10話 異世界転移!?
------美音視点---
医務室にタブレットを持ちこんだ時田さんは、先ほど私達が見た防犯カメラの映像をニールさんに見せたの。
「……」
映像を見た後、ニールさんはしばらく考え込んでいたんだけど、考えが纏まったのか、顔を徐に上げこう言ったの。
「私が使ったのは転移魔法のはずなのですが……どうやら何らかの原因で……異世界転移を起こしたのかもしれませんね。」
「「【異世界転移】!?」」
ニールさんの突拍子のない言葉に思わず、シノブとハモってしまった私。
「はい……つまり、別の世界に行く魔法です。」
「「魔法!?」」
また、シノブとハモル私。シノブと思わずお互い顔を見合わせたの。すると、私達の反応を不思議に思ったのか二ールさんがこう尋ねたわ。
「あの……この世界に魔法は……」
その言葉に私とシノブより先に、時田さんが答えたの。
「はい、ございません……この世界に魔法は存在しません。」
「そうなんですか、しかし先ほど【全体思考転写】の魔法を使って、皆様とこうしてお話出来ているのにですか?」
と、疑問を投げかけるニールさんに、時田さんはこう答えたの。
「魔法を一種のエネルギー現象と考えれば、わたくし達の文明はまだそれに気づいていないのかもしれませんね。」
「なるほど……興味深い見解ですね。」
頷きながら言うニールさん。
「あっ!そんなことより、申し訳ありませんが、私が着ていたローブは今どこにありますか?」
と言う二ールさんに、時田さんが、
「お召し物は少々汚れて居りましたので、今クリーニングさせておりますが?」
とニールさんに言うと、
「ローブのポケットに小さな小瓶がありませんでしたか?」
と聞く二ールさんに時田さんは、
「少々お待ち下さい。」
と言って、医務室を出て行ってしまったの。
しばらくすると、何点かの物をお盆に載せて戻ってきたの。
「こちらにあるものが、お召し物の中にあったもののすべてになります。」
とお盆に載せたものをニールさんの前に差し出して来たわ。
ニールさんはお盆に載っていた物の中から、小瓶を見付け手に取ると、お揉むろにその小瓶の蓋をとりその中に入っていた、豆粒ほどの粒を一粒取り出して、”ゴクリ”と呑んじゃったの。ニールさんが、小瓶から豆粒の物体を一粒呑むのを見たお医者さんは、慌てて止めようとしたがすでに呑んでしまった後だったの。慌てるお医者さんに二ールさんは、
「ただのエーテル錠ですからご心配なく。」
と言うニールさんに、
「「エーテル錠って?」」
又もやハモル私とシノブ。
「もう、シノブいい加減にしないよ。何で私とハモルのよ!!」
とシノブに怒るとシノブは首をすくめて、
「いやハモルつもりはないよ。たまたまだよMissシラトリ。」
悪びれることもなく私にそう言ったの。
私とシノブのやり取りに少し苦笑をしながら、ニールさんが言ったわ。
「これは、魔力を回復する薬ですよ。」
それを聞いて、時田さんがまたこう言ったの。
「それもなかなか興味深いお話ですね~。1度、お時間がある時にゆっくりと、お話をお聞かせいただければと思いますが……。」
ニールさんは時田さんにニッコリ笑って、
「いいですよ。」
と返事をしたの。
エルフの男性ニールさんの衰弱の原因は彼の体の中にある”魔力”が枯渇した、ためだとニールさんが私達に説明してくれたわ。
◇◇◇◇◇
私達がここの大使館に来てから、2時間くらいたったかな……外は夕暮れと言うより、かなり暗くなって来たわ。
シノブが、たぶん私を気遣いったんだろうと思うのだけど、
「もう、暗くなってしまったねMissシラトリ。送らせるから、もう帰った方がいいよ。」
と言うシノブに私は噛みつくように言ったの。
「なんで私が帰らなきゃいけないの!セイアの安否がわかるまで私はここに居るわ!」
そんな私にシノブは、
「でも、あまり遅くなるとお父上や、お母上がご心配されるだろう?」
シノブの言葉に私は、
