第2話 ロチャ
カラプナルの王宮では、ルグアイ王国国王と貴族風の男が密談していた。王は金銀に彩られた衣を纏っている。貴族風の男は上品ではあるが目つきが鋭く、敬語は使っていたが堂々とした態度であった。挨拶を終わり側近を下がらせ2人だけになる。貴族風の男が話し始める。
「『黒龍の牙』という冒険者のパーティーがわが国に来たそうです」
「ほう、龍の文字を持つ冒険者パーティーか、そんなに強いのか。ユージンとかいう近衛兵のパーティなのか」
「いえ、16才前後の若者たちだそうで」
「じゃあ、大したことはないだろう。王族でも絡んでいるのか」
「いえ、実力で名前を貰ったとか」
「メルカーディアの王が甘すぎるのだろう。対抗して優秀なパーティーを『風神の羽』くらい名乗らせよう、適当なパーティーはいるか」
「いないでしょうね、それ程の実力者は。そこまで成長しそうな者たちも。それにその『黒龍の牙』は我々の手下40人ほどをあっという間に殲滅したそうです。やられたのは、それほど強いグループでは無かったのですが副首領の1人が率いていた者たちです。ギルド職員として送り込んでいる仲間に調べさせたところ、リトルサラマンダーや地竜も討伐しているとのこと」
「凄いなそれは、実力は確かなようだな。情報に間違いはないだろうな」
「間違いはございません」
「『紅バラの剣』に『黒龍の牙』か、メルカーディアはやはり冒険者の国だな」
「神の門まで行ったのではないかとの噂があります」
「ほうそれで」
「神の門の情報がメルカーディアに渡ったとなると、いずれシャイアス大陸に侵攻するかもしれません」
「神の門が開いたのか」
「分かりません。古代語やシャイアス語が読めれば開くかもしれません」
「では、翻訳に時間がかかるであろう」
「そうなのですが、すでに南の神の門の情報は持っていると考えた方がいいと思われます。なにせリトルサラマンダーを討伐しているのですから。文字数が多ければ解読の手がかりも増えますので解読される可能性も高まります」
国王は頷いて言った。
「尾根にある祠の文字は解読できたのか」
「まだでございます。図の1つもあれば手がかりになるのですが、古い表現が多く肝心なところで解読できない文や単語が出てきます。その昔、教皇が古代語は悪魔の言葉として行った焚書の影響もあり古代語の学者が育っておりません。ましてシャイアス語だったら読むのは不可能でしょう」
「クラレンセの伝説では、シャイアス大陸では攻撃魔法を使える兵が少なくなっているらしい。攻め込めば圧倒できるよな」
「その伝説が信用できるならですが。今の我々では入り込むことすら難しいでしょう」
「うむ、外交ルートも動かしてみるか。メルカーディアばかりにうまい汁を吸わすわけにはいかないからな。宰相に言って『黒龍の牙』を監視させることにしよう」
「私どもも彼らの動きを調べる必要が有りそうですね。裏の仕事が必要なら我々が引き受けます」
「そうだな、ます情報だな。情報次第では動いてもらうことになる、そのときは改めて依頼を出す」
「待っております」
◇ ◇ ◇
「サトシ様、ただいま」
「おかえり」
リーナも部屋から出てきた。ナウラは、猫人族の方を見て、
「この娘、覚えてる?」
と聞く。猫人族の女の子は緊張した表情でこちらを見ている。
「君は、カラプナルで会った」
リーナが割り込んできた。
「ロチャね。マリリアに来たんだ」
ロチャという名前が出たとたんロチャはほっとした表情になった。
「覚えていていただけたんですね。良かった」
「1人でマリリアまで来たの」
「いえ、アジメールまで送ってくれた冒険者の1人、狼人族のオルモスに連れてきてもらいました」
「どうしてマリリアに」
「命の恩を返しに来ました。サトシ様たちのお側で仕えさせてください。お願いします」
ナウラが聞いた。
「ロチャ、貴方はヴァンデル教徒なの」
「はい、そうです」
ヴァンデル教徒だよな。ルグアイ王国の人だからな。命の恩か、そう言われればそうなるのか。
ナウラが、
「オルモスってギルドにいた狼人族ね。彼はどうしたの」
「心配だからってここまで付いてきてくれたんです」
「2人だけでルグアイから来たの」
「はい」
とロチャは声が小さくなり、顔が真っ赤になった。
「付き合ってるの彼と」
「はい」
「とにかく彼を呼んできて」
と僕が言うと、ナウラが
「あの様子ならきっと家の前にいるはずよ。ロチャから片時も目を離さなかったもの」
そういうと家から出ていった。そして、すぐに狼人族を連れて帰ってきた。
「オルモス」
「ロチャ」
2人はそう言って寄り添った。そして2人で土下座して、
「ここに置いて下さい、お願いします。メイドでも下女でも何でもします」
「俺、いや私も何でもします。囮でもいいです。だから2人一緒に雇って下さい」
「どうするサトシ」
「僕の一存では決められない助けたのは僕だけじゃないから、みんなが揃わないと」
「待ちます。何日でも」
「依頼を受けながら待ちます」
と2人が言う。
「いつになるかも、どういう結論になるか分からないけど良いの」
「はい、もちろんです。もしだめなときはマリリアに拠点を移して冒険者を続けます」
ナウラが、
「それじゃ、『砂漠のオアシス亭』に泊まりなさい。食事は出ないけど簡単なキッチンがついているから生活できるわよ。料金も安いしギルドの隣だから」
さすがギルド職員、宿の知識は豊富なようだ。
「はい、そこに泊まります」
リーナが、
「1つ言っておくけど、私たちのパーティーの弟子とか知り合いなんて絶対に言わないでね。もし、そんなこと言ったらすぐにルグアイに帰ってもらうからね」
「はい、絶対に言いません。ねっ、オルモス」
「もちろんです。絶対にあなたたちに認めてもらいます。それまではそういうことは言いません」
雇ったら言うんだ、まあそのときに釘を刺せばいいか。僕からも一言、
「無理な依頼を受けるなよ。怪我したら元も子もないからね」
「分かりました。じゃあ、これで失礼します」
と2人は出て行った。
「命の恩か、アルトもそう言ってたんだよな」
「ヴァンデル教徒なのよねロチャは、恩なんて返さなくてもいいよって言っても絶対に私たちから離れないでしょうね。あの様子じゃオルモスも」
リーナがそう言うと、ナウラも、
「明日にでも拠点変更届を出させるわ。そうしたらステータスが見られるしね、無理な依頼は受け付けないように受付の職員にお願いしておきますね」
読んでくださってありがとうございます。
第4章までがイグナシオ大陸時間で1年しか掛かりませんでした、最初の計画では2年かかる予定だったので、リーナとの仲なんかが急すぎてしまったようです。
ここらで、プロットの組み直しをしようと思います。リアルの忙しさも含めて更新が遅くなるかもしれません。
可能な限り急ぎますので、今後ともよろしくお願いいたします。




