105話 その格好にサングラス!?
お昼ご飯を食べてからの出発になったので、時間に余裕が出来たってことで俺
は部屋から出て1階のS級の冒険者用の受付によっていた。
「これを1枚金貨に両替していただけますか?」
と受付の係に白金貨1枚を手渡した。
「はい、少々お待ちください」
受付の係の人はそう言って俺から白金貨1枚受け取り、席を立って後ろの出納係へ
と白金貨を持って行った。
しばらく、係の人を待っていると、隣の受付で冒険者証を呈示して、紙に何や
ら書き込、受付の人に渡している冒険者らしき人がいた。
(なにしてるんだろう?)
そう思ていると、両替を終えた俺の担当の受付の係の人が金貨を10枚もって戻っ
て来た。
「お待たせいたしました。金貨10枚ですお確かめください」
その言葉に我に返る俺。
「あっ、はいありがとうございます……って?あれ手数料は取らないんですか?」
俺の前に差し出された金貨10枚を見て、俺は係の人に聞いた。
「はい、ギルド員(冒険者)は年会費を納められておりますし、報酬の……S級な
ら報酬の1割をギルドに納める定めでもありますから、手数料はかかりませんよ」
と言われ、
「あっ、そうなんですね」
と納得して受付を離れようとした時、受付の係の人が付け加えて言った。
「両替だけでなく、預かりや払い出しにも手数料はかかりませんよ」
その係の人の言葉に俺は係の人の方に振り返り思わず叫ぶ。
「あっ、えっ、預かりって!」
と聞き返すと、係の人は少し笑いながら
「えっ……預かりは預かりですよ……お金を預かるのです」
と、さも当然のように答えるが、俺は少々困惑していたら、
「ほら、隣を見ていただければわかると思いますが、あの方は以前ギルドに預けて
いたお金を今引き出したところです」
そう言って今まさにお金を受付の係の人から受け取り、巾着袋に仕舞おうとする冒険者に視線を向けて言った。
(ああ、要は銀行のように預金出来るのね)
因みに利子はつかないようだ。
「じゃ、僕も預かりをお願いできますか?」
と聞くと受付の係の人は、俺ににっこり笑って言った。
「はい、かしこまりました……では、お預けいただけるお金と冒険者証をお願いし
ます」
と言われ、
「あっああ、ちょっと待ってください」
そう言いながら、半そでワッペンシャツの両方の胸ポケットから巾着袋2つを取り出し、白金貨7枚と金貨9枚を出し、そしてジーパンのポケットから冒険者証を出して係の人に渡す。
「では、790万ドルマ預かりってことですね」
と言いながら、俺が出した白金貨と金貨と冒険者証を木で出来たトレイのようなものに載せ、また後ろの出納係の所に持って行った。
このギルドでの”預かり”……俺達の世界で言う銀行預金のようなシステムは、
やはり、銀行預金のように、各国にあるギルド支部や、宿場にある出張所でも、
預けたり下したりできるそうだ。ギルド本部や各支部、出張所で冒険者証を呈示
し、下ろす時は所定の用紙に金額を記入すればどこでも降ろせるだけでなく、各
国の通貨にも無料で交換もしてもらえるのだとか……。
(異世界に銀行のようなシステムがあるとは驚きだ)
◇◇◇◇◇
”両替”と”預かり”を済ませた俺は5階の自分達の部屋に戻る。
皆はそれぞれ出発の準備をしていたが……約1名まだ、 ソファーに寝たままだ
が……。
そんなミオンをほっといて、俺はニールさんに声を掛ける。
「ニールさん!」
俺の声に、シノブの所の修復班2名と打ち合わせしていたニールさんが、俺の方に
振り返る。
「どうしました勇……セイア殿」
そう言って、俺の方にニールさんが近寄って来たので、白金貨2枚をポケットから
出してニールさんに手渡し言った。
ニールさんは俺に急に白金貨を2枚を手渡され少し困惑したような様子。
「これは……?」
「あっ、これからの活動資金です」
そう俺が言うと、
「活動資金って……必要な資金はイーシャーナから出しますので……」
と断ろうとするニールさんに、半ば無理やり白金貨を渡し、
「でも、1国だけの勇者だと……何かと問題なのでは?」
と言う俺に、
「はぁ……しかし、生活費位は問題ないですよ」
