涙
影島アオキのクラスには、日陰が大好きな日向がいる。ややこしいから、ちょっと訂正。
影島アオキのクラスには、日の当たらない日陰が好きな、『日向ちゃん』がいる。これでどうだ???
日向は、いつも日陰にいる。
フードをかぶって、日傘を差しながら。
まじで意味わかんねえわ。
スカートの丈も長いし。
ミニスカとか最高なのにな!
いつもアオキは思っていた。
「お~い。アオキあぶねぇぞ~!」
声をかけられ、振り向くとボールが飛んできた。白黒柄だから、サッカーボールだろう。
ボンッ
アオキの顔面に激突。
あ~あ。1話目なのにダッセー。
「アオキ大丈夫か?」
びっくりして閉じた瞳を開けると、目の前には親友の爽太がいた。
「痛いんだけど。」
鼻がじんじんする!
「サッカーの授業中にボーッとしてるのが悪いんだろ。」
爽太が言った。
「お前がへたくそなのっ!」
「日向が見てるぞ~」
「キモっ!」
俺は、日向が嫌い。
だって、きもくね?
「爽太を見てんだろ。」
アオキが言うと、顔を赤くする爽太。
「何?お前……」
「Hey!パス!」
爽太は顔を赤くしたまま走って行った。
どこがいいんだろうと思って、日向を見た。
――気持ち悪!
「アオキ!シュート!」
爽太の声がして、ボールに目を移す。
ちょっと高めのパス。
もちろんシュートは決めるぜ☆
ポーン
アオキが蹴ったボールは、間抜けな音を発して、日向のほうへ飛んで行った。
「わりぃ。日向取って。」
アオキは言った。ちゃんと言った。
でも……
無言。
仕方なく拾いに行く。
「ったく。拾ってくれたっていいだろ……」
顔を上げると、日向が泣いているのが見えた。
いや、顔ではなく、涙が見えた。
「お前……」
「おい!アオキ!早くしろよ!」
爽太ではない別な奴の声が聞こえて、戻った。
―――どうして泣いてたんだ?
「アオキ!よそ見してるとまた顔面にボールぶつかるぞ!」
「俺はそんなドジじゃナッシング♪」
アオキの頭は日向の涙でいっぱいだった。
どうして泣いてたんだろう。
休み時間、爽太と話していても、アオキの頭は日向の涙でいっぱいだった。
廊下側の1番後ろの席に座っている日向。
読書をするわけでもなく、誰かと話をするわけでもなく、ただボーッとしている。
顔が見えないから、どこを見ているのかもわからない。
「アオキ……好きなのか?」
爽太が聞いてきた。
「は?お前、俺があいつのこと嫌ってるの知ってんだろ?」
「そうだよな!……よかったぁ」
やっぱり、こいつ……
好きなんじゃね?
「お前、好きだろ。」
アオキが言うと、顔を一瞬で赤くして、手をバタバタさせた。
「なっちげっちげぇよ!ばかっバカ野郎!」
わかりやす……
口には出さず、心でつぶやいた。
代わりに、
「幼稚園児の初恋かよっ」
そう言った。
「高2の初恋だよ!!!!!」
……え?
高2の初恋?
アオキのクラスの周りが静かになる。
休み時間でも、教室で話すやつもいるし、教室前で話してるやつもいるから。
「なっなんつって!」
爽太がタジタジでごまかす。
「イケメン爽太の初恋!やべぇ。面白っ」
アオキは応援してやるかと思った。
「その恋!俺がキューピットだぜぇ。」
「本当か!?」
目をキラキラさせながら聞いてくる爽太。
「おうっ」
「じゃあ!メアド聞いてこい!」
「おうっ任せとけ!」
アオキは、日向の席の前に行った。
「日向。」
完全無視!
俺は、しゃがんで顔を覗くようにした。
それで……
見えた。
―――綺麗な顔が……
「聞いてる?アドレス教えて。」
ちらっと俺の顔を見た。
それで俺が見ていることに気が付いたようだ。
「気持ち悪い。」
ボソッと日向がつぶやいた。
アオキはカチンと来た!
これでも俺もてるんだぞ!?
「お前に気持ち悪いなんて言われたくねぇし!」
日向は立ち上がって、荷物をまとめると、教室から出て行った。
「アオキ!何言ってんだよ!くぅ。メアドぉ(泣)」
俺の肩にすがり付いてくる爽太。
「キモイキモイ!これが女子だったらいいのに!」
「爽子です❤」
「っ!」
急に腹が痛くなった。
「トイレ行ってくる!」
「授業まであと2分だぞ!?」
トイレに行くと、全部使われている。
仕方なく、ダッシュで下の階のトイレへ走る。
階段で、うずくまっている人がいた。
フードをかぶって、長いスカート丈。
―――日向だった。