らぶらぶ☆てんぷてーしょんっ! ~欲望の王の華麗な日常又はとある哀れな男の肖像~
製作時のテーマとしては「二次創作で人気のニコポ・ナデポの自分なりの解釈による導入」と「R-18にギリギリならない程度のエロ描写の実験」です。
アカンようでしたらノクターン送りにいたします。
――声がする。
何時も聞こえ、そして最早聞きなれた、心地よい小鳥のさえずるような美声だ。それも一つではなく複数の。
「んっ……、あら、お目覚めでございますか?」
「おはようございますご主人様。……ちゅっ」
「では、まずいつもの様に。……あむ」
「……ご主人様、失礼ではありますが、朝のお浄めは既に始めさせていただいております」
まだ眠りから覚醒していない私の身体を、蛞蝓にも似た複数のモノが、身体から一切の汚れを残さず削り落とす勢いで私の四肢や胸、指、腹、首筋、顔、脚の付け根付近など私の全身を這いずり回るのを感じながら、私は眠気に包まれた瞼を無理矢理にこじ開ける。
這い回る感触は三つ、四つ、否、感じるだけでも少なくとも軽く十以上はある。
完全に目を開けてみると、私の寝床の大型ベッドの上には全裸の十数人の麗しい美女と美少女が、ベッドの上の私の身体にまとわりつき絡み合っている。蛞蝓めいて全身を這い回っていたモノのは、普段通りであったが彼女達の舌や四肢である。彼女達は麻薬を欲する薬物中毒者のように、一心不乱に休むことなく、顔に歪んだ悦楽を浮かばせながら舌や肢体を纏わりつかせる。
私が体を動かすと、途端に彼女達の視線が目覚めた私に注がれる。その視線は、博愛ではなく狂信と依存に狂った狂気の視線。
彼女らは皆年齢はバラバラであるが、共通して言えることは誰が客観的に見たとしても、大変に眉目秀麗だったり可愛かったりする、生粋の美少女や美女ばかりである事だ。
私の身体に舌を這わせていた一人が口を開き、若干不安げではあるが、他の人と同じセリフを何時ものように語りかける。
「ご主人様、その、差し出がましいとは思いますが何時もの様にお情け(・・・)を頂戴したい、のですが……」
「……ああ、『いつもの』だね。好きにするといい」
瞬間、彼女達全員の顔に歓喜と悦楽の入り混じった表情が浮かぶ。ある者に至っては涙さえ流し、興奮のあまり私に隠すことなく顔を快楽に歪め全身を震わせてさえいる。
「ああ、ありがとうございますご主人様……」
彼女達の反応を見て、まるで完璧に訓練されきったパブロフの犬のようだと内心思いながら、彼女達が歓喜するのも当然といえば当然かもしれないと同時に納得した。
何故なら、彼女達には私以外の存在は何も存在していないのだから。
――否、訂正するなら『何もなくなった』と形容するのが正しいだろう。何故なら彼女達がこうなった原因を作ったのは私の異能とエゴのせいなのだから。
少し思案に耽っていると、私の上に押し潰すような重量を感じた。見れば衣服を脱ぎ捨てた取り巻きの一人が私の上に馬乗りになっている。その表情は可愛らしい顔を歪ませた理性の決壊したケダモノの如き形相だ。
「で、でで、では。せ、僭越ながらまずは私がお情けを頂きますが、その……」
「……ああ、いいよ。」
瞬間、少女は飢えた獣のように私の身体に飛び掛かるように喰らいつき、その全身を大きく揺らす。途端に彼女の全身からは熱が発せられ、彼女の全身から噴き出た汗が周囲に飛び散っていく。周囲の取り巻き達はその様子を羨ましげに、嫉妬と羨望の眼差しを私達に向け、自身を焼く己の嫉妬と欲望から目を背けるかの如く、一心不乱に私の身体に舌や四肢、肉体を這わせる。
一方私の上に乗る少女は優越感と快楽に狂い、目から涙を、口から唾液をだらしなく垂れ流している。
宙で乱れ舞う黒く整った長髪と、先程までは生真面目そうであった顔立ちだった少女は、快楽で歪んでいるという一点を除き、普通ならばとてもこんな場所に居る筈のない理性的な美少女だ。身体つきも均整が取れていて、実に健康的な印象を抱く。