とさらに反論するが、
「いえ、取りあえず彼らの服も買ってもらわなければなりませんし……それに通信
アンテナを立てる時に、ここのパルタスの人を雇うでしょ3人だけでは時間もかか
るでしょうし」
と言うと、
「確かにセイア殿の言う通りですが……。」
と言いながら渋々俺から白金貨を受け取るニールさん。
因みに、彼らの服と言うのは、シノブの所の修復班2名のことである。
昨日、俺やシノブが一緒に夕食を……って言ったんだけど、彼らは、
「いえ、私達が同行すると、セイア様やお坊ちゃまの足を引っ張りかねませんの
で」
って断られたんだよ……彼らの言うのにはこの異世界で、ダークスーツにサングラ
スと言う出で立ちは少々というかなり違和感があると言うのである。
まぁ、俺達の格好もかなり違和感があるんだけどね……。
ただ、俺達は今は冒険者。
冒険者って言うのは、この世界の騎士とは違い、それぞれの武器や防具を使ってい
るし、はっきり言って、一攫千金狙いのかなりの変わり者って言う認識らしいから
冒険者である俺達の服装にはとやかくは言われないんだけどね。
でも、これから各地にアンテナを設置してもらわなければならないし、時にはこ
の世界の偉い人ともニールさん共々会ってもらわねばならないので、ある程度のT
POに応じた服装もしてもらわねばならないんでねぇ。
◇◇◇◇◇
お昼ご飯を昨日のお店【ウェールス】で取った。
【ウェールス】では昨日の騒ぎのことを謝罪したら、
「お気になさらないで下さい」
とは言われたが、ただ……。
「あの葡萄酒は通常の葡萄酒よりアルコール度数がかなり低め何ですが……」
と苦笑しながら言われてしまった。
この世界の通常の葡萄酒の度数は8%……俺達の飲んだのは4%なのだそうだ。
(それをグラス2杯で倒れた俺は……やっぱ下戸何だろうか?)
俺は下戸なのかもしれないが、ミオンの場合幾ら度数が半分とはいえボトル1本
(750ml)を1人で飲んだミオンは……やはり飲みすぎのようだ。
そんなことは置いといて、昼ご飯を食べた後、俺達は冒険者ギルド本部建物の近
くにある冒険者専用馬車置き場前で、まず、魔法馬車を出す。
「出でよ!馬車」
そう言って、俺は、地面に”ポ~イ”ってジッポライター型のカプセルを投げる。
”ボ~ワン”と煙と共に馬車が現れた。
続いて、俺は一旦変身してユニコーンを召喚することにした。
「 チェインジング!(Changing)」
の掛け声と共に俺の体が光だし変身する。
これは変身ポーズを廃止、すぐに変身できるようミオンが俺のプログラムをいじってくれ、新たな変身における掛け声である。
今回の改修プログラムでは、今のように掛け声を出さなくても、このキーワードを頭に浮かべるだけで変身できるのだが……ミオンがヒーローなんだから、緊急事態以外は、せめて、掛け声出してほしいと言うので、言ってるだけだけど。
そして、すぐさまユニコーンを召喚する。
ゲキが俺が召喚したユニコーンを馬車に繋いでいる間に、シノブとアイーシャさ
んが、トレーラーから電動オフロードバイクを持ってきた。
残りの皆で(ミオンを覗く)馬車に荷物を積み込む……って言ってもマジックボ
ックス小2つとマジックボックス中1つを馬車に積み込み作業は終了する。
そして、馬車にまだ気だるく、はきがないミオンとクレアさん、エドナさんを載
せ、御者はゲキが行う。
バイクには俺と、シノブが跨り、俺の後ろにソフィーをシノブの後ろにアイーシ
ャさんを乗せ俺が右手を上げて出発の合図を送るとバイクと馬車がゆっくりと動き
出した。
「「「「行ってらっしゃいませ」」」」
ニールさん、ファルコさんにシノブの所の修復班2名がそう俺達に声を掛け、手を
振り見送ってくれた。
(うん?……)
俺達を見送るシノブの所の修復班2名の人の格好を見て俺は思う。
チェニックにかぼちゃパンツに尖がった革靴、腰の剣帯には、ホルスターに納め
られたデザートイーグルと言う大型の拳銃……はいいんだけど、それにサングラス
を掛けている2人。
(腰の拳銃は兎も角なぜ?そのかっこうにサングラスなんだ?)
