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10 その瞬間を待ち構えること

季節的にタイムリーではないのですが、夏のお話しです。


 バイクに乗っていると、目に映る様々なモノに感動を覚える。

 朝陽の昇る姿もそのひとつだ。

 ある夏の日、まだ東の空も白くならないうちから起き出し、家族を起こさないようにそっと家を出る。

 目指す場所はツーリングマップルを見たり、実際にツーリングに出た時に目星を付けておいた。

 住宅地を離れるまでゆっくりとバイクを押し、充分に家から離れたところでエンジンをかける。

 シンと静まり返ったこの時間は、バイクの音がいやに大きく感じられる。

 時計を見ればまだ午前3時。早朝というよりはよっぽど深夜に近い時間だ。

 シフトペダルを踏み込み、クラッチをそっとつなぐ。

 空気は少しひんやりとしていて、昼間の熱気とは大違いだ。

 国道に出て大きくアクセルを開ける。

 長距離トラック以外の車は少ない。朝の車が動き出すのもまだ4時間は後だ。

 風が心地良かった。

 8月の日中は乗っているだけで体力を奪われるが、この時間はとても快適だ。

 唯一の難点はヘッドライトの明かりに虫が飛び込んでくること。

 昆虫の硬い甲殻がヘルメットに当たってカッと音を立てる。シールドやゴーグルがなければ怖くてとても運転できない。

 1時間ほどバイクを走らせ、国道を逸れる。

 途中コンビによって缶コーヒーとオニギリを買い込んだ

 ここからは田んぼの中の道を20分ほどで目的地だ。

 シンとした田んぼの中の県道をスーパーシェルパの排気音だけが響く。

 しばらく走ると高い土手に出た。

 渡良瀬遊水地。

 栃木県、群馬県、埼玉県、茨城県の4県にまたがる広大な湿地帯だ。

 まだ薄暗い空気の向こうに、深い闇色の水辺が広がっていた。

 今日はこの『谷中湖』の向こうに昇る朝陽を見ようとシェルパのエンジンをかけたのだ。

 時刻は午前4時35分。

 日の出まではあと20分ほどだ。

 周囲はまだ薄暗いが、湿地のはるか向こうからだんだんと色が変わり始めている。

 薄闇を見通しながらちょうど良さそうな場所を探し、バイクを停めた。

 バッグからカメラを取り出し、細かな設定をおこなう。

 三脚は持って来なかったが、星空を撮影する訳ではないので大丈夫だろう。

 だんだん空の色が東の方から紫色に変わっていく。

 ファインダーを覗きながら何度かシャッターを切った。

 レンズの向こうの空は、紫色から次第に桜色へ色を変えていき、空と湖もその色に染まっていく。

 また何度かシャッターボタンを押した。

 何も考えなかった。

 ただただ色を変えていく空の色がキレイだった。

 桜色がオレンジに変わっていく。

 大きなオレンジ色の太陽が遊水地の向こうから昇ってきた。

 夢中でシャッターを切ったが、ふとカメラを下ろす。

 なんだかもったいなくなってしまった。

 私はカメラをかたわらに置き、バイクのわきに腰を下ろしてコーヒーを開けた。

 良い気分だ。

 浸みていくようにコーヒーと朝陽が全身にいきわたる。

 オニギリも取り出して齧り付いた。

 何てこともないコンビニのオニギリがびっくりするくらい美味しく感じる。

 昇っていく朝陽をオカズにオニギリとコーヒーの朝食。

 味気ないと思うヒトも多いだろう。

 でもそんなことはない。

 堤防の上は他に誰もいない。

 この景色と柔らかな朝陽を独り占めしながらの朝食。

 これ以上の贅沢はなかなか無いと思う。

 朝食を食べ終わると、最後に1枚シャッターを切り、カメラをしまった。

 さあ、まだ時間はたっぷりある。

 目の前にはスーパーシェルパにうってつけのフィールドが見渡すかぎり広がっている。

 もっと楽しもう。

 太陽は昇ったばかりだ。 


挿絵(By みてみん)

この後、渡瀬遊水池の中のダートを巡って楽しみました。

本当に楽しい1日でしたね。

早起きはまさに三文の得でした。

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