本来ならその眼には知性の輝きを灯しているのだろうが、今はそんな様子は微塵も存在しない。ここにあるのは、全身から熱を発し、理性とはかけ離れた狂気と情欲に狂ったぐるぐると濁りに濁った瞳である。此処にいるのだからそれも当然と言えば当然なのだが。
「ああ、ご主人様、お慕いしております! 心より愛してます! ……私は、私の何もかもご主■様にお捧げ致します。ですから、です■ら、もっ■私に■方様の愛を!」
上に乗る彼女が何かを喋っているが、私の耳には届かない。
彼女の視線は何かを求めるかのように私に注がれるが、私はその視線から逃げるように目を背けた。改めて私が屑だと再認識するが、それは最早自問自答しすぎた事だ。
だが私の反応の影響なのか、彼女の身体の動きは苛烈さを増した。彼女の反応に対応して私を取り囲む取り巻きの女性達の熱と動きも加速する。
その様子はまるで砂漠の水を求める渇いた旅人や、甘い砂糖の蜜に集る無数の蟻の如くだ。
「■■■■■■!」
「■■■■■■!」
ああ、又雑音だ。何もかもが擦れていく。
彼女と周囲の女性達の熱に反比例して、私の心は渇いていた。彼女達が綺麗なのは確かである。欲望を掻き立てられるのも事実だ。だが私の心に積もるのは快楽と欲望ではなく、果てしない罪悪感に他ならない。
因果応報、ここに極まれり。というべきか。
この渇きと罪悪感からは私は恐らく永劫逃れられまい。
このような事態になった責任を、私は生涯を掛けて償い続けるのだ。
私は現実から逃れるかのように上に乗る彼女を押し倒した。そこから先は覚えていない。
ただ一日中私の居た寝室から声が止む事が無かったことだけは付け加えておく。
……ああ、そういえば、この部屋にいる彼女たちの名前は、確か何だったのだろうか。
◆ ◆ ◆
「……ッ!」
「ご主人様ぁ! ありがとうございますぅ! あ、ああっ!」
朝の日課を終わらせ、廊下で出会った女性達に彼女等が思い思いに望むモノを与え、陶酔と悦楽で構成された死屍累々の道を築きながら。緩慢に私は食堂に辿り着く。その後は何時もの様に無表情で、女性の形が寄り集まり絡まり合ったような歪な椅子に座る。ぐにゃりという全身に感じる柔らかい感触と複数の嬌声にも似た雑音を思考から排除し、私は朝食を取る。
「ご主人様、今日の朝食をお持ちいたしました」
そう言って数人のメイドが今日の朝食を運ぶ。運ばれた料理は目の前の女性や少女がより集まり固まった様な形状の歪な『机』に乗せられる。
食事を運んできた彼女達の姿と顔立ちは皆等しく可愛らしく、そして美しい。中にはメイドとは思えぬ程の気品と美貌を漂わせる者もいる。この屋敷には数百人単位のメイドが存在し、毎日ローテーションで『当番』の交代が行われているのである。
「いつもすまないね。ありがとう」
何時ものように。彼女達に事務的に笑いかけながら礼を言うと、笑みには何の感情も籠っていないというのに、全員が全身を夕日の様に赤らめる。彼女達の眼に宿す光は寝室当番と同様に狂信と依存、情欲の炎であり、見た目こそ変わりないものの、私の礼によりその炎はまるで噴火する火山の様に爆発したと直感的に感じとった。中にはカタカタと脚や指を小刻みに痙攣させている者もいる。
食事の為『机』と『椅子』に力強く触れ体重を掛けると、それらもガタガタと震えながら、私が最も食事しやすい様にその高さを変える。
『椅子』と『机』からナニカうるさい雑音や水音が聞こえ、全身から熱せられた鉄のような熱を感じるが、単なる気のせいだと結論付けた。
私の食事は基本的にはメイド達の手で行われる。食事は自分の手で行われるのが一般常識であるが、私の屋敷ではそういった行為は許されず、更に食事を含めた全ての生活行為がメイド達の手や身体を介して行われる。普通では反論くらいしてもいいのだろうが、私にはそのような事は許されないし、彼女達の意見に口出しできる権利を持てるはずもなく、ただ彼女達の意見と主張を受け入れ享受した。
「ご主人様、お食事で御座います」
一人のメイド(確か名をメリアと言っていた記憶がある)が私の食事を口に含み、丁寧に噛み砕いた後身体を密着させ、恋人の如く私の口づけし、咀嚼した料理を私の口に丁寧に流し込む。
