104話 セイア葡萄酒を飲んで倒れる
今日は、この冒険者ギルド本部にある俺達の部屋で泊まることにした。
で、
これから、表向き冒険者を装うのであれば、こちらの物資を調達せづに過ごす
のは周りから怪しまれるだろうと言うこともあるし、折角パルタスの町に来たのだ
から、この街を見て回りたいって言うのもあって、夕食はこのギルド本部近くで取
ることになった。
まず、そのための資金だが……例のブレイブ基地で倒した(電龍が食べた)アル
ミラージの角と毛皮を冒険者ギルドの受付で換金する。
・アルミラージの角 ×100本
・アルミラージの毛皮×100枚
これを建物1階にあるS級の受付に持って行った。
あまりの数の多さに、ギルド職員に一瞬引かれたが……無事換金を済ませた。
白金貨10枚と金貨10枚……1,100万ドルマ。
貨幣の種類としては、イーシャイナ王国と同じで、レートも同じ。
多少貨幣に刻まれた絵柄や文字が違う程度。
当然、イーシャイナ王国の貨幣もそのまま使える。
(他の国の貨幣もここではそのまま使えるけどね)
因みにデスロ同盟国(ポリス都市の連合)の貨幣は下の通りだ。
白金貨100万ドルマ
金貨 10万ドルマ
クオーター金貨 2万5千ドルマ
銀貨 1万ドルマ
クオーター銀貨 2500ドルマ
銅貨 100ドルマ
クオーター銅貨 25ドルマ
鉄銭 1ドルマ
ここもイーシャイナ王国同様、俺達の貨幣価値に照らし合わせると、1ドルマ=
1円ぐらいだそうだ。
正直言って、10人で食事をするだけにしては多すぎる金額。
どんなに頑張って高級店で食事をしてもかなり余るっていうか、ほとんど余る。
◇◇◇◇◇
何はともあれ、傭兵ギルド長のマリオンさん(マクシムス将軍のお兄さん)に紹
介してもらったお店に向かう。
飛び切り高級店でもなく、飛び切り大衆店でもない……真ん中くらいの店。
高級店では、作法や着ていく洋服に気を使うし、あまり大衆すぎるのも、材料に何
を使っているのか怪しい可能性があるので、真ん中位の店を紹介してもらった。
冒険者・傭兵ギルド本部から歩いて10分くらいの商業地域の裏通りにその店はあ
った。
【ウェールス】真実……と言う意味らしい店名。
お店の外観はパルタスの一般的な黒レンガで出来た四角い平屋の建物で、中に入
ると一転白い漆喰塗りの壁に囲まれた素朴だが清潔感のあるお店だった。
テーブルや椅子は無垢の木で作られた地味な造りだが、それがかえって落ち着いた感じの雰囲気をかもしだしている。
「あの~マクシムスさんの紹介で……」
と店の店員らしき人に俺が声を掛けたら、店の男性店員がにっこり笑って、
「あっセイ~ア様ですね。お聞きしております。どうぞ奥のお部屋へ」
と丁寧に言って俺達を奥の部屋に案内する。
(えっ、ここ高級店なの?)
