122話 プレッシャーリフト
「スゲー!」
俺の言葉にミオンも同意する。
「ホントすごいわね~」
「まるで勇者ギガディーンの秘密基地を大きくした感じだねぇ~」
とシノブも言う。
しばらく歩くと都市テネアの入国ゲートが見えて来た。
人用・荷物用に分かれており、人用は更に、冒険者・傭兵用ゲート、一般用ゲー
ト(観光)それに商業用ゲートに分れたいた。
俺達は当然、冒険者・傭兵用ゲートに並ぶ……って誰もいないや。
ゲートに立つ、革鎧を着て腰に剣を指している騎士?らしき2人の内の1人に、
俺は冒険者証を渡すと、その騎士はゲートの壁にあるミニ黒板に俺達の冒険者証を
あてがうと、”ピ”って音がしてメンバー表が現れたので、そのうちの8名が入国
する旨を伝えると、騎士は何も聞かず俺達をそのまま通してくれた。
(なんか拍子抜けだな)
街のあちこちに運河が張り巡らせカラフルな建物とマッチして、とても美しい街
並み。
また、運河にはゴンドラ (船)が荷物や人を載せて、ひっきりなしに通っており宛
ら、イタリアのベニスみたいだ……って行ったことないからわからんけどね。
などと考えながら、冒険者ギルド”テネア支部”の建物を目指した。
ほぼ街の中心に位置する冒険者ギルド”テネア支部”の建物は、本部と同じく黒レ
ンガ造りの……10階建ての建物!?が見えて来た。
(本部より高いのか!)
ギルド支部裏庭にある馬小屋にバイクを預け建物の中に入る。
因みに冒険者証を馬の世話係に見せたら、無料で預かってくれるそうだ。
1階エントランスは本部とさほど変わらない……本部より少し小さいか……。
受付は1階にはC級B級しかなくA級S級は2階にあるそうだ。
建物の大きさは本部より小さい分上に高くしてあるようだ。
中央エントランス奥にある階段で俺達は2階に上がり、冒険者S級受付に向かっ
た。
受付で、到着手続きを済ませ、ついでに手持ちのお金1千6百万ドルマを”預かり
”してもらい部屋の鍵を受け取った。
これは、本部の部屋を登録すると、各支部でも自分達のチームの部屋が当てがわ
られる仕組みになっている。
それだけに、本部の部屋を抑えるのには、莫大なお金がかかるらしいが……。
(俺達は、イーシャイナ国王持ちだからいくらか知らないけどね)
「部屋は8階になります」
と受付の人に言われ、俺、ミオン、ソフィーは、ゲッソリした顔をして、
「えっ―――8階まで階段!」
と思わず叫ぶミオンの言葉を聞いた受付のおねえさんが、
「えっ?無理に階段上がられなくてもプレッシャーリフトをお使いになれば?」
ときょとんとして言うので、俺が思わず聞き返す。
「えっ、プレッシャーリフトって?」
「えっ……なんとご説明いたしましょうか……昇降機……とでも言いましょうか」
「はい~!?昇降機ってエレベーターあるんですか!」
と驚き大声で聞き返すと、受付のおねえさんは少し困った感じで、
「あっその~エレ何とかかどうかわかりかねますが……」
「おねえさん!それって、人や荷物を載せて上に行ったり下に行ったりするやつ
ですか!」
と俺を押しのけ、カウンターに身を乗り出して言うミオン。
「あ……そ・そうです上に行ったり下に行ったりするやつです」
勢いよく聞くミオンにタジタジになりながら、そう答える受付のおねえさん。
「やったねぇ」
と何故かミオンは俺とソフィーにハイタッチをしてくる。
そんなミオンに困惑しながらもハイタッチする俺とソフィーであった。
◇◇◇◇◇
エレベーター……もとい、プレッシャーリフトの場所をおねえさんに教えてもら
い向かった。
このプレッシャーリフトって要は水圧で、ゴンドラ(エレベーターカーゴ)部分
を押し上げ運ぶと言うもので、原理は単純ながら、さほど違和感はない……って言
ったら嘘になるな。
水の上に浮かんでいるので、バランスよく乗らないとゴンドラが傾くし、多少揺
れながら上がるので、慣れないと違和感がある感じだ。
とは言うものの、階段で8階まで上がることを考えるとありがたい装置だと思う。
◇◇◇◇◇
プレッシャーリフトで8階まで上がり、プレッシャーリフトを降り……ハッチ型
の扉っをあ・け・る!
