14 安心がある場所
バイクの整備をどんなショップでお願いするかという問題についてです
250ccのバイクには、自動車検査登録制度における継続検査、つまり一般的にいうところの『車検』が無い。
しかしバイクが機械である以上、折に触れ、定期的な整備は必要になる。
洗車はもとより、各部への注油やブレーキ、エンジンのオイル交換、チェーン、エアクリーナーの清掃など、やるべきことは実に色々とある。
まだまだバイク暦の浅い初心者である私でも、そのことについてはよく理解しているつもりだ。
チェーンの清掃やエンジンオイルの交換などは定期的におこなうようにしている。
しかし、初心者のレベルではなかなか手の出しづらい整備もある。
エンジンやキャブレターなどの分解整備となると、元に戻せるか自信がもてない。
車検の無い250ccのバイクに乗る以上、こういったことも出来る様になるのが当然だという気持ちはある。ただ、まだ知識の足りない私が手を出して大切なバイクを壊してしまうのではないかという恐怖が付きまとう。
そんな時、頼るべきなのがキチンとした技術と知識のあるプロの整備士だ。信頼できる整備士に出会うことが出来れば、こんなに心強いことは無い。
そんなプロフェッショナルを、私も探していた。
バイクショップというのもいろいろあるもので、商売っ気たっぷりで客の顔は覚えていないのに毎回セールストークをしてくるような店から、まったく商売っ気が無く話しも聞いてくれないような店まで本当に様々にある。
私が今のバイクを買ったのは、チェーン展開している大型店だった。
こういった販売店が悪い訳ではない。
キチンとした技術を持った整備士もいるし、取り扱っているバイクの種類も多い。
ただ、大型店の経営方針として、やはり販売の方にウェートがいってしまうのは仕方が無いことなのだろう。
私は、あと数年で生産終了から10年になる今のバイクに出来るだけ長く乗りたい。
もちろん、いろいろなバイクには乗ってみたいのだが、このスーパーシェルパだけは特別なのだ。
だから、調子を崩して私の手ではどうしたらいいのか解らなくなってしまったような時に「買い替えた方がお得だと思いますよ」といわれると悲しくなってしまう。
得だからとか、最新のバイクの方が乗り易いとか、そんなことは私にだって解っているのだ。
ただ、このバイクに特別な思い入れがあるから、古くなっても、お金や時間が余計にかかってしまっても乗り続けたいのだ。
大型店で駄目なら、個人のバイクショップはどうだろう。
しかし個人経営のバイクショップの中には、そのショップで購入したバイクしか整備してくれないというところもある。
これも仕方が無いことなのだと思う。
限られた人数と時間で責任を持った仕事をする為に、自分たち以外の知らないヒトの手が入ったバイクの整備を断る。これはきっと自分の仕事に責任を持っているということなのだ。
また「こういうタイプのバイクには詳しくないし、古いバイクだとどこが原因なのか解りづらくてウチでは対応できない」と言われてしまうこともある。
これも、正直に言ってくれるのだから、いい加減な作業をされるよりよっぽど良い。
こうして何軒もバイクショップでの相談を繰り返して、私のバイクに合った整備士を探していくしかないのだろう。
私のバイクは製造から既に10年以上が経過しているので、調子を崩すようなこともある。
そんな時、幸運にも今のバイクショップに行き着くことが出来た。
その時の私のバイクは、エンジンの吹けが悪くなり、アクセルを大きく開くとガボガボと咳き込むようになってしまっていた。燃費も落ちてしまっている。
症状からしてキャブレターに原因が有るように思えるが、自宅近くのバイクショップでは解らないと言われてしまった。
困った私は何軒かバイクショップを回ったが、どこも似たような答えだった。
そして、最後に辿り着いたのが自宅から少し離れたところにあるそのショップだった。
お店は農協の古い倉庫を少し手直ししたもので、整備士さんは人当たりも良かったが、それ以上にバイクが好きという感じが滲み出ているヒトだった。
私が症状を説明すると、キャブレターの調整も含めて、少し自分で走らせて症状を確認した上で対処した方が良いと思うが、自分が乗っても構わないか?と聞かれた。
ほかのショップではそんなこと言いもしなかった。
私は是非お願いしますと答え、そのままバイクをそのショップに預けた。
クルマでもそうだが、修理や整備をおこなう上で『実走』はとても重要なことだと思う。
今はよく出来た装置があり、ガレージ内にいながらにして実際に走ったのと同じ負荷をかけることが出来るようだが、やはり実際の道路を走るのとでは解る事が違う気がするのだ。
そのショップにはオイルと薬剤の香りがあり、整然と並べられた工具があり、キチンと整理された作業スペースがあった。
当たり前のことが当たり前にキチンとしてあるだけで、バイクに対する態度が見えるような気がする。
もちろん、これだって私の勘違いかもしれないし、店が散らかっていても腕の良い整備士だっていると思う。
でも、その整備士が私にとって信頼に足る存在かどうかは違ってくる。
このヒトは信頼できる。
そう思った。そして、結果的にそうなった。
時間こそ多少かかったが、シェルパはすっかりもとの元気な加速を見せるようになっていた。いや、以前よりも良くなっているかもしれない。
整備士さんはとても丁寧に整備内容とキャブレターの設定について説明してくれ、おそらく私は満面の笑みでそれを聞いていたと思う。
私が大切なバイクで走り続けるために必要な手助けをしてくれる場所、そしてヒト。
これが、私がバイクショップに求めるモノだと改めて思った。
バイクの整備について私がこれから学ぶべきことはとても多いが、そんな時もこのオイルの香りが漂う場所は、大きな安心感をもってそこにあってくれるだろう。
さあ、バイクに乗ろう。
あの場所がある限り、安心して相棒と走れる。
信頼できるショップや整備士さんに出会えるのってとても幸運なことですよね。
バイクを通したヒトとヒトのつながり。
大切にしていきたいですね。