9話 シノブの正体とニール・ラーキン
------美音視点---
「それでは、説明するよMissシラトリ。」
とシノブが立ちあがって言ったんだけど、なぜかすぐ隣の時田さんの方を向き、頷いたと思ったらそのままソファーに座ってしまったの。
(えっ……シノブが説明しないの?)
そんな私の思いをよそに、バトラーの時田さんがシノブに代わって説明をするみたいなの。
”こほん”と咳払いを一つしてから、時田さんは話しだしたわ。
「実はここに居られるシノブおぼっちゃまは、アメリカの大手民間軍事会社の御曹子であられまして、忍・メイトリックスと言うのは世を忍ぶ仮の姿でございます。
おぼっちゃまの本名並びに父君が経営される民間軍事会社の名前はセキュリティー状の問題でどうかご容赦のほどをお願いします。」
そこで、一息ついて時田さんは話を続けたわ。
「元々、シノブおぼっちゃまのおじい様が、設立された民間軍事会社をおぼっちゃまの父君が、後を継がれたのですが、おぼっちゃまの父上と言うのが、アメリカ陸軍のレンジャで凄腕のソルジャーとして有名な方でした。」
また一息ついて、
「退役後、会社をお継がれになってからも、ソルジャーとしての腕を見込まれ、アメリカ軍をはじめアメリカ政府……はては、他国からの依頼などもあり、テロリストの鎮圧はもちろんのこと、テロリストに攫われた邦人の解放交渉など多岐に渡る依頼をこなしておりますと、当然敵も多く、ご本人の命は元よりご家族の命を狙う輩も当然現れます。そこで、比較的安全なこの日本におぼっちゃまを向かわせたのです。」
そこまでの話を聞いて私はこう言い放たの。
「まぁ、シノブがどこぞの御曹子だの、命を狙われているだのはこの際、私はどうでもいいのよ。あのエルフとかセイアに関してのことが知りたいの。」
その私の言葉を聞いて、時田さんは御尤もみたいな顔をして話を続けたわ。
「私どもは、おぼっちゃまを秘かにお守りするため……」
少し言葉を濁しながら……
「おぼっちゃまの通う学校に監視カメラを仕込んでいまして……」
と言いにくそうに言う時田さん。
「えっ監視カメラっ……それって!」
時田さんの言葉に思わず噛みつこうとしたが、それを手で制して時田さんは言ったの。
「はい、違法なのは重々承知しております。しかし、相手はどんな手でも使って来る非道極まりないテロリスト集団ですので……それにカメラはおぼっちゃまのクラスの教室とクラブ活動に使う美術室に限定しておりますので……何卒ご容赦のほどを。」
すまなさそうに私に向かってそう言う時田さん。
「えっ!今、美術室って言った!?」
時田さんの話の中の、美術室って言葉に反応して私は叫んだの。
そこにシノブが割って入る。
「そっ!だから……。」
と嬉しそうに言うシノブ。
(何を嬉しそうに……コイツ!)
と心で思ったけど、私は口にはしなかったわ。
「じゃ、何があったか見てみようじゃないか。」
シノブの言葉を受けて、時田さんが合図をすると、テーブルの反対側の壁にスクリーンが降りてきて、部屋の明かりが消え、ブロジェクターが動き出して、スクリーンに映像を投影しだしたの。
スクリーンに投影されたのは、美術室で黙々とタブレットを前に絵を描くセイアの姿だったわ。
「?……音声は……」
と私の疑問の言葉に時田さんは、
「いいえ、音声はございません。」
と答えたの。
しばらく、みな黙って映像を見ていると作業に没頭するセイアの近くの天井になにか雲のようなものが現れたの。
「なっ!あれはなに?」
思わず声を出した私……しかし誰も何も言わない。すると画面が揺れだし、セイアが揺れに驚いていると美術室の天井の雲のような物体から、例のエルフらしき男の人が落ちてきたの。そこに駆け寄るセイア。そして、そこに……そこに!?セイアの上に落ちてきた……見知らぬ女の子。
「あぶない!!」
と思わず叫ぶ私。
セイアは、落ちてきた女の子に押しつぶされ、気を失ってしまったようなの。気絶しているセイアを必死で起こそうとする女の子。
(可愛いわね……セイアの好みっぽい女の子ね。)
気が付いたセイアが女の子の顔を見てすごく照れているように見えたわ。
(ホント……分かりやすいんだから。)
するとそこに……
「「え!?」」
