123話 全滅!テネア守備艦隊
------第三者視点---
時間は少し戻ります。
海運都市テネア沖10数Kmの海底。
体長25mの魔物が3体海底の大岩付近に居るその前に。
その男は居た。
名前はインヴィクタ……オブリヴィオンで、嘗てセイア達が戦ったサディコ将軍
やデロべ将軍を従える大将軍。
アントマン(オブリヴィオン下級兵士)を数体従え、今まさに命令を下す。
≪狙え≫
インヴィクタ大将軍に命令された3体のアントマンは、大きな筒を構え、大岩付
近に居る巨大な魔物に向け構える。
≪放て!≫
その言葉に3体のアントマン達が構えた大きな筒から魚雷のような物を放った。
”ボシュ”
”シュルシュルシュル~”
後部から泡を吹き出しながら、大岩付近に居た巨大な魔物に向かって行った。
3体の巨大な魔物は、自分達に向かってきた魚雷のようなものを見て、何本もあ
る触手を開き、そこから見える大きく、そして丸く、無数の尖った歯を見せながら
口を開けて吸い込んだ。
吸い込まれた魚雷は魔物の口の中に入ると、
”ボン”
と鈍い音をたて、一瞬魔物の体が膨らんで……元に戻る。
その様子を確認したインヴィクタ大将軍は、側に居たアントマンに目配せすると
、それを見た1体のアントマンが、野球のベースくらいの大きさにパラボラアンテ
ナが付いた装置のような物を大将軍の前に置き、装置のパラボラアンテナを魔物達
に向けるとインヴィクタ大将軍は、その装置を両手で抱えるように触れると、何や
ら念じる。
しばらくすると、巨大な魔物達は急に眼が血走り、暴れ出したかと思うと、イン
ヴィクタ達を襲いだした。
次々と巨大な魔物3体が長い触手を伸ばし、アントマンを絡めとると、そのまま
触手で握りつぶしたり、触手で絡み取ったアントマンを口へと運び食べたりして行
った。
そして、そんな中インヴィクタにも魔物の触手の一つが襲おうとするが……。
インヴィクタに触手が触れたとたん
”バチ”っと音がして、触手を勢いよく弾いてしまった。
≪ふん!この俺の特技は、あらゆる攻撃を弾くんだよ≫
◇◇◇◇◇
------第三者視点---続きます。
都市テネアを大きなシャコガイの形状のシェルターが覆った。
本来、シャコガイの貝殻は放射状の溝が波状に湾曲しているが、上下の貝殻が合
わさる時、それがかみ合い硬く殻を閉じるようになっている。
しかし、テネアのシェルターの場合下の貝殻がないため、その溝がかみ合うこと
はないが、この溝の部分は丁度テネアの街の湾に入る為の運河になっており、その
運河に溝が重なっている。
シェルターを閉じても船が出入りできるように設計されており、万が一そこから
敵が侵入してくる恐れがある時には、運河側からシェルター溝側へ防御壁がせり出
し、塞ぐようになっているのである。
今回は、5つの内3つを防御壁で防ぎ、残りの2つの出口から、2隻ずつ帆船が
テネア沖へと出港して行った。
その行先は……。
都市テネアから数10km先にある海域であった。
テネア沖数10kmで漁をしていた、海運都市テネア所属の漁師達の漁船が、3
体の魔物に襲われ、辛くもその魔物から逃げ果せた数隻の漁船から連絡を受けたテ
ネア行政府が、常駐するケナイ海軍都市の海軍に知れせ、魔物撃退に向かわせたの
であった。
先ほど出港した帆船4隻は、そのケナイ海軍がテネアに常駐している戦艦であ
る。
◇◇◇◇◇
------第三者視点---まだ続きます。
双眼鏡で海上を見ていた男は、辺りに散らばる船の残骸を見て言った。
「この辺だろう~船を止めよ」
その言葉を聞いて、男の横に居た部下が叫ぶ。
「帆を降ろし、漕ぎ手を止めよ!」
その言葉に他の部下たちが口々に同じ言葉を叫びながら甲板を走り回り、マストに
張られた帆を降ろす者達や、船底に向かって走り、船を漕いでいる漕ぎ手のオート
マトン(作業人形)への魔力供給を止める。
そして、また別の部下達はこの船後方を航行する船に手旗信号で上司の命令を伝
えた。
それを見た後方の3隻の船は、この船の左右一列に並んで船を停止させた。
「全船、所定の位置に着きました司令!」
部下からの言葉を聞いて、その男は頷くと、
「いぶりだす……とするかな」
と側に居た部下に声を掛けると、その言葉を聞いた部下が叫ぶ。
「エコーを降ろせ!」
その言葉を聞いた他の部下たちが先ほど同様、同じ言葉を叫びながら数十人の船員
達が甲板に設置された装置につながっているホースのようなもので先端が逆円錐形
になった物を次々に甲板から海へと投げた。
投げ終えた船員達の内数人が、甲板の左右に分れ、この船に並ぶ他の船に手旗信
号で命令を伝えた。
そしてこの船の左右の船もこの船同様に、先端が逆円錐形になった物を次々に甲
板から海へと投げると、同じように隣に並ぶ船たちへと手旗信号を送った。
4隻すべての準備が整うと、
「準備できました司令!」
の部下の言葉に一つ頷くと。
「はじめ!」
と叫んだ。
その言葉を聞いた船員達はまず手旗信号で他の船に命令を伝える。
