第20話 隷属の首輪
プエルモント教国では、宰相のディオジーニが新年の挨拶と報告をするために国王の執務室に来ていた。
「なに、シェリルを見失ったと」
「南の砂漠でも一時的に見失ったのですが、あのときはメルカーディアの近衛隊、ユージンやスカーレットが一緒でした。それですぐに見つかるだろうと心配はしていなかったのですが、今回は6名だけのパーティーですので」
「ルグアイには山賊団がいるのだろう」
「はい、国との繋がりがあると言われております」
「そいつらに拉致されたのか」
「いえ、山賊。いくつかあるうちの1つの集団らしいのですが、山賊の襲撃を難なく撃退してトレーヴ山脈の尾根まで登っていったらしいのです」
「それで」
「もうすぐ尾根というところで追跡していた者たち、情報部の精鋭3人なのですが、山ハイエナの大群と遭遇し迂回もできずに足止めされ、見失ったらしいのです」
「トレーヴ山脈の北には軍も出ていたと思うのだが」
「シェリル王女やマルチェリーナは有名人ですし、2人揃ってなら、ちょっと見ただけで、すぐに分かると思うのですが報告はありません。軍に捜索をさせますか」
「いや、それは困る。シェリルは軟禁中だ。で、どこに行ったと思う」
「神の門です」
「軍もルグアイも神の門を探しているのだろう。彼らが見つけられないものをサトシたちが見つけたというのか」
「おそらく」
沈黙がしばらく続く。
「話は変わりますが、メルカーディアの宰相から連絡が入りました。南の神の門を閉めた功績により、シェリル王女たちのパーティーが『黒龍の牙』という名前を国王から授けられたそうです」
「『龍』の名を与えたのか」
「そうです。わが国の『聖』、ルグアイの『神』の文字と同じ扱いです」
「それ程のパーティーなのか、サトシたち」
「『紅バラの剣』の弟子たちですから。そのことも問題なのですが、シェリル王女の冒険者カードが赤色というのが許し難く思われます」
「黄色にするには、公式に王女が冒険者になったと公表するしかないのか」
「悩ましい事態です」
◇ ◇ ◇
リーナとシェリルは、透明なシートを鑑定させようとサトシを地下に連れて行こうとする。
「だめよ、リーナ。ご主人様はまだ動かさないで」
セシリアが止める。
「でも普通の剣じゃ簡単に切れないんじゃない、リトルフェンリルの皮なら」
「私が切ります」
とナナがイバダンさんが作った解体用ナイフを取り出す。
ナナは地下に下りて小さい方の透明なシートの端を薄く剥ぎ取ろうと持ちあげた。思ったよりも軽く、持ち上げることができた。ナナが1人で透明なシートを持ってくるのを見てみんなビックリしている。
「これ、すごく軽いよ」
僕は、鑑定をかける。魔法を使うと傷が疼く。
「リトルフェンリルの皮だ。そんなに軽いの」
「これで5枚重ねだよね。良い装備が作れるよ、きっと」
リーナが、
「魔道具も持ってこようか」
と言うので、
「鑑定でも魔法を使うと傷が疼くので今はやめて欲しい」
と言った。
「そうね、焦ることはないよね。ごめんなさい」
「リトルフェンリルの皮を使った装備かあ。ねえリーナ、まさかアラスティア様が取り上げるってことはないよね」
「大丈夫よ、セシリア。そのときはこちらの小さいのだけ売ってあげれば良いよ、相場でね。そのお金で加工賃を出せば、大きい方だけでも6人分のフル装備ができるわ」
「いいね、それ。イバダンさんに頑張ってもらわないといけないね」
ノートを読み進める。1冊目の残りは、この祠での生活、魔物の生態が中心だった。残りは2冊。
「ねえ、どっちから読む」
「ちょっと待って、中を見てみるから」
と言って、ページをめくりざっと見る。
「こっちは魔道具中心。こっちは魔石や鉱物中心みたいだ」
