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異世界はバラ色に  作者: 里中 圭
第4章 北の遺跡編
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第23話 報告会

 神の門、そう、その1つかもしれない。バラ色祭の日だけに通じる門があったのかもしれない。

「どうやって開くんですか」

アルトが聞く。

「分からない。前回は偶然に僕があの箱の中にいた。そしてここで降ろされた」

「あの箱に乗って帰ってしまうんですか」

「それも分からない。今は帰りたいとは思わない。ただ2年後に強制的に乗せられるかもしれない」

「なぜ、なぜ2年後なんですか」

「僕は、あちらの世界。地球という星の日本という国で18才だったんだ。そして、あの神の門をくぐった瞬間から15才になっていた。だから18才のバラ色祭が期限なのかもしれない。僕の勝手な想像だけど」


「18才のバラ色祭の日にはここに来なければいいんですよね、ご主人様」

「いや、どこにいてもここに転送される可能性はあると思う」

「サトシ様、どうしても帰ってしまわれるのですか」

「帰りたいと思っているわけじゃない。みんなを残して帰ろうとは思わない。ただ、今の状態がいつまで続くかなんて誰にも分からない。それに強制的に帰らされるかもしれない、ここに来たときみたいに」


「じゃあ、私も付いていきます」

「私も」

「それも僕の思いどおりにはならないと思う」

感情的になっているアルトとセシリアをなだめるようにリーナが言う。

「何も起こらないかもしれないのよね」

「もちろん。選べるなら、僕は帰らない」


「もし、僕がいなくなってしまったときに、隷属の首輪が僕を死んだと認識したとしたらセシリアとアルトの力がなくなってしまう。だから2人は絶対に首輪を外して欲しいんだ」

「でも、今までのご主人様との思い出が・・・」

「消える思い出は1年分だけだよ。これから、また思い出を作ろう」

「・・・」

セシリアは泣き崩れ声も出ない。アルトは僕と出会ってからしばらく過ごしてからの記憶が消えるだけなので心の整理がついているようだ。


 セシリアが顔を上げた。

「私の記憶からご主人様の記憶が全て消えるんですよね。もし、そうなっても私のことを見捨てないでくださいますか」

「もちろん。僕のことを信じて欲しい」


 みんなが徐々に冷静になってきたところで、

「僕が異世界から来たことは秘密にして欲しい」

と頼む。みんな秘密にすると約束してくれた。


 ナナの作った遅い朝食を食べ、ガビー村に戻ることにした。セシリアが泣き続けていたので、索敵なしで下りていく。それでも、はぐれゴブリンにしか出会わなかった。


 ガビー村に着くと、まだお祭りが続いていた。バラ色祭はこの大陸1番のお祭りで、1日中続くのが普通で、3日間続く所もあるということだ。みんなも楽しむ気分ではないというので、馬車を借りてマリリアを目指すことにした。御者は飲みつぶれていたし、お祭りを楽しむ邪魔は出来ないので、馬車だけを借りて出発した。どこへ行っても祭りで浮かれている。


 タンガラーダを過ぎたところで林の中に入り、結界を張り野営して、マリリアに着いたのは黒帝龍の31日の昼過ぎだった。マリリアを出たのが鳥の2日、実に71日ぶりのマリリアだ。馬車でマリリアの冒険者ギルドに行った。入るなり、

「あっ、おかえり」

とナウラさんが叫んだ。ナウラさんは隣にいる職員に何か話し、急いでカウンターから出てきてナナと抱き合った。話しかけられた職員がクラウディオさんとカタリナさんを呼んできた。

「帰ったのか、応接室に入れ」

馬車をガビー村に帰す依頼を出して、応接室に入った。


「ただいま帰りました。隷属の首輪の外し方が分かりました」

「本当か。もう外したのか」

「いえ、いろいろと問題があり、師匠たちとも相談のうえ外そうと思います」

「分かった。コンラッド夫妻にも来てもらおう。シャイアス大陸のことも聞きたいしな。今日は疲れているだろうから、ゆっくり休め。コンラッドが来たら呼びに行く」


 夕食を買い込んで、家に帰り食事をして寝た。久しぶりの我が家は最高だった。セシリアもアルトも激しく求めてきた。


 昼ごろ起きて、ゆっくりしていると、ギルドから連絡が入り、2日後の昼過ぎに王宮に来るように連絡が来た。もちろんコンラッド夫妻も来られるとのことだ。スカーレット様とその従者も参加するそうでアルトはほっとしている。記憶がなくなることを妹にも知っていて欲しいのだ。


