114話 ゲキVS九尾
------ゲキ 視点---
気が付くと、俺は霧が立ち込める松林?と思われる所に立っていた。
何かの気配を感じ、俺は背中の斬馬刀へと手を掛けた……その時だった。
何処からともなく女の声がした。
「ゲキ……そこに居るのはゲキなの?」
(ん?なんか聞き覚えがある声)
俺はそう思いつつも警戒を緩めず、いつでも斬馬刀を抜けるように構えを取って
いると。
霧の中から突然俺の目の前に女が”ぼわっ”と現れた。
白っぽい着物姿の女性。
(ん?見覚えがあるような……)
俺は、そう思い斬馬刀から手を放した。
「やっぱりゲキだったのね……ずいぶん大きくなったわね」
「……」
女は俺にそう言うと、
「私よ……ゲキ、お母ちゃんよ」
そう言いながらニッコリ笑って両手を広げた。
「……」
それでも黙っている俺に女は、”はぁ~”とため息を付いて、
「無理もないか……まだ小さかったものねぇ~」
「俺の母ちゃんと父ちゃんは交通事故で無くなったはずだ」
女に俺がそう言い返すと、
「誰がそんなことを!」
と少し目を見開いて言う女。
「ばあちゃんだ!ばあちゃんから俺は聞いた」
俺の言葉に女は”はっ”とした感じで目を一瞬見開いたが、その後少し悲しい目つ
きで、
「そう、お母さまがそう言ったのか……まぁ仕方ないわよねぇ~あれから何年も経
っているし……幼いあなたにまさか九尾との戦いで……って言ってもねぇ、わかん
なかったでしょうしねぇ」
その女の”九尾”と言う言葉を聞いて俺は衝撃を受けた。
「なに!九尾」
九尾とは、九尾の狐9本の尻尾をもつ妖狐。
つまり、狐の妖怪である。九尾の妖狐、九尾狐、または複数の尾
をもつ狐の総称として尾裂狐とも呼ばれ万単位の年月を生きた古狐が
化生したものだともいわれ、妖狐の最終形態の存在であるとされる。
俺の流派「撃心流」の当主は代々この妖怪……妖と戦いを繰り返していたのだっ
た。
「そうよ、あの時、私と父ちゃんは九尾と戦っていたのよ」
真剣なまなざしで、そう俺に話し出した女。
女は、なおも話を続ける。
「あの時、私と父ちゃんは何百年ぶりかに現れた、九尾と戦っていたの……そして
あと一歩のところで、九尾を仕留められるところになって、突然空中に現れた穴に
吸い寄せられて、九尾共々この異世界に飛ばされてしまったのよ」
「なんだって!異世界転移!?」
女の言葉に俺は目を見開いてそう思わず叫んでしまった。
俺の叫んだ言葉に女は黙って頷いた。
(確かにセイアも魔物に襲われた直後、この異世界に飛ばされてはいるが……)
「じゃ、本当に母ちゃんなのか?……でも、父ちゃんは?九尾は?」
そう立て続けに聞く俺に、女はこう答えた。
「父ちゃんはね……この世界に飛ばされた直後、トロル?トロールだっけか、その
魔物に囲まれていてねぇ、その戦闘で……大きな傷を負い……それが元で……」
「そして私達がトロールと戦っている隙に九尾は取り逃がしたの」
「なんだって!父ちゃんがトロールごときにやられるなんて!」
俺の叫びに、女は目を伏せ涙ぐんで言った。
(やはり、この人(女)は母ちゃんなのか!?)
信じたい、この人が母ちゃんであってほしいと、思う気持ちが俺の心に湧き上がる…
…が、同時に信じてはいけないと言う衝動も湧いてくる。
(信じたい……でも、何か違和感がある)
涙ぐみながら女は話を続ける。
「普通なら父ちゃんだって、やられるような人じゃないんだけど、数が多かったの
と、その前の九尾との戦いで私が深手を負っていたの。その私を庇ったのが原因な
のよ」
その時俺は思った。
(違和感はこれだ!)