「じゃあ、魔道具からね」
みんなも魔道具のことが気になるらしい。もっとも首輪を外す方法を知るためにここまで来たんだから、あたりまえだよね。
「いきなり魔素を集める装置の説明だ。難しい数式や記号が並んでいる。これは無理」
「じゃあ、飛ばして」
「次は結界だね。これもパス、・・・。次は闇のランプだ。作り方とかはパスして使い方のところから読むよ」
「そうして」
「闇のランプは移動できる結界であると書いてある」
「凄い、そんなのがあるんだ。そしたら魔物に襲われることは無くなるよね」
「効果は、闇の結界の中だけと書いてある。この森の結界が闇の結界だそうだ」
「じゃあ、この森だけで有効というわけなのね」
「闇の結界を張れれば、どこでも大丈夫だろうけど。とりあえず、この森だけと考えたほうが良いね」
「それを使ってウスパジャタは、この森の中を歩き回ってリトルフェンリルの皮を手に入れたのね」
「リーナ、それを使えばこの森から簡単に脱出できるはずよ。この祠に有るよね、闇のランプ」
「たぶん、有るよ。サトシ、どんな物か分かる」
「分かる。ここに絵がある」
「探してくる」
リーナとシェリルが地下に下りて行き、闇のランプを探しあて戻ってきた。
「見て、これでしょ。魔石も入っているよ」
「おそらくそれだ」
セシリアが、
「もう鑑定はしないで、1週間は魔法を使わないで。治りが遅くなるかもしれないから」
「分かった。傷を治すことが最優先だよね。アルト、食料はまだ大丈夫だよね」
「はい、あと5週くらいは大丈夫です。だんだんメニューが限られてきますけど」
「闇のランプは、魔力を通せば使えるって書いてある。闇の魔石が入っているので使う魔力は何でもいいんだそうだ。ただし、ランプによって作られた結界の中で攻撃魔法を使うと一定時間効果がなくなるらしいよ」
「じゃあ、魔力を通してみるね」
とリーナが魔力を通すと、闇のランプ全体が薄く光った。
「使えるみたいね」
とシェリルが言う。
「サトシ、あとは隷属の首輪ね」
「うん、探してみる」
僕は、ノートをぱらぱらとめくり首輪の絵を探した。半分を過ぎたところに首輪の絵があった。
「あった。首輪だ」
読んでいくと、始めの方は魔物に首輪を着ける実験がいろいろと書いてある。人にも有効で、着けると魔力も力も出せなくなること、支配者ができると力が復活することが書いてある。ここまでは僕たちも知っていることだ。それから首輪の構造と製法、そして外し方が書いてあった。
「首輪の位置に、闇の魔力と光の魔力を同時に通せば外れると書いてある」
「じゃあ簡単に外れるね。サトシとリーナがいるから」
「でも闇の属性ってサトシだけなのよね」
「いや、闇の魔石と光の魔石を使っても良いらしいよ。それを使って魔力を通せば外れるらしい」
「闇の魔石もなかなか手に入らないんじゃないの。私たちには関係ないけど。じゃあ、外しましょ」
とシェリルが言うとリーナが断る。
「だめよ。外したときに何が起こるか分からないとアラスティア様が心配されていたわ。ここでは外さないほうがいいと思う」
「外した後のことも書いてある」
と僕が言うと、セシリアとアルト、それにナナもテーブルの周りに集まってきた。
「『隷属の首輪を外すと、能力が落ちることはないが、着けていた期間の記憶を失う』と書いてある」
「記憶がなくなるのね。じゃあ、今まで修行したときに得た知識とか、持っている魔法の記憶とかも無くなるんだよね」
とリーナ。
「私、外せない」
とセシリアがつぶやく。みんながセシリアに注目する。
「だって、ご主人様と会ったのは首輪を付けてからなんです。ご主人様との記憶が全部無くなる。そんなのはいやです」