 次の日、スウェードルさんの店に行った。王宮で報告する前にリトルフェンリルの皮で装備を作ってしまおうということなったのだ。


「イバダンさん。雪豹の毛皮です。それに雪狼の毛皮もたくさんあります」

「おお、それは凄い。全部売ってくれるよな」

「はい、ウインディドラゴンや牙竜など、いろいろな魔物の牙や爪もたくさん有ります。あとで清算してください」

「分かりました。私が責任を持って買い取らせていただきます」

とスウェードルさん。イバダンさんも、

「牙竜の牙か珍しいな。ウインディドラゴンも倒したのか、凄いな」

と言う。2人は驚いた顔をしている。


 もっと驚かせてやろう。リトルフェンリルの皮を出す。イバダンさんがそれを手に取る。顔が青ざめている。震えた声で、

「これは、リトルフェンリルの皮なのか。リトルフェンリルを倒したのか」

「リトルフェンリルを倒したのではないですが、間違いなくリトルフェンリルの皮です。10枚重ねになっているので千歳のリトルフェンリルのものと思われます」

「この軽さで10枚重ねなのか。8m級の皮だから1枚あれば十分1人分のフル装備ができるぞ」

「じゃあ、6人分はそれで作ってください。詳細はまた後日詰めましょう」

イバダンさんはまだ震えている。スウェードルさんは冷静を装っているが、あれほどセールストークをする人が黙り込んでいる。


 取り敢えず、リトルフェンリルの皮は持って帰るように言われた。これだけ高価なものを何の契約もなしに置いていくなとイバダンさんから言われた。他の店に持って行ったら殺すとも言われた。いつもの冷静さがないようだ。それからセシリアとアルトの指輪に、サトシからセシリアへ、サトシからアルトへ、という文字を刻んでもらうことにした。明日の朝までに彫ってくれるということになった。


 家に帰ってからは、記憶のノート作りだ。魔法や戦いに関するノートは終わり、首輪を付けてからの体験もほぼまとめ終わっている。あとはそのときにどう感じたか、何を考えたかなどを記入していけば終わるのだが、それがなかなか進まないようだ。それは誰も手伝えないし、手伝ってはいけないものだと思う。


 次の日の昼過ぎに王宮へ向かう。ギルドカードを見せるだけで、そのまま会議室に通される。会議室には、紅バラの剣の6人、ユージン様とスカーレット様、それぞれの従者、古代語の翻訳メンバー、官僚など、およそ30名が待っていた。


 北の遺跡への遠征報告を行った。遠征ルート、龍の祠、北の遺跡、神の門のことを大まかに話した。そして、シャイアス大陸での出来事をできるだけ詳しく報告した。官僚たちは、人族が絶滅していたことや属性のないエルフ族や竜人族の国に最も興味を示していた。特に言葉が通じるというところに。


 そして、聖なる森での出来事になるとみんなの顔が一変した。リトルフェンリルの話になると紅バラの剣のメンバーも近衛隊の人たちも息をしているのか心配になるくらいだった。ユージン様から質問かあった、

「リトルサラマンダーとリトルフェンリルではどちらが強いと思うか」

「単体なら、ほぼ同じくらいかと思います。ですがリトルフェンリルは数匹で連携しています。ジャイアントコング1匹を2匹で瞬殺していましたし、その肉を4匹で食べていましたから」

「そうか、リトルサラマンダーが数匹連携したらと思うとぞっとするな」

「そういうことです」


「それで、ウスパジャタの祠までは無事に行けたんだよな」

「運が良かったと思います。重傷者が2名で済みましたから」

「ウスパジャタは何を残していたのだ」

とアラスティア様。

「ノートが3冊。魔獣中心の記録、魔道具中心の記録、魔石や鉱物の記録がありました」

「それは貸してくれるよな」

「もちろんです。ただ、ウスパジャタの属性は闇で闇の魔石を使ったものばかりでした」

「闇の魔石は、王宮の宝物庫に1つあるはずだ。知識は無駄にならない。他の魔石での応用も考えられるからな。写させてもらうぞ、いいな。それに翻訳も手伝ってくれ」

「分かりました」


「隷属の首輪の外し方もそれに書いてあります」

「隷属の首輪はウスパジャタが作ったのか。では、その作り方も書いてあるのか」

「はい、書いてあります」

「それも闇の魔法か」

「そうです」

「で、外し方は」

「首輪に、闇と光の魔力を同時に通せば外れると書いてありました」

「では、やって見せてくれ」

「いえ、今ここではできません。外すと首輪を着けていた間の記憶がなくなるのです。能力は落ちないし、身体への影響は何もないと書いてありました」

「やはりな。何かあると思ってたよ。精神まで支配している魔道具だからな」

しばらく沈黙が続いた。


「セシリアもアルトも外す準備をしています。2日後にアルトの首輪を外します。セシリアの首輪はその2日後に」

クラウディオさんが、

「いいのかアルト。逆でもいいぞ」

「いえ、私はサトシ様と知り合って、90日程経ってから首輪を着けましたのでサトシ様と一緒にいることに違和感が無いと思います、そのころにはサトシ様をお慕い申し上げていましたから。サトシ様以外の皆様は記憶から消えるでしょうけど、サトシ様だけは信じることができますから」

それから、いろいろと細かい質問を受け、家に帰ったのは夜になってからだった。


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