第6話 教国の条件
ガルシアス王が条件を切り出そうとしたときドアがノックされた。
「もう来たのか、まあよい入れ」
入ってきたのは教皇ともう1人の若者だった。ディオジーニ様がすかさず紹介する。
「テルミニオ王弟殿下、それにサルバティ15世です。教皇はもうご存じでしたね」
ガルシアス王は話を戻す。
「俺とアドリアナ王女の婚礼が決まった。結婚式は犬の10日、およそ100日後だ」
シェリルが、
「本当ですか、アドリアナがお兄様の元に」
「本当です。それで準備のための枢機卿会議が開かれていて遅れたのです。もっとも晩餐会からの出席でよいとのことだったのですが。こちらも気になりますからね」
とテルミニオ様が言う。ガルシアス王がテルミニオ様を睨む。
「それで我が国とメルカーディアはより近しい関係となるわけだ。ただ、メルカーディアは急速に力を付けてきている。リトルサラマンダーまで倒したというではないか。それも君たちがやったのだろう」
「私たちがやったというよりユージン様やスカーレット様に少し手を貸せただけだと思います」
「リトルサラマンダーはそうかも知れないが、サマルカン大陸への神の扉を開けたのはお前たちだろう。ユージンが『サマルカンに渡ったただ1人の男』と自慢しているそうだ」
ユージン様なら自慢するだろうな、そのために1人だけ神の門に入って行ったんだから。
「それで我が国とメルカーディアの国力差が広がるのは困るというわけだ。それで条件を考えた」
「条件とは」
「条件は3つある。最初の2つは我が国での君たちの活動を制限しないための条件だ」
「はい」
おそらく情報のことだろう。クラウディオさんに先に相談していて良かった。
「第1の条件は、メルカーディアに渡す情報と同じものを我が国にも渡すこと。2番目はメルカーディア国王に献上する品と同じものを俺にも献上すること。どうだできるか」
予想どおりといえば予想どおりだ。
「これから入手する情報は、可能な限り冒険者ギルドを介して開示いたします。情報料さえ払えばどの国でもどなたでも知ることができるでしょう」
「情報入手の依頼であってもか」
「それは別です、秘密を守ります。ただし、依頼は冒険者ギルドを通して出していただきます」
ディオジーニ様が口を挟む。
「それは誰が考えたのかね。君が考えたのか、アスワンかアラスティアが考えそうなことだが」
「いえ、西マリリアのギルドマスターです」
「クラウディオか」
王がしばし考えて返事をする。
「それで良い。2番目の条件はどうだ」
「はい、もちろん。2つの条件ともこれからということでよろしければ」
「いいだろう」
1つ気になったことがあったので聞いてみる。
「ルグアイ王国のことは考えなくても良いのですか」
「今のところはな。献上品たってそう大したものは無くなるだろう。2つ揃えないと献上できなくなったんだからな。価値あるもので同じものを2つ揃えるのはほとんど不可能だからな。情報はギルドを通せば3国とも同じ条件だ」
まあ、そういうことだよね、それがギルドを通す理由なんだから。
突然、リーナが要求を出す。
「『黒龍の牙』が教国で自由に活動する2つの条件を呑んだんですから1つお願いがあります」
「まだ、もう1つ条件が残っているが」
「それは、シェリルが活動する条件ですよね。『黒龍の牙』の活動を制限しない条件は2つとおっしゃいました。でも冒険者ギルドの活動は制限できないのが決まりのはず。それがあるのに私たちは条件を呑んだんですから、こちらも1つ条件を出させて下さい」
国王は少しびっくりした顔でディオジーニ様を見る。ディオジーニ様はゆっくりとうなずく。
「いいだろう、言ってみろ」
「教会の秘蔵書架の奥にある書物を写させて下さい。蒼龍が表紙に書いてあるものを」
サルバティ15世が、
「あれは誰も読めないのだが、ひょっとしてそこにいるサトシ君が読めるのか」
リーナ、読めるなんて言うなよと思っていると、
「いえ、父がとても大切にして何度も眺めていました。大陸共通語でもなく古代語でもないそうです、北の尾根に残っているシャイアス語とも違うと聞いております。もちろん私達には読めませんが、私達はこれから大陸を渡る冒険をするつもりです。読める人が出てくるかも知れません。読んでみたいのです、父が大切にしていた本を」
「読めたら、報告してくれるのだろうな」
ガルシアス王は僕の方をみて言ったのだが、リーナが答える。
「内容によります。ギルドに卸せるものなら条件の通りに、そうでなかったら『黒龍の牙』だけの秘密にします」
「いいだろう。持ち出しは禁止する。写すだけなら許可する」
さすが交渉上手のリーナだ。蒼龍が表紙の書物、ファジルカ大陸のことについて書いてあるのかも知れない。
国王はシェリルの方を見て言った。
「シェリルは本当にこの者たちと冒険を続けるつもりか」
「はい、政略結婚の道具に戻るのはいやです。どこかの知らない王族や貴族に嫁ぐためだけに生きるのはもう耐えられません」
「教国の宝石とまでいわれるシェリルを手放すことは我が国にとって多大なる損失なのだ」
「それは申し訳なく思っています、ですが、・・・」
「まあよい、そのことはもう諦めた。しかし、王女のままで冒険者にすることはできない」
「もちろん王位継承権などはお返しいたします。それに追放されても仕方ないと思っています」
「追放はできない。『黒龍の牙』とは我が国も仲良くしていかなければならないのだからな」
「・・・」
「それでは最後の条件だ」
ガルシアス王は僕の方に向き直って言った。
「1年の期限の日、狼の10日までに、サトシがSランクの冒険者になりシェリルと結婚すること。これが条件だ」
この部屋にいる全員が固まった。いや、ガルシアス王とディオジーニ様を除いてだが。