硬いハンドルを回して重い扉をやっとの思いで開けて降りた。
「ふっ~」
(これはこれで大変だな)
"Team Ultimate"とドアに描かれた部屋の前で、ドア横にあるミ
ニ黒板に冒険者証を宛がうと、”ピッ””カチャ”って音がしてドアのロックが
外れた。
皆で部屋に入ってみると、そこは20畳のワンルームって感じの部屋だ。
部屋の大きさだけなら、本部にある俺達の部屋と同じだが、本部の場合は寝室が別
だったのに比べここは、この20畳の部屋の奥の壁側に2段ベットが6つ並んでお
り、また、シャワールームも本部の部屋は、5人が一度にシャワーが浴びれるのに
対し、ここは2人分のシャワールームがベットと反対側にある。
それに、キッチンも小さめで簡素な造りになっていた。
ソファーもあるにはあるが、4人しか座れないし、その前のテーブルも小さい。
一応トイレも2つシャワールームの横にあった。
(まぁ宿場の宿よりは、快適そうだけど)
それにそれに……大きな窓が入り口反対側にあるんだけど、開かないし、目の前に
は、海運ギルド本部の建物があり、オーシャンビューの景色を楽しめるものではな
かった。
(あれ、窓開かないのにこの部屋熱くないな……)
って思っていたら、窓側の壁にクーラー?いやウインドファン?と思わしき、空調
機が……。
後でギルド支部の人に聞いたら、冷風魔動機(水と風魔法の魔動機)とのことだ
った。
荷物を適当に部屋の隅に置き、ソファーで寛ぐ俺とシノブとゲキ。
女性陣はベットに座っておしゃべりをしていた。
(女性陣は5人なのでソファーでは座れないからね)
しばし、部屋で寛ぎ、飲み物でも出して飲もうかな?って思った時だった。
≪トゥルントゥルン!トゥルントゥルン! ≫
突然、部屋……いや建物中に鳴り響くような警報音がした。
「うん?」
「えっ!」
「なんだ!」
「Whoa!」
「え――なになになに」
「なにごと!」
「わー何でしょう」
「ニャに~?」
俺、ソフィー、ゲキ、シノブ、ミオン、クレアさん、エドナさん、アイーシャさん
皆驚き声をあげた。
そして夕方ではあるが、まだ日があるはずのこの季節と言うのに、あたりが暗く
なって行く。
「Mrオオワシ!確かこの建物は、屋上に上がれたはずだ」
と俺に言うシノブの言葉に、ミオンが
「じゃ、屋上に上がってみましょう」
そう言って、シノブと共にミオンは部屋を飛び出していった。
「おいおい、2人共……」
部屋に残された俺、ゲキ、ソフィー、にクレアさん、エドナさん、アイーシャさん
と皆で顔を合わせ。
「仕方ないな~」
と言いながら俺は席を立ち、ミオンとシノブを追いかけようとした時に、ゲキが
俺に言った。
「セイア俺は、下に行って事情を聴いてこようか?」
「あ?ああ」
「どうせ、この騒動だリフトとやらは使えまい」
(確かに、俺が下に聞きに行って、最悪リフト使えなかったら、体がもたないかも
……)
「ん?そうだな、悪いが頼めるかゲキ」
「ああ、じゃぁ、ひとっ走り行ってくる」
そう言って、足早にゲキは部屋を出て行った。
俺は、ゲキを目で見送り、ソフィーとクレアさん、エドナさん、アイーシャさん
に向かって言った。
「4人はここで待ってて、俺はミオン達を見に行ってくるから」
と俺が言うと、4人は俺に黙って頷いた。
◇◇◇◇◇
ミオンとシノブを追って階段で屋上まで上がると。
≪トゥルントゥルン!トゥルントゥルン! ≫
どうやら、この建物の中だけで鳴っているのではなく、街中に警報音が鳴り響い
ているようだ。
暗くなった原因は……天井が……例の貝殻のような外壁が街を覆っていたからだ
った。
しかし、街を覆った外壁(貝殻)が閉じた途端、天井(貝殻)に設置されてる明
かりの魔動機が作動して、あたりは急に明るくなった。
「ん?」
俺は思わず明るくなった天井を見て、魔動機を確認して納得した。
ミオンとシノブは、何処から持ってきたのか、大きな樽の上にそれぞれ乗り、シ
ノブが持っていた双眼鏡を代わる代わる覗きながら、何か話しているようだった。
「なんか帆船が四隻外に出て行くみたいだよシノブ~」
「どれどれ、かしてくれたまえ、Missシラトリ」
そう言ってミオンが覗いていた双眼鏡を受け取りシノブが覗いてみる。
「あ・あれはガレオン船……ん?違うな戦列艦だと思うよMissシラトリ~」
「戦列艦ってなぁに?」
「ん……大航海時代初盤に出来た帆船のガレオン船、それを戦闘用に砲を60~1
00ほど撃てるように改良した船だよ。数隻から数十隻で単縦陣を作って海戦を行
うことから戦列艦って呼ばれているんだったかな?」
「ふ~ん要は帆船の戦艦ね」
とシノブの熱心な説明を簡単に片づけるミオンに、シノブは少し言葉に詰まり、
「ん・まぁそう言うことだねMissシラトリ」
少々投げやりに言うシノブだった。
そんな2人に俺が声を掛ける。
「お~い!ミオン~!シノブ~!」
そう言いながら俺は2人に近づき
「で、何かわかったのか?」
俺の問いかけにミオンが少し考えて、
「ん……戦艦が4隻出て行ったかな?」
「ん?それだけ?」
とミオンの答えに俺が少々呆れぎみに言うと、
「うん……それだけ~」
と真顔で俺に言うミオン。
「恐らく、何かが襲来したんではないか~Mr.オオワシ」
と横からシノブが俺に言う。
そんなシノブに俺は言った。
「そんなことは見ればわかるだろう~」
って呆れぎみに俺が言うと、シノブは両手を広げてお手上げポーズをとる。
「今、ゲキが下の受付に行って、状況を聞きに行っているから……」
そう2人に俺が言うと、”ああ”って顔で俺の顔を見るので、
「兎に角、ゲキが戻るまで部屋で待ていようよ」
と俺が2人に言うとミオンとシノブも俺の言葉に頷いた。
◇◇◇◇◇
俺がミオンとシノブを連れて部屋に戻って暫くすると……。
”ガチャ”って部屋の扉が開き、ゲキが部屋に入ってくるなり言った。
「3体のクラーケンって怪獣の襲撃らしいぞ!」
「「「「「「「クラーケン!」」」」」」」
ゲキの言葉に俺を含めた他の皆が驚き、声をそろえて言った。
(ん……クラーケンって怪獣→ではなく海獣?か海の魔物の聞き間違いだと思うよ
ゲキ)
俺は真顔で怪獣って言ったゲキを見て心にそう思うのであった。
都市テネアはこの異世界での海洋未来都市風ってことで。




