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路面凍結を甘くみてはいけませんね。

冬の日の朝のお話しです。

 トレールバイクは、ヤマハのセローに代表されるように『二輪二足』が信条だ。

 しなやかに設定された足回りと良好な足つきで、タイヤと両足を上手く使って様々な路面をクリアしていく。

 しかし…‥、まさか通勤路で二輪二足が必要な状況に遭遇するとは、私の考えが甘かったようだ。

 前日の関東地方は朝から雪。

 昼過ぎにはみぞれ混じりの雨に変わり、積雪は0cm。

 道路どころか田んぼや畑にも積もっていない。

 私はいつものように駐輪場からバイクを引っ張り出し、路肩まで押してからサイドスタンドをかけた。

 今朝も空気が冷たい。

 燃料コックをPRIにして10秒待ち、ONに戻してからキーを捻り、チョークノブを引いてスタートボタンを押す。

 寒いながらもセルモーターがエンジンを一発で目覚めさせる。

 いつもと同じ、いつもの出発準備。

 しばらく暖機運転をしてから、巻き付け式のレッグウォーマーを着け、ヘルメットを手に取る。

「?」

 その時になってやっと違和感に気が付いた。

 道路のアチコチに白っぽい部分がある。

「霜が降りたかな?」

 近づいてつま先で触れてみる。

 と、つま先がツーッとあらぬ方向に移動してバランスを崩しそうになった。

「…あっぶな。これ、凍ってるのか」

 明け方にぐっと気温が下がったせいなのか、雨で濡れた路面が凍結したようだ。

「どうするか…」

 道路の先に目をやると、日陰になっているところなど白い部分が目に付く。

 空を見上げるとお日様が顔を出して、空気は冷たいものの、日差しは暖かい。

 多分、この程度の薄い氷ならそれほどかからずに溶けてしまうだろう。

 実際、車が通ったところはタイヤの圧力でもう溶け始めている。

「まだ時間も早いし、日陰を避けながらゆっくり行けばいいか…」

 そう自分を納得させてバイクに跨り、いつもより優しくクラッチを繋いで家を出た。

 私は道が混むのを嫌って出勤時間を少し早めにしている。

 まだ通勤のクルマが少ない道路を、いつもよりゆっくりとしたスピードで走っていく。

 いつもよりも早めのブレーキで緩やかにバイクを減速させながら、左折する交差点に目をやった。

 日陰ほどではないが、路面が白い。

 私は必要以上にしっかりと車側を落とし、バイクを立てたまま、ハンドルを切って交差点を曲がった。

 注意してはいたが、リアタイヤが右にツッとズレる。

 咄嗟にハンドルと両足を使ってバランスを回復する。

 予想していた上に、両足をステップから下ろしておいたおかげで、わずかなうちに対応できた。

 横断歩道はやはり要注意だ。

 曲がった後の立ち上がりも、細心の注意を払ってアクセルを開いていく。

 凍結の疑いがある場所ではスピードは上げられない。

 制限速度よりもかなり抑えたスピードで走る。

 橋の上も他の車が少ないおかげで難なく通過できた。

 右折は無理をせず、ゆっくりと、横断歩道の白い部分を避け、細心の注意を払ってアクセルを操作する。

 両足はステップから下ろしたままだ。

 後ろから、どう見てもノーマルタイヤの、車高を落としたチェイサーが、車検に通らなそうなうるさいマフラーの音を響かせて追い抜いていく。

 知らないということほど怖いことはない。

 運転していたのはまだ若そうな男性だったが、自分の運転が上手いと思っているのだろう。

 おそらく路面状況も解っていないし、凍結路にパワーをかけた後輪がのった場合にクルマがどういう挙動をするかも想像できていない。

 私は何事も無ければ良いがと遠ざかるクルマを見送って、途中のコンビニの駐車場に入った。

 なかなか神経を使う。

 一休みしよう。

「…‥!」

 駐車場は一面真っ黒に氷がはっていた。

 極力操作をせず、両足を下ろした状態でバイクを真っ直ぐに立てたまま駐車場を横切る。

 店舗前の凍っていない部分まで行って、ようやくバイクを止めた。

「ビックリした…‥」

 きっと店員が掃除した後の水か何かを流したのだろう。

 なかなかスリリングなポイントだった。

 ヘルメットを脱いで大きく息を一つつき、店内に入ってお茶を買う。

 外へ出ると、目の前の道路をコンパクトカーがスピードを上げて走っていった。

 ドライバーは若い女性だ。

 遠めで解りづらかったが、やはりノーマルタイヤだったと思う。

 最近のクルマは電子制御でトラクションをコントロールしていて、多少スリッピーな路面でも車体を前に進めてしまう。

 スゴイことだし、良いことのように思えるかもしれないが、公道を走る乗り物にとって重要なのは『止まれる』ことだ。

 氷の上ではスタッドレスタイヤだって簡単には止まれない。

「いつ事故が起きても不思議じゃないな…」

 凍結路に慣れていない地域の怖い現実だった。

 私はヘルメットを被りなおし、グローブをはめて、バイクをまたゆっくりと走らせ始める。

 日向(ひなた)の路面状況はだいぶ改善しつつあるようだ。

 それでもスピードを押さえ目にして走る。

 日陰や交差点を通過する時は細心の注意を払う。

 神経を使うし、ヒヤヒヤするが、なかなか出来ない経験だし、実は私自身は楽しんでいる。

 バイクを操ることに集中しつつも、路面を読み、周囲を警戒し、普段経験できないバイクの動きを体で覚える。

 これはこれで楽しい。

 通勤の距離以上になるとキツイかもしれないが、この程度なら集中ももつ。

 職場が見えてきてこの楽しみも終わりが近づいてきた。

「あ…‥」

 職場の手前の交差点でチェイサーが路肩に突っ込んでいた。

 どうやら運転手にケガは無いようだが、クルマの方はなかなか修理代がかさみそうな状態だ。

「お大事に」

 ヘルメットの中で小さく呟いてその場を通り過ぎた。

 氷は雪よりも怖い。

 今日は私も楽しい経験が出来たが、次も上手くいくとは限らない。

 安全に関しては充分に配慮してやり過ぎるということは無い。

 公道でのトラブルは周りにも迷惑をかける。

 事故ったクルマを教訓として心に残し、次はバイクではなく別の方法で出勤しようと思った。

 大事な相棒をあんなクルマの様にしたくは無い。

楽しみましたが、教訓にもなりました。

公道は遊ぶ場所ではないので、こういうことはやっちゃダメですね(>_<)ゞ

反省_| ̄|○

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