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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第5章 迷走編
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第1話 それぞれの旅立ち

 セシリアは混乱していた。記憶が消えたということに混乱しているのではない。記憶が消えたことすら分からないのである。Dランクになり、パーティーを組んで本格的に冒険者として生きていこうと思っていたのに。しばらく1人で考えるようにとお父さんから言われた。セシリアはうつろな表情で家のソファーに座っている。

「どうしてレベル18、なぜAランクなの。黒龍の牙って私のパーティーなの、龍の文字が入っているパーティーなんて。16才って・・・」


 話を聞いただけではとうてい納得できないのだが何かあったのは分かる。だって、首輪を付けようとしたのはオルガ村の私の家。目の前には怪しい男と女。それが、いきなりみんなに囲まれているところに飛ばされたんだから。

「でも、1年も経っているなんて、・・・」

そう、場所だけでなく時間まで飛ばされてしまった。


 ノート、そうここに置かれているノートも読んだ。最初の方だけだけど。首輪を着けた瞬間から、ゴブリンに拉致されて、サトシという人に助けられるまでのところを読んだ。これ何の物語だろう、そういう感じだ。でも、私の字には間違いない。真似て書いたとしても1冊丸々私の字だもの。


 記憶が消えたとしたら、このノートだけが頼りだ。

「とにかくこれを読むことから始めないといけないよね。信じるかどうかはそれからのことよね」

とつぶやき、ノートを読んでいった。


 ◇ ◇ ◇


 アルトは、セシリアが首輪を外し記憶が消え混乱する様子を見て納得がいった。私もああいう風に首輪を外されたんだなと。ノートは疑いもなく私が書いた物だ。誰かに強制的に書かされたという疑いはあるのだが。そうまでして、こんな私を騙す必要なんて誰にも無いはずだ。それなら首輪の奴隷のまま命令するほうが簡単だもの。


 でも、ノートに書いてあることが信じられない。確かに冒険者になって依頼もいくつか達成し山賊に復讐を果たしたのだから、ある程度は戦える。でも、私が黒色狼に勝てるのだろうか。まして、ワイルドベアなんて、先に進むと地竜やキングベア、リトルサラマンダーとも戦っている。そんな馬鹿な。レベル17というのも信じられない。レベル17のパーティーだけでAランクの魔物を倒せるはずなんて無いよね。


 そして、黒龍の牙。龍の文字のパーティー。サトシ様が必殺技を使えるといっても龍のパーティーなんて無理だよ、あの性格だもの。でも、信じるしかないよね。このノートを読んで、この通りだったとしても私にとって都合の悪いところは1つもないのだから。不安なことは、もし私が強くなっているとしても心が強くなっていないことよね。アイリーン様にもう一度、修行をやり直してもらうしかないわ。頼んでみよう。


 ◇ ◇ ◇


 サトシは王宮に来ていた。ノートの翻訳のためだ。ノートは例によって書き写されて返してくれた。情報料としてノート1冊につき金貨千枚。翻訳の手伝いとして金貨2千枚をギルドを通して支払われることになった。SS級の依頼扱いだ。貢献ポイントも破格について、黒龍の牙のメンバー全員がAランクになった。次に何か貢献すれば僕はSランクになるらしい。


 家に帰ると部屋数が足りない。アルトはノートを読み、僕と結ばれていることを知っている。実感はないらしいが知っている。首輪の奴隷であったのだから体の関係があったのは当然だと思っているらしい。一緒のベッドで寝てくれている。キングサイズのベッドの右と左に別れて。

「サトシ様。アイリーン様のもとに修行に行っても良いですか」

「いいよ。でも、僕の許可はいらないよ」

「そういうわけにはいきません、命の恩人ですからサトシ様は。それもカーラのも合わせて2人分の」

「もう十分返してもらったよ。こちらの世界に来て居場所を作ってもらった。それで十分だよ。それからサトシ様ってもう呼ばなくていいよ、呼び捨てで」

「いいえ、私にとっては首輪の奴隷になる前からサトシ様とお呼びしていたはずです。私が、もしも私が首輪を付けていたときよりも弱くなってしまっても見捨てないでください」

