109話 強行偵察
今回ちょっと短めです。
アメリオさんの話を聞いて、エドモンド王の真の依頼の意味を知って、少々呆れ
た感はあるが、そのまま打ち合わせを続ける。
「まぁ、何とかご期待に沿えるよう頑張ります」
と俺がアメリオさんに言うと、アメリオさんが、
「いや、……必ず成功させてください。そうでなくても、もう2週間も魔物達に挟
まれ、ここに来た商隊はイーシャイナ王国にもデスロ同盟国も進めず難儀しており
ますし、何より新たにここに物資が届かないので、宿場の維持がかなり困窮してお
るんですから」
とため息を付くアメリオさんに俺が言った。
「えっ、魔物達に挟まれて?って、もうデロス側の魔物は俺達が退治したので、デ
ロス側に向かう商隊は出発できますが?」
と答えると、アメリオさんが、
「えっ、」
って言って絶句した。
「今なんとおしゃいました?」
と聞き返すアメリオさんに
「ですから、デロス側のルートの魔物はもういませんよ」
と俺が言う。そして、そこにシノブが加えてアメリオさんに言った。
「Mr.アメリオ……僕たちはデロス側からやって来たのだ。僕たちがここにいる
と言うことはその証ではないかい?」
と付け加えるシノブの言葉にアメリオさんが急に力が抜けへなへなとなった。
「Missアイーシャ、MissクレアにMissエドナMr.アメリオに僕たち
の成果を見てもらおうか?」
と言うシノブの声に3人がマジックボックス中から、次々と倒した魔物の素材を出
しテーブルに並べる。
その数に驚き固まるアメリオさん
「ほらね、どうだいMr.アメリオこれでも信じられないかい?」
「……」
何も言えないアメリオさんに俺は一言付け加える。
「今朝早く、デロス側からこちらに緊急物資を運んだ馬車の一行が向かってるはず
です、遅くともお昼には、ここに到着するはずですよ」
「なんと!」
俺の言葉を聞いて、そう声をあげるアメリオさんであった。
◇◇◇◇◇
交易ギルドの出張所の木造の建物の裏手には、黒い煉瓦(パルタスで見たものと同
じ)造りの5階建ての建物が2つある。
一つは、傭兵達が泊まる宿屋で、これは小さい窓がいっぱいある。
その理由は、傭兵達は単独で活動しているので、所謂シングルルーム専用の宿屋
って事らしい、それに引き換えその隣の宿屋は窓が大きい。
これは、冒険者達は6人以上で行動するために、6人単位で泊まれるようになっ
ているので、部屋の大きさが違うのだとか。
俺達は左側の建物つまり、冒険者専用の宿屋へと向かった。
『宿屋108T』因みにこのTはTreasure hunterのTってことら
しい。
序でに言うと、お隣の宿屋は『宿屋108M』mercenary(マーセナリ
ー)のMって言うことらしい。
宿屋に入り、フロントで空き部屋を聞き、6人部屋を2つ借りることにした。
1泊1万5千ドルマ(部屋単位で素泊まり)なので部屋2つで3万ドルマになる。
安いのか高いのかよくわからない。
とりあえず、2日分の宿代6万ドルマの料金を前払いで、クオーター金貨2枚と
銀貨1枚を払い、鍵を受け取る。
因みにお隣の傭兵専用宿屋は、1人部屋のみで、1泊1千ドルマと言うことだ。
『5号室』と『6号室』、3階になるそうだ。
『5号室』の鍵をミオンに渡し、そちらを女子の部屋にしてもらい、俺達は『6号室』を使うことにした。
3階まで階段を上がり、女子と男子に分かれてそれぞれ部屋に入った。
広さは、病院の病室くらいだろうか……左右の壁に3つずつの簡素な寝るだけっ
て言う感じのベットが置いてあり、正面は大きな窓があり、部屋の中央には何もな
い簡素な部屋。
俺達男子は、3人でこの部屋を使うので、余った3つのベットに余分な荷物を置
き、置いた荷物(マジックボックス3つ)の中のマジックボックス中から、BBQ
用の簡易テーブルを2つだし部屋の中央に設置した。
女子の方は5人で6人部屋を使うので、余裕のある男子の部屋『6号室』を当面
の作戦室代わりに使うためだ。
”コンコン”
「入るよ~」
とドアをノックして、ミオン以下女子のメンバーが入って来た。
「「「「失礼しま~す(にゃ)」」」」
ソフィー、クレアさん、エドナさん、アイーシャさんがそう言いながら、俺達の『
6号室』に入ると部屋中央の俺達が設置したテーブルへと座る。
「さてと、これからどうする?」
皆がテーブルに座り、ゲキが言った。
その時、シノブが席を立ち
「こう暑くては、いい考えも浮かばないだろう~まずは、冷たい飲み物を飲みなが
