107話 俺の女に……
一旦、マジック・マシュウルームを倒したところまで戻るのには訳がある。
確かにハーピーを全滅させ、後始末を終えたのは午後4時過ぎ。
このまま宿場を目指しても1時間少しで到着できる。
夏の太陽は沈むのが遅い、どう遅く見積もっても空が明るい間には宿場には到達
するのは間違いない。
しかし、それでは早すぎるのだ。
冒険者S級と言っても俺達は軍隊ではない。
それに、俺達のチームは今8人。
最低のチーム編成の6人を少し上回るだけの人数しかいない俺達が、マジック・マ
シュウルームを初めスロスやハーピーの魔物の大群をわずか半日で倒し、しかもパ
ルタスから60km離れた宿場に到達するにはどう言い訳しても尋常ではないスピ
ードに疑いの目を向けられても仕方ないのだ。
とは言え、このままこの比較的安全な街道と言うか、ミスリルロードと言えども
、生身で野営するのは少々危険だし、また疲れがたまるのは目に見えているので、
一旦30K圏内に戻る為である。
なんの圏内か……それは、ニールさんが改造してくれた簡易転移装置の圏内って
ことなのよ。
◇◇◇◇◇
マジック・マッシュルームを倒した現場を少し過ぎたあたりで、俺達はバイクと
馬車を止めた。
まず、馬車に積んだ荷物、マジックボックス小2つと中1つを下ろし、馬車を元
のカプセルに戻す。
「戻れ!」
そう言って、カプセルを投げた時のポーズの逆再生のようなアクションをすると、
馬車は”ボワット”消えて俺の手元にジッポライター型のカプセルが戻ってくる。
次に、ユニコーンを送還し、マジックボックスから魔物除けのテント1張りと、
簡易転移装置の片方を出すと、魔除けのテントを道の端に張り、その中に転移装置
をセットした。
そして、順次魔除けのテント内の転送装置で、パルタスの冒険者ギルド本部内にあ
る俺達の部屋へと向かう。
1回につき2人ずつ転移していくのだが、俺と、シノブはバイクと一緒なので、
皆の最後に1人ずつ転移していくことにした。
まずは、ソフィーとミオン次いで、クレアさんとエドナさん、そしてゲキとアイ
ーシャさんに続き、シノブがバイクを押しながらテントに入り転移して行った。
そして、最後に俺がシノブと同じくバイクを押しながらテントに入り、俺達は全
員パルタスへ転移した。
◇◇◇◇◇
「「「おかえりなさい」」」
と部屋についていきなりの挨拶は、ニールさんとシノブの所の修復班2名である。
「あ、はい、ただいま」
俺も驚きながらも3人に言葉を返す。
すでに、ゲキとエドナさんはこの部屋の台所で、2人仲良く夕食の準備に追われ
ていた。
それを、側でじっと見つめるクレアさん
(ひょっとしてクレアさんって……)
ここで夕食を取るのは、今、俺達はイーシャイナ王国とデスロ同盟国(ポリス都
市の連合)の間にある魔物達に囲まれ孤立している、一つの宿場に救援に向かっ
ていることになっている。
なので、転移装置で戻って来ても、おいそれと街を出歩くわけにはいかないんだ。
そこで、俺達が出かけた後、ニールさんに頼んで食材を買っておいてもらっていた
のだった。
その食材を今、ゲキとエドナさんで調理してもらってるわけだが……。
一見ゲキの見た目からだと、和食を作りそうだけど……さにあらず、
ゲキの特異料理は中華なんだ。……意外だろうけど。
ここで手に入る材料の関係で、中華のフルコースとはいかないが、ここで調達で
きる材料で何とか料理を作ってもらっている訳だけど。
取りあえず、俺はすることがないので、電動オフロードバイクに充電をする。
(帰って来てから、まだ、変身を解いてないんでね)
◇◇◇◇◇
夕食が出来たというので、一旦充電を中断させ、俺は変身を解く。
皆そろって、(シノブの所の修復班2名も含む)ゲキとエドナさんの作った夕食
をいただく。
部屋の中央にある応接セット。
20人掛けのソファーに座り、その前にある大きなテーブルには大皿に盛られた
料理の数々。
大皿に盛られたチャーハン、酢豚、八宝菜に野菜炒めに、大盛りのカラアゲ……。
それらの料理を前に皆で手を合わせて。
「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」
多少俺達の居た世界とは野菜の色が違ったりはしているが、味は同じだ。
皆笑顔で、「おいしい」を連発させ。
ゲキも嬉しそうである。
ふと、ソフィーに視線を向けると、いつの間にか体長30Cmのミニサイズの電
龍が膝の上に乗りソフィーに食べ物を取ってもらい食べていた……と言うより飲み
込んでいた。
「オイチー、ソフィーッち」
ソフィーに甘え、食べさせてもらっている電龍に少しむかついたので言った。
「電龍おまえ何してんの!」
と少し強めに言うと、俺のむかついたのを知ってか知らずかこう答えた。
「うん?なにセイアッち、焼きもち焼いているのか?」
真顔で言う電龍の言葉に思わず絶句する俺。
(俺の女になにすんねん!……)
と心では思ったがそれが口からは出せず、固まる俺の心を読んだのか
「ソフィーッちは、セイアッちの女かもしれんが、僕のマスターでもあるんだ。
マスターに甘えて何が悪いの?」
と言い返され、顔を赤くしながら更に固まる俺。
そんな俺を見てゲキが電龍に聞く。
「電龍?お前食事はしなくてもいいんじゃなかったのか?」
「うん、そうだよ……確かに食事をしなくても良いって言うか、しなくても魔力