悲しそうに涙汲みながら話をするその女に向けて、俺は背中の斬馬刀を抜き切りつけた。
「秘儀!一刀両断!」
俺が斬馬刀を切りつけると、その女は目を見開き、後方に跳び俺の斬馬刀を避けた。
そして、空中に制止したまま、あの優しかった母ちゃんの顔から獣の顔に代わり、
「おのれぇ~!小癪な小僧のめっ!」
そう言うと見る見る身長2mで、尾が9本の狐……九尾の姿に変わっていた。
「なっなぜ……」
物凄い形相で俺を睨みつけ言う九尾。
「なぁ~に簡単なことさ、母ちゃんは父ちゃんのことを”父ちゃん”とは呼ばない
んだよ」
俺の母ちゃんは父ちゃんのことを”しんさん”と呼んでいる。
これは下峠 心からそう呼んでいるのだった。
「何っ!馬鹿な!俺はお前の心をちゃんと覗いたはずだ!」
そう唸りながら言う九尾に俺は軽く言ってやった。
「悪いな!昔のことで、さっきまでそれを忘れていたんだよ」
「キェー!」
俺の言葉に九尾がそう叫び声をあげると口から石を吐いた。
九尾の吐いた拳大の石が俺目掛けて飛んでくるのを、俺はとっさに斬馬刀で真っ
二つに切り裂くが……。
「ゲホゲホゲホ」
俺が切り裂いた石から毒ガスが吹き出し、そのガスを俺は少し吸ってしまった。
(そうだった、九尾は殺生石と言う毒を吹く石を吐くんだった)
俺は、その場から飛びのいた。
「小僧、しぶといな……ならば!」
そう言うと九尾は空中で九つに分身し、俺の周りをまわりだし、次々と口から殺生
石を吐き出した。
「撃心流奥義の1つ 旋風返し!」
俺は斬馬刀を回転させて、風を起こし殺生石を次々に弾き飛ばす。
「おのれ~小僧の癖に、奴と同じ技を我に使うか!」
そう苦々しく言う九尾。
九尾がそう言う間、分身の動きが止まっているのを見てすぐさま、俺は後ろに
生えている松の木の幹に気を流し、
「撃心流奥義の1つ 松葉手裏剣!」
俺が気を流した松の木の、枝という枝に生えている松の葉が、空中に制止する九つ
の九尾を一斉に襲う。
”シュンシュンシュン”
”ブシュ”
次々に八つの九尾が”ぼわっ”と消えて行く中、九つ目の九尾が左目から血を流し、
「ギャー!」
と叫び地面へと落下した。
”ドサ”
地面に落ちた九尾は姿を消した。
「おのれ……」
何処に居るのかはわからないが、何処からともなく九尾の声がする。
俺は目を瞑り、印を結び……そして今度は、俺の右の方にあった松の木の幹を手
刀で軽く叩く。
「撃心流奥義の1つ 木霊叩き!」
”コン”
と言う軽い音が、松の幹から発したかと思うと、その”コン”と言う音が、次々に他の松林にあるすべての松へと、木霊ように広がって行き、互いの音が反響し合って行く。
≪≪≪≪≪コン~≫≫≫≫≫
”ガサガサ”
”バッサ~”
と音がしたかと思うと俺の目の前の地面から急に九尾が、頭の両耳を手で押さえながら現れて、
「ぐぎゃぁ~!!頭が割れる!」
姿を現した九尾に対し、俺はすかさず、
「秘儀!一文字切り!」
と叫びながら九尾の体を真一文字に切り裂き、振りぬきざまに振り返り、
「秘儀!一刀両断!」
と叫びながら九尾の九つの尻尾を切り離した。
「ばっ馬鹿な、この俺がや……」
そう言って九尾はこと切れた。
斬馬刀を振り、奴の血を飛ばすと、背中のさやに納めた。
”ぐぅ~”
その時、俺の腹が鳴った。
「あぁ~腹減った~」
と倒れた九尾の死体を見つめながら……
「こいつ、食えないかな……?」
◇◇◇◇◇
------ソフィー視点---
わたくしは居てもたってもおられず、自分の身の程を弁えもせず、魔物除けのテ
ントを飛び出し砦の方へ走り出してしまいました。
(セイア様、ミオン様、皆さま……どうかご無事で!)
そう思いながらわたくしは、魔物の砦を目指し走りました。
あちらこちらに魔物の死体が転がっている中、ようやく砦内に到着すると。
「あ~まずい……もう食べれないよ~」
と砦の周りに生えていた、植物の魔物を平らげて体を反らしながら言う電ちゃんさ
んを見つけました。
「電ちゃんさん!」
と声を掛けると、ゆっくり私の方に振りむき、
「あっソフィーっち、ダメじゃないか~テントに居ないと」
と言うので、わたくしは、事情を電ちゃんさんに説明しました。
「えっ、連絡取れないの?」
その言葉にわたくしが頷くと、
しばらく、電ちゃんさんは目を閉じて顔をキョロキョロとさせたかと思うと、
「あの建物の2階部分に生き物がいるよ」
「えっ、セイア様!?」
そう言うわたくしに電ちゃんさんは首を振り、
「いや、セイアっちではないと思う」
「えっ、では……」
「そこまでは僕にもわからないよ。」
「僕のこの鼻孔と眼の間に1対ある頬窩 (赤外線感知器官)で、獲物……生
き物を察知できるだけだから」
「では……」
「うん、ミオンっち達かもしれないし、まだあそこに魔物が居るのかもしれない」
「そうですか、でも確かめてみないと……」
「ソフィーっちそれは危険だよ、もし、魔物だったらどうするのさ~」
と言う電ちゃんさんに、わたくしはニールさんに作っていただいた、魔法スティッ
クを握り締め言いました。
「わたくしには、これがありますから」
真剣な眼差しで言うわたくしに電ちゃんさんが少し考えてから、
「ん……わかった、じゃ僕も行くよ」
「えっ、でもあの中には電ちゃんさん……」
と言いかけたわたくしに電ちゃんさんはニッコリ笑って、
「僕、体の大きさ自由に変えれるの知ってるでしょソフィーっち……それとももう
忘れたの~?」
(ああ、そうでした)
電ちゃんさんの言葉にそう思った私の目の前で、電ちゃんさんは体を体長25m~
2mへと縮ませました。
「これで、入れるっしょ」
と私に言うと、
「じゃ、行こうソフィーっち」
その電ちゃんさんの言葉に頷き、わたくしは電ちゃんさんと一緒に建物2階へと向
かうのでした。
(どうか、魔物ではありませんように)
そう願いながら。
ゲキの過去に少し触れてみました。