「大丈夫。絶対に見捨てたりしないよ」

アルトが意を決したような表情になり僕に近寄ってきた。大きな胸が僕の胸にあたる。優しく抱く。アルトは僕の下で緊張に震えていた。


 次の日、アルトはキスで起こしてくれた。左手の薬指には昨日まで外されていた指輪が嵌められていた。そして、

「これからアイリーン様のもとに行きます」

「そう、頑張って。次に何かするって決まっているわけではないし、時間はあると思うんだ。急がなくていいからね」

「はい、ありがとうございます」

「買いたいものがある、スウェードルさんの店に行こう」


 スウェードルさんの店に行き、闇の袋を買う。金貨千枚もするのだが100kgしかはいらないという。マジャルガオンの闇の袋を使い慣れた僕には容量が少なく感じるのだが、流通しているものでは、これが最も容量が大きいものだそうだ。スウェードルさんの店にもこれ1つしかないらしい。流通した闇の袋は全部で30個くらいだそうだ。ほとんどが10kgくらいの容量でそれでも金貨100枚以上するそうだ。100kgクラスになると王家とかに献上されたものは別として5個くらいしかないらしい。

「普通なら売らないのですが、リトルフェンリルの皮の件もありますので特別にお売りします」

とのことだ。日本なら1億円くらいするものを即金で買うのに、こちらが感謝しなければいけないようだ。買った闇の袋をアルトに渡す。

「ありがとうございます、お借りします」

と言って受け取った。


 みんなにアルトがテラッセンに行くことを告げるとナナが、

「私も行きたい。コンラッド様に教えてもらいたいことがあるの」

「コンラッド様に?」

「はい、属性が土のコンラッド様に」


 アルトとナナは必要な買い物を済ませて、みんなに見送られて馬車に乗った。テラッセンまでは馬車で4時間くらいだ。夕方前にはテラッセンに着くだろう。女の2人旅ということでアルトは少し不安な様子だ。

「アルト、君たちはAランクの冒険者なんだからね。ものすごく強いから。ハルバードを構えれば相手は逃げていくよ、魔法もいろいろ使えるし。堂々としていたら大丈夫だよ。それに、テラッセンは治安が良いところだから」

「そうですね。アリンガム領ですものね。そういう心配はいりませんね」


 その次の日に、シェリルはクラチエに帰った。

「絶対に戻ってくるからね。2週後に戻っていなかったら助けに来て」

「分かったよ。そのときは教国と戦争だよね」

「そうそう」


 その日、家に帰るとナウラさんはいなかった。今日は夜勤らしい。冒険者ギルドは24時間営業だから当然夜勤がある。夜勤は主に男性職員が担当するのだが、月に1、2回は独身の女性職員も担当するようだ。


 リーナが作った夕食を食べて、僕が後片付けをした。部屋でくつろいでいるとリーナが入ってきた。

「どう、翻訳は進んでいるの」

「まあまあだよ。リーナは王宮で何をしてるの」

と聞くとリーナは、

「アラスティア様にいろいろと習っているの。光の魔法のこともなんだけど、この大陸の情勢とか、他の大陸のこととかを一緒に調べてもらっています」

「僕はあのノートと格闘だよ。とにかく難解なんだ。魔道具の基礎知識がないんで、学者のみんなが分かったような顔をしていると僕だけ取り残されていくような気がするよ」

「大変なのね」

「まあ、金貨2千枚の仕事だからね。でも1人すごい人がいてね。魔道具によっては闇の魔石でなくて火の魔石なんかでも使えるように改造できるかもしれないって工夫してるんだ。そうなるとメルカーディアでも使える魔道具が出来るかもしれない」

「だれ、その人」

「レオネスという人」

「アラスティア様に聞いてみるね、どんな人か」


「リーナ、2人だけだね」

そういって僕はリーナの肩に手を置く。

「そうね」

と言ってリーナは僕のそばによる。2人の唇が合わさった。


 朝、目が覚めると裸のリーナが横にいた。リーナにキスをする。

「う、うーん」

とリーナが目を覚ます。

「もう私、離れないよ」

「いいよ。僕も離さない」

「あっ、ナウラさんが帰ってくるね。部屋に戻るね」


 いつもなら、帰ってくる時間よりも遅くナウラが帰ってきた。もう一人、猫人族を連れて。


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