12 それは前にしか進めない
バイクにバックギアは無い!という響きがカッコイイと思いながら書きました(^^;)
バイクはバック出来ない。
もちろん、一部の大型バイクには取り回しを良くする為にバックギアが付いているものもある。
だがそれはあくまでも一部の車種であり、かつ補助的な動かす為だけの機構だ。
だから正確には『バイクは前に向かってしか走れない』と言うべきかもしれない。
バイクは走っていないととても不安定な乗り物だ。
ジャイロ効果とか物理の授業で習ったような言葉を使えば説明出来るのだろうが、生憎と理系の科目は得意ではない。
ただ経験と感覚から、走っている時がバイクの本来の姿だと理解をしている。
私は、この不器用な機械のようでありたいと思う。
加速するために作られた機械。
減速は出来ても、停止を拒み、逆進を許さない。
なんと潔く、なんと清々しい。
バイクという機械は、まるで思春期の少年のように真っ直ぐで、純粋だ。
キーを差し、セルボタンを押して、エンジンを目覚めさせる。
クラッチレバーを握り、チェンジペダルを踏み込んでギアを1速に入れ、アクセルをわずかに開きながら、クラッチレバーをゆっくりと解放していく。
伝わっていくエンジンの鼓動が、まるで後ろ足の爪先で地面を蹴り出すように、リアタイヤを駆動させる。
エンジンの回転にあわせて加速が高まる。
再びクラッチレバーを握り込んで、左のつま先でシフトペダルをコツンと蹴り上げた。
2速。
クラッチレバーを開放すると、より大きな加速が始まる。
右手がアクセルを操作し、高まるエンジン音と排気音に合わせて同じ操作を繰り返す。
3速、4速、5速、6速と加速は途切れることなく続いていく。
言葉に変換すると複雑な操作だ。
しかしバイク乗りにとってはごく当たり前の、まるで呼吸に等しい動作。
バイクは風を受けながら、それを切り裂くように真っ直ぐに加速していく。
コーナーが近づく。
右足の爪先がブレーキペダルを踏み、左手の指先がクラッチレバーを握りこむ。
右手で軽くアクセルをあおりながら左足の爪先でチェンジペダルを踏んでシフトダウン。
クラッチを繋ぐとエンジンの回転がバイクをさらに減速させる。
4速、3速。
順にギアを落としていき、右手と右足は前後のブレーキを操作し、適正なスピードでコーナーへアプローチを開始する。
バイクをコーナーの内側に向けてゆっくりと倒し込む。
前に進む力と遠心力がバランスし、斜めになったままのバイクがコーナーの曲率に沿って、スピードを保ったまま曲がっていく。
ハンドルを切る必要はほとんどない。バイクは体重移動で曲がる。
視線はコーナーの出口へ、さらにその先の行き先へ。
眼を向けた方にバイクは行く。壁に向ければ壁に、ガードレールに向ければガードレールに、さらにそれを越えて谷底に。
バイクがコーナーの出口に向かってその向きを変え終わったところで、アクセルを徐々に開く。
また加速が始まる。
こうしてバイク乗りはその機械と共にひたすら前に向かって走っていく。
走った軌跡はバイク乗りの体と頭の中にだけ残る。
今のは気持ちよかったな。
今のはヤリ過ぎた。危なかった。
もう少しイケたかな。
なんて風に、バイク乗りの中に轍が刻まれていく。
私はよく立ち止まってはこの轍を眺める。
若い頃ならきっと後ろなんか見もしなかっただろう。
でもまあ、今はあの頃とは刻んできた轍の長さが違うのだから、仕方ないのかもしれない。3メートルの長さなら気にならないが、数百、数十メートルの長さまでいけば、これで合ってるか? 大丈夫なのか? と後ろを振り返りたくもなる。
ヒトの歩みと同じだ。
41歳の今の私は、よく振り返る。
あれで良かったのか? ほかにもっと良いラインはなかったか? と。
振り返ってもいいのだと思う。でも、後戻りは出来ない。
病気をする前には戻れないし、年齢を巻き戻すことだって出来はしないのだ。コーナリングの途中で、進入前に戻ってもう一度アプローチからやり直すことが出来ないように。
同じなのだ。
バイクと同じように前に向かって走るしかない。
私がこのバイクという機械にまたがって加速を共にしようとするのは、少年の頃の純粋さや真っ直ぐな心に対する憧れなのだろうか。
41年という長さの私の中に刻んできた轍。
あっちへフラフラ、こっちで転倒。パンクをして立ち止まり、修理をしてはまた走り出す。
お世辞にも真っ直ぐじゃない。
それでもこの潔さを思わせる機械に、バイクに乗って走り続ける。
後ろを振り返っても良い。
ただ、ヤルことは一つだけ。
前に向かって加速する。
この不器用な、バイクという機械のように。
バイクにはバックギアは無いのだから。
コーナリングの描写は未熟な私の技術がそのまま出ている気がしています(>_<)
エンジンブレーキの使い方などツッコミどころ満載な気がしておりますが、そこは流していただけるとありがたいです(>_<)ゞ
もっと修行しなくては(;^_^A