第一話
※この物語はフィクションです
風景-多くの人々はそれを景色と同義であると考えるだろう。
しかし僕の考えは違う。風景-それはこの美しい海岸のように自然の神秘によって生み出されたものである。
では景色とは何なのか。それは、海の向こうに見える東京の夜景のように、人々の所業によって創造されたものである。
僕は風景-この目の前の海岸へとデジタルカメラを向ける。撮りたい構図を定め、ピントを合わせる。日没まであと20分。夕陽は遥か水平線に美しく映えている。色彩とシャッタースピードを調整する。これで撮影の準備は整った。
最後に呼吸を整え意識を集中させる。そしてシャッターに手をかけ...
「こんなところで何してるの?」
シャッターを押す直前、僕の心にノイズが混じる。
慌てて後ろを振り返るとそこには女の子が立っていた。
僕が通う高校の女子用制服を身に着け、長い髪をポニーテールで束ねている。うちの学校は制服のリボンが学年ごとに違い、彼女は緑色のリボンをつけているので二年生-僕の同級生のようだ。その顔は年相応に幼く端正に整っていて、額からこぼれる汗はすぐ近くに迫る夜の暗さと共鳴して美しい。学校鞄の他にスポーツバッグを抱えてることから彼女は運動部らしい。
「あの、こんなところで何をしてるの?」
彼女は同じ問いを繰り返した。僕は撮影を邪魔されたことに少しいらだっていたが、黙っていることでもないので質問に答えることにした。
「見てわからないかな。海岸の風景を撮ってたんだけど」
僕はすでに陽が沈みかけている海を指さして答えた。
「あの、もしかして怒ってます?」
彼女は申し訳なさそうに首を傾げた。
「いや、別に大丈夫。こういうことはよくあるから。」
さすがに撮影中に女子高生に声をかけられることは今回が初めてだけれども、写真撮影は気候などの環境要因に左右されることが多々あって撮影が途切れることはよくあるので、もう既に気にしてはいなかった。
「撮影邪魔しちゃってごめんなさい」
彼女は丁寧に頭を下げて謝った。あまりにも丁寧なので僕が悪いことをしたように見える。
「もう気にしてないからいいよ、頭上げて?それよりもそろそろ日が暮れるけど帰らなくて大丈夫?」
時刻も七時を過ぎ、夏の長い陽も完全に沈みかけている。彼女は腕に付けているキャラクターものの腕時計を見ると、驚いた顔をした。
「もうこんな時間!私そろそろ帰りますね」
そういうと彼女は運動部の速いその足を生かして、急いで走って行った。彼女が走り去った後には夜の暗闇に照らされた僕と、仄かな華の香りが残された。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
長編では二作目になります。一話なので少し短めです。
感想とかいただけると私もモチベーションが上がるのでぜひよろしくお願いします。
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