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13 小さなヘルメット

以前に書いた初めて運転したバイクよりもさらに遡ってみました。

まさに始まりのエピソードです。

 バイクの最大乗車人数は2名である。

 まあ、サイドカーなどの特別に許可を受けた車両ではまれにこれを上回ることがあるが、通常は運転者のほかにもう1人だけ、その同じ世界を、同じ加速を共有することが出来る。

 これがtandemタンデムだ。

 元々は、縦に馬をつないだ2頭馬車のことだそうだが、これが縦に2つの座席を並べた形式を指すようになり、バイクに2人で乗る行為をタンデムと言うようになったらしい。

 経緯は特にどうでも良いのだが、50ccの原付バイクとタンデム用の座席を持たない構造のバイクを除いては、2人目の乗車が可能だということになる。

 さて、タンデムにはもう一つ条件がある。

 それは運転者についてだ。

 運転者は、一般道の場合は免許取得から1年以上経過したライダーであること、高速道路の場合は免許所有期間が3年以上で20歳以上のライダーであることとなっている。

 バイクは転倒するものであり、事故が起これば搭乗者がケガをする確率は非常に高い。

 だからこそ機械と人にそれぞれ色々と条件が付いているのだろう。

 私はまだタンデムの経験が無い。

 いや、タンデムで運転をしたことが無いの間違いか。

 私が始めてバイクに乗ったのは、今から20年以上前、父が運転するホンダのスティードという400ccのアメリカンタイプのバイクの後部座席だった。

 後部座席のことはパッセンジャーシートと呼ぶらしい。

 私はそこで初めて、バイクのエンジンの鼓動とマフラーから聞こえる大きな音、体に当たる風と傾きながら曲がっていく感覚というものを体験した。

 実家から駅までのほんの10分ほどの距離だったが、どこを通って、どの信号に引っ掛かって止まったかまで覚えている。

 楽しかったとか、感動したとかそういう記憶ではない。

 ただ、あの音と風を覚えているのだ。

 父は慣れない私を後ろに乗せて、少し運転しづらそうだった。

 本来、後ろに乗る人間、パッセンジャーは運転するライダーと動きを合わせないといけない。

 バイクは体重移動で曲がる乗り物なので、同じように体重移動してくれないと、思ったように曲がってくれなかったりする。

 父はこの時どんな気持ちだったのだろう。

 私は当時高校生になったばかりで、父とは仲が良いわけでも悪いわけでもなく、年相応に微妙な関係だったと思う。

 でも、この時の父の背中は少し誇らしげで、休日にゴルフばかり行っている姿とは違って見えた。

 父はあの時のことを覚えていないだろう。

 私の父は今から15年ほど前にクモ膜下出血を経験している。

 今ではちょっと頑固になったくらいで、身体的な後遺症も無く元気に暮らしているが、バイクに乗ることは無い。

 あの頃の父は休日になるとゴルフに出かけてばかりで、家にはあまりいなかった。

 それが急に400ccのバイクを買った。バイクの免許はもともと持っていたようだ。

 初めは当時人気のあったネイキッドのカワサキ・ゼファーだった。

 しばらくはそのバイクを乗っていたが、体型的に合わなかったのか、いつの間にかスティードに乗り換えていた。

 兼業農家の広い物置に、農業用機械と共に並ぶ当時の最新バイクはなんとも場違いだが、格好良かった。

 親父もなかなかヤルもんだと思った。

 実際には、父がバイクに乗っていた期間はそう長くはない。

 すっかり下腹の出てしまった体型にバイクはキツかったのか、その3年ほど後には物置からバイクが消えていた。

 それでも、バイク乗りだった父を私は覚えている。

 私の記憶の中のなにかが、バイクと今の私を結びつけたのだろうか?

 親子して似たような病気にかかって、最悪の事態を家族に説明されているところが笑えないが…。

 違っているのは父がバイクに乗っていたのは病気をする前で、私が乗るようになったのは病気をした後というところくらいだ。

 私は今、少しだけあの時の父の気持ちが気になっている。

 息子を後ろに乗せ、少し運転しづらいタンデム走行。

 どんな気持ちだったのだろう。

 想像はいくらでも出来る。

 でも、それが正解かは解らない。

 父に聞いてみるつもりも無い。

 答えはきっと、私を加速させてくれる2台の相棒たちが見せてくれるだろうから。

 …今、私は息子の頭のサイズに合うSサイズのヘルメットを探している。

 子供とのタンデムについては賛否両論あるだろうし、それぞれの考え方がある。

 なにより、私の技量では心配な面が無い訳でもない。

 それでも、息子がバイクと私に向ける目は輝きに満ちているように見える。私の勘違いかもしれないが。

 息子は、乗りたい! と言い、妻は気をつけてねとだけ言う。

 怖がりの娘はまだ悩んでいるようだ。

 慌てなくてもいい。

 私の父よりも、私はきっと長い時間をバイクと共に過ごしていくだろうから。

 SサイズのヘルメットがMサイズになったとしても、私の背中を見せてやることが出来るはずだ。

 あの時の父のように少しだけ誇らしげな背中を。 

子供とのタンデムについては色々ご意見もあると思います。

とりあえず、子供用のタンデムベルト(ベストみたいなヤツ)やヘルメットを用意して、スクーターでご近所から始めてみようと思っています。


始まりのエピソードは、いつか引き継がれるエピソードになっていったら素敵なんですけどね~(^_^)ゞ

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