「んっ……、 ご、ごひゅひんさまが、わ、わたしのなかに入って……、ああっ……」
私と互いに口を付けた瞬間、メリアの全身が小刻みに痙攣し始める。私の身体に服越しに密着した豊かな美貌は歓喜に打ち震え、脚の付け根からは湿り気を感じ始めたのを、私は無理矢理意識から外し、食事に没頭する。時々互いに舌が絡み合った瞬間、その度に彼女の快楽は限界に達し続けた。
食事開始から約三十分近い時間を掛けて、ようやく一皿目の食事を終えた私とメリアは終了と同時に口づけを終えた。名残惜しそうな、それでいて完全に蕩けきったか大下眼前のメリアを無視し、次の料理に移ろうとした私を彼女は息も絶え絶えに呼び止めた。
「……わ、わたしの、わたしのなまえを、メリアと、よ、よんでください」
……気は進まないが、懇願されたのでは私に拒否権は存在しない。要望通り私は彼女の耳元で囁く為彼女を抱きしめ、口を耳元に寄せる。
「……メリア、君のお蔭で私は美味しく食事が出来た。ありがとう」
「~~~~~!」
そう耳に至近距離で囁いたその瞬間、まるで今までの反応は前座だったかの如く狂った様に、メリアと呼ばれたメイドの全身が痙攣した。手足が暴れ、目は白目を剥きながら目から大量の涙を流し、声にならぬ歓喜の絶叫を上げ、メリアは気を失って床に崩れ落ちた。
ふと横を見れば、他の食事担当のメイド達が狂った様な情欲と嫉妬、羨望の入り混じった視線を私とメリアに投げかけている。食事はまだまだあるのだ。
これから全てのメイドに同じ事をしなければならない。そうしなければ、彼女達はほぼ間違いなく精神に異常をきたしてしまうだろうから。
――食事はまだ長い。
結局何時間も掛けて朝食は終わったが、食事を終えた後の食堂には、その場に居たメイド達全員が気絶し倒れ伏せていた。私は独り食堂を後にしたが、最後に食堂から香った匂いは、食堂には似合わぬ酷く噎せ返る程強烈な女体特有の匂いであり、私はこの行為を後二回も繰り返さねばならぬのを考え、何時もながら酷く枯れ果てたような気持ちになった。
ここまで独自を記したが、後の生活も似たようなものである。入浴も、趣味も、排泄も、領地運営等の日々の雑務も、掃除も、内政も、仕事とされるあらゆる全ての行為は私ではなく、屋敷内のメイドや女性達が行っている。
実際の所、私の能力は女性を誑かすこと位しか出来ない無能に近い存在である。魅了以外に関しては、如何なる面でも我が家に住む彼女達を超える事は出来ないのは自覚済みである。いうなれば私は、この屋敷の女性達の精神安定剤兼お飾りでしかないのだ。
生まれながらに授かった謎の力があったからこそ、私の今の状況がある。そう考えると私の存在そのものが酷く空虚なものへと思えてならないのだ。
例え国中のあらゆる美女や美少女を邸宅に掻き集めようと。我が国だけでなく他国の女王や大臣達の虜にしようとも。私が頼まずとも虜にした女性達が勝手に進んで『寄付』した結果蓄えられた世界最大の財産を得たとしても。全ては私の能力あってこそだ。その事を考えると私の存在は張子の虎そのものでしかなく、例えばもしも女性達の間でクーデター等が発生した場合、私はなすすべもなく縊り(くび)殺される事は間違いない。
私の周りには多種多様な美女美少女があらゆる国からかき集められている。人々は私の領内にして住居である巨城にして堅牢な要塞の如き広大な屋敷の中で、さぞ快楽に染まった極楽を享受しているのだろうと噂しているが実際は逆。この城と私の領地は、言わば途方もなく絢爛で美しい狂った人形劇の舞台なのだ。
私の力により彼女達の元々の自我は消え失せ、私の存在無くては精神さえ保てない欠陥品に成り果ててしまったのだ。
私の快楽の日々とは、それ即ちある種の自慰行為に等しいのだ。
快楽こそ飽きる事無く無尽に得る事は出来るが、普通の夫婦が得る様な真実の愛は得られない。例え私の力を受けてない女性を呼び寄せても、私と接すれば一日も経たず私の力の影響下に陥ってしまう。