さえもらえれば生きてはいけるってだけだよ」
その電龍の言葉にゲキが聞き返す。
「生きていけるって」
「死なないって言うか活動に支障ないって言ったらいいのかな……物理的には必要
ないんだけどね、僕も生き物なんだから、食べたいとか欲求はあるんだよゲキッち」
「なるほど……3大欲求ってやつだな」
「そだよ~それに人間の食べ物にも興味あるしねぇ~」
俺は、しばらく、顔を赤くして固まっていたが、ゲキと電龍の会話にいつの間に
か納得しているのであった。
◇◇◇◇◇
「「「「「「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」」」」」」
食事が終わり、皆で手を合わせ言った後、ゲキ、エドナさん、クレアさんの3人
は仲良く食事の後片付けや洗い物をしている。
シノブは部屋の隅で、銃の手入れをし、それをアイーシャさんがお手伝い。
ニールさんとシノブの所の修復班2名は、その場のソファーに座ったまま、今後の日程の打合せをしている。
俺は再び変身して、充電の続きをする……その傍らでは、ソフィーとミオンと電龍が、トランプで神経衰弱をして楽しんでいる。
”キャッキャ”言いながら神経衰弱を楽しむ3人……いや、2人と1匹か……。
(あの……電龍さん、遊ぶ暇あるなら充電を手伝っていただけませんかねぇ~)
◇◇◇◇◇
夜の10時を過ぎただろうか、明日は朝が早いので皆そろそろ寝る準備をし出し
た。
20畳あるリビングの入り口から見て、左右の壁側にはそれぞれ、5つずつ扉が
ある。
この扉を開けると、広さ4.5畳くらいで中には俺達の世界で言う2段ベットが
置いてある。
本当、寝るだけって感じの部屋なのだが、それを入り口からみて左側を女子メン
バーの部屋として割り当て、右側を男子メンバーに割り当てる。
ソフィー、ミオン、クレアさん、エドナさん、アイーシャさんと、奥から順番に
部屋割をした。
女子はこれで良いのだが、男子の場合シノブの所の修復班2名を足すと7名にな
る。
そこで、奥の部屋から俺、ゲキ、シノブは1人で部屋を使い、ニールさんとファ
ルコさんで1部屋、シノブの修復班2名で1部屋で割り当てることになった。
これはニールさんからの提案で、初め俺がゲキと寝ると言ったのだが、ニールさ
んから、戦士は休息も大事ですよと強く言われ、反対できなかった。
◇◇◇◇◇
皆それぞれ割り当てられた部屋へと入って行く……。
俺も自分に割り当てられた部屋へと入り、2段ベットの下の段でベットに潜り込
もうとしたその時だった。
”トントン”
と俺の部屋の扉をノックする音がした。
俺はベットから扉の方に向かい。
「はい」
そう言って自ら扉を開けると、扉の前には、薄手の生地で出来た……これは、ネグ
リジェ?というものだろうか、その姿で俺の部屋の前に立っているソフィー。
「どうしたんだいソフィー?」
俺がそうソフィーに聞くと、少しハニカミながら、
「あの……エネルギー補給を……」
「あっ!そうだね……そうだった」
と俺は少し慌てて、ソフィーを自分の部屋に入れ、扉をそっと閉めた。
そして、そっとソフィーを抱き寄せ、顔をソフィーに近づけた時だった。
”ひょこ”っとソフィーの胸元から電龍が顔をだす。
俺は、突然ソフィーの胸元から飛び出した電龍の顔に驚き思わず、
「うゎっ!」
って言って思い切り叩いてしまった。
その時悲劇!?が起こる。
俺が思い切り電龍の顔を叩いたことにより、ソフィーのネグリジェの胸元の部
分が裂ける。
”ビリッ~”
「キャッ!」
と小さく叫ぶソフィー。
見ると……ソフィーのネグリジェの胸元が、はだけ……丸く大きなふくらみが2
つ見えた。
「えっ、えぇ―――――!」
思わずそれを凝視する俺。
その俺のソフィーの胸に向ける視線を感じたのか、ソフィーが顔を赤らめながら
、両手で胸元を隠し、その場にしゃがみ込んだ。
それを見た俺も急に”カー”と熱いものが胸からこみあげ、胸の鼓動が早くなる。
その俺とソフィーの様子を床に転がっていた電龍が、ニタニタしながら見つめ。
「セイアッち!チュケベェ―」
と俺を見て言う電龍に俺はこう怒鳴った。
「お前がソフィーのむっ……から、急に顔を出すからだろうが!」
「だいたい!俺の……」
と言いかけて、その続きが言えなくなってしまった俺に、電龍が不敵な笑みを浮か
べ言う。
「俺の……俺の何?セイアッち」
「俺の……お……何でもない!出て行け電龍!」
電龍の言いぐさに少々切れ気味に俺は言うが、電龍はただニタニタ笑うだけ。
そんな電龍を俺は床からつまみ上げ、扉を開けて外に放り出す。
「なっ、なにすんのセイアッち!~イケズ~」
と言う電龍をほっといて、俺は強く扉を”バタン”と閉め、ソフィーに謝った。
「ごめん、ごめん、まさか電龍が……ソフィーの……その…む……」
と頭を何度も下げソフィーに謝る俺。
すると、ソフィーは急に立ち上がり、俺を強く抱きしめると……自らキスを俺にしてきた……。
そのソフィーのキスは今までになく激しものだった。
俺は、ただ、ただ、ドギマギして目をパチクリさせ、ソフィーのなすがまま状態。
それに、……当たるのよ……ソフィーの直の生パイが……俺の胸に。
俺の頭からは、余剰魔力の青白い光と共に湯気が立ち上るような気分であった。
久しぶりのお色気シーンでした。
セイアとソフィーのほかにもカプルが誕生しそうな予感(笑)