そんな違和感満載の約2名と共に、ニールさんファルコさんに手を振りながら答え
る俺達であった。
◇◇◇◇◇
パルタスの都市の城壁へと差し掛かった俺は、バイクを停止させ、また、右手を
上げて皆に合図を送ると、その合図を見て、シノブとゲキはそれぞれ、バイクと馬
車を止めた。
俺は城壁の方に歩み寄ると、壁にある伝声管ではなく、その横にある黒い黒板の
ような四角い木の板に向かって、冒険者証を近づけると、この都市に入った時と同
じように、”ズズズ”と言いながら城壁が左右に別れた。
(この冒険者証って身分証明にもなっているようだ)
◇◇◇◇◇
俺達は順調にミスリルロードをイーシャイナ王国方面へと進んだ。
ミスリルロードは、道幅も広くよく整地されていて、快適に馬車やバイクを走ら
せることが出来る。って言っても俺達の世界の道のように舗装されている訳ではな
いので、多少道に轍や凸凹がある為、スピードは時速30Km程度での移動だが、
時に、飲みすぎで、ぐたりしているミオンを載せているので尚更だったんだけど
、そのミオンも今は回復したのか、朝から食事をしてなかったミオンは今まさに、
食料の入った、マジックボックスから、ハンバーガーと飲み物を出し、ハンバーガ
ーにかぶりついてるところだ。
(なら、もう少し移動速度を上げてもいいか)
そう思っている間に、俺達がトレーラーで、パルタスへと向かった時に通った
グランドキャニオン風の場所につながる道が右手に見えて来た。
そこを過ぎてしばらく走った所で、シノブが耳につけているレシーバーから
「Mr.オオワシ……そろそろだ」
と無線で言ってきた。
俺は、バイクを停止させ、また、右手を上げて皆に合図を送ると、その合図を見
て、シノブとゲキはそれぞれ、バイクと馬車を止めた。
馬車とバイクが止まると、すぐさまシノブは馬車に駆け寄り、マジックボックス
からあるものを取り出し、俺以外のメンバーに配りだした。
ある物とは……防毒マスクである。
シノブの指導の下、俺以外のメンバー防毒マスクをつけ終わると、シノブは次に
マジックボックスから、火炎放射器を取り出し、クレアさんと共に俺の横に立った。
俺は後ろに載るソフィーを馬車の方に下がらせる。
当然アイーシャさんもソフィーと一緒に馬車に下がる。
”ピピ”
≪Enemy≫
と頭に浮かぶ文字。
≪名称 マジック・マッシュルーム≫
≪戦闘力 200≫
≪防御力 100≫
≪スピード 100≫
≪MP なし ≫
≪特技 幻覚胞子≫
×50
道の脇の森から次々と顔を出すマジック・マッシュルーム……身長1mのキノコ
にしてはデカイ……が魔物としては小型の部類に入るかな。
俺達の世界の毒キノコのベニテングタケに似た感じの魔物で、傘の部分が赤く白
い斑点があり、軸の部分に目と口があり、鼻はない。
手足は針金のように細く、武器なども持っていない魔物の中ではかなり弱い部類に
はいる魔物だが、ただ一点こいつが厄介なのは『幻覚胞子』を飛ばしてくることだ。
この『幻覚胞子』は俺達の世界で言う麻薬と同じ作用を起こすようで、幻覚を見
てしまうだけではなく、あまり一度に大量の胞子を吸ってしまうと、時には死に至
ると言うこともあるようだ。
また、これをこの世界でもいるアンダーグランド(やくざやマフィア)のような
組織が麻薬を生成するため非正規の冒険に傘の部分を持ち帰らせたりすることがあ
るらしい。もちろん違法で捕まれば極刑に処せられるらしい。
それは兎も角戦闘態勢に入る。
クレアさんはマジック・マッシュルーム達の正面に盾を構えて、剣を抜く。
その間に俺は奴らの右側に回り込み、シノブが左側に回り込む。
「いいよクレアさん」
「MissクレアOKだ!」
その無線を耳につけたレシーバーで聞いたクレアさんは頷くと
「ソードオブファイヤー」
と叫び、正面のマジック・マッシュルーム達に炎を浴びせかける。
”シューシュー”
と鳴き声なのか、よくわからない音を発しながら、マジック・マッシュルーム達は
、クレアさんが放つ炎から逃れようと左右に散ろうとするが、そこをすかさず、俺
とシノブが
「FIRE !」
「フレイムストーム!」
左右に逃げようとするマジック・マッシュルームに俺とシノブが左右から炎を放つ。
(こいつらなぜ後ろに逃げない?)
と思いながらも、奴らをこんがりと……灰にした。
(意外とあっけない)
最も、事前に奴らのことを傭兵ギルド長のマリオンさんがレポートで説明してく
れていたからこそだけどね……それに事前にシノブが防毒マスクを人数分用意して
くれていたことも大きいか。
マジック・マッシュルームの遺体と言うより灰から、奴らの核と呼ばれる物を取
り出す。
これは冒険者ギルドが取り決めた規定にのっとり、回収した訳だが……この核の
数が俺達が倒したマジック・マッシュルームの数とカウントされ、報酬が支払われ
る仕組みらしい。
因みにこの核事態には、何の価値もない。
マジック・マッシュルームの核を回収後、再びその先へと出発するのであった。
(次は……レポート通りだと、あいつか……次はちょっと厄介かも)
新しい変身のキーワード「 チェインジング!(Changing)」は、アニメ夢戦士ウ〇ングマン
の変身の時の言葉「チェイング!」をもじったつもりが……たぶん、あちらはこの言葉をもじったのではないかと思います(汗)