そんな内心を表情を表に出さず自嘲と自虐を脳内で呟き、私は過去の記憶に想いをはせていた。
◆ ◆ ◆
思えば私、エレン・クルジスは、生まれた時よ美しい女性に常に囲まれて過ごしていた気がする。
父は私が産まれた時点で亡くなり、私の屋敷には常に美しい母と可愛らしい妹、優秀なメイド達が私の身の回りを世話していた。特に私の母、ペンデレシア・クルジスは私と同じ輝かしい金髪と磨き抜かれたサファイアの如き蒼い瞳を備え、その美貌はまるで老いる事を知らず、妹であるフレア・クルジスもまた、箱入りでああったが母親譲りの金髪と神秘的な紅眼という母に勝るとも劣らぬ美貌を受け継いた、活発で兄の私に甘えっぱなしの目に入れても痛くない可愛らしさを備えた自慢の妹であった
この二人は、美女揃いであった我が家のメイド達が霞むほどの美貌を備えていた。
私の家は我が祖国の中でも有数の名家だったこともあり、私の生活はとても恵まれた生活だった。加えて物心つく前から今までの状況にも似た状況にもなっていたのも間違いない。
――今思えばあの完璧とも言える家庭環境が今の状況を作り上げたのではないかと今更ながら邪推してしまう。それほどまでに裕福で、それでいて周りとは隔絶された家庭環境だったのが、逆に自身の増長と欲望の歯止めが利かなくなった事の一員だった気がするが、今はそのような事を言っても意味がない。
閑話休題
私が笑うとメイドも母も妹も顔を赤らめていたし、他の子供と同様のスキンシップを行うがごとく身体に触れれば、彼女達は極めて不自然に体を震わせ、何かに耐えるかの如く慌てふためいていた。
当時はそれが普通だと考えていたが、年が経ち、本や新聞等の各種情報源を得るようになってから、その光景は特別なものであると少しずつ知っていった。
性の知識を得てからは彼女達の光景の意味も理解できるようになり、私の欲望は一気に膨れ上がった。
自分の常識であった周囲の光景の原因を考察し、少年期特有の無邪気さと集中力、欲望を以て家の人々を実験台にし、数年を掛けて思考した結果、今までの光景の原因をおぼろげながらに探り当てたのである。
調査の過程は省かせていただくが、結果としては極めて荒唐無稽なものであった。
それは『自身が意志を持ちながら触れたり笑いかけた異性の対象に、強烈な好意と快楽を植え付ける』というものだったからだ。しかも『虜にした異性は自身に対して過剰な依存感情を有してしまう』というのだから笑えない。
だが当時の幼い自分は、その力を自覚したその時、救いようのない傲慢と全能感、そして優越感を抱いてしまった。
確かにこの能力が酷く万能とも言える力なのは事実である。限定的とはいえ、身体に触れたり微笑むだけで異性を支配下に置けるのだ。幼く欲望も強烈で、後先など考えなかった若き自分では、増長するのも確かと言える。
若い私は酷く暴走しこの能力を悪用した。
母のコネを利用して知り合った有力な貴族の女性達や我が国の女王、領内一の美人等々、この国に居たあらゆる美女や美少女、自身の欲望の琴線に触れたあらゆる女性を手当たり次第に魅了し、我が欲望の餌としてしまったのだ。
――先の事を一切考えず、目先の欲望のみに従って。それがどのような事態を及ぼすのかを全く考えずに。
一六の頃、私が力の詳細を知ったと思い込み、最も力に酔っていた頃。何も知らず普段通りに力の乱用を行い続けていた私は、自らの能力の弊害による事の重大性が分かっていなかったのだ。
それに初めて気が付いたのは、二年前に私の力で魅了した女性に逢いたくなり、軽い気持ちでその人間の場所を訪れた時である。
その時、私が見たものは、瞳から生気が失われ、美しかった黒髪も萎え、美しさとは程遠い姿に成り果てた女の姿であった。その姿を見た瞬間、私は情けなくも驚きのあまり絶叫を上げてしまった事を記憶している。
彼女(たしかケイシーという名前だった)の侍女が言うには、なんでも私から離れて数日経ってから異変が始まり、精神が不安定化したらしい。それ以来毎日毎日誰かの名前をブツブツと呟き続ける、気狂いに近い存在へと変貌してしまったのだという。如何なる治療も秘薬も意味を成さない為、現在では正体不明の精神病として扱っているそうだが、私は直感的にこの事態の原因は全て私の異能が原因だと確信した。