「心配御無用よ!両親は仕事で丁度海外へ行って家には誰も居ないし、それに明日から連休で学校も休みだし、平気よ。」
と言うとシノブは笑いながら、
「そうかい?……なら何も言わないよ僕は。」
と半ばあきれたように私に言ったの。
その時、一旦、医務室を出ていた時田さんが入ってきてみんなに言った。
「お食事のご用意が出来ましたので、どうぞ皆様こちらへ。」
そう私達に告げた後、ニールさんの方に向かって、
「ラーキン様はどういたしましょう。こちらに、なにか消化によい物でもお持ちいたしましょうか。」
と尋ねる時田さんに、
「いえ、もう魔力も回復して、体力も戻っていますので、出来れば、皆様のお話も伺いたいのでご一緒したいのですが……。」
と言うニールさんにシノブが言った。
「Of course、僕達もいろいろMr.ラーキンのお話を聞きしたいし、なにより食事と言うのはみんなで食べるのが一番だしね。」
と笑顔で言うシノブに、
「ありがとうございます。」
と頭を下げるニールさん。
時田さんの後をに続いて、みんなで医務室を後にして先ほどの客間に向かったの。
◇◇◇◇◇
初めに通された客間には、食事用のテーブルが置かれていて、食器がすでに並べられていたわ。正直、アフリカの中央部の国なので……なんか象とかカバとかが出てくるのかと内心ヒヤヒヤしてたけれど。
私の心配をよそに、普通のフランス料理だったわ。庶民の夕食にしてはかなり豪勢と言えるその料理をみんなで食べながら、ニールさんの世界の話を聞いたの。異世界の国々の話、魔法の話や魔物の話、そして今回オブリヴィオンと言う組織を従えて魔王が攻めてきたいきさつやその後の経緯。そして何よりソフィーと言う皇女……と言うかお姫様の話など、そしてそのお返しとして、時田さんはニールさんに私達の世界の話をしたの。
そして、食事も終わり食後のお茶を呑んでいる時ニールさんがこう言ったわ。
「姫と連絡を取ってみようと思うのですが……」
「異世界に居る人と連絡なんか取れるのですか?」
彼の言葉に私がそう言うと、
「ええ、できるかどうかは確証が持てませんが……うまく行けば連絡出来るかもしれません。」
とニールさんが言たの。
「それで、その方法とは……。」
とシノブが言ったの。
「説明の前に……揃えていただきたい物があるのですが……。」
そのニールさんの言葉にニールさんの近くに進み出て時田さんは言う。
「はい、何でございましょうラーキン様……」
と言うと背広の内ポケットからメモ帳を取り出し、
「はい、お願いいたします。」
時田さんの言葉を聞いてニールさんはあれこれ必要なものを言っていたのだけれど、時折この世界にはない物があるみたいで、唸りながらそれに代わるものを時田さんと相談して、用意する物を決めていったようなの。
それらを、すべてメモした時田さんは、
「では、明日の午前中までにそろえさせます。」
と言いメモを持って部屋を出て行ったわ。
◇◇◇◇◇
いずれにしても、あすの朝にニールさんが、時田さんにお願いした物がそろわないことには話にならないということなので、今夜はここに泊めてもらうことにした私を、メイドのレラトさんが、来客用の寝室に案内してくれた。部屋は、10畳くらいかしら、クインサイズのベットが一つ置いてあって、ベットの上には、私様に用意してくれたであろうシルクのパジャマが置いてあったの。いつもの私なら、”お姫様みたい”ってはしゃぐのだけど、今はセイアの事が心配で、そう言う気分にはなれなかったわ。部屋にあるシャワーを浴び、早々にパジャマに着替えて、部屋の電気を消して、ベットにもぐり込んで。ベットから、暗い部屋の天井を見つめながら、
「死んでないよねセイア……まだ、私あなたにあの時の借りを返してないんだから……。」
そう呟いて、しばらく何も見えない天井を見つめていたのだけれど、いつの間にか私は寝入ってしまったみたい。
次回5月6日の更新は夕方になります。