そして、甲板に控えていた魔導士と思われるローブ姿に杖を持った男が、その装
置に描かれた魔法円の上に立ち魔力を供給する。
この装置は”エコー”と言い。
魔法円に供給した魔力を音に変える装置で、この海に沈めた逆円錐形の部分から
、海の魔物が嫌がる音を出す装置である。
そして、他の船も同じことをした後、しばらくたった時である。
突然、一列に並んだ4隻の船の右舷側に3つの大きな水柱が上がったと思った瞬
間、それらは現れた。
”ドッバーン”
「司令!右舷クラーケン3体が現れました!」
「うむ、右舷、撃ち方用意」
「はっ」
司令と呼ばれる男の言葉に部下が返事すると、その部下が大声で船員達に言う。
「右舷、撃ち方用意!」
その言葉に他の部下(船員達)が同じ言葉を叫びながら甲板を走り回り、その内
の1人が、甲板下から船底に掛けて設置された砲撃用の3つの層に順番に降りなが
ら、各砲撃要員に命令を伝えて行く。
命令を聞いた各層の砲撃要員は、その言葉を聞き、右舷に昔の大砲(中世で使わ
れた)に似た物を、船の右側にある砲撃用の窓を開け突き出し、発射準備をした。
当然この命令は、その間に、他の船にも手旗信号で伝えられる。
この我々の世界で中世に使われた大砲ような物は、”ケナイの火”と呼ばれるも
ので、我々の世界の大砲のように火薬を使って鉄の弾を打ち出すのではなく、製法
がケナイの都市の極秘になっているため、詳しくは解らないが、我々の世界で言う
松脂、ナフサ、酸化カルシウム、硫黄の混合物を土属系魔法で、人間の頭大に丸く
固めた物を大砲のような金属で出来た筒の中に入れ、火系魔法で点火と同時に風系
魔法で飛ばすというものである。
したがって、この砲の砲撃には一門に付き2人が担当し、それぞれ火系魔法担当
と、風系魔法担当に分れ、2人で息を合わせて打ち出さねばならない。
この2人の息がもし合わない場合、暴発する恐れもある。
そのため、この砲撃担当の人員はかなりの訓練を積まないと成れず、ケナイ都市で
はエリート扱いをされているのであった。
これは、ケナイ都市の人々には複数の魔法を使える所謂、魔術師や、その上位の
魔導士の数が少なかったため、また、海上で戦闘系の火魔術を使っても海に居る魔
物の多くは水属系の魔物が多いため、魔法の相性で分が悪くまた、大型の魔物の多
い海では、その属性の不利を退けるだけの出力がある火魔法を使える者が少なかっ
たこともあり、長年の研究の末作られた、いわばケナイにとっては秘密兵器である。
因みにこの”ケナイの火”は水に触れてもすぐには消えるものではなく、例え水
の中に入っても、暫く燃え続けると言う特徴がある。
「右舷、撃ち方初め!」
その司令官の言葉に側に居た部下が
「右舷、撃ち方初め!」
と叫ぶと先程同様に、船員達が各層にある砲撃要員に伝えると同時に、他の船にも
手旗信号で命令を伝えた。
”ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ”
”ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ””ボシュッ”
横一列に並んだ4隻の船の右舷にある1隻あたり60問の砲……合計240もの砲
から、一斉に火の玉は放たれ、240個の火の弾が3体の巨大なクラーケンに襲い
掛かった……。
しかし、その時である、3体クラーケンが襲い掛かる240個の火の玉に口から
粘り気のある炭のような液体を一斉に吐いた。
そして、その3体のクラーケンが吐いた炭のようなものが空中で、あたり一面を
覆うような膜となり、240個の火の玉を包み込んだだけでなく、そのままその大
きな膜は、横一列に並ぶ帆船4隻に襲い掛かった。
「なに!」
司令官と呼ばれる男がそう叫んだ時、4隻の船はその膜に覆われていた。
◇◇◇◇◇
------第三者視点---まだまだ続きます。
膜に襲われた4隻の船は……。
黒いコールタールのようなものがべっとりと船全体にこびり付いて、それが硬く
固まっていた。
そして、甲板に居た司令官を含む部下の船員達すべてが、真っ黒な人形のように
固まり……死んでいた。
そして、船室に居た砲撃要員たちも、”ケナイの火”を放為、砲を突き出していた窓から入って来たそのコールタールのような物に襲われ甲板の船員達同様黒い人形のように襲われる直前の姿で固まり死んでいた。
そして、真っ黒になって、ただ海に浮かぶだけの4隻の船に対して、3体のクラーケン達が、それぞれ触手を絡みつけ、締め上げた。
”メリメリメリ~”
”バキッ”
”バキバキバキ~”
クラーケン3体の触手に締め付けれれた4隻の船は、やがてその力に耐えきれず、次々に破壊されて行き、コールタールで固まった船員達と共に海の藻屑となり消えて行った。
そして、3体のクラーケン達は、テネアに向け海を進むのであった。
ケナイの火はギリシャの火をアレンジしました。