ら話そうじゃないか~」
そう言って席を立ちマジックボックスから、よく冷えたサイダーのペットボトルを
皆に配る。
「窓開けない?風が通れば少しは涼しいかもよ」
シノブがサイダーを配る間に、ミオンが席を立ち部屋の窓を開けた。
”スー”と風が部屋に通り
「う~ん良い風ね~」
そう言ったミオンの髪が風で揺れる。
窓を開け、席に戻ったミオンは早速サイダーを一口飲むと
「プハー、よく冷えてるわね~」
と言うミオンにゲキが少し呆れ気味で言う。
「お行儀悪いぞミオン」
「何言ってるのよ~サイダーはこうやって飲むのが美味しいんじゃない」
と悪びれることなく言い返すミオン。
その二人のやり取りを笑いながら見ていたシノブが俺に言う。
「で、これからどうするつもりだいMr.オオワシ」
「ああ、そうだな……結局、欲しい情報は宿場側からは得られていないのが現状だ」
「そうだな、正体不明の魔物が徒党を組んで……だけではな」
俺の言葉にゲキが言った。
俺は、一口サイダーを飲んでから、
「そこで、強行偵察を……」
って言いかけたら、ミオンが割って入る。
「強行偵察ってセイア、バリブリンはないんだよ」
「いや、分かってるよミオン……バリブリンが使えなくても俺がさ」
「なるほど……空からか!」
俺の言葉にゲキが言う。
「センサーの強化も、こないだしたところだし、高高度からなら比較的安全ってこ
とか……」
「僕はMr.オオワシの案に賛成だ」
俺の言葉にシノブが真っ先に賛成してくれた。
そのシノブの言葉にゲキも
「確かに、今の俺達で空を飛べてそれが出来るのは、セイアだけだからな」
と賛成してくれた。
そのゲキの言葉を受けて、俺にミオンが言う。
「じゃ、その間私達は……」
「待機しててくれていいよミオン」
ミオンの問いかけに俺がそう言うと、シノブが俺の言葉にこう言った。
「いや、ただ待機しているより、ここには冒険者や傭兵が少なからず居て、その砦を見たり、実際戦った者もいるかもしれないから、皆で手分けして聞き込みしようじゃないか」
「そうね、そうしようよ、町もついでに見て回れるし」
とミオンもシノブの案に賛成した。
◇◇◇◇◇
一旦、宿屋を出て、俺がいない間、何かあってはいけないので念のため、交易ギルドの出張所に皆で行って、冒険者受付で”預かり”で預けていた790万ドルマを降ろし、ついでに手持ち金貨7枚をクオーター金貨と銀貨に崩してもらい、それぞれ、1人金貨一枚分のクオーター金貨2枚と銀貨5枚を手渡しながら俺は言った。
「一応、聞きこみの軍資金ってことで」
「うん、じゃセイアも気を付けてね~」
「お気をつけて」
ミオンとソフィーの言葉に俺が頷く。
「まぁ、お前なら大丈夫だと思うが……」
そう言うゲキに俺は全財産の入った巾着袋を渡し、
「これ、預かっておいてくれ」
と言うと、ポカンとするゲキに
「何かあったら困るからゲキが預かっててくれ」
そう言ってゲキにウインクした。
「ああ、分かった」
その様子をジト目で見つめるミオン。
そんな中、
「Mr.オオワシあくまでも、偵察ってことを忘れないでくれ」
シノブの言葉に手を軽く上げて、
「ああ、分かってるよ」
と俺は答えた。
「「ご武運を!」」
「無理したらダメニャ」
クレアさん、エドナさん、アーシャさんの言葉に頷き、手を振りながら皆と別れ出
張所を1人出る。
前もって、宿場長のアメリオさんに聞いていた、宿場の東側の人気のない場所へ
と向かった。
何もない空き地……そこに着いた俺は辺りをキョロキョロ見渡し、人がいないの
を確認し、
「 チェインジング!(Changing)」
の掛け声と共に俺の体が光だし変身した。
そしてすぐさま、フェニックスを召喚し、合体シーケンスに入る。
両腕をフレイムアームに変えジャンプするそして両掌から勢いよく炎を出し、
そのまま上昇する。
「聖獣合体だ!こい!Phoenix」
≪Charge up Garuda≫
頭の中のカーソルを選択する。
するとPhoenixは俺の真上に来て、俺と平行に飛び、俺の背中付近に近づく
と両足と腹部の一部を体の中に収納しそして、俺の背中に合体すると同時にPho
enixの首が胴体部分に収納され短くなる。
「完成!Garuda!」
ガルーダ形態になった俺は、上空で方向転換し、魔物の砦に向かうのであった。
その後、俺が強行偵察している間に、ソフィーが襲われることになるが、この時
の俺はそれを知る由もなかった。




