第3話 レオネス
翻訳は順調に進んでいく。魔道具のほとんどが闇の魔石を使ったものだった。作用などを解読していくと通信機のことが出てくる。
「通信機ですね、これは」
と僕が言うと、学者の1人が、
「通信機とは何ですか」
と聞く、通信機とい概念が無いらしい。伝書鳩とかもいないみたいだし狼煙も見たことがない。通信手段は人を介しての口伝や手紙だけらしい。伝令使という役職があり、かなりの手練れが就任しているそうだ。通信の秘密を守るのもなかなか困難であることが分かる。
「遠く離れている人と話すことができる装置です」
「ルグアイ王国の秘宝といわれているものですか」
へー、ルグアイ王国にはあるのかな。
「それは?」
「噂ですが、わが国にある大使館も教国にある大使館も、何かあるとコモドラドにあるルグアイ王国領事館に伺いを立てるそうです。そうするとすぐに返事があるとか。何か王宮と話が出来る魔道具があると噂されています。やはりあったんですね秘宝が」
「そんな便利なものなら私たちも作りましょう」
レオネスさんが言うともう1人の学者が、
「これを見ながらなら出来るかもしれないが闇の魔石がないぞ」
さらに、魔石や鉱物のノート翻訳担当の学者が、
「こちらの魔石のノートには、闇の魔石はマジャルガオンがファジルカ大陸からシャイアス大陸に持ち帰ったとあります」
マジャルガオンという名前が出て僕は思わず聞いた。
「マジャルガオンって、あのマジャルガオンですか」
「はい、マジャルガオンの袋のマジャルガオンです。ウスパジャタはマジャルガオンの研究者だったのかもしれません。クラレンセにも魔石を渡したと想像できます。それでその魔道具を作ったのでしょう」
「闇の魔石については私が何とかします」
レオネスは自信満々に言う。
「レオネス、闇の魔石を持っているのか」
「まさか、設計を変えることで他の魔石でも応用できるかもしれないということです。魔石にも工夫がいると思いますが」
レオネスさんがいうには魔石とは波動を持った石のことで、その波動が魔力を生むそうだ。波動の違いで属性が決まるらしい。水の魔石に木の魔力を流すとしばらく木の魔石としても効力を発揮するそうだ。水の魔石に火の魔力は流せないように相性もあるらしい。
学者たちは話し合い、とにかく通信機を作ってみようということになった。アラスティア様が国王から闇の魔石を借り1台に入れ、もう1台は僕が魔力を流しながら使うことで実験することになった。通信機の設計図を見ると僕には複雑に見えるのだが、魔道具師にとってはそうでもないということだ見栄えを考えない実験機なら5日もあれば出来るという。さすが国家だ、人材は豊富なようだ。とりあえず僕は3日間休みになった。
リーナと一緒にイバダンさんのところに行った。リトルフェンリルの皮をどう使うかを相談するためだ。
「頭から足の先まで、それにマントや盾まで作っても1枚使うかどうかという大きさだ。予備の装備まで皮を贅沢に使っても6枚あれば足りる。6枚で『黒龍の牙』全員分を作る予定で考えてみた」
イバダンさんは、そう言ってデザイン画を見せてくれた。
「デザインはミルルというイバダンの弟子が考えてくれました。呼んで説明させましょう」
とスウェードルさんは言って店の奥に行った。
「ミルルは優秀なんだがな。服にしか興味がないんだ」
とイバダンさんが言う。
ミルルさんが出てきた。小柄な若いドワーフの女性だった、小柄というのはドワーフだからかもしれないのだが。
「ミルルと申します。師匠と相談して6人分のデザインを考えてみました。なにか要望が有ったら言って下さい」
デザインがをみると僕のはアサシンスーツを上品にしたようなもので森や山の中でも動きやすそうで、それでいて王宮でも恥ずかしくないような感じだ。色も黒なので、何も言うことはない。リーナを見るといろいろとミルルさんにいろいろと注文を出していた。やはり女の子だなと思う。
「イバダンさん、武器ですが闇の魔石を手に入れましたのでそれで何か作れますか」
「作れると思うが闇の魔石は扱ったことがない、いろいろと試したいから時間はかかるぞ」
「それは構いません。これです」
と闇の魔石を1つ渡した。
「豪力を生かすには盾も必要だな、そうなると片手剣になるが、両手剣にするには、・・・」
イバダンさんは1人の世界に入り込んでしまったようだ。
僕とリーナは、スウェードルさんから呼ばれ奥の応接室に入った。
「料金のことなのですが」
来た、いくらくらいかかるんだろうか。リーナの装備は光のローブとリトルフェンリルの皮を会わせて、リーナの注文通りにデザインを少し変えて作るらしいから、皮は持ち込みとはいえかなりの値段なんだろうな。まあ、聞いてみよう。
「いくらくらい用意すればいいですか」
スウェードルさんはにっこり笑って、
「端布をいただきたいのです。6枚で6人分のフル装備を作ってもかなり皮が余ります。もちろん大きい部分はお返しします。それでも、布で作る装備をみても分かりますが、細かい切れ端だけを集めるだけで相当な量になります。それをいただきたいのです」
「それでいいのですか」
「はい、リトルフェンリルの皮は貴重なものですから。それに1割が端布になったとしても6人分なら、あの大きさの皮の半分以上になるんですよ。デザインを重視していただくと割合も増えるんです」
「でも端布ですよね」
「リトルフェンリルの皮は流通がないので手に入らないのです。使い方は、透明ですから兜の目の部分とか、心臓の部分とかに使うというのも考えられます。籠手で魔法を軽減できるようにすれば高く売れるはずです。貼り合わせれば広くなりますから魔封じの盾も作れます」
「分かりました。でもそれを黙っていれば分からなかったと思うんですが、どうしてそれを僕たちに?」
「他にリトルフェンリルの皮が流通していないからです。今は出所は1つしかないのですからね。信用に関わるのです」
「そうなのですか」
もう一つ皮があると言いにくくなってしまった。
「これはアドバイスなのですが、あなた方も貴重な素材を独り占めしたと言われることになります。1枚は国王に献上なさった方が良いでしょう。これだけの広い皮はこの国には有りませんからね」
「ご忠告ありがとうございます。そうすることにします」
そう言うと、スウェードルさんは魔素を清算する機械を出してきた。
「この前の素材を清算いたします。カードをお願いします」
リーナのカードに入れてもらう。何と金貨300枚分くらいになっていたようだ。
家に戻るとリーナが、
「アラスティア様に聞いたわレオネスさんのこと。とても優秀な学者なんですって。魔道具や魔石には異常なほど興味があるらしく調べ始めると周りが見えなくなるらしいわ。もちろん王宮に勤めている人なんだから身元ははっきりしているそうよ」
いろいろと話を聞くと相当マニアックな人らしい。