私の異能は快楽を貪るだけではない、その精神を砕き、私無しでは精神はおろか体調管理さえ不可能となる、私を対象とした極度の依存状態に陥らせてしまう禁忌の力だったのだ。快楽を刻み込み私に依存させる、まるで麻薬ようだと私は自然に考えた。
そして私の予感は的中した。ケイシーが私の姿を司会に止めた瞬間、飢えに狂った野犬の様に私に向かってきたのだ。そして私に抱き着き、息する暇も惜しむかのごとく只管に私の名前を呟き続ける。それはまさしく麻薬中毒者としか思えぬ有様であった。
その後数日ケイシーと付き合った事で、彼女の精神や肉体は元以上の美しさを取り戻し、今までの気狂いのような姿は嘘だったかのように影を潜めた。
彼女の回復を喜んだ彼女の家族は私を「救世主」だと褒め称えたが、それは違う。
彼女の狂った原因は私なのだ。私が欲望に身を任せて無責任に能力を使ったのが全ての原因だ。この事を彼女の家族に伝えようとしたが、直ぐに思い止まった。
そんな事をすれば二度と彼女に逢えなくなるだけでなく、私を殺そうとさえするだろう。人としてその反応は至極当然である。
……だがそうなれば、彼女はやっとのことで漸く得た「私」という希望が永遠に無くなるという絶望で精神の均衡を失い、ほぼ間違いなく精神が砕け散り死ぬと直感的に理解した。自分勝手であるが、けじめを取る為にも私は死んではいけないと、私はそう思った。
それからの私は、私が手籠めにした女性達を把握する為に全ての人脈(といっても、人脈は全員私が異能で手籠めにしていた女性達ではあるが)を動員して奔走した。そして私の被害者達を私なりに救う為にも。全ての被害者を確認した後、私は彼女達を集めて一つの巨大な屋敷を作る案を建て、実行に移した。私と彼女達が暮らす為の家であり、牢獄である。
私がこのような案に至ったのは私の記憶からは曖昧になり殆ど覚えてはいないが、強い強迫概念を感じていた事だけは覚えている。振り返ると屑としか思えぬ動機だが、以外と周囲からはそれなりに受け入れられた。外面では心配しながらも内心気狂いと化した娘など手元に置きたくない者もいたのだろうし、私の異能に侵された彼女達も、私と離れ離れになるより共に生活する事で常に私に逢いたいという考えだったのだろう。
そして完成した屋敷は最早、屋敷と言うにはおこがましく、まるで王城とも言うべき規模の、優に数百の人間を軽々と飲み込める巨大な城であった。この時、私は彼女達の私への狂気と愛情が生む熱量を全くと言っていい程、完璧に見誤っていた。
その後の屋敷における私の生活は、最初に私が語った通りである。彼女達は私を喜ばせる為に自ら肉体を捧げ、やがて長く生活する度に誰も彼もが私をご主人様と崇め讃え、神とさえ信奉する者も自然と見かけるようになった。
共に生活して気が付いたことではあるが、彼女達はまるで互いに言い争い等をする光景が全くなかった。時々適当な一人を選んで聞き出しても、そういう光景が微塵もないのである。
「ご主人様に尽くす事こそが、私達全員の絶対の幸福です。仲間同士で争うなど低俗極まりない無意味な事ですわ」
という言葉を聞き、私は何故か彼女達を人ではなく、彼女達は人を超えた、私に忠誠と愛を誓う、快楽と愛を享受する一個の「群体」なのではないかという、そんなイメージが脳に浮かんだのだった。
月日が経つ事に、年が経つ事に女性は増えた。その数に比例して、次第に私は自分の意志で一切身の回りの世話行う事がなくなった。何故なら彼女達が全て行うからだ。
この屋敷に入ってから、私が年を重ねていくのに反比例して、彼女達の年齢や若さが衰えなくなり、逆に以前から持ち合わせていた美貌や可愛らしさ、妖艶さ等が磨かれているように見え、この屋敷に入る前とはまるで別人の如くその姿は変わっていった。人間ではありえない現象だったが、私は直感的にこれも私の異能を長期間受け続けた効果なのだと確信していた。
