドウ栽培
もしている。
その昔、テネアの市民は、このウーヴァ山に住む主に農業を主な生業としていた
山の民と、漁業を主な生業としていた海の民が統一してこの都市国家が成り立った
そうだ。
なので、実はこの都市の東側の貝殻の根元部分には地下道があり、地下道は、そ
こから東にそびえるウーヴァ山麓まで続いている。
それを使って、今市民の殆どの避難が完了したとの報告をジェンマさんから、俺
達は受けたところだった。
「これで大暴れできるって感じだねMr.オオワシ~」
1人ニコニコ顔で言うシノブ。
(さーてどうしたものか……)
そう考えていると……。
「取りあえず、状況を把握しよっか」
ミオンが言った。
「そうだな」
ミオンの言葉に頷き俺は言った。
◇◇◇◇◇
テネア冒険者支部の屋上に上がり、俺は変身する。
「 チェインジング!(Changing)」
の掛け声と共に俺の体が光だし変身した。
そしてすぐさま、フェニックスを召喚し、合体シーケンスに入る。
両腕をフレイムアームに変えジャンプするそして両掌から勢いよく炎を出し、
そのまま上昇する。
「聖獣合体だ!こい!Phoenix」
≪Charge up Garuda≫
頭の中のカーソルを選択する。
するとPhoenixは俺の真上に来て、俺と平行に飛び、俺の背中付近に近づく
と両足と腹部の一部を体の中に収納しそして、俺の背中に合体すると同時にPho
enixの首が胴体部分に収納され短くなる。
「完成!Garuda!」
ガルーダ形態になった俺は、街を覆うシェルター(貝殻型)ぎりぎりまで上昇し
、街を空から見て回った。
クラーケン3体は、守備艦隊が出た2つの運河から侵入し、街の手前にある湾ま
で入って来て、そこでこの街の守備隊を蹴散らし上陸。
街に張り巡らされた運河に沿って暴れまわっているようだ。
3体はそれぞれ、街の中央とその北側と南側の3方に分かれて暴れまわっている。
その内、俺は中央のクラーケンを上空から見て驚いた。
「なんじゃこれ!」
”ピッ”
≪名称 クラーケン ≫
≪戦闘力 80,000≫
≪防御力 70,000≫
≪スピード 6,000(100)≫
≪MP 1,000≫
≪特技 触手、タールの炭、毒の爪、スクリュー攻撃 ≫
※カッコ内は陸上歩行時。
驚いたのは頭の中に浮かぶ数値ではない。
クラーケンと呼ばれる魔物が、自分の思うイメージではないからだ。
見た目、体長25mの巨大なイカ……でも、ちょっと違う。
殻を纏った(まとった)イカ!?
頭(本来は腹なのだろうが)の部分が長円錐形の殻になっていて、しかも、殻の
表面には網状……と言うかドリルにも見え、足!?と言うか触手は5本。大きな目
に恐らく触手に隠れているが、口があると思われる。
偵察を終え、一旦、皆の所に戻り、頭に浮かんだクラーケンの数値と共に、俺が
見たクラーケンの姿を説明すると……。
黙って聞いていたシノブが言った。
「それはおそらく……直角貝ではないかと思うよMr.オオワシ」
「「「チョッカクガイ!?」」」
シノブの言葉に俺、ミオン、ゲキが驚き叫んだ。
「なにそれ、シノブ?」
とミオンがシノブに聞くとシノブは、俺達に説明してくれた。
チョッカクガイ(直角貝)は、オルドビス紀に出現した、直線的な殻を持つ軟体
動物門オウムガイ亜綱直角石目の頭足類の総称だそうで、現生のオウムガイと形態
的な類似点はあるものの、チョッカクガイの系統は三畳紀-ジュラ紀ごろに絶滅した
そうだ。
シノブの特異満々な説明を聞いていたゲキが言った。
「で、どうするだ」
「あっ……そうね」
とさっきまで、シノブの説明を聞き入っていたミオンがゲキの言葉に返す。
「ん……じゃ、セイアは単独で中央の奴お願い」
「ああ、分かった」
ミオンに言われ俺は頷く。
「そんでもって……」
と言いながら、シノブ、アイーシャさん、エドナさんの顔を見て
「3人は南側の奴を」
とミオンが言うと、シノブ、アイーシャさん、エドナさんは真剣な面持ちで頷く。
「で、残りのゲキとソフィーにクレアさんは私と一緒に北側の奴に当たりましょ
う~」
「心得た」
「「はい」」
ミオンの言葉に、頷き言うゲキ、ソフィーにクレアさんだった。
そして、俺にミオンが唐突に言う。
「あっ、セイア悪いけど、ユニコーンをゲキに、そしてフェニックスをエドナさん
に貸してくんない?」
「ん?」
ミオンの言葉に俺が頭で?を受けべていると……
「どうせ、街中で、あれ(ガルーダスパーク)使えないでしょぉ~」
とニコニコ笑いならが言うミオンに俺はきょとんとして、
「まぁいいけど」
と答えるのであった。
(まぁ、ミオンに何か考えがあるんだろう)
直角貝ってイメージはあたんですが、調べるまで名前を知りませんでした。
てっきりイカの先祖だと思ていた ごはんであります(汗)




