103話 マクシムス将軍の兄!?
トレーラーを簡易の駐車場?に止めて、係に案内され傭兵ギルド本部に向かう俺
達。
ただ、ニールさんは徹夜明けなので、トレーラーに残って睡眠をとるそうだ。
(ニールさんの作っていたものは完成したのだろうか)
ニールさんを除く9人で傭兵ギルド本部に向かう……と言っても、ほんの1分ほ
ど歩いただけだけどね。
ドデカイ黒い円形の建物……イタリアローマの遺跡コロッセオ (Coloss
eo)のようだ。黒い石でできた7階建ての建物……。聞くところによると、この
黒い石は、大理石を魔法加工し、耐火、耐水、耐電の建物らしい。
大きな建物の正面にある大きな入口から、俺達は入る。
入口を入ると大きなホールになっており、右に行くとS級とA級の受付があり、左
に行くとB級とC級の受付カウンターがあるそうだ。
丸い円形の中央ホールにある壁には、それぞれのクラスに分けた、依頼の掲示が
そこかしこに張り出されていた。
中央の大きな階段から2階に上がり、2階に着くと、右側の方に進み、また階段
を上がること……6階……つまり、7階の最上階まで、ひたすら階段を上った。
俺とソフィー……それにミオンは少々バテバテだった。
「ハァハァ、やっと着いたの……7階まで階段で行くって……ハァ」
息を切らし文句を口にするミオン。
俺達を案内してくれる係の人は、その言葉を無視して、そのまま通路を進んだ。
しばらく通路を進むと、通路奥にある部屋の扉の前で、案内人の人は足を止め、
部屋の扉をノックする。
”コンコン”
その音に部屋の中から声がした。
「どうした!」
その部屋の声に対し案内人は
「冒険者チーム、Team Ultimateをお連れしました」
と答え、
「うん、わかった、お通ししろ」
の声に
「はい、失礼します」
そう答え、ドアを開けて、俺達を部屋の中へ入るようにジェスチャーで促した。
俺を先頭に、ミオン、ソフィー、ゲキ、シノブ、クレアさん、エドナさん、アイ
ーシャさんが入り、最後にファルコさんが入ったのを確認して案内人はドアを閉め
た。
この傭兵本部長の部屋は、学校の校長室って感じの部屋で、正面には校長室にある
大きな机があり、その前に応接セットが置いてあった。左右の壁には、書類を仕舞
う棚や分厚い本がずらりと並べられた本棚がいくつもあった。
「どうぞ、おかけください」
と言う中年の紳士……。マキシム将軍ほどではないが、かなりガッチリした体系の
紳士……その紳士に促され、俺達は目の前にあるソファーへ座る。
それを見たギルド長らしき紳士が扉の前の案内人に言う。
「下がってよろしい」
「はい、では失礼します」
そう言って、案内役の人は部屋を出て行った。
正面に1人掛けのソファーがあり、その左右に3人掛けのソファーが並ぶ応接セ
ット。
その左右にある3人掛けのソファーに俺達は腰掛ける。
右側には、俺、ソフィー、ミオン。左側にはシノブとゲキが座り、クレアさん、エ
ドナさん、アイーシャさんは俺の座るソファーの後ろに立った。そして……。
ファルコさんは入口の扉付近に立った……のを見てその紳士が声を掛ける。
「鷹族の方……こちらへ」
と言うギルド長にファルコさんは首を横に振り、
「いえ、私は、イーシャイナ王国の伝令将校で、このたびは案内人として方々をお
連れしただけですので」
と断るとギルド長は静かに
「そうですか……」
そう言って、正面の大きな机の後ろの大きな窓の右脇の壁にある、小型の伝声管
のようなものに話しかける。
「予備のソファーとテーブルそれにお茶を9人分持って来てくれ」
そう言ってから、俺達の座る応接セットの方に来て正面の1人掛けのソファーの前に立ち
「初めまして、私は傭兵ギルド本部長を務めておりますマリオン・マクシムスです。このたびは、お呼びたてして申し訳ありません」
と一礼した。
(あれ……マクシムス?どっかで聞いたような名前だな)
そう俺が思った時、ギルド長のマクシムスが続けて言う。
「また、先だっては我弟のマルクスの命を救っていただきありがとうございました」
その言葉を聞いて俺達は唖然とした。
「「「「えっ……弟って……マクシムス将軍のお兄さん~!!!」」」
そう絶叫する俺、ミオン、ゲキにシノブの顔を見てニッコリ笑い言うマクシムスギ
ルド長。
「はい、マルクス・マクシムスの兄です」
◇◇◇◇◇
ギルドの男性職員が予備のソファーとテーブル運び込み、ギルド長のマリオンさ
んの反対側に設置すると、マリオンさんに促されたクレアさん、エドナさん、アイ
ーシャさんがそこに座った。
皆(ファルコさん以外)が、座るのを待って、ギルドのメイドさん達が俺達の席
の前にあるテーブルにお茶を配って行く。
お茶が配られ、メイドさん達が部屋を出て行くのを確認したマリオンさんは口を
開いた。
「それでは、皆様に今から傭兵と冒険者についてお話いたします。」
マリオンさんの説明では、冒険者になろうとするとまず、傭兵ギルドに傭兵とし
て登録が必要なのだとか。
それは、冒険者はチームとして登録される。
つまり、単独では登録はできないそうで、6名以上でそのメンバーのすべてが傭兵C級以上でないと冒険者として登録できないと言うことだ。
冒険者と言う称号は個人の称号でなく、チームの称号と言うことらしい。
故に、ダンジョン等のミッション(クエスト)で、チームの人数が6人を下回った場合、1か月以内にメンバーを補充できなければ、その冒険者チームは解散となると言う。
(だから冒険者証って1個なんだね)
そこで、俺達が出発する前に傭兵のバッチを手渡すと言うものだ。
マリオンさんから俺達皆に配られたバッチは……傭兵A級のバッチ。
それを見てミオンが首を傾げマリオンさんに聞く。
「あれ?冒険者はS級なのになんで傭兵はA級?」
ミオンの疑問に笑顔で答えるマリオンさん
「それはですね、傭兵S級は元々パルタスの騎士の試験に合格したものに与えられる称号です。故に傭兵S級は有事の際、パルタスと言いますか、デスロ同盟国(ポリス連合)の騎士として、国のために働かねばなりません。」
「うん……それがなに?」
とマリオンさんの説明に首を傾げるミオン。
そのミオンにゲキが痺れを切らせて言った。
「あのな、ミオン、つまり国の命令に従わなければならない……有事の際は自分の意志で行動できないってことだ」
「つまり、僕達の活動に支障が出るってことだよMissシラトリ」
とゲキの説明を補足をするシノブ。
「ああ、なるほど……でもさ、傭兵と冒険者で差があっていいの?」
とさらに聞くと、マリオンさんが続けて説明してくれた。
「はい、大丈夫と言うよりそれが普通です。傭兵や冒険者としてのクエストの成功
率ですから、傭兵としての成功率、冒険者としての成功率は別物ですし、そもそも
冒険者はチームですから、チーム内には傭兵S級の者もおれば、傭兵C級の者もい
て当然なんです」
「あ、そう言うこと」
とミオンは納得したようだ。
◇◇◇◇◇
お茶を飲みながら、現在ミスリルロードに出現、宿場を挟んで巣を作った魔物の種類や特徴などをマリオンさんにレクチャされ、合わせてミスリルロードでの現状のレポートも貰い、傭兵ギルド本部長の部屋を後にした。
部屋を出るときマリオンさんに
「ご武運を!」
と声を掛けられた。
◇◇◇◇◇
傭兵ギルド本部を後にした俺達は、次に冒険者ギルド本部に向かう。
俺達の冒険者チーム、Team Ultimateの部屋を見に行くことにした。
冒険者に登録すると、この冒険者ギルド本部に自分達の本拠地というか、部屋を借りれるそうだ。
冒険者の部屋はランクと人数に応じて与えられるものらしい。
各冒険者達は、ここを根城に各地へクエストを達成に出かけるのだとか。
本来、俺達には必要ないが、一応形だけでも借りておかないと、偽冒険者だとバレル可能性もあるから借りておくことにする。
(費用はギルド持ちだしね)
四角いデカイホテル……マンション風の大きな建物と言っても、先ほどの傭兵ギルド本部より1回り小さい感じの黒煉瓦作りの5階建ての建物。
俺達はその正面玄関から建物の中に入る。
造りは先ほどの傭兵ギルド本部と同じく大きなエントランスになっており、右に行くとS級とA級の受付があり、左に行くとB級とC級の受付カウンターがあるみたい。
エントランスの壁にはやはり、傭兵ギルドと同じくいろいろなクエストの依頼が張り出してあった。
入口すぐのところにある案内所で、冒険者証を見せて、部屋のある場所を聞く……とS級の部屋は最上階のフロアーにあると言う。
それを聞いてミオンがため息を付き言う。
「あぁ~ん、また階段で5階まで行くの~」
「まぁ、これも訓練の一つだと思えミオン」
とふてくされるミオンにゲキが笑いながら声を掛ける。
「だって~!」
そう言うミオンに俺が言った。
「だっても、明後日もない!黙って上に昇るミオン!折角キュティーバニーの格好をして、セクシーな美人なのに……台無しだぞ!」
その俺の”セクシーな美人”と言う言葉を聞いてミオンは、恥じらいながらも嬉しそうに体をくねくねして喜ぶ。
「さぁ!皆、張り切って5階に行くよ~」
と言いながら1人階段を駆け上がって行くミオン。
(ほんと……単純でやりやすい)
◇◇◇◇◇
「ハァハァ、やっと着いたの……ハァ」
張り切って階段を昇ったせいか……ミオンの息が荒い。
5階に着いて柱にある案内板を見ると、Team Ultimate
の文字を見つけ、俺が皆に
「そこを右に曲がった突き当りの501号室だ」
と言いながら、俺が先導して部屋に向かうことにした。
通路を進み突き当りの『501』Team Ultimateと扉の文字を確認して部屋のドアを……開かない!?
それを見たシノブが俺に言った。
「Mr.オオワシ、この壁の所にあるこれにバッチをかざすのではないかい?」
シノブにそう言われドアの横にある黒い四角い板に冒険者証をかざしてみると”カチ”って音がして扉が開いた。
(ああ、なるほど……)
俺達のチームはニールさんと時田さんも含んで、10人(ニールさんとソフィーは偽名登録)冒険者証に登録してある。
多いチームでは96人もいるらしいので、比較的小規模なチームのはずだ。
部屋の大きさは登録人数で決まると聞いていたのでさほど大きくない部屋を想像していたのだが……。
いきなり目の前には20畳のリビングダイニングが広がり、壁と床は白い大理石しかも、俺達の世界で言うペルシャ絨毯のようなフカフカの絨毯が引かれており、革張りのソファーには20人座れる。
その奥に所謂、アイランドキッチンがあり、入口手前の右の壁側には一度に5人シャワーが浴びれるシャワールームがあり、反対の左の壁にはトイレが5つあった。
そしって、部屋の左右の壁側には5の扉があり、それはそれぞれ2人ずつ寝られるベットルームだった。
思っていた部屋と大きさが違うのに驚いたが、後で聞いたらS級ではここが一番狭い部屋だとか……本来S級にもなる冒険者はもっと人数が多いらしい。
そして、もっと後に知ることになるのだが……実はこの部屋『明けの明星』(ソフィーの父、エドモンド王やニールさんのお父さんのティムがが居た冒険者チーム)が使っていた部屋だったのだ。
◇◇◇◇◇
今晩はこの部屋に泊まることにした。
そこで、今トレーラーで寝ているであろうニールさんを呼びにファルコさんに行ってもらっているところだが……。
俺達が部屋でくつろいでいると……急に部屋に明るい光が現れる。
一瞬、皆で臨戦態勢を取りかけるが、すぐにそれはニールさんの転移魔法の光だとわかり、臨戦態勢をすぐに解いた俺達。
「いや~やっと完成したんですよ」
といきなり転移魔法で現れたニールさんが言う。
「何がですニールさん?」
と俺が聞くと、ニールさんはその横にマジックボックス小を抱えるファルコさんを指差しニッコリ笑う。
「何なの?マジックボックスに何が入っているのニールさん」
と今度はミオンがニールさんに問いかけた。
するとニールさんはファルコさんにマジックボックス小を床に置かせ、ボックスからあるものを取り出した。
「「「「それって」」」」
とニールさんが取り出した物を見て俺、ゲキ、ミオン、シノブが言った。
ニールさんが取り出したのは……そう、『簡易転移装置』1対。
ダンジョンの報酬で得たアイテムの一つ。
ニールさんが説明では、ダンジョンの報酬で得た『簡易転移装置』は10Kmの範囲でしか使えなかったが、今回ニールさんが徹夜で改良して30Kmまで転移出来るようになったそうだ。
ニールさんが言うにはこれから向かう宿場には宿屋があるが、問題はその宿場に向かうまでの間に第1の魔物の巣があり、恐らくそれに対処していると夜までには宿場につけないだろうと言うことだ。
俺達もそれは承知で、途中一度は野宿を覚悟していたんだが、これがあると野宿は回避できる。
(流石、ニールさん”いい仕事をなさる”)