店員のあまりにもそつのない対応に一瞬そう思ったが、
(まぁ、別にお金があるから良いけどね)
そう思いながら案内された奥の個室に入る。
ここも白い漆喰の壁に囲まれた部屋で、天井にランプが数個ぶら下がっており、
その薄暗さが、かなりムーディーなお店って感じに思えた。
俺達はその部屋の 大きなテーブルに備え付けてある長椅子に、俺、ミオン、ゲキ
、クレアさん、シノブが座りその向かいに、ソフィー、ニールさんエドナさん、ア
イーシャさんとファルコさんが座った。ファルコさんは俺達と同席することにかな
り恐縮していたが、ニールさんがファルコさんに半ば無理やり座るように命令して
、しぶしぶファルコさんが座った。
このお店、実はマリオンさん達が仲間内で、会合するのに使っている店らしい。
「メニューをどうぞ」
と俺に店員が渡すが……よ、読めない……。
メニューを見て固まる俺を見てテーブルの端に座っていたシノブが、
「どれどれ~」
と立ち上がり、俺の側まで来てメニューを俺から奪い取ると、例の魔法の眼鏡を掛
けメニューを
「フムフム」
と言いながら読み……やがてこう言った。
「では、店主おすすめを10人分お願いしようか」
と去りでなく言う。
(なんだよ、読めても結局それかよ)
そう思っていると店員がメニューを下げながら言う。
「ではお飲み物はどういたしましょうか」
「えっ……あの~アルコール以外の飲み物ってありますか?」
と聞く俺に、店員は困惑しながらこう言った。
「申し訳ありません、ここは高級店ではないので葡萄酒以外はおいておりません」
と言う言葉に今度は俺が困惑する。
店員の話だと、ここパルタスでは、葡萄酒の産地って言うのもあるが、所謂俺
達の世界で言う地中海性気候で、冬に一定の降雨があるが、夏は日ざしが強く乾
燥する所だそうで、今は7月の後半まさに夏……水が貴重な時期で、庶民は皆、
大人だけでなく子供も水代わりに葡萄酒を飲むんだとか。
(……うーんこれは困った)
すると俺の困った顔をよそに、シノブが店員にこう言った。
「では、その葡萄酒を瓶で5本持って来てくれたまえ……あとグラスは10個だ」
シノブの言葉に店員は頭を下げ、
「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
と言いながら、部屋を出て行った。
「おいおい、シノブ俺達は未……」
と言いかけた時、シノブが俺の言葉を遮り言う。
「日本のことわざに、It entered the township Acc
ording to township……つまり郷に入っては郷に従えと言うで
はないかMr.オオワシ」
「しかし……」
とシノブの言葉に俺が反論しようとすると、ミオンが俺に言った。
「セイアでもさ、もし私達がアメリカに言って、射撃場で銃を撃っても罪にはなら
ないでしょう~」
「それはそうだが……」
とミオンの言葉に反論を試みるも、
「現に、私達ンドワン国の大使館で射撃訓練したりしてたし……」
「そうだな、ミオンやメイトリックスの言うのも一理だと思うぞセイア」
とゲキまで言うので、反論するのを俺はやめた。
◇◇◇◇◇
葡萄酒を皆でお互いに注ぎ合い……。
「かんぱぁ~い」
ミオンの掛け声で皆でグラスを合わせ乾杯する。
(葡萄酒は赤ワインのような色って……同じようものか)
一口、恐る恐る飲んでみる……多少の渋みを感じるが、飲みやすい。
(これならいけるかも)
料理も次々に運ばれてくる。
『前菜』
【スパナコティロピタキア】
ほうれん草とフェタチーズのパイ
【ドルマダキア】
葡萄の葉でご飯を包んだもの。
『サラダ』
【ホリアティキサラダ】
野菜にオリーブとチーズをかけたもの。
『肉料理』
【ムサカ】
じゃが芋と茄子と挽肉とホワイトソースの重ね焼き
【シコタキ】
牛レバーのから揚げ
それに、ここの一般的なパンの一つホリアティコと言うコッペパン風で外はフラン
スパンのように固く色が少しい黄色いパンを食べる。
この黄色はセモリナ粉が入っているためらしい。
(セモリナ粉ってのがよくわからん)
皆よく食べよく飲んでいる。
異世界組はアルコールに慣れているのか、全然様子が変わらない。
シノブ、ゲキは、少々顔を赤らめているものの、相変わらずよく食べる。
それに比べ、ミオンは顔を赤らめ……しかもハイテンション~。
「これ美味しいね……おいしいねぇ!って言ってるでしょ何とか言いなさい!」
って葡萄酒の瓶を片手に壁に向かって文句言っている。
(飲みすぎだよミオン)
で、
俺は……俺は、はじめ調子良く飲んでいたが……いたのがいけなかったのかもし
れない。
2杯くらい葡萄酒を飲んだくらいで、顔が”ポッ”と赤くなり少々熱っぽくなった
ような気がしたかと思うと……すぐに顔が今度は青くなり……やがて、食事の手が
止まり……。
最後は顔が白くなったと同時に意識を失った。
「「勇者殿!!」」
「セイア!」
「セイアどうした?」
「セイア様!」
「Mr.オオワシ!」
「「セイアさん!!」」
「セイアにゃん!」
ニールさん、ファルコさんにミオン、ゲキ、ソフィー、シノブにクレアさんエドナ
さんそしてアイーシャさんが叫ぶ!……って言うか叫んだらしいが俺はその時の記
憶がない。
◇◇◇◇◇
気が付いた時は、冒険者ギルド本部にある俺達の部屋のソファーに寝かされていた。
俺が倒れた後、ニールさんが俺に解毒魔法をかけアルコールを抜いたらしい……。
もっとも気を失たのは俺だけではなかった……ミオンもだった。
?アルコールって解毒魔法で抜けるの?って疑問に思うが、解毒魔法で抜いそうだ。
(アルコールって毒なんだろうか?)