そして人は、私と私の屋敷を
「肉の園」
「悦楽の城」
「永遠の美貌を得られる理想郷」
等と崇め恐怖するようになり、逆にそんな噂に引き寄せられるように、女性達は私の城を訪れる様になった。一度は入れば二度と出られない禁忌の城だというのに。
やがて、私の城の人数は以前の十倍以上に膨れ上がり、一度足を踏み入れた者が二度と帰ってこれない事に恐怖し、私の屋敷は
「魔王の城」
「淫魔の巣窟」
と恐れられるようになり、中の人が増えていく事に、城はまるで生き物の如く規模を拡大していった。
◆◆◆
何故こんなことになったのか。
ひと時の若さに、ひと時の欲望のままに人を食い物にした報いなのか。
神よ、居もしないと勝手に断じ信じる事の無かった天の神よ。
都合のいいことかもしれないが、どうか私の願いを聞いてほしい。あの日の過ちを消し去る事が出来るなら消し去ってほしい。
……だが無駄だ。そんな神頼みで解決できるのならとっくに解決できている。コレはそういうものだから。
世界中の美女や美少女達に囲まれる事は天国かもしれない。だが私の心はやすりでがりがりと抉られていき、感情は乾いていくばかりだ。今日も私の妻達が、私を喜ばせる為に新たな女性を連れてくる。
今では笑う必要もなく、ただ視線を送り、声を掛けるだけで人を魅了する事も出来てしまうようになった。魅了の力や快楽を与える力は、年が経つほどに強力となっていく。当然ながら私の力では制御は出来ない。あたかも私を喜ばせる為に異能自身が勝手に動いてるかのようだ。きっとこれからも、私の周りの美女や美少女達は際限なく膨れ上がるに違いない。彼らは私に幸福と絶望を与える天使であり、同時に私への罰だ。私の罪の象徴であり、私が永劫背負い続けなければならぬ咎なのだ。
そのことを想像し、乾き切った諦めの笑みを浮かべため息を付く。周囲のあらゆる方向から歓喜の声が木霊した。
そういえば、私の肉体もある日を境に老いる事が亡くなった気がする。私の異能の影響なのか、それとも私への罰なのか、はたまた依然軽く耳にした「私を永遠の存在にする」という彼女達の雑談が本当になったのか。それは私には分からない。
ただ分かるのは、私はやがて、彼女達と等しい存在になるという事だろう。
何故なら時々、衣服を纏わない彼女達の肉体から翼や尾、捻じれた二本の異形の角が見えるからだ。中には獣や鳥、魚の肉体、果ては植物や昆虫、空想上の存在でしかない幻想種の肉体さえも、その身に宿した少女や女性まで存在しているのだ。そして何より恐ろしいのは、そんな怪物めいた肉体に変質していても、その美しさや可愛らしさ、妖艶さは微塵たりとも消え去っておらず、逆にその特徴が美貌や男の欲情を引き立てる一要素として十全に機能しているその状態は、最早、人と形容するにはおこがましいと私は断言できる。
私が彼女達の心と肉体を欲望のままに弄んだ事は認めよう。だがその罪は、私に人の生さえも捨て、同様に人を捨てた彼女達と共に有れという事なのか。これが私の罰なのか。
そして胸と脳に渦巻く不安と恐怖も、すぐさま彼女達の快楽に飲み込まれ消え去っていく。日にしに彼女達の愛と狂気、そして私に与えられる快楽が跳ね上がっていく。このままでは、私は彼女達の快楽と愛情により人の心を失ってしまいかねない。
……ああ、このような事になるならば、こんな力など要らなかった。
誰か、誰か私を助けてくれ。そう私は震えるように細々と呟き、そして彼女達の愛に飲み込まれた。
「ご主人様は、永遠に私達に仕えられ、そして永遠に愛され続けるのです。死すらも死せる永劫の愛と欲でその肉体と心を満たされるのです。男として、夫として、生命として、これほどの幸福はありません。
……愛しています。エレン様。例え神々が相手であろうとも、永遠に貴方様は離しません」
記憶の途切れる間際、そんな慈悲に満ちた優しい綺麗な声が聞こえた気がした。
――今日もまた、何時もの一日が始まる。
完
ご覧いただきありがとうございました。