「「「「OH!!」」」
みんな、おのおの声を上げた。化け物が3つ。……
(2匹はゲームに出てくるオークのようね。)
そして、セイアが女の子を庇って壁に投げられ、壁とセイアの間に血が滲みでてる。口からは血を吐くセイア……。
「セイア!!」
その後、あの女の子がセイアにしがみつき庇ってるところを……投げ飛ばされ、あの雲に……。
しばらくして、私が美術室の扉をガラッと開けたところで映像が止められたの。部屋の明かりがつけられスクリーンがゆっくりと上に上がった。
部屋には重苦しい雰囲気が漂ったわ。1、2分くらいかしら、沈黙を破ってシノブがポツリと言ったの。
「あの状況では……おそらくMr.オオワシ……。」
と言いかけたシノブの言葉を私は遮ったの。
「そんなことはない!セイアは生きてる!生きてるに決まってる!」
大声で叫んだの。でも、その私の言葉に誰もがその場で俯くだけだったの……
その時、部屋の扉が開き、見知らぬ黒のスーツに身を包んだ男が、私達の部屋に入ってきて、時田さんの近くまで進み耳打ちしたの。その内容を黙って頷きながら聞いていた時田さんが言ったわ。
「今、例の男性が意識を取り戻したそうです。」
それを聞いた部屋に居た一同が顔を上げたの。
「兎に角、その男性に話を聞こう!なにかわかるかも知れないからね。」
と私に向かって、シノブが言ったわ。
私はシノブの言葉に黙って、頷いたの。
◇◇◇◇◇
大使館の医務室に私とシノブそして時田さんが向かったの。医務室の前につくと何やら大声で話す男の人の声が聞こえるけれど、何を言ってるのか分らない。部屋のドアを時田さんがノックし、中から看護婦さんが扉を開けてくれたの。時田さんに続き私とシノブも医務室に入ったの。
部屋っではベットから起き上がったエルフの男の人がお医者さん相手に何かを訴えているようだったわ。
「ΞΨΠЮ◇◎¨×Θ☆¶§ΛΓ※△!!」
必死で訴えているようだけど、何を言っているかさっぱりわからないの。エルフの男の人の話を聞いているお医者さんも意味がわからないようで困惑しているようなの。私達が部屋に入ってきたのに気付いて、お医者さんがこちらをチラリと見たのに気付いたエルフの男性も話をやめ、こちらをちらりと見たわ。
「先生、いかがでしょう。」
と時田さんがお医者に聞く。
「手の火傷の措置はしました。……後、少し衰弱していたようなので、本人に事情を聞こうとしたのですが……このとおり言葉が通じないので……。」
と困り果てた表情で問いかけた時田さんに言うの。
そしたら、今度はエルフの男の人が、時田さんに向かって話しだしたの。
「ΞΨΠЮ◇◎¨×Θ☆¶§ΛΓ※△!!」
「×Θ☆¶§ΞΨΠЮ◇◎¨ΛΓ※△!!」
「Ю◇◎ΞΨ!!Π¨×ΛΓ※△」
時田さんは、エルフの男の人の言葉をしばらく黙って聞いてたけれど、
「う~ん……私の理解している20ほどの言語のどれにも当たりませんな。」
と考え込みながら言う時田さん。
すると、こちらの様子を見ていたエルフの男の人は、何やらブツブツと言ったかと思うと、
「§ΛΓ◎¨×Θ☆¶ΨΠЮ※△!!」
大きく叫んだの、そしたら、急にみんなの頭の中に彼の言葉が響いたわ。
「今みなさんに【全体思考転写】の魔法を使ったのですが……言葉、分かりますか?」
部屋にいたみんなが、その頭の中に響く声に驚いたわ。
「「え!?」」
「「「OH!!」」
一同驚きの中、エルフの男の人は話を続けたわ。
「私は、イーシャイナ王国魔法省顧問ニール・ラーキンと申します。魔王軍との戦いの中、姫のソフィー=ラグナヴェール様を我が故郷のアルブ王国へ避難していただくため、護衛をしていたのですが、不覚にも魔王軍に襲われ……姫が……姫が……ソフィー様はご無事なのでしょうか?」
その言葉に私やシノブそして、時田さんがお互いの顔を見合わせたわ。
「なるほど、あれはお姫様でしたか……。」
と言う時田さんの言葉に、ニールと言うエルフの男の人が、時田さんの体にすがりだして、
「えっ!姫を御存じなのでしょうか?」
そう言いながら、時田さんに縋りつくニールと言うエルフの男性。縋るニールさんに時田さんは、
「あれを見ていただきましょう。その方が話がし易う御座いますので……」
と二ールさんに言ったの。