ミオンは俺と同じく、解毒魔法でアルコールを抜いているはずだが……未だにウンウン言って寝たままだった。
そんなミオンを置いといて、あの後どうなったかゲキが説明してくれた。
俺やミオンが、倒れたので店の店員やコックが、何かに当たったんではないか?
と大騒ぎになりかけたんだけど、俺やミオンは、アルコールに弱く、初めてお酒を
飲んだためだと、ニールさんが説明して事なきを得たらしい……。
因みに店の支払いは、倒れて気を失っている俺のポケットから金貨の入った袋をゲキが取り出し、俺に変わって支払ってくれたのだと。
10人前のコース料理が、3万ドルマで、部屋のチャージ料が3千ドルマに、葡萄酒が5本で500ドルマ、合わせ3万3千500ドルマだったんで金貨1枚支払いお釣りがクオター金貨2枚に銀貨1枚、クオーター銀貨2枚銅貨15枚だったそうな。
「これで、あってるか?」
って少々ゲキが不安そうなので、俺がゲキに解説する。
「請求額が3万3千500ドルマで、ゲキが払ったのは金貨1枚つまり10万ドルマだから、お釣りは6万6千500ドルマだろ?」
俺の言葉に頷くゲキ。
「で、もらったお釣りはクオータ金貨2枚……ってことは5万ドルマってことで、銀貨1枚が1万ドルマで、クオーター銀貨2枚で5千ドルマになる」
黙って頷くゲキ。
「後の銅貨15枚で1,500ドルマだから足すと6万6千500ドルマであってるよゲキ」
という言葉に”ホ”っとするゲキだった。
◇◇◇◇◇
翌朝、当初朝6時にここを出発する予定だったが……。
(馬車を伴い徒歩で移動するつもりだったから)
約一名が、
「あー頭痛い」
と言いながら、けだるそうにしているので、スポーツドリンクをミオンに手渡し、それをまず飲ませた俺。
それを見ていたソフィーが、
「はちみつをなめると効果ありますよ」
と言うので、はちみつをなめさせ、もうしばらく寝かせることにした。
しかし、これからどうしたものかと考えていると、シノブがこんなことを言い出した。
「馬車はユニコーンが引くのだろう?Mr.オオワシ」
「ああそうだけど……」
「馬車には何人乗れるんだっけ?」
「う……んっと荷物はマジックボックスに入れてから馬車に載せるから、そうだな4人は乗れるかな」
と俺が答えると
「なら、トレラーに積んでいる電動オフロードバイクを使い2人乗りすれば、バイクは2台あるから4人乗れるし、馬車と合わせて8人、歩くより短時間で移動できないか?」
「しかし、この世界にバイクはないから怪しまれるだろう」
とシノブの提案に俺が異議を唱えると、シノブは
「でも、ユニコーンはどう説明する?Mr.オオワシ」
と言うので、俺はこう答えた。
「それは……俺の召喚獣ってことにする」
「では、馬車やマジックボックスは?」
「それは、ダンジョンで得た魔法アイテムだと」
そう言う答えを聞いて、シノブがにっこり笑った。
「では、バイクもダンジョンでの報酬だと言えば通のではないか?」
そのシノブの言葉にニールさんも”ポン”と手を叩き頷く。
「その手がありますね」
と言うニールさん
「だったら、当初の目的の場所まで、遅くとも1時間くらいで着かないかい?」
「まぁ、確かに……遅くとも時速30kmで移動できるから」
と俺はシノブに答えた。
斯くして、俺達はお昼ご飯後、出発することとなった。
まぁ、歩くより楽だからいいけどね。
セイアが葡萄酒を飲んで、赤くなって青くなって白くなるのは……実は
豆ごはんがお酒を飲むと同じことになります(